お爺様の贈り物

豆狸

文字の大きさ
5 / 6

第五話 眠る令嬢

しおりを挟む
「私はお前の母親など愛していなかった!」

 十五歳の誕生日。
 パーティを開いてもらえないことくらいは覚悟していましたが、呼ばれて応接室へ行った私を待っていた父の冷たい言葉には心臓が止まりそうになりました。
 父の後ろには、父の妾と私の異母妹だという少女、その少女にしがみつかれた私の婚約者の第三王子殿下がいらっしゃいます。

 ……ああ、この家にはもう私の味方はだれもいないのですね。

 そう思った瞬間、どこか深いところへ引き込まれるように意識が沈んでいくのを感じました。
 後から考えてみれば、味方がいないなんてことはありませんでした。
 私の背後にはお爺様の忠実な部下だった執事のジェームズがいたのですから。私が望めば、彼はいつだって父とその仲間達を地獄へ送ってくれたことでしょう。それを拒み続けていたのは、いつかは父に愛してもらえるのではないかと見果てぬ夢を追いかけ続けていた自分自身なのです。

 深いところへ沈んだ私は消えたわけではありませんでした。
 夢の中のように、離れたところから自分を見ていました。
 『私』がいきなり父の襟もとを掴んだときは驚きましたが、そんなことをしたら父に嫌われてしまうという不安よりも気持ち良さのほうが勝っていました。そうです、私は母が死に祖父が魔獣の呪いで倒れてすぐに、我が家へ妾親子を連れ込んだ父にずっとずっと腹を立てていたのです。

 魔術学園に入学して身体強化の魔術を習ったら、私も目の前の『私』と同じようにしたことでしょう。
 金と権力で夫にされた?
 違うでしょう? 金と権力目当てで、貴方が自分の意思でお母様の夫になったのです。私の父親になったのです。

 『私』の言う通り、嫌なら逃げて荷運びでもなんでもして生きていけば良かったのです。どうせ最初から平民落ちになる予定の次男坊だったのではないですか。
 子爵家だってもう我が家と関係ない人間だから、と言えば累が及ぶこともありません。
 もっともその場合、そちらの妾はいなくなっていたでしょうけどね。

 私が薄々勘付いていたことも、私が全然知らなかったことも明らかにしていく『私』がだれなのか、次第に私は気づいていきました。
 お爺様です。
 お亡くなりになったお爺様が私を助けに来てくださったのです。

 私も私なりに考えて行動していました。
 ジェームズを初めとする忠義ある使用人達が父や妾に目をつけられないよう、よほどのことがない限り彼らに頼らないとか、婚約者の第三王子との仲を深めて味方になってもらうとか、自分から妾と自称異母妹に歩み寄ってみるとか──でも、すべて無駄でした。
 私を傷つけてシュタインボック辺境伯家を奪おうとしている賊どもに媚びても意味はなかったのです。

 血がつながっていても、お母様が生きていらしたときに三人で笑い合ったことがあっても、私の頭を優しく撫でてくれたことがあっても、今の父はもう敵なのです。
 いつか、もしかしたら、なんて思っていた私が愚かだったのです。
 せっかく十五歳になったのに素早く行動しようとせず、私の権限が増えたことで父が変わるのではないかなんて思っていた私が莫迦なのです。

 十五歳の誕生日、父とその仲間達を放逐してくれたお爺様は、さらに素晴らしい贈り物をくださいました。
 新しい後見人と婚約者です。
 後見人は癖のある方のようですが、お爺様のことをお好きな方に悪い人はいません。仲良くなったらきっと、私の知らないお爺様の話を教えてくださるに違いありません。

 婚約者の方の情報は今のところなにもありませんけれど……目覚めたら、きっと。
 きっと彼のこと、アレクサンダー様のことを知ることが出来るでしょう。
 それとも明日の『私』もお爺様のままでしょうか。それはそれで面白そうな気がします。ああ、こんなに明日が楽しみなのはお母様が亡くなって以来です。

 その日、十五歳になったばかりの私は期待を胸に眠りに就いたのでした。
 どことも知れない、深い深い場所で──
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

夜会の顛末

豆狸
恋愛
「今夜の夜会にお集まりの皆様にご紹介させてもらいましょう。俺の女房のアルメと伯爵令息のハイス様です。ふたりはこっそり夜会を抜け出して、館の裏庭で乳繰り合っていやがりました」

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手

ラララキヲ
ファンタジー
 卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。  反論する婚約者の侯爵令嬢。  そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。 そこへ……… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。 ◇なろうにも上げてます。

最後のカードは、

豆狸
ファンタジー
『離縁』『真実の愛』『仮面の歌姫』『最愛の母(故人)』『裏切り』──私が手に入れた人生のカードは、いつの間にか『復讐』という役を形作っていました。

呪われて

豆狸
恋愛
……王太子ジェーコブ殿下の好きなところが、どんなに考えても浮かんできません。私は首を傾げながら、早足で館へと向かう侍女の背中を追いかけました。

処理中です...