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第二話 運命の恋は幻②<一度目の終わりと二度目の始まりの侯爵令嬢>
マルクス殿下が王都のガレアーノ侯爵邸を訪れたのは、私がプロスティトゥタ様の婚約解消を知ってからしばらく経った、学園の休日でした。
私と殿下の婚約がどうなるのかはまだ聞かされていなかったので、私はその前日も学園が終わってから王宮へ行って妃教育を受けていました。
きっと公表されたり父や国王陛下に聞かされたりする前に、殿下ご自身が伝えてくださるのだろうと思い、ほんのりと胸が熱くなるのを感じます。
私の想いは運命の恋ではなくて幻でしたが、婚約解消をまずはご自分の口から話そうという殿下の思いやりが嬉しかったのです。
侯爵邸の応接室で対峙した殿下は、少し血走った眼をなさっていました。
王太子の座を捨てるとまでおっしゃっていたのです。
きっと私との婚約を解消することについても、日々お悩みになっていたのでしょう。王家から我が家に婚約の打診があったのは、王家がガレアーノ侯爵家の財力に期待をしていたからだと父に聞いていました。この王国の国境を守るガレアーノ侯爵領は他国との貿易で栄えているのです。
この王国に流れ、すべての貴族領に接している大河は、王家の命を受けた我が家の支援によって整備されました。
未来の王子妃となる予定だった私のためでもあります。
整備された大河は国内流通の要となり、以前のように氾濫して民の命を奪うことは無くなっています。
「ご訪問いただきありがとうございます、マルクス殿下。本日はどのようなご用命でしょうか?」
「……お前が」
「え?」
殿下にはずっとロゼット嬢と呼ばれていました。
お前などと気安く呼ばれた記憶はありません。
幻の恋に酔っていたころの私なら殿下との距離が縮まったと喜んでいたかもしれませんが、今の私はなんだか恐怖を感じました。感じさせるものが殿下の声にあったのです。
そういえば、今日の殿下はおひとりです。
学園に入学する前はふたりっきりで会いたいと望んだこともありました。今も厳密にいえばメイドや家令がいるのでふたりっきりではありません。
でもそれ以前に、いつも殿下に同行しているはずの側近候補のグスマン公爵家のご令息がいらっしゃらないのです。
「お前がプロスティトゥタを殺したんだ!」
プロスティトゥタ様を殺した? あの方がお亡くなりになったのですか?
問い返す暇もなく、座っていた長椅子から立ち上がった殿下は腰の剣を抜いて私に斬りつけてきたのです。
血走った瞳には狂気の光と憎悪の色が浮かんでいます。
肩を斬られ、抵抗しようとした腕を払い除けられて首に剣を突き立てられて、私の意識は途絶えました。メイドや家令を恨むつもりはありません。だれがこの国の王子殿下を止めることが出来るでしょうか。
私はなにもわからないまま、暗い暗い闇の底へと──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはようございます、ロゼット様」
メイドの声に体を起こすと、明るい朝の光の中でした。
なんだかとても嫌な夢を見ていた気がします。
無意識に喉へ手をやって、自分の手の小ささに驚きます。私の手は、こんなに小さかったでしょうか。手だけではありません。体全体が小さくなっているように感じます。
「今日はマルクス殿下の十歳の誕生パーティですよ」
「え?」
「ロゼット様?」
マルクス殿下の十歳の誕生パーティが開かれるということは、彼よりひとつ年下の私は九歳で、体が小さいのは当たり前なのだけれど──なにかがおかしい気がします。
先ほど見ていた夢のせいでしょうか。
夢の内容を思い出そうとしましたが、どうしても思い出せません。ただ、どろり、とした重たい恐怖が心の中に広がっていくだけです。
王宮から招かれているのです。
マルクス殿下の十歳の誕生パーティへ行かないわけにはいきません。
けれど行きたいとは思えませんでした。行ったら、なにか恐ろしいことが起こりそうな気がするのです。今すぐにではなく、もっと未来、時間を経た後に……
私と殿下の婚約がどうなるのかはまだ聞かされていなかったので、私はその前日も学園が終わってから王宮へ行って妃教育を受けていました。
きっと公表されたり父や国王陛下に聞かされたりする前に、殿下ご自身が伝えてくださるのだろうと思い、ほんのりと胸が熱くなるのを感じます。
私の想いは運命の恋ではなくて幻でしたが、婚約解消をまずはご自分の口から話そうという殿下の思いやりが嬉しかったのです。
侯爵邸の応接室で対峙した殿下は、少し血走った眼をなさっていました。
王太子の座を捨てるとまでおっしゃっていたのです。
きっと私との婚約を解消することについても、日々お悩みになっていたのでしょう。王家から我が家に婚約の打診があったのは、王家がガレアーノ侯爵家の財力に期待をしていたからだと父に聞いていました。この王国の国境を守るガレアーノ侯爵領は他国との貿易で栄えているのです。
この王国に流れ、すべての貴族領に接している大河は、王家の命を受けた我が家の支援によって整備されました。
未来の王子妃となる予定だった私のためでもあります。
整備された大河は国内流通の要となり、以前のように氾濫して民の命を奪うことは無くなっています。
「ご訪問いただきありがとうございます、マルクス殿下。本日はどのようなご用命でしょうか?」
「……お前が」
「え?」
殿下にはずっとロゼット嬢と呼ばれていました。
お前などと気安く呼ばれた記憶はありません。
幻の恋に酔っていたころの私なら殿下との距離が縮まったと喜んでいたかもしれませんが、今の私はなんだか恐怖を感じました。感じさせるものが殿下の声にあったのです。
そういえば、今日の殿下はおひとりです。
学園に入学する前はふたりっきりで会いたいと望んだこともありました。今も厳密にいえばメイドや家令がいるのでふたりっきりではありません。
でもそれ以前に、いつも殿下に同行しているはずの側近候補のグスマン公爵家のご令息がいらっしゃらないのです。
「お前がプロスティトゥタを殺したんだ!」
プロスティトゥタ様を殺した? あの方がお亡くなりになったのですか?
問い返す暇もなく、座っていた長椅子から立ち上がった殿下は腰の剣を抜いて私に斬りつけてきたのです。
血走った瞳には狂気の光と憎悪の色が浮かんでいます。
肩を斬られ、抵抗しようとした腕を払い除けられて首に剣を突き立てられて、私の意識は途絶えました。メイドや家令を恨むつもりはありません。だれがこの国の王子殿下を止めることが出来るでしょうか。
私はなにもわからないまま、暗い暗い闇の底へと──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはようございます、ロゼット様」
メイドの声に体を起こすと、明るい朝の光の中でした。
なんだかとても嫌な夢を見ていた気がします。
無意識に喉へ手をやって、自分の手の小ささに驚きます。私の手は、こんなに小さかったでしょうか。手だけではありません。体全体が小さくなっているように感じます。
「今日はマルクス殿下の十歳の誕生パーティですよ」
「え?」
「ロゼット様?」
マルクス殿下の十歳の誕生パーティが開かれるということは、彼よりひとつ年下の私は九歳で、体が小さいのは当たり前なのだけれど──なにかがおかしい気がします。
先ほど見ていた夢のせいでしょうか。
夢の内容を思い出そうとしましたが、どうしても思い出せません。ただ、どろり、とした重たい恐怖が心の中に広がっていくだけです。
王宮から招かれているのです。
マルクス殿下の十歳の誕生パーティへ行かないわけにはいきません。
けれど行きたいとは思えませんでした。行ったら、なにか恐ろしいことが起こりそうな気がするのです。今すぐにではなく、もっと未来、時間を経た後に……
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