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ある男の話。
しおりを挟む男は山菜取りをしている時、一人の子どもと遭遇した。全身汚れていたが身に着けているものは上物だ。だが、それよりも男の目を引いたのは子どもの髪と目の色だった。その色の意味を男は知っている。なぜこんなところに?
『そこの男。時が来るまでこやつを守れ。よいな?』
子どものものとも言えぬ声音とただならぬ気配を感じた男は顔を真っ青にさせその場に身を伏した。決して逆らってはいけない存在だ。
フッと気配が消えると共にどさりと音が聞こえた。恐る恐る顔を上げると子どもが倒れていた。髪はどこにでもある色をしており、あれは見間違いだったのだろうかと思った。
男は意識のない子どもを家に連れ帰り、自分が体験したことを家族に話した。
「守れって……大丈夫なのか?」
「時とはいつだ?」
「わからない。だが、無下にすればどんな災いが起こるか分からない。今は言われた通りにするしかない」
子どもが着ていたものは全部燃やした。あとは高貴なお方が我々の生活を受け入れてくれるかどうかだ。
しかしその心配は杞憂に終わった。子どもはとても素直でいい子だった。……いい子過ぎてこちらが心配するほどだ。もしかすると自分の置かれている状況に気付いているのかもしれない。
その子どもに末っ子が懐いた。子どもがどこへ行くにも末っ子は後を追った。
子どもは親元へ帰りたいとは言わなかったし、男とその家族も触れなかった。
ある日のことだった。薪拾いに行っていた次男が真っ青な顔をして、顔に大怪我を負った末っ子を抱いて戻ってきた。一緒にいた筈の子どもの姿がどこにもない。
末っ子の手当をしながら、男は何があったと次男に聞くと、次男は震えなら自分の見たものを話した。話を聞いた男とその家族は顔を真っ青にさせた。その子どもが男とその家族の前に再び姿を現すことはなかった。
末っ子は三日三晩熱で魘されたが、大怪我にも関わらず生き延びることができた。末っ子は自分の傷がどうやってできたのか知らない。いや忘れてしまったのだ。………あの子どものことも。
暫くして新たな帝が誕生したという知らせが届いた。
帝の年齢と容姿、そして帝にまつわる恐ろしい話が村でも話題となり、男とその家族はまた顔を青褪めさせた。
”時”はこのことだったのだろうか。
男とその家族は子どものことを忘れることにした。雲の上のお方だ。この先関わることも、会うこともない。
あの子どもが末っ子に対し怖いぐらい執着を見せていたとしても、もう関係ないことだ。
完
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