4 / 7
第四話 来客ですわ!
しおりを挟む
「う、煩い! 子どものくせに父親に逆らうな!」
そう叫んで、父は私が渡した絶縁届を引き裂きました。
べつにいいですよ。まだ何枚か持ってますし。
ハッとした顔で、イリスィオ様も婚約破棄書を破ります。
残念です。私の武器は彼らと別れて初めて力を持つのですから。
私がいなくなれば、父もイリスィオ様もウリャフト伯爵家に関する権利を失います。
それから成人するのを待って、溜め込んだ懸賞金で使用人達を助けに戻れば良かったのです。
後一ヶ月して学園を卒業したら貴族社会では成人扱いですしね。
逆に言えば学園を卒業していない私は、この国の貴族常識からするとまだ子どもなのです。
子どもでなければ父に絶縁届を書かせなくても、自主的に出て行くか父と愛人親娘を追い出すことが出来ました。まあ、だからこそ今、四人は動いたのでしょうけどね。
「お前がこの譲渡書に署名をすれば良いのだ!」
「そ、そうだ! この誓約書にもだぞ!」
「……嫌です。婚約破棄も受け入れましたし、この家も出て行くと言ったのに、どうして婚約を破棄しないため家から追い出されないために、譲渡書や誓約書に署名しなくてはならないのですか」
彼らの穴だらけの計画では、婚約破棄と勘当を嫌がった私がふたりに縋りつき、実権を譲渡する書類に署名することを条件に家に残りイリスィオ様と結婚するという予定だったのでしょう。
イリスィオ様の誓約書は、結婚後の浮気を認めるとかいうものでしょうね。
そうでなければ私が出て行った時点で、入り婿と入り婿予定のおふたりが持つウリャフト伯爵家での権利など砕け散ってしまいますもの。
愛人親娘には後で説明するつもりだったのでしょう。
彼女達は、どんなに説明しても理解せずに煩く叫び続けそうです。
普段甘えて見せていても、父とイリスィオ様を見るときのふたりの瞳は、私を見るときと同じ、すべてを奪ってから踏み潰す予定の獲物を見る瞳です。ふたりの説明よりも自分達の考えが正しいのだと主張して一歩も退かないに違いありません。
やっぱり黒幕が姿を消したのでしょう。
これまでは焦る父とイリスィオ様を愛人親娘が制御していました。
愛人親娘を操る糸が消えたので、こんなことになっているのでしょうね。
以前の計画は、杜撰ながらも残酷でどうしようもない状況に陥らせるものだったのだと思います。
たとえばアポティヒアとイリスィオ様が学園から私を徒歩で帰らせるのは、単なる嫌がらせではありませんでした。
帰路で待ち構えるならず者に私を攫わせて、穢したり麻薬漬けにしたりすることで当主となり得ない状態にしようとしていたのです。
もちろん裏があると疑われるでしょうし、それで実権を奪った父やイリスィオ様には白い目が向けられることでしょう。
でも善も正義もどうしようもありません。
当事者の私がなにも出来ない状態になるのですから。
ちなみに私が徒歩で帰らされるようになった最初のときは、おそらくどこかの犯罪組織関係者と思われるならず者がそこかしこにいました。
本人達は幹部候補だと思っているけれど、組織や上司からはいつでも切り落とせるトカゲの尻尾だと思われている種類の人間です。
正面から対峙してわかり難い方法に移行されても困るので、誤報上等! くらいの気持ちで賞金首について通報しました。とにかく騎士様が地域を見回っている、という状況にしたかったのです。平民出身の衛兵だとならず者を見つけても口封じに殺されて終わりのような気がしましたし。
幸い初回で当たりを出した私は、指名手配書を取り寄せて研究したり通報の際にトゥリホマス様に話を聞いたりして、賞金稼ぎの道を歩むことになりました。
まだなにも(たぶん余罪はあるのでしょうけれど)していなくても、近くで賞金首が騎士様に捕縛されていればならず者も恐れを抱きます。
最近は犯罪組織関係者と思われるならず者は見なくなりました。賞金首も変装に自信を持っている者やほとぼりが冷めたと思って油断している者ばかりです。
たぶん黒幕は途中で計画を修正したのでしょう。
なにをしてくるのかと身構えていたのですが、こんな穴だらけの計画に変更したとは思えません。
今回のこれは黒幕との糸が切れた四人の暴走でしょう。
「いいから署名しろ! まったくお前は母親そっくりだな! どうして私に逆らうのだ!」
「そうだそうだ!」
「おふたりともおやめください!」
私の腕を取って無理矢理署名させようとする父とイリスィオ様を執事が止めてくれます。
メイド長以外の使用人はまともなのです。
ただまとも過ぎると前の御者のように追い出されてしまうので、自分達の命や尊厳を侵されない限りは四人に従うよう言っています。今回使用人達が勢揃いさせられているのは、彼らの本当の主人が私だとわかっているからこそ、彼らの前で私を屈服させたかったのでしょうね。
玄関前の広間で、どれだけ不毛な言い争いを繰り広げていたのでしょうか。
獅子がくわえた叩き金の輪が扉を叩く音が響きます。
だれかが我が家を訪れたのです。
「ど、どなたですか?」
「ええい、執事。今は忙しい! 来客など追い返せ!」
「そうだそうだ!」
父の声が聞こえたのか、扉の向こうから甘く艶やかな声が言いました。
「申し訳ありませんが扉を開けてください。事態は一刻を争います。こちらに賞金首の仲間が潜んでいるようなのです」
そう叫んで、父は私が渡した絶縁届を引き裂きました。
べつにいいですよ。まだ何枚か持ってますし。
ハッとした顔で、イリスィオ様も婚約破棄書を破ります。
残念です。私の武器は彼らと別れて初めて力を持つのですから。
私がいなくなれば、父もイリスィオ様もウリャフト伯爵家に関する権利を失います。
それから成人するのを待って、溜め込んだ懸賞金で使用人達を助けに戻れば良かったのです。
後一ヶ月して学園を卒業したら貴族社会では成人扱いですしね。
逆に言えば学園を卒業していない私は、この国の貴族常識からするとまだ子どもなのです。
子どもでなければ父に絶縁届を書かせなくても、自主的に出て行くか父と愛人親娘を追い出すことが出来ました。まあ、だからこそ今、四人は動いたのでしょうけどね。
「お前がこの譲渡書に署名をすれば良いのだ!」
「そ、そうだ! この誓約書にもだぞ!」
「……嫌です。婚約破棄も受け入れましたし、この家も出て行くと言ったのに、どうして婚約を破棄しないため家から追い出されないために、譲渡書や誓約書に署名しなくてはならないのですか」
彼らの穴だらけの計画では、婚約破棄と勘当を嫌がった私がふたりに縋りつき、実権を譲渡する書類に署名することを条件に家に残りイリスィオ様と結婚するという予定だったのでしょう。
イリスィオ様の誓約書は、結婚後の浮気を認めるとかいうものでしょうね。
そうでなければ私が出て行った時点で、入り婿と入り婿予定のおふたりが持つウリャフト伯爵家での権利など砕け散ってしまいますもの。
愛人親娘には後で説明するつもりだったのでしょう。
彼女達は、どんなに説明しても理解せずに煩く叫び続けそうです。
普段甘えて見せていても、父とイリスィオ様を見るときのふたりの瞳は、私を見るときと同じ、すべてを奪ってから踏み潰す予定の獲物を見る瞳です。ふたりの説明よりも自分達の考えが正しいのだと主張して一歩も退かないに違いありません。
やっぱり黒幕が姿を消したのでしょう。
これまでは焦る父とイリスィオ様を愛人親娘が制御していました。
愛人親娘を操る糸が消えたので、こんなことになっているのでしょうね。
以前の計画は、杜撰ながらも残酷でどうしようもない状況に陥らせるものだったのだと思います。
たとえばアポティヒアとイリスィオ様が学園から私を徒歩で帰らせるのは、単なる嫌がらせではありませんでした。
帰路で待ち構えるならず者に私を攫わせて、穢したり麻薬漬けにしたりすることで当主となり得ない状態にしようとしていたのです。
もちろん裏があると疑われるでしょうし、それで実権を奪った父やイリスィオ様には白い目が向けられることでしょう。
でも善も正義もどうしようもありません。
当事者の私がなにも出来ない状態になるのですから。
ちなみに私が徒歩で帰らされるようになった最初のときは、おそらくどこかの犯罪組織関係者と思われるならず者がそこかしこにいました。
本人達は幹部候補だと思っているけれど、組織や上司からはいつでも切り落とせるトカゲの尻尾だと思われている種類の人間です。
正面から対峙してわかり難い方法に移行されても困るので、誤報上等! くらいの気持ちで賞金首について通報しました。とにかく騎士様が地域を見回っている、という状況にしたかったのです。平民出身の衛兵だとならず者を見つけても口封じに殺されて終わりのような気がしましたし。
幸い初回で当たりを出した私は、指名手配書を取り寄せて研究したり通報の際にトゥリホマス様に話を聞いたりして、賞金稼ぎの道を歩むことになりました。
まだなにも(たぶん余罪はあるのでしょうけれど)していなくても、近くで賞金首が騎士様に捕縛されていればならず者も恐れを抱きます。
最近は犯罪組織関係者と思われるならず者は見なくなりました。賞金首も変装に自信を持っている者やほとぼりが冷めたと思って油断している者ばかりです。
たぶん黒幕は途中で計画を修正したのでしょう。
なにをしてくるのかと身構えていたのですが、こんな穴だらけの計画に変更したとは思えません。
今回のこれは黒幕との糸が切れた四人の暴走でしょう。
「いいから署名しろ! まったくお前は母親そっくりだな! どうして私に逆らうのだ!」
「そうだそうだ!」
「おふたりともおやめください!」
私の腕を取って無理矢理署名させようとする父とイリスィオ様を執事が止めてくれます。
メイド長以外の使用人はまともなのです。
ただまとも過ぎると前の御者のように追い出されてしまうので、自分達の命や尊厳を侵されない限りは四人に従うよう言っています。今回使用人達が勢揃いさせられているのは、彼らの本当の主人が私だとわかっているからこそ、彼らの前で私を屈服させたかったのでしょうね。
玄関前の広間で、どれだけ不毛な言い争いを繰り広げていたのでしょうか。
獅子がくわえた叩き金の輪が扉を叩く音が響きます。
だれかが我が家を訪れたのです。
「ど、どなたですか?」
「ええい、執事。今は忙しい! 来客など追い返せ!」
「そうだそうだ!」
父の声が聞こえたのか、扉の向こうから甘く艶やかな声が言いました。
「申し訳ありませんが扉を開けてください。事態は一刻を争います。こちらに賞金首の仲間が潜んでいるようなのです」
279
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない
aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。
「偽聖女マリア!
貴様との婚約を破棄する!!」
目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される
あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…
なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。
婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…
残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです
石河 翠
恋愛
男の趣味が悪いことで有名な家に生まれたアデル。祖母も母も例に漏れず、一般的に屑と呼ばれる男性と結婚している。お陰でアデルは、自分も同じように屑と結婚してしまうのではないかと心配していた。
アデルの婚約者は、第三王子のトーマス。少し頼りないところはあるものの、優しくて可愛らしい婚約者にアデルはいつも癒やされている。だが、年回りの近い隣国の王女が近くにいることで、婚約を解消すべきなのではないかと考え始め……。
ヒーローのことが可愛くて仕方がないヒロインと、ヒロインのことが大好きな重すぎる年下ヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:266115)をお借りしております。
婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。
将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。
レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
【完結】従姉妹と婚約者と叔父さんがグルになり私を当主の座から追放し婚約破棄されましたが密かに嬉しいのは内緒です!
ジャン・幸田
恋愛
私マリーは伯爵当主の臨時代理をしていたけど、欲に駆られた叔父さんが、娘を使い婚約者を奪い婚約破棄と伯爵家からの追放を決行した!
でも私はそれでよかったのよ! なぜなら・・・家を守るよりも彼との愛を選んだから。
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。
みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」
月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。
王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。
勝手にしろと言ったのに、流刑地で愛人と子供たちと幸せスローライフを送ることに、なにか問題が?
赤羽夕夜
恋愛
アエノール・リンダークネッシュは新婚一日目にして、夫のエリオット・リンダークネッシュにより、リンダークネッシュ家の領地であり、滞在人の流刑地である孤島に送られることになる。
その理由が、平民の愛人であるエディットと真実の愛に満ちた生活を送る為。アエノールは二人の体裁を守る為に嫁に迎えられた駒に過ぎなかった。
――それから10年後。アエノールのことも忘れ、愛人との幸せな日々を過ごしていたエリオットの元に、アエノールによる離婚状と慰謝料の請求の紙が送られてくる。
王室と裁判所が正式に受理したことを示す紋章。事態を把握するために、アエノールが暮らしている流刑地に向かうと。
絶海孤島だった流刑地は、ひとつの島として栄えていた。10年以上前は、たしかになにもない島だったはずなのに、いつの間にか一つの町を形成していて領主屋敷と呼ばれる建物も建てられていた。
エリオットが尋ねると、その庭園部分では、十年前、追い出したはずのアエノールと、愛する人と一緒になる為に婚約者を晒し者にして国王の怒りを買って流刑地に送られた悪役王子――エドが幼い子を抱いて幸せに笑い合う姿が――。
※気が向いたら物語の補填となるような短めなお話を追加していこうかなと思うので、気長にお待ちいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる