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第三話 婚約破棄されましたわ!
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天国のお母様──
「随分と遅かったな、メリサ。どうせ浮気相手と密会していたのだろう。俺は不貞を働くような女と結婚は出来ない! 貴様との婚約は破棄する!」
王都にあるウリャフト伯爵邸へ戻ると、いらっしゃっていたイリスィオ様にいきなり婚約破棄を宣言されましたわ。婚約破棄されても私は大丈夫なのですけれど、貴方が不貞がどうこうおっしゃいますの?
玄関を入ったところの広間に、例の四人が待ち構えていましたの。
父の伯爵代理と愛人親娘、そしてイリスィオ様ですわ。
使用人達も勢揃いしています。
お母様がお元気だったころ自分がこの家の女主人であるかのように振る舞っていたメイド長は、愛人親娘には最初から媚びを売って配下に納まっています。
ですので彼女は嘲るような顔を私に向けているのですが、ほかの使用人はまともなので唖然とした顔です。そりゃそうでしょうね。
「不貞とはどういうことでしょうか?」
「とぼけるな! 学園からの帰路にある騎士団詰所で浮気相手と密会しているのだろう? そのために俺達と馬車で帰っていないのではないか!」
並んだ使用人の後ろのほうにいた御者が反論しようとするのを、私は視線で制しました。
この出来上がってる輩に反抗しても良いことはないでしょう。
前に辞めさせられた御者はトゥリホマス様に新しい仕事を見つけていただけましたけど、これからの私が彼らの力になれるとは限らないのです。だって、入り婿予定に過ぎないイリスィオ様がこんなことをおっしゃるということは──
「嘆かわしいぞ、メリサ! 私の娘が婚約者を裏切るとは! もうお前の顔など見たくない! 勘当だ、出て行け!」
父のウリャフト伯爵代理が叫びます。
おそらく四人は私から伯爵家の実権を奪う計画を始めたのでしょう。
殺されなかっただけマシだと思うべきなのでしょうか? いきなり杜撰なやり方で来たことを怪しむべきでしょうか。とりあえず父は、アポティヒアが最初からずっとイリスィオ様に抱き着いていることについては、どう考えているのでしょうか?
「……わかりましたわ」
使用人達には申し訳ないのですけれど、ここで四人と争っても無駄です。
今の私にはなんの武器もないのですから。
私の武器はこの四人と離れることで力を得ます。こんなときのために稼いできた賞金首の懸賞金も、四人と離れたならば使い時です。少し時間はかかると思いますが、絶対助けに来ますからね!
「不貞なんて身に覚えがございませんけれど、婚約者であるイリスィオ様に不快な思いをさせてしまったのは事実です。婚約破棄を受け入れましょう。……お父様がお望みならば、勘当ということでウリャフト伯爵家から絶縁してくださいまし」
「は?」
イリスィオ様とウリャフト伯爵代理は戸惑った顔になり、愛人親娘は嬉しそうに笑みを浮かべます。ああ、愛人親娘は私を追い出しただけで父が伯爵家の実権を握れると考えているのですね。
うん、これは間違いなく後ろで絵図を描いていただれかがいなくなりましたね。
今の状況で、ということは、やっぱり裏社会関係の人間だったのでしょうか。だとしたら、お母様を殺した人間は……
「よ、良いのか、メリサ! 謝れば許してやらないこともないのだぞ!」
「そうだぞ! ウリャフト伯爵家は俺とアポティヒアが継ぐが、貴様を愛人として残してやっても良いのだぞ!」
「結構です。私が神殿と貴族議会に提出しておきますので、こちらの書類にご署名くださいませ」
「う……」
父とイリスィオ様が狼狽えます。
「どうしたのよ、アナタ! ちゃんとした絶縁届じゃない。早く署名して、あの娘を追い出しちゃいましょうよ!」
「イリスィオ様ぁ、どうして婚約破棄書に署名してくださらないんですかぁ? アポティヒアを妻にしてくださると言ったじゃないですかぁ」
我が家に押しかけて来て三年ほどの貴族常識に疎い下町育ちの愛人親娘はよくわかっていないようですが、亡くなった母はウリャフト伯爵家本家のひとり娘、父は分家の人間なのです。たまたま不幸な偶然が重なって本家の人間がいなくなったため、分家の父が婿入りすることになりました。
でもあくまで当主はお母様で父は代理なのです。
お母様の夫、あるいは正当な跡取りである私の父だからこそ当主代理であることを認められているのです。
三年前のお母様に情夫がいたとしたら、こっそり伯爵邸へ連れ込んで殺されたりはしなかったでしょう。
堂々と連れ込んで父を追い出して再婚するか、形だけの夫として父を残した上で好きなだけ情夫とイチャついていたはずです。
もちろんお母様は夫がいながら情夫を作るような方ではありませんでしたけどね。
「随分と遅かったな、メリサ。どうせ浮気相手と密会していたのだろう。俺は不貞を働くような女と結婚は出来ない! 貴様との婚約は破棄する!」
王都にあるウリャフト伯爵邸へ戻ると、いらっしゃっていたイリスィオ様にいきなり婚約破棄を宣言されましたわ。婚約破棄されても私は大丈夫なのですけれど、貴方が不貞がどうこうおっしゃいますの?
玄関を入ったところの広間に、例の四人が待ち構えていましたの。
父の伯爵代理と愛人親娘、そしてイリスィオ様ですわ。
使用人達も勢揃いしています。
お母様がお元気だったころ自分がこの家の女主人であるかのように振る舞っていたメイド長は、愛人親娘には最初から媚びを売って配下に納まっています。
ですので彼女は嘲るような顔を私に向けているのですが、ほかの使用人はまともなので唖然とした顔です。そりゃそうでしょうね。
「不貞とはどういうことでしょうか?」
「とぼけるな! 学園からの帰路にある騎士団詰所で浮気相手と密会しているのだろう? そのために俺達と馬車で帰っていないのではないか!」
並んだ使用人の後ろのほうにいた御者が反論しようとするのを、私は視線で制しました。
この出来上がってる輩に反抗しても良いことはないでしょう。
前に辞めさせられた御者はトゥリホマス様に新しい仕事を見つけていただけましたけど、これからの私が彼らの力になれるとは限らないのです。だって、入り婿予定に過ぎないイリスィオ様がこんなことをおっしゃるということは──
「嘆かわしいぞ、メリサ! 私の娘が婚約者を裏切るとは! もうお前の顔など見たくない! 勘当だ、出て行け!」
父のウリャフト伯爵代理が叫びます。
おそらく四人は私から伯爵家の実権を奪う計画を始めたのでしょう。
殺されなかっただけマシだと思うべきなのでしょうか? いきなり杜撰なやり方で来たことを怪しむべきでしょうか。とりあえず父は、アポティヒアが最初からずっとイリスィオ様に抱き着いていることについては、どう考えているのでしょうか?
「……わかりましたわ」
使用人達には申し訳ないのですけれど、ここで四人と争っても無駄です。
今の私にはなんの武器もないのですから。
私の武器はこの四人と離れることで力を得ます。こんなときのために稼いできた賞金首の懸賞金も、四人と離れたならば使い時です。少し時間はかかると思いますが、絶対助けに来ますからね!
「不貞なんて身に覚えがございませんけれど、婚約者であるイリスィオ様に不快な思いをさせてしまったのは事実です。婚約破棄を受け入れましょう。……お父様がお望みならば、勘当ということでウリャフト伯爵家から絶縁してくださいまし」
「は?」
イリスィオ様とウリャフト伯爵代理は戸惑った顔になり、愛人親娘は嬉しそうに笑みを浮かべます。ああ、愛人親娘は私を追い出しただけで父が伯爵家の実権を握れると考えているのですね。
うん、これは間違いなく後ろで絵図を描いていただれかがいなくなりましたね。
今の状況で、ということは、やっぱり裏社会関係の人間だったのでしょうか。だとしたら、お母様を殺した人間は……
「よ、良いのか、メリサ! 謝れば許してやらないこともないのだぞ!」
「そうだぞ! ウリャフト伯爵家は俺とアポティヒアが継ぐが、貴様を愛人として残してやっても良いのだぞ!」
「結構です。私が神殿と貴族議会に提出しておきますので、こちらの書類にご署名くださいませ」
「う……」
父とイリスィオ様が狼狽えます。
「どうしたのよ、アナタ! ちゃんとした絶縁届じゃない。早く署名して、あの娘を追い出しちゃいましょうよ!」
「イリスィオ様ぁ、どうして婚約破棄書に署名してくださらないんですかぁ? アポティヒアを妻にしてくださると言ったじゃないですかぁ」
我が家に押しかけて来て三年ほどの貴族常識に疎い下町育ちの愛人親娘はよくわかっていないようですが、亡くなった母はウリャフト伯爵家本家のひとり娘、父は分家の人間なのです。たまたま不幸な偶然が重なって本家の人間がいなくなったため、分家の父が婿入りすることになりました。
でもあくまで当主はお母様で父は代理なのです。
お母様の夫、あるいは正当な跡取りである私の父だからこそ当主代理であることを認められているのです。
三年前のお母様に情夫がいたとしたら、こっそり伯爵邸へ連れ込んで殺されたりはしなかったでしょう。
堂々と連れ込んで父を追い出して再婚するか、形だけの夫として父を残した上で好きなだけ情夫とイチャついていたはずです。
もちろんお母様は夫がいながら情夫を作るような方ではありませんでしたけどね。
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