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(……そういえば、国王陛下はずっと反対していらしたわ……)
実は、リュシエルとハージェスの婚約破棄の話が出たのはこれが初めてではない。過去には一度、ベクレル侯爵家から、そしてハージェスからは何度も国王に婚約破棄の希望が伝えられているのだが、普段ハージェスに甘い国王も、なぜかこの件に関してはがんとして首を縦に振らなかったのだ。そのためハージェスとモルガナも、強引に妊娠という手段をとることにしたのだろう。
「それ、は……。いや、しかし、彼女のお腹には子供がいるんだぞ? 他ならぬ私の子だ! 聞けば、お前とは手すら繋いだことのない、清い仲だったのだろう!?」
「そうだ」
クロードが答える声は、どこか自慢げに聞こえた。不安そうに見上げれば、優しげな瞳がリュシエルを見つめる。
「これ以上話しても無駄だ。……行こう」
クロードにそっと肩を押され、リュシエルはハージェスが何やらわめく声を聞きながらその場を後にした。ティーパーティーは急遽解散となり、両親が怒りながらもその対応に追われてバタバタとしていたが、リュシエルがその手伝いに駆り出されることはなかった。傷心だと思われたのだろう。実際呆然としていたから、その配慮はありがたかった。
*
「全く……! 今までもそうだったが、今度の今度だけは本当に許せない。俺はもう、ハージェスの側近などやめてやる」
「お兄さま、落ち着いてください。私は案外平気です」
客間で、怒りすぎて、一人称が“俺“になっているエドガーをなだめようとする。
「すまないリュシー。頼りない兄を殴ってくれ。今まで私が我慢すればいつかはうまくいくのではないかと思っていたが、こんな事ならもっと早くにあのバカを殴っておくべきだった……」
「お兄さま、それ不敬罪にあたりますからお口には気をつけて。心の中で思う分には自由ですわ」
注意すると、エドガーは無言で近くに置いてあったクッションを殴り始めた。兄がそんな行いをするのは初めてで、目を丸くして見ていると、クロードが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……リュシーは大丈夫なのか?」
「私?」
キョトンとして見返してから、リュシエルは言った。
「最初はあまりのバ……いえ、破天荒ぶりにびっくりしてしまったけれど、大丈夫どころかむしろ天にも昇る心地ですわ。私がハージェス様を好きになる要素、微塵もありませんもの」
それは嘘ではなかった。ハージェスとの結婚は義務感から耐えているだけで、あの男を一生の伴侶にしないで済むのなら、修道院へ行ってもいいと真剣に考えたことすらあるくらいだ。
「王妃という地位に、未練は?」
「ないですわ。どちらかというと、ハージェス様が国王に就いて我が国は大丈夫なのか心配する気持ちが強いです。……今のは内緒にしてくださいね」
しまったというように口を隠せば、クロードが笑った。途端に、胸が暖かくなる。リュシエルは、彼の笑った顔が大好きなのだ。
「ならよかった」
「……クロード殿下は、大丈夫ですか?」
リュシエルは恐る恐る訪ねた。モルガナ嬢を愛し、大事にしていたのは他でもない、クロードなのだ。
「私は大丈夫だ。……なんとなくそんな予感がしていたからな」
「え?」
「そもそもあの二人、本気で愛し合っていないだろう」
「それは私も思った」
いつの間にか立ち直ったらしいエドガーまでもが話に混じってきたので、リュシエルは驚いて目を見開いた。
「……なんとなくそうじゃないかとは思ってましたけれど……まさかみんなそう思っていたなんて」
実は、リュシエルとハージェスの婚約破棄の話が出たのはこれが初めてではない。過去には一度、ベクレル侯爵家から、そしてハージェスからは何度も国王に婚約破棄の希望が伝えられているのだが、普段ハージェスに甘い国王も、なぜかこの件に関してはがんとして首を縦に振らなかったのだ。そのためハージェスとモルガナも、強引に妊娠という手段をとることにしたのだろう。
「それ、は……。いや、しかし、彼女のお腹には子供がいるんだぞ? 他ならぬ私の子だ! 聞けば、お前とは手すら繋いだことのない、清い仲だったのだろう!?」
「そうだ」
クロードが答える声は、どこか自慢げに聞こえた。不安そうに見上げれば、優しげな瞳がリュシエルを見つめる。
「これ以上話しても無駄だ。……行こう」
クロードにそっと肩を押され、リュシエルはハージェスが何やらわめく声を聞きながらその場を後にした。ティーパーティーは急遽解散となり、両親が怒りながらもその対応に追われてバタバタとしていたが、リュシエルがその手伝いに駆り出されることはなかった。傷心だと思われたのだろう。実際呆然としていたから、その配慮はありがたかった。
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「全く……! 今までもそうだったが、今度の今度だけは本当に許せない。俺はもう、ハージェスの側近などやめてやる」
「お兄さま、落ち着いてください。私は案外平気です」
客間で、怒りすぎて、一人称が“俺“になっているエドガーをなだめようとする。
「すまないリュシー。頼りない兄を殴ってくれ。今まで私が我慢すればいつかはうまくいくのではないかと思っていたが、こんな事ならもっと早くにあのバカを殴っておくべきだった……」
「お兄さま、それ不敬罪にあたりますからお口には気をつけて。心の中で思う分には自由ですわ」
注意すると、エドガーは無言で近くに置いてあったクッションを殴り始めた。兄がそんな行いをするのは初めてで、目を丸くして見ていると、クロードが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……リュシーは大丈夫なのか?」
「私?」
キョトンとして見返してから、リュシエルは言った。
「最初はあまりのバ……いえ、破天荒ぶりにびっくりしてしまったけれど、大丈夫どころかむしろ天にも昇る心地ですわ。私がハージェス様を好きになる要素、微塵もありませんもの」
それは嘘ではなかった。ハージェスとの結婚は義務感から耐えているだけで、あの男を一生の伴侶にしないで済むのなら、修道院へ行ってもいいと真剣に考えたことすらあるくらいだ。
「王妃という地位に、未練は?」
「ないですわ。どちらかというと、ハージェス様が国王に就いて我が国は大丈夫なのか心配する気持ちが強いです。……今のは内緒にしてくださいね」
しまったというように口を隠せば、クロードが笑った。途端に、胸が暖かくなる。リュシエルは、彼の笑った顔が大好きなのだ。
「ならよかった」
「……クロード殿下は、大丈夫ですか?」
リュシエルは恐る恐る訪ねた。モルガナ嬢を愛し、大事にしていたのは他でもない、クロードなのだ。
「私は大丈夫だ。……なんとなくそんな予感がしていたからな」
「え?」
「そもそもあの二人、本気で愛し合っていないだろう」
「それは私も思った」
いつの間にか立ち直ったらしいエドガーまでもが話に混じってきたので、リュシエルは驚いて目を見開いた。
「……なんとなくそうじゃないかとは思ってましたけれど……まさかみんなそう思っていたなんて」
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