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第四話 来客ですわ!
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「う、煩い! 子どものくせに父親に逆らうな!」
そう叫んで、父は私が渡した絶縁届を引き裂きました。
べつにいいですよ。まだ何枚か持ってますし。
ハッとした顔で、イリスィオ様も婚約破棄書を破ります。
残念です。私の武器は彼らと別れて初めて力を持つのですから。
私がいなくなれば、父もイリスィオ様もウリャフト伯爵家に関する権利を失います。
それから成人するのを待って、溜め込んだ懸賞金で使用人達を助けに戻れば良かったのです。
後一ヶ月して学園を卒業したら貴族社会では成人扱いですしね。
逆に言えば学園を卒業していない私は、この国の貴族常識からするとまだ子どもなのです。
子どもでなければ父に絶縁届を書かせなくても、自主的に出て行くか父と愛人親娘を追い出すことが出来ました。まあ、だからこそ今、四人は動いたのでしょうけどね。
「お前がこの譲渡書に署名をすれば良いのだ!」
「そ、そうだ! この誓約書にもだぞ!」
「……嫌です。婚約破棄も受け入れましたし、この家も出て行くと言ったのに、どうして婚約を破棄しないため家から追い出されないために、譲渡書や誓約書に署名しなくてはならないのですか」
彼らの穴だらけの計画では、婚約破棄と勘当を嫌がった私がふたりに縋りつき、実権を譲渡する書類に署名することを条件に家に残りイリスィオ様と結婚するという予定だったのでしょう。
イリスィオ様の誓約書は、結婚後の浮気を認めるとかいうものでしょうね。
そうでなければ私が出て行った時点で、入り婿と入り婿予定のおふたりが持つウリャフト伯爵家での権利など砕け散ってしまいますもの。
愛人親娘には後で説明するつもりだったのでしょう。
彼女達は、どんなに説明しても理解せずに煩く叫び続けそうです。
普段甘えて見せていても、父とイリスィオ様を見るときのふたりの瞳は、私を見るときと同じ、すべてを奪ってから踏み潰す予定の獲物を見る瞳です。ふたりの説明よりも自分達の考えが正しいのだと主張して一歩も退かないに違いありません。
やっぱり黒幕が姿を消したのでしょう。
これまでは焦る父とイリスィオ様を愛人親娘が制御していました。
愛人親娘を操る糸が消えたので、こんなことになっているのでしょうね。
以前の計画は、杜撰ながらも残酷でどうしようもない状況に陥らせるものだったのだと思います。
たとえばアポティヒアとイリスィオ様が学園から私を徒歩で帰らせるのは、単なる嫌がらせではありませんでした。
帰路で待ち構えるならず者に私を攫わせて、穢したり麻薬漬けにしたりすることで当主となり得ない状態にしようとしていたのです。
もちろん裏があると疑われるでしょうし、それで実権を奪った父やイリスィオ様には白い目が向けられることでしょう。
でも善も正義もどうしようもありません。
当事者の私がなにも出来ない状態になるのですから。
ちなみに私が徒歩で帰らされるようになった最初のときは、おそらくどこかの犯罪組織関係者と思われるならず者がそこかしこにいました。
本人達は幹部候補だと思っているけれど、組織や上司からはいつでも切り落とせるトカゲの尻尾だと思われている種類の人間です。
正面から対峙してわかり難い方法に移行されても困るので、誤報上等! くらいの気持ちで賞金首について通報しました。とにかく騎士様が地域を見回っている、という状況にしたかったのです。平民出身の衛兵だとならず者を見つけても口封じに殺されて終わりのような気がしましたし。
幸い初回で当たりを出した私は、指名手配書を取り寄せて研究したり通報の際にトゥリホマス様に話を聞いたりして、賞金稼ぎの道を歩むことになりました。
まだなにも(たぶん余罪はあるのでしょうけれど)していなくても、近くで賞金首が騎士様に捕縛されていればならず者も恐れを抱きます。
最近は犯罪組織関係者と思われるならず者は見なくなりました。賞金首も変装に自信を持っている者やほとぼりが冷めたと思って油断している者ばかりです。
たぶん黒幕は途中で計画を修正したのでしょう。
なにをしてくるのかと身構えていたのですが、こんな穴だらけの計画に変更したとは思えません。
今回のこれは黒幕との糸が切れた四人の暴走でしょう。
「いいから署名しろ! まったくお前は母親そっくりだな! どうして私に逆らうのだ!」
「そうだそうだ!」
「おふたりともおやめください!」
私の腕を取って無理矢理署名させようとする父とイリスィオ様を執事が止めてくれます。
メイド長以外の使用人はまともなのです。
ただまとも過ぎると前の御者のように追い出されてしまうので、自分達の命や尊厳を侵されない限りは四人に従うよう言っています。今回使用人達が勢揃いさせられているのは、彼らの本当の主人が私だとわかっているからこそ、彼らの前で私を屈服させたかったのでしょうね。
玄関前の広間で、どれだけ不毛な言い争いを繰り広げていたのでしょうか。
獅子がくわえた叩き金の輪が扉を叩く音が響きます。
だれかが我が家を訪れたのです。
「ど、どなたですか?」
「ええい、執事。今は忙しい! 来客など追い返せ!」
「そうだそうだ!」
父の声が聞こえたのか、扉の向こうから甘く艶やかな声が言いました。
「申し訳ありませんが扉を開けてください。事態は一刻を争います。こちらに賞金首の仲間が潜んでいるようなのです」
そう叫んで、父は私が渡した絶縁届を引き裂きました。
べつにいいですよ。まだ何枚か持ってますし。
ハッとした顔で、イリスィオ様も婚約破棄書を破ります。
残念です。私の武器は彼らと別れて初めて力を持つのですから。
私がいなくなれば、父もイリスィオ様もウリャフト伯爵家に関する権利を失います。
それから成人するのを待って、溜め込んだ懸賞金で使用人達を助けに戻れば良かったのです。
後一ヶ月して学園を卒業したら貴族社会では成人扱いですしね。
逆に言えば学園を卒業していない私は、この国の貴族常識からするとまだ子どもなのです。
子どもでなければ父に絶縁届を書かせなくても、自主的に出て行くか父と愛人親娘を追い出すことが出来ました。まあ、だからこそ今、四人は動いたのでしょうけどね。
「お前がこの譲渡書に署名をすれば良いのだ!」
「そ、そうだ! この誓約書にもだぞ!」
「……嫌です。婚約破棄も受け入れましたし、この家も出て行くと言ったのに、どうして婚約を破棄しないため家から追い出されないために、譲渡書や誓約書に署名しなくてはならないのですか」
彼らの穴だらけの計画では、婚約破棄と勘当を嫌がった私がふたりに縋りつき、実権を譲渡する書類に署名することを条件に家に残りイリスィオ様と結婚するという予定だったのでしょう。
イリスィオ様の誓約書は、結婚後の浮気を認めるとかいうものでしょうね。
そうでなければ私が出て行った時点で、入り婿と入り婿予定のおふたりが持つウリャフト伯爵家での権利など砕け散ってしまいますもの。
愛人親娘には後で説明するつもりだったのでしょう。
彼女達は、どんなに説明しても理解せずに煩く叫び続けそうです。
普段甘えて見せていても、父とイリスィオ様を見るときのふたりの瞳は、私を見るときと同じ、すべてを奪ってから踏み潰す予定の獲物を見る瞳です。ふたりの説明よりも自分達の考えが正しいのだと主張して一歩も退かないに違いありません。
やっぱり黒幕が姿を消したのでしょう。
これまでは焦る父とイリスィオ様を愛人親娘が制御していました。
愛人親娘を操る糸が消えたので、こんなことになっているのでしょうね。
以前の計画は、杜撰ながらも残酷でどうしようもない状況に陥らせるものだったのだと思います。
たとえばアポティヒアとイリスィオ様が学園から私を徒歩で帰らせるのは、単なる嫌がらせではありませんでした。
帰路で待ち構えるならず者に私を攫わせて、穢したり麻薬漬けにしたりすることで当主となり得ない状態にしようとしていたのです。
もちろん裏があると疑われるでしょうし、それで実権を奪った父やイリスィオ様には白い目が向けられることでしょう。
でも善も正義もどうしようもありません。
当事者の私がなにも出来ない状態になるのですから。
ちなみに私が徒歩で帰らされるようになった最初のときは、おそらくどこかの犯罪組織関係者と思われるならず者がそこかしこにいました。
本人達は幹部候補だと思っているけれど、組織や上司からはいつでも切り落とせるトカゲの尻尾だと思われている種類の人間です。
正面から対峙してわかり難い方法に移行されても困るので、誤報上等! くらいの気持ちで賞金首について通報しました。とにかく騎士様が地域を見回っている、という状況にしたかったのです。平民出身の衛兵だとならず者を見つけても口封じに殺されて終わりのような気がしましたし。
幸い初回で当たりを出した私は、指名手配書を取り寄せて研究したり通報の際にトゥリホマス様に話を聞いたりして、賞金稼ぎの道を歩むことになりました。
まだなにも(たぶん余罪はあるのでしょうけれど)していなくても、近くで賞金首が騎士様に捕縛されていればならず者も恐れを抱きます。
最近は犯罪組織関係者と思われるならず者は見なくなりました。賞金首も変装に自信を持っている者やほとぼりが冷めたと思って油断している者ばかりです。
たぶん黒幕は途中で計画を修正したのでしょう。
なにをしてくるのかと身構えていたのですが、こんな穴だらけの計画に変更したとは思えません。
今回のこれは黒幕との糸が切れた四人の暴走でしょう。
「いいから署名しろ! まったくお前は母親そっくりだな! どうして私に逆らうのだ!」
「そうだそうだ!」
「おふたりともおやめください!」
私の腕を取って無理矢理署名させようとする父とイリスィオ様を執事が止めてくれます。
メイド長以外の使用人はまともなのです。
ただまとも過ぎると前の御者のように追い出されてしまうので、自分達の命や尊厳を侵されない限りは四人に従うよう言っています。今回使用人達が勢揃いさせられているのは、彼らの本当の主人が私だとわかっているからこそ、彼らの前で私を屈服させたかったのでしょうね。
玄関前の広間で、どれだけ不毛な言い争いを繰り広げていたのでしょうか。
獅子がくわえた叩き金の輪が扉を叩く音が響きます。
だれかが我が家を訪れたのです。
「ど、どなたですか?」
「ええい、執事。今は忙しい! 来客など追い返せ!」
「そうだそうだ!」
父の声が聞こえたのか、扉の向こうから甘く艶やかな声が言いました。
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