婚約破棄されても賞金稼ぎなので大丈夫ですわ!

豆狸

文字の大きさ
3 / 7

第三話 婚約破棄されましたわ!

しおりを挟む
 天国のお母様──

「随分と遅かったな、メリサ。どうせ浮気相手と密会していたのだろう。俺は不貞を働くような女と結婚は出来ない! 貴様との婚約は破棄する!」

 王都にあるウリャフト伯爵邸へ戻ると、いらっしゃっていたイリスィオ様にいきなり婚約破棄を宣言されましたわ。婚約破棄されても私は大丈夫なのですけれど、貴方が不貞がどうこうおっしゃいますの?
 玄関を入ったところの広間に、例の四人が待ち構えていましたの。
 父の伯爵代理と愛人親娘、そしてイリスィオ様ですわ。

 使用人達も勢揃いしています。
 お母様がお元気だったころ自分がこの家の女主人であるかのように振る舞っていたメイド長は、愛人親娘には最初から媚びを売って配下に納まっています。
 ですので彼女は嘲るような顔を私に向けているのですが、ほかの使用人はまともなので唖然とした顔です。そりゃそうでしょうね。

「不貞とはどういうことでしょうか?」
「とぼけるな! 学園からの帰路にある騎士団詰所で浮気相手と密会しているのだろう? そのために俺達と馬車で帰っていないのではないか!」

 並んだ使用人の後ろのほうにいた御者が反論しようとするのを、私は視線で制しました。
 この出来上がってるやからに反抗しても良いことはないでしょう。
 前に辞めさせられた御者はトゥリホマス様に新しい仕事を見つけていただけましたけど、これからの私が彼らの力になれるとは限らないのです。だって、入り婿予定に過ぎないイリスィオ様がこんなことをおっしゃるということは──

「嘆かわしいぞ、メリサ! 私の娘が婚約者を裏切るとは! もうお前の顔など見たくない! 勘当だ、出て行け!」

 父のウリャフト伯爵代理が叫びます。
 おそらく四人は私から伯爵家の実権を奪う計画を始めたのでしょう。
 殺されなかっただけマシだと思うべきなのでしょうか? いきなり杜撰なやり方で来たことを怪しむべきでしょうか。とりあえず父は、アポティヒアが最初からずっとイリスィオ様に抱き着いていることについては、どう考えているのでしょうか?

「……わかりましたわ」

 使用人達には申し訳ないのですけれど、ここで四人と争っても無駄です。
 今の私にはなんの武器もないのですから。
 私の武器はこの四人と離れることで力を得ます。こんなときのために稼いできた賞金首の懸賞金も、四人と離れたならば使い時です。少し時間はかかると思いますが、絶対助けに来ますからね!

「不貞なんて身に覚えがございませんけれど、婚約者であるイリスィオ様に不快な思いをさせてしまったのは事実です。婚約破棄を受け入れましょう。……お父様がお望みならば、勘当ということでウリャフト伯爵家から絶縁してくださいまし」
「は?」

 イリスィオ様とウリャフト伯爵代理は戸惑った顔になり、愛人親娘は嬉しそうに笑みを浮かべます。ああ、愛人親娘は私を追い出しただけで父が伯爵家の実権を握れると考えているのですね。
 うん、これは間違いなく後ろで絵図を描いていただれかがいなくなりましたね。
 今の状況で、ということは、やっぱり裏社会関係の人間だったのでしょうか。だとしたら、お母様を殺した人間は……

「よ、良いのか、メリサ! 謝れば許してやらないこともないのだぞ!」
「そうだぞ! ウリャフト伯爵家は俺とアポティヒアが継ぐが、貴様を愛人として残してやっても良いのだぞ!」
「結構です。私が神殿と貴族議会に提出しておきますので、こちらの書類にご署名くださいませ」
「う……」

 父とイリスィオ様が狼狽えます。

「どうしたのよ、アナタ! ちゃんとした絶縁届じゃない。早く署名して、あの娘を追い出しちゃいましょうよ!」
「イリスィオ様ぁ、どうして婚約破棄書に署名してくださらないんですかぁ? アポティヒアを妻にしてくださると言ったじゃないですかぁ」

 我が家に押しかけて来て三年ほどの貴族常識に疎い下町育ちの愛人親娘はよくわかっていないようですが、亡くなった母はウリャフト伯爵家本家のひとり娘、父は分家の人間なのです。たまたま不幸な偶然が重なって本家の人間がいなくなったため、分家の父が婿入りすることになりました。
 でもあくまで当主はお母様で父は代理なのです。
 お母様の夫、あるいは正当な跡取りである私の父だからこそ当主代理であることを認められているのです。

 三年前のお母様に情夫がいたとしたら、こっそり伯爵邸へ連れ込んで殺されたりはしなかったでしょう。
 堂々と連れ込んで父を追い出して再婚するか、形だけの夫として父を残した上で好きなだけ情夫とイチャついていたはずです。
 もちろんお母様は夫がいながら情夫を作るような方ではありませんでしたけどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。 将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。 レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。

残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです

石河 翠
恋愛
男の趣味が悪いことで有名な家に生まれたアデル。祖母も母も例に漏れず、一般的に屑と呼ばれる男性と結婚している。お陰でアデルは、自分も同じように屑と結婚してしまうのではないかと心配していた。 アデルの婚約者は、第三王子のトーマス。少し頼りないところはあるものの、優しくて可愛らしい婚約者にアデルはいつも癒やされている。だが、年回りの近い隣国の王女が近くにいることで、婚約を解消すべきなのではないかと考え始め……。 ヒーローのことが可愛くて仕方がないヒロインと、ヒロインのことが大好きな重すぎる年下ヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:266115)をお借りしております。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!

ジャン・幸田
恋愛
 私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!     でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。

みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」  月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。  王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

処理中です...