裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド

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16歳(2回目)

7、2回目はカーターがアドの遺跡の「竜の心臓水晶」を獲得する

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 ◇





満月の夜。

カーターはアドの街の東郊外にある遺跡に居た。この場所は先日のサイレーズ旅団がアジトにしていた場所だが、今はもう人は居ない。

そもそも満月の夜は術式が発動して「影の分身」が襲ってくる事が知れ渡っているので満月の今夜は誰もこの大広間には居なかった。

カーターと4戦目の「カーターの影の分身」以外は。

既に戦っていた。

「きっつうっ! 報酬が『竜の心臓水晶』だと知ってなきゃあとっくに逃げてるぞ、こんなのっ!」

文句を言いながら影の自分自身の剣での猛攻をカーターは総ていなしていた。

もうカーターが持つ錆びた剣の刀身は殆ど錆が剥がれて名刀の刀身が姿を見せている。それくらい「遺跡の影の行」のこれまでの戦いは激戦だった。

「うらぁぁぁっ!」

カーターが隙を見せた自分の影の胴に渾身の一撃を放つ。バシュッと致命傷を受けた影が消滅した。

「よっしゃあぁぁっ! 4体目をクリアぁぁぁっ! 残るは後1回っ!」

戦ってテンションが上がったのかカーターは吠えた。

またもや大広間の床に「影の行」の魔法陣が出現する。その後、大広間に居る人物の影が出現するはずだったが、5回目の魔法陣はデカかった。

「?」

そして巨大な魔法陣から出現したのはどう見ても全長20メートルはあろうかというアースドラゴンの影だった。大広間の4分の1の面積を占領している。

影であってもドラゴンなので凄い迫力だ。圧も凄い。

「はあ? 何で? こんなの聞いて――」

絶句したカーターだったが、すぐにピンときた。

1回目のゴフマンが「説明が面倒で黙ってやがったな」と。

「そうかっ! ゴフマンの奴、隠してやがったな。上等だ。やってやるぜっ!」

カーターはアースドラゴンの影に突っ込んでいった。

この「遺跡の影の行」は自分自身の影でも本人以上に強くて苦戦する。

それなのにアースドラゴンの影が出現したのだ。

アースドラゴンよりも強いなら勝てる訳がない。

巨大な尻尾払いをドゴッと喰らい、カーターは8メートルは吹き飛ばされた。意識が飛ぶ。

その意識が飛んだ時、カーターは白昼夢に襲われた。

まあ、夜なのだから白昼夢と呼ぶかは微妙だったが。





 ◆◆





カーターが見たのは1回目の時、ゴフマンが大広間の「遺跡の影の行」でアースドラゴンの影と戦ってるシーンだった。

突進を喰らったゴフマンが吹き飛んで壁に叩き付けられてバウンドして床に倒れる。もうゴフマンはボロボロで立つのがやっとだ。だがアースドラゴンの影は追撃してこない。

「どうして? そうか――影は光があるから出来る。この場所は満月の光が差し込んでいて入れないのか? なら――」

ゴフマンは大広間に差し込む満月の光を剣の刀身に反射させてアースドラゴンの影を照らした。満月の光を浴びたアースドラゴンの影が苦しみ出して最後には消え去る。

そしてゴゴゴッとカラクリの仕掛けが作動して台座が出現した。





 ◇





意識が飛んだのは一瞬だったっぽいが、意識が飛んだ事で白昼夢を見てアースドラゴンの影の攻略法を知ったカーターは「どうして白昼夢で1回目のゴフマンの戦いが見られたのか」は一切疑問に思わなかった。

何分、アースドラゴンの影との戦闘中で切迫していたので。アースドラゴンの影なんて咆哮してるし。

「実力勝負じゃなくてトンチが勝利の鍵ってか。そりゃあ、ゴフマンも隠す訳だぜ」

そう都合良く納得して、大広間に満月の光が差し込んでいる場所に飛び込んだ。

白昼夢で見た通りだ。アースドラゴンの影は満月の光が差し込む場所には入って来られない。

「勝利とは程遠いが、まあいいか」

錆が殆ど剥がれている刀身の腹で満月の光を反射させてカーターはアースドラゴンの影を撃退したのだった。





アースドラゴンの影が消えると同時にゴゴゴゴゴッと大広間の床のカラクリの仕掛けが動き出して本当に台座が出現した。

水晶の塊が台座には安置されていた。

無論、ただの水晶の塊ではなく「竜の心臓水晶」だ。

念願のアイテムの登場にカーターはゴクリッと喉を鳴らした。台座に近付く。これまでのカーターの影の攻撃で頬から出血していたのでその血を「竜の心臓水晶」に付けるとドクンッと「竜の心臓水晶」が脈打った錯覚を覚えた。

この竜の心臓水晶の契約の儀式は英雄譚に出てくるほど有名だ。間違いようがない。

カーターの血で覚醒した「竜の心臓水晶」の周囲に魔法陣が出現する。カーターの心臓部分にも魔法陣が現れた。魔法陣に包まれた「竜の心臓水晶」が浮遊してカーターの左胸の魔法陣の中に吸い込まれてカーターの心臓と融合してカーターの心臓がドクンッと脈打ち、

(これは拙い奴だ)

カーターはその場で気絶したのだった。





 ◇





遺跡の大広間でカーターが目覚めると夜が明けていた。

大広間にはカラクリの仕掛けで出現した台座はもうなかった。

カーターの身体に変化はないが、右手の平に意識して力を込めると雷撃がバチバチバチッと発生した。


「ゴフマンと同じ『雷竜の心臓水晶』な訳ね」

念願を果たして「竜の心臓水晶」をゲットしたカーターはニヤリと笑ったのだった。





御機嫌のカーターがアドの街に帰還すると、妻のアンがカーターが帰らぬ事で騒いでおり少し恥を掻く事になった。それを差し引いてもカーターは終始御機嫌だった。

それこそ妻のアンが「浮気をしたのではないか」と邪推するくらいに。
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