【大至急】誰でもいいので、魔王からの求婚を穏便に断る方法を教えてください。

志子

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聖職者と小さな友人

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※注意:性的な言葉と表現があります。


 この世界には我々人間と、人ならざる者……つまり魔族の二つの種族が存在する。そして魔族には魔王と呼ばれる魔族の頂点に君臨する王がいる。

 我々人間には国を治める王が沢山いるが、魔王は広大な土地をたった御一人で治めている。魔族は強い。魔族一人を倒すのに何百人単位の人間の軍隊が必要だ。それほど強いのだ。

 その魔族を従えてる魔王はどれほどの強さなのか……。

 魔族に対して非力過ぎる人間がこうして生き残っているのは、ひとえに神の御慈悲があったからこそだ。我々人間たちを哀れに思った神は各国に勇者様と聖女様を遣わして下さった。

 勇者様は人間の地を脅かしにきた魔族をたった御一人で倒し、聖女様は聖なる光で穢れた地を浄化し、魔物や魔族が入ってこないように強力な結界を張った。

 我が国では勇者様と聖女様の功績を讃え勇者様は王女殿下と、聖女様は王太子殿下と結婚し、次代へとその御力を繋いでいった。その御力はいつしか貴族へ受け継がれ、そして平民へと広がっていた。

 何代か前の国王が有事の際を考え、御二人の御力を持つ者が少しでも多いほうが良いということで平民まで広げたという。

 その甲斐あって初代勇者様と聖女様とまではいかないが、そこそこ御力を持った者たちが生まれ国を守ってくれた。

(今日もいい天気に恵まれそうです。神様ありがとうございます)

 私は外帚を片手に晴れ渡った青空を見上げながら神様にお礼を告げた。私の名前はロニー。しがない聖職者で先日二十三歳を迎えた。もともと孤児だったが、聖女様の御力を持っていたことが分かり教会に引き取られた。

 教会には私以外にも聖女様の御力を持った者たちが沢山いた。彼ら彼女らは聖人、聖女候補と呼ばれ、その中でもっとも力が強くそして優れた者が聖人様又は聖女様と呼ばれるそうだ。

 生憎、私の持っている聖女様の御力はほんの僅かで、聖女様のお仕事……結界を張ったり、穢れを祓ったり……は与えられず雑用ををこなす日々を送っている。

 日が昇らぬ前に起き身を整え、祈りの間……候補者方が結界を張るために集中出来るようにと誂えたお部屋……や教会内部の掃除。食事の支度。候補者方の食事が終われば後片付けをし、自分も食事を簡単に済ませる。それから教会で看ている患者たちの世話と洗濯。手が空けば司祭様のお仕事を手伝い、その後は夕食の食事の準備と後片付け、明日の仕込みをする。大変だが孤児である私に温かな寝床と食事だけではなく、こうして役目を与えて下さった教会に感謝している。

「あはは。それってほんとなのー?」
「本当さ。そしたら……」
「いや、次は俺の話を……」
「私の話が先だよ……」
「もー、みんなの聞いてあげるからー」

 庭掃除をしようと中庭に行ったら、ガゼボに一人の愛くるしい少女と四人の見目麗しい男性が楽し気に話をする姿が目に入り、私は慌てて引き返した。

 ガゼボにいた少女の名はアリーチェ様。バイラー男爵家の御子女で聖女候補の一人。ストロベリーブロンドの髪に空色の瞳を持った彼女は初代聖女様の先祖返りと噂されている御方だ。

 そしてアリーチェ様を囲っていた男性たちは、この国の第二王子殿下と側近候補たちだ。彼らは初代勇者様の先祖返りとまではいかないが、それなりに勇者様の御力を持っているという。

 最初はアリーチェ様と第二王子殿下だけでしたが、一人、二人と増えていき気付けば今の形になっていた。

(仕方がない、他の場所を掃除しましょう……)

 私は小さくため息をついて裏庭へ向かった。

「ん?」

 裏庭の雑草を毟っていたら、茂みの中からスラリとした美しい体型の黒猫が姿を現した。

「こんにちは。初めて見るお顔ですね」

 私は黒猫に笑いかける。動物に挨拶するなんて変だとよく言われるが、私は教会に訪れる者すべてに挨拶をするようにしている。

「今日はとても心地よい天気です。日向ぼっこにもってこいですね」

 黒猫が去らないことをいいことに私は草を毟りながら話しかけた。頂いた新鮮なトマトでスープを作ったこと。ちょっと塩気が足りず候補者方に怒られてしまったこと。患者さんの一人が無事家に帰ることができたことなどなど。

 不意に遠くから「ロニー、こっち手伝えー」と先輩の声が聞こえ慌てて立ち上がり「わかりました!」と返した。

「すみませんが私はここで失礼します。どうぞゆっくりしていってください」

 私は黒猫に頭を下げその場を去った。黒猫の金色の瞳が私の後ろ姿をじっと見ていたことも知らずに。

 あの日を境に黒猫は私が一人の時に姿を現し、私の話し相手になってくれた。いつしか私はその黒猫を「小さな友人さん」と呼ぶようになった。黒猫も最初は私から少し離れた場所にいたが、いつしか私に寄り添うように傍に居てくれるようになった。


 その日は朝から気持ちが沈んでいた。

「にゃ?」
「………こんにちは、小さな友人さん」

 私は黒猫に力なく笑った。私が落ち込んでいるのが分かったのか、黒猫は私にすり寄りじっとこちらを見上げてきた。

「……小さな友人さん。国が……国が一つ消えました」

 今朝、ある国が魔王に手よって消されたと聞かされた。原因はその国の先祖返りした複数の勇者様と聖女様が魔族に戦をしかけたこと。結果は惨敗。その国は魔王の報復を受けた。

 どの国も魔王の恐ろしさを痛感したことだろう。

「私は悲しいです。彼らの身勝手な行動のせいで、関係のない者たちが死んだのです」

 彼らは初代勇者様と聖女様が残した御言葉を忘れてしまったのだろうか。

”決して魔王の地に足を踏み入れてはならない。魔王に刃を向けてはならない。我らの力を慢心するな。慢心した愚か者は国ごと消される” と……。

「小さな友人さん。どうか私と一緒に彼らが安らかに眠れるよう祈ってくれますか?」

 涙が頬を流れ落ちる。懇願するよう黒猫に言うと「にゃ」と鳴いてくれた。私は「ありがとうございます」とお礼を言って祈りを捧げた。

 次の日から黒猫は姿を見せなくなった。

(病気か怪我でもしたんだろうか……)

 黒猫が姿を見せなくなって一週間が過ぎた。住処を変えただけなら、寂しくはあるが仕方がないと受け入れることができる。だが病気や怪我だったら……。

「小さな友人さん、あなたに会いたいです」

 あなたにお話ししたいことがあるんです。そうぽつりと零すと、それに応えるように「にゃ」という鳴き声が聞こえた。驚いてそっちを見ると茂みから黒猫が姿を現した。

「小さな友人さん! どちらに行ってたんですかっ? 心配したんですよ? 病気は? 怪我は?」

 私は思わず黒猫を抱き上げ身体中を確認した。見たところ目立った外傷はない。そのことに安堵の息を吐き出した。

「小さな友人さん、あなたにお話ししたいことがあったんです。前に国が消えたお話をしましたよね? その国が一面花畑になったそうです。まるで死者を追悼するかのように……」

 私は優しく黒猫の頭を撫でた。

「きっと神様が罪のない者たちのために花を手向けてくれたのでしょう」

 ありがとうございます神様と私は何十回目のお礼を告げた。



「小さな友人さんは恋をしたことはありますか?」

 私の問いに黒猫は「にゃ?」と首を傾げた。私は黒猫の頭を優しく撫でた。脳裏に浮かぶのは忽然と姿を消した聖女候補と聖職者。聖女候補は伯爵令嬢で聖職者は男爵令息だという。そして二人にはそれぞれ婚約者がいた。

「私もいつか誰かに恋をするときがくるのでしょうか?」

 ただその恋が誰かの犠牲の上でなるのなら……その恋は殺してしまおう。

「もし恋をしたときは、その人がちゃんと独り身である事を確認しなくてはですね」



 その日、教会が騒然とした。結界が破れたのだ。教会内では「早く結界を張れ」という怒号が飛び交っている。

(なぜ……)

 私は唖然と消失した結界を見上げた。

「うあぁぁぁぁっっっ!」

 叫び声でハッと我に返ると、周りにいた教会の者たちが尻もちをつき恐怖で顔を引き攣らせていた。彼らの視線を追ってそちらを見ると空から何も身に纏っていない女性の肉体に鋭い爪を持った羽毛に包まれた手足と、背中に大きな蝙蝠羽根を生やした魔族がこちらに向かって降りてくる姿があった。

「結界しょぼ過ぎて笑えるわー」

 地面に降り立った魔族がからからと笑う。

「魔族がなぜここに!?」
「相手は一匹だ! 倒せる!」
「俺が相手だっ!」
「アリーチェは隠れていろ!」
「ダメよっ! 私が今結界をッ……」

「うるさい」

「ッッッッ!!!!!」

 アリーチェ様と彼女を守るように剣を構えた第二王子殿下と側近候補たちは、魔族が虫を払うように手を軽く振った瞬間後ろに吹っ飛んだ。飛ばされた彼らは壁や柱に身体を思いっきりぶつけその場に崩れ落ちた。

「なんだ、ここの聖女もやることやってんじゃん。ふふ、聖女も肉体の喜びには逆らえなかったわけね」

 やって? え?  魔族が何を言っているのか分からず困惑する。魔族は「それと、それと、それと、それ」と第二王子殿下と側近候補たちを指さしていく。

「その女からあんたらの精液の匂いがぷんぷんする。あは、いいねぇ。あんたとは気が合いそう」

 魔族はアリーチェ様を見てニィィと笑った。

「そん…っ! ちがっ! 嘘よっ! 魔族の戯言よっ!!!」
「あんたそいつら以外に五人ぐらい食ってるわねぇ」
「!!!!」

 アリーチェ様が青褪める。

「安心してあんただけじゃないわ。ここにいる奴ら、けっこうやってるわよ? 性交の匂いがそこらじゅうに沁みついてるわ」

 魔族はうっとりと笑う。

「どっかの国の勇者と聖女も性欲にまみれた匂いをさせていたわ。なんだ、あたしらと一緒じゃんって。あはっ」

 無邪気に笑う魔族に、まわりは誰も口を開かない。

「あら? 恥じることはないわよ? 肉体の喜びは誰にも抗えないもの」

 魔族はそう言って教会の者たちを見渡し、私に目を止めると口元を歪めた。

「こんにちは、ぼうや」
「ヒッ!」

 一瞬で目の前に迫ってきた魔族に私は悲鳴をあげた。

「へぇ……あなた、まだキレイなままなのねぇ」

 魔族は私に顔を近づけ匂いを嗅いでいる。恐ろしくて失神しそうだ。

「ふふ。そんなに怖がらないで? 私が優しく………ぎゃっ!!」

 突然魔族が視界から消え、代わりに目の前が真っ暗になった。

「何をしている」

 地を這うようなゾッとするような声音に身体が、心臓が凍てついた。

 視界の隅に先ほどの魔族が這いつくばる様に地面に倒れていて、その背中に誰かの足が踏みつけるように乗っていた。魔族はこちらを見上げ、そして驚愕の表情を浮かべた。

「ま、魔王……様」

 ま、おう……さま? 

 私は震えながら頭上を見上げた。見上げた先にあったのは私を見下ろす長い黒髪に金色の瞳を持ったゾッとするほど美しい男がいた。一見人間のように見えたが頭部に牛の角に似たごつごつとした二つの黒い角が生えていた。

「う……ぁ……」

 目に見えない重圧が肩に圧し掛かる。助けを求めたくても声が出ない。そもそも一体誰が倒せるというのか。先ほどの魔族でさえいとも簡単に結界を壊し、勇者候補の彼らを片手で簡単に払い除けたのだ。

 なら目の前の魔王は?

 ハッ、ハッと息が浅くなる。不意に魔王の手が動いた。

(殺されるっ!)

 殺すなら一思いに殺してほしいと私はぎゅっと目を閉じた。……が、くるであろう死がいつまで経っても来ない。恐る恐る目を開けると、一輪の素朴な小さな花が視界に入った。

「………へぁ?」

 よく見るとその花を持っているのは魔王だった。私は恐々と魔王を見上げ……そして目を見開いた。

 魔王の顔が真っ赤なのだ。

「お、俺は、お前の手料理を毎日……食べたい。たとえ失敗しても喜んで、食べる。……新鮮な野菜もたくさん……用意する。……あと、余計な命は奪わない。約束する。……あ、俺は独り身で、婚約者も、恋人とやらもいない……だから安心して……お、俺とこ、こ、こ、恋することが……できる」

 魔王の頭上から湯気が上がっている。……いえ、それよりも魔王が言っている内容に凄く……思い当たる……節が……。

 不意に脳裏に浮かんだのは魔王の黒髪と金色の瞳によく似た……。

「だからロニー。どうか俺と……結婚してくれ」

 嘘だと私はその場で意識を飛ばした。




【大至急】誰でもいいので、魔王からの求婚を穏便に断る方法を教えてください。



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