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第三話 運命の恋を取り戻す<一度目の終わりと二度目の始まりの王子>
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プロスティトゥタが殺された!
私の恋人、だれよりも愛しい男爵令嬢が!
実行犯は彼女の元婚約者であるジルベルト伯爵家の次男カルロスだが、黒幕はわかっている。
私の婚約者のガレアーノ侯爵令嬢ロゼットだ。
彼女は侯爵家の財力で脅して、王子である私との婚約を結んだ。
ロゼットは私を王太子に押し上げて、自分が未来の王妃になろうとしていたのだ。
幼いころからの婚約者だったけれど、私は彼女を愛したことはない。
父王や側近候補のミゲルに言われて婚約者としての儀礼は果たしてきたが、どうしても愛することは出来なかった。
ロゼットが私を見たときに浮かべる笑顔が嫌だった。権力目当てのくせに、私を愛している振りをしているのが見え見えだったからだ。
自分が稼いだわけでもないガレアーノ侯爵家の財力を、この王国の長年の懸案だった大河の整備事業に注ぎ込んで、王家に恩を着せようとしているのも気に食わなかった。
王妃である母上に妃教育を受けているというのに一向に成長しない無能さも、私に愛されていると信じているような傲慢さも不快に感じていた。
私が愛しているのは、この国の貴族子女が通う学園に入学して出会ったプロスティトゥタだけだ。
男爵令嬢のプロスティトゥタ。
庶子だったが嫡子の異母姉の死を機に、正式に男爵家の娘として引き取られ、慣れない貴族生活で苦労しながらも笑顔を絶やさなかったプロスティトゥタ。
異母姉の婚約者とそのまま婚約させられて、いつも苦悩していたプロスティトゥタ。
「ジルベルト伯爵家の次男カルロスは、男爵家に引き取られる前からアタシに執着していたの。異母姉を殺したのは彼かもしれない。……アタシを手に入れるために」
最初はそんな舞台劇や物語のようなことはないと思ったが、そこまで馬鹿げた嘘をつく人間がいるはずもない。
それに、プロスティトゥタを見つめる彼女の婚約者の瞳は狂気を帯びていた。
私は彼女の言葉が真実だと信じ、彼女を守ると誓った。
側近候補のミゲルはプロスティトゥタの言葉を信じていなかった。騙されてはいけませんと、いつも私を窘めた。
それでもミゲルは私からプロスティトゥタを引き離すために実力行使をしたりはしなかったので、私は学園でプロスティトゥタと過ごすことが出来た。
彼女を守りたいと思う気持ちは、ごく自然に愛情へと変わっていった。
プロスティトゥタと出会って一年が過ぎて、私の婚約者であるロゼットが学園に入学してきても私の気持ちは変わらなかった。
変わるはずがない。
愛してもいない婚約者と愛しい恋人を比べれば、大切なのはどちらなのかはすぐわかる。
だが──
ああ、だが、プロスティトゥタは殺されてしまった。
せっかく彼女の婚約は解消されたのに、ロゼットが私との婚約を解消したくないと駄々を捏ねていたために、元婚約者のジルベルト伯爵家の次男カルロスに殺されてしまったのだ。
もしかしたらロゼットが、カルロスを操ってプロスティトゥタを殺させたのかもしれない。
いいや、きっとそうだ。
生前のプロスティトゥタが言っていたじゃないか。私と一緒にいる彼女を見るときのロゼットの瞳には殺意が宿っていたと。
プロスティトゥタの言葉が間違っているはずがない。
私はプロスティトゥタの死の事情を語り続けるミゲルを突き飛ばして、王都のガレアーノ侯爵邸へと急いだ。
愛しい恋人の仇を取るためだ。
王家に伝わる宝剣で邪悪なロゼットを打ち倒し、私は宝剣に宿るという王家の守護女神に自分の心臓を捧げて祈った。
プロスティトゥタを生き返らせてくれ!
それが無理なら時間を戻して欲しい。
自分の力で彼女を救うから。
──私の願いが届いたのか、一瞬意識が暗転して気がついたとき、私は十歳のころに戻っていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
十歳の誕生パーティで、私はロゼットに出会った。
ガレアーノ侯爵令嬢としての礼儀こそ身に着けていたが、嘘に塗れた笑顔で近寄ってきて親し気に話しかけてくる嫌な少女だった。
婚約者の執着に怯えていても健気に頑張っていたプロスティトゥタとはまるで違う。
今度は父王になんと言われても婚約などしない。
もし婚約する羽目になっても、プロスティトゥタが殺される前に、私がロゼットを始末してやる。
そう思っていたが、二度目の十歳の誕生パーティで、ガレアーノ侯爵令嬢ロゼットは私に近づいて来なかった。
彼女はパーティ会場の片隅で、青い顔をして俯いていた。
もしかしたらロゼットにも前のときの記憶があって、幼い魂が自分自身の罪に恐れ慄いているのかもしれない。
そのまま罪を償うために自害でもしてしまえば良いのに、そんなことを思っていたら、グスマン公爵令息のミゲルが彼女に近づいて行った。側近候補として引き合わされるのは先の話だが、彼も誕生パーティに出席していたようだ。
ミゲルに飲み物を手渡されて、ロゼットの顔に血の気が戻った。
彼女はいつも私に見せていた笑顔で微笑んでいた。
……自分の家より身分の高い男なら、だれでも良いのかもしれない。これから私に絡んでこなければ良いが、もし私や弟達を弑してミゲルを王位に就けようとしたなら返り討ちにしてやる。
そして、私は今度こそプロスティトゥタと結ばれる。
彼女こそが私の運命の恋の相手で間違いない。
彼女との愛を取り返すために、私は時間を遡ったのだ。
私の恋人、だれよりも愛しい男爵令嬢が!
実行犯は彼女の元婚約者であるジルベルト伯爵家の次男カルロスだが、黒幕はわかっている。
私の婚約者のガレアーノ侯爵令嬢ロゼットだ。
彼女は侯爵家の財力で脅して、王子である私との婚約を結んだ。
ロゼットは私を王太子に押し上げて、自分が未来の王妃になろうとしていたのだ。
幼いころからの婚約者だったけれど、私は彼女を愛したことはない。
父王や側近候補のミゲルに言われて婚約者としての儀礼は果たしてきたが、どうしても愛することは出来なかった。
ロゼットが私を見たときに浮かべる笑顔が嫌だった。権力目当てのくせに、私を愛している振りをしているのが見え見えだったからだ。
自分が稼いだわけでもないガレアーノ侯爵家の財力を、この王国の長年の懸案だった大河の整備事業に注ぎ込んで、王家に恩を着せようとしているのも気に食わなかった。
王妃である母上に妃教育を受けているというのに一向に成長しない無能さも、私に愛されていると信じているような傲慢さも不快に感じていた。
私が愛しているのは、この国の貴族子女が通う学園に入学して出会ったプロスティトゥタだけだ。
男爵令嬢のプロスティトゥタ。
庶子だったが嫡子の異母姉の死を機に、正式に男爵家の娘として引き取られ、慣れない貴族生活で苦労しながらも笑顔を絶やさなかったプロスティトゥタ。
異母姉の婚約者とそのまま婚約させられて、いつも苦悩していたプロスティトゥタ。
「ジルベルト伯爵家の次男カルロスは、男爵家に引き取られる前からアタシに執着していたの。異母姉を殺したのは彼かもしれない。……アタシを手に入れるために」
最初はそんな舞台劇や物語のようなことはないと思ったが、そこまで馬鹿げた嘘をつく人間がいるはずもない。
それに、プロスティトゥタを見つめる彼女の婚約者の瞳は狂気を帯びていた。
私は彼女の言葉が真実だと信じ、彼女を守ると誓った。
側近候補のミゲルはプロスティトゥタの言葉を信じていなかった。騙されてはいけませんと、いつも私を窘めた。
それでもミゲルは私からプロスティトゥタを引き離すために実力行使をしたりはしなかったので、私は学園でプロスティトゥタと過ごすことが出来た。
彼女を守りたいと思う気持ちは、ごく自然に愛情へと変わっていった。
プロスティトゥタと出会って一年が過ぎて、私の婚約者であるロゼットが学園に入学してきても私の気持ちは変わらなかった。
変わるはずがない。
愛してもいない婚約者と愛しい恋人を比べれば、大切なのはどちらなのかはすぐわかる。
だが──
ああ、だが、プロスティトゥタは殺されてしまった。
せっかく彼女の婚約は解消されたのに、ロゼットが私との婚約を解消したくないと駄々を捏ねていたために、元婚約者のジルベルト伯爵家の次男カルロスに殺されてしまったのだ。
もしかしたらロゼットが、カルロスを操ってプロスティトゥタを殺させたのかもしれない。
いいや、きっとそうだ。
生前のプロスティトゥタが言っていたじゃないか。私と一緒にいる彼女を見るときのロゼットの瞳には殺意が宿っていたと。
プロスティトゥタの言葉が間違っているはずがない。
私はプロスティトゥタの死の事情を語り続けるミゲルを突き飛ばして、王都のガレアーノ侯爵邸へと急いだ。
愛しい恋人の仇を取るためだ。
王家に伝わる宝剣で邪悪なロゼットを打ち倒し、私は宝剣に宿るという王家の守護女神に自分の心臓を捧げて祈った。
プロスティトゥタを生き返らせてくれ!
それが無理なら時間を戻して欲しい。
自分の力で彼女を救うから。
──私の願いが届いたのか、一瞬意識が暗転して気がついたとき、私は十歳のころに戻っていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
十歳の誕生パーティで、私はロゼットに出会った。
ガレアーノ侯爵令嬢としての礼儀こそ身に着けていたが、嘘に塗れた笑顔で近寄ってきて親し気に話しかけてくる嫌な少女だった。
婚約者の執着に怯えていても健気に頑張っていたプロスティトゥタとはまるで違う。
今度は父王になんと言われても婚約などしない。
もし婚約する羽目になっても、プロスティトゥタが殺される前に、私がロゼットを始末してやる。
そう思っていたが、二度目の十歳の誕生パーティで、ガレアーノ侯爵令嬢ロゼットは私に近づいて来なかった。
彼女はパーティ会場の片隅で、青い顔をして俯いていた。
もしかしたらロゼットにも前のときの記憶があって、幼い魂が自分自身の罪に恐れ慄いているのかもしれない。
そのまま罪を償うために自害でもしてしまえば良いのに、そんなことを思っていたら、グスマン公爵令息のミゲルが彼女に近づいて行った。側近候補として引き合わされるのは先の話だが、彼も誕生パーティに出席していたようだ。
ミゲルに飲み物を手渡されて、ロゼットの顔に血の気が戻った。
彼女はいつも私に見せていた笑顔で微笑んでいた。
……自分の家より身分の高い男なら、だれでも良いのかもしれない。これから私に絡んでこなければ良いが、もし私や弟達を弑してミゲルを王位に就けようとしたなら返り討ちにしてやる。
そして、私は今度こそプロスティトゥタと結ばれる。
彼女こそが私の運命の恋の相手で間違いない。
彼女との愛を取り返すために、私は時間を遡ったのだ。
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