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遠路はるばるやってきたナーバ帝国のヤーラ皇女は、褐色の肌に、黒曜石のような大きな瞳を持つ、異国情緒を感じさせる愛らしい美姫だった。滑らかなシルクのドレスには飾りとしていくつもの薄いベールが重ねられ、またヤーラ皇女の艶やかな黒髪と顔も、奥ゆかしく繊細なベールで覆っている。
出迎えたクロードと並ぶ姿はまるで最初から一対の絵のようで、周りの人々からは自然とため息がもれた。リュシエルの心がじくりと傷む。
(この後に及んで、嫉妬なんかしている場合じゃないわ。私は私の役目を果たさないと。クロード様のためにも)
ヴァランタン王国に、そしてクロードの顔に泥を塗らないためにも、リュシエルは精一杯のもてなしをした。クロードがヤーラと歓談している間はお付きの人たちが不自由しないよう手配したり、またクロードが違う要人と話している間はヤーラの話し相手になったりもした。ヤーラはナーバ帝国の歴史や文化についても勉強したリュシエルのことをとても気に入ってくれ、しまいにはクロードよりもリュシエルと過ごす時間が長くなったほどだ。
『貴女は本当に素敵な女性だわ、リュシー』
上機嫌で愛称を呼ぶヤーラに、リュシエルは恥ずかしげに首を振ってみせた。
『そんな、私みたいな者に素敵だなんて。身に余る光栄ですわ』
『貴方の唯一の欠点は、その卑屈な態度ね。褒められたら、素直にありがとうとにっこり笑えばいいのに。貴女にはそれだけの価値があるわ』
ヤーラは、事あるごとにリュシエルを褒めてくれた。その度にリュシエルはむず痒く、なんとなく困ってしまう。家族以外でこんなに褒められたのは、初めてだった。
『けれど、しょうがないわね。貴女にはそうなるよう、***がかけられているんですもの』
『ごめんなさい、今なんとおっしゃったのですか? 聞き取れなかったですわ』
ヤーラはその質問に答える代わりに、リュシエルに向かって悲しげに微笑んでみせた。
『クロードを呼んできてくださる? 私、彼とお話しがしたいわ』
『すぐに呼んで参ります』
リュシエルは慌ててクロードの元に行った。ヤーラが呼んでいることを話すと、クロードはすぐさま彼女の元に向かう。そうして二人で何か秘密ごとを囁き合うように、お互いの黒髪を寄せて話す二人の姿を、リュシエルはじっと見つめていた。
(本当に、いつ見ても絵になる二人だな……)
ヤーラ皇女は文句なしに素敵な姫だった。そのヤーラの夫となり、ナーバの皇帝となれるのなら、これほど輝かしい未来もない。クロードにとっては間違いなくいい話だ。そう思うのに、リュシエルはどうしても応援することはできなかった。
(私が、クロード様と釣り合うような女性だったら……)
自分が、クロードの妻になりたいと立候補できるような女性だったらどんなに良かったことだろう。だが現実には、リュシエルはスナギツネ令嬢と笑われるような容姿をしているのだ。ヤーラ皇女と比べると、地位も美貌も差がありすぎて、何一つ勝てない。リュシエルは諦めたように小さくため息をついた。
出迎えたクロードと並ぶ姿はまるで最初から一対の絵のようで、周りの人々からは自然とため息がもれた。リュシエルの心がじくりと傷む。
(この後に及んで、嫉妬なんかしている場合じゃないわ。私は私の役目を果たさないと。クロード様のためにも)
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『貴女は本当に素敵な女性だわ、リュシー』
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『けれど、しょうがないわね。貴女にはそうなるよう、***がかけられているんですもの』
『ごめんなさい、今なんとおっしゃったのですか? 聞き取れなかったですわ』
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『クロードを呼んできてくださる? 私、彼とお話しがしたいわ』
『すぐに呼んで参ります』
リュシエルは慌ててクロードの元に行った。ヤーラが呼んでいることを話すと、クロードはすぐさま彼女の元に向かう。そうして二人で何か秘密ごとを囁き合うように、お互いの黒髪を寄せて話す二人の姿を、リュシエルはじっと見つめていた。
(本当に、いつ見ても絵になる二人だな……)
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