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5、モンソン城の歌
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「修道服というのは随分地味である」
「王の衣装を身に付けた3人の亡霊がゾロゾロ歩いていたら目立ってしょうがない。この時代には亡霊の姿が見える者が多数生まれていると聞いている。いつの時代、どの国でも修道士の僧衣を着ていれば誰にも怪しまれずに安全に旅ができる」
夜、話し声が聞こえて目を開いた。起き上がるとここの修道院の茶色の僧衣を着た3人の修道士が薄暗くて狭い僕の部屋に立っていた。
「フェリペ、私はラミロ2世。ここにいるのはハインリヒ7世とペドロ2世だ」
「どうして修道士の格好をしているのですか?」
「この姿が1番目立たずに旅ができると聞いている。そなたも早く僧衣に着替えてくれ」
「まだ真夜中ですよ」
「今からモンソン城へ行く。この近くにあるとそなたが言っていた」
「近くと言ってもここから馬で何時間もかかる場所です。それに僕はどこかに出かけるなら外出許可を取らないといけません」
「私達ならすぐに行って帰ってこられる」
「僕は普通の人間です。3人で行ってくればいいじゃないですか」
「そういうわけにはいかない。肉体を持たない亡霊はすぐに迷ったり消えたりする。肉体を持つそなたのような人間に導かれてこそ安心安全な旅ができる」
「つまりそなたは子供をつれて遠足に行く先生のような役割だ。我が子ハイメが暮らしたモンソンの城をぜひ見たい」
ペドロ2世にまで頼まれて、しかたなく僕は頷いた。
「着替えて目をつぶればそれでよい。すぐにモンソン城の下に着く」
目を開くと朝の光がまぶしい場所に立っていた。上を見るとお城のシルエットが見えた。小高い丘のふもとにいるようだ。
「あそこがモンソン城だ。さあ行こう!」
修道士の服を着たラミロ2世とペドロ2世はどんどん歩き始めた。ふと横を見ると仮面をつけたハインリヒ7世はそのまま立っていた。何もしゃべらない。僕はハインリヒ7世が反乱を起こして目を潰され、幽閉されている時に不治の病にかかったということを思い出した。
「歩くのは大丈夫?目は見えるの?」
「目は見えないがゆっくりなら歩ける」
「僕の手につかまって」
「よいのか?余は不治の病にかかって忌み嫌われていた」
「大丈夫だよ」
僕はハインリヒ7世の手を取って、ゆっくり歩き始めた。ラミロ2世とペドロ2世はもう随分先まで行って姿は見えないが、話し声が聞こえる。
「この城壁の高さや壁の厚さが素晴らしい。やはり戦いのための城は違う」
「我が息子ハイメ1世はこんな立派な城で育ったのか」
「テンプル騎士団の城で育ったのだ。騎士として武芸が磨かれ、精神も鍛えられたに違いない」
そして歌声が聞こえた。
「(ラミロ2世の声で適当にメロディーをつけて)我らアラゴンの王たちは、僧衣をまとって巡礼の旅に来た。(私の父)偉大なる王、サンチョ・ラミレスがアラブ人と闘ってこの城を手に入れ、テンプル騎士団の城となった。(ここからペドロ2世の声も入って盛り上がる)モンソン、モンソン、モンソン、モンソン、カスティージョ、モンソン!」
「随分楽しそうだな」
「はい、ラミロ2世は歌を歌っています」
「いや、そなたの笑顔が朝日の中で輝いていた。余の目は見えないのに・・・」
「ごめんなさい。僕は歌を聞いて思わず笑ってしまいました」
「ハハハハ、余も同じだ。あんな下手な歌、生まれて初めて聞いた。歌というものはただ言葉を並べてメロディーをつければいいというものではない。文の長さをそろえ、同じ音を繰り返すことで独自のリズムが生まれ、魂に響く歌となる」
「そうですね」
「余は歌の名手と呼ばれていた。歌を作る才能はアラゴンからではなく父から受け継いだようだ」
仮面をつけて顔は見えないのに、ハインリヒ7世は微笑んでいた。
「今日はよい日だ。母上の故郷アラゴンにあるモンソンの城に来て、祖先の歌を聞き、そなたの輝く笑顔を見た。今日のことを余は生涯忘れないであろう」
「僕も今日のことは一生忘れません」
「(ペドロ2世の声で適当なメロディーをつけて)教皇から戴冠され、カトリック王と呼ばれ、ナバス・デ・トロサで戦った、偉大なる王ペドロ2世、その1人息子ハイメ1世は・・・」
「今度はペドロ2世が歌っています」
「アラゴン王家に歌の名手はいないようだ」
「ハインリヒ7世、あなただけですね、歌の名手は」
僕とハインリヒ7世は手をつないでゆっくり歩き、ようやくモンソン城がある頂上までたどりついた。城の先には大きなキリストの像が見える。
「城のある頂上に着きました」
「そうか、ついに来たのか。だが随分静かだ。そなたの目に人の姿は見えるか?」
「いいえ、見えません」
「なぜ、テンプル騎士団の城に誰もいないのだ?」
「それは・・・」
僕はここに来る前にテンプル騎士団について本を読んで調べていた。1307年、フランス王フィリップ4世がテンプル騎士団を異端として告発し、その後騎士団は壊滅した。
「王の衣装を身に付けた3人の亡霊がゾロゾロ歩いていたら目立ってしょうがない。この時代には亡霊の姿が見える者が多数生まれていると聞いている。いつの時代、どの国でも修道士の僧衣を着ていれば誰にも怪しまれずに安全に旅ができる」
夜、話し声が聞こえて目を開いた。起き上がるとここの修道院の茶色の僧衣を着た3人の修道士が薄暗くて狭い僕の部屋に立っていた。
「フェリペ、私はラミロ2世。ここにいるのはハインリヒ7世とペドロ2世だ」
「どうして修道士の格好をしているのですか?」
「この姿が1番目立たずに旅ができると聞いている。そなたも早く僧衣に着替えてくれ」
「まだ真夜中ですよ」
「今からモンソン城へ行く。この近くにあるとそなたが言っていた」
「近くと言ってもここから馬で何時間もかかる場所です。それに僕はどこかに出かけるなら外出許可を取らないといけません」
「私達ならすぐに行って帰ってこられる」
「僕は普通の人間です。3人で行ってくればいいじゃないですか」
「そういうわけにはいかない。肉体を持たない亡霊はすぐに迷ったり消えたりする。肉体を持つそなたのような人間に導かれてこそ安心安全な旅ができる」
「つまりそなたは子供をつれて遠足に行く先生のような役割だ。我が子ハイメが暮らしたモンソンの城をぜひ見たい」
ペドロ2世にまで頼まれて、しかたなく僕は頷いた。
「着替えて目をつぶればそれでよい。すぐにモンソン城の下に着く」
目を開くと朝の光がまぶしい場所に立っていた。上を見るとお城のシルエットが見えた。小高い丘のふもとにいるようだ。
「あそこがモンソン城だ。さあ行こう!」
修道士の服を着たラミロ2世とペドロ2世はどんどん歩き始めた。ふと横を見ると仮面をつけたハインリヒ7世はそのまま立っていた。何もしゃべらない。僕はハインリヒ7世が反乱を起こして目を潰され、幽閉されている時に不治の病にかかったということを思い出した。
「歩くのは大丈夫?目は見えるの?」
「目は見えないがゆっくりなら歩ける」
「僕の手につかまって」
「よいのか?余は不治の病にかかって忌み嫌われていた」
「大丈夫だよ」
僕はハインリヒ7世の手を取って、ゆっくり歩き始めた。ラミロ2世とペドロ2世はもう随分先まで行って姿は見えないが、話し声が聞こえる。
「この城壁の高さや壁の厚さが素晴らしい。やはり戦いのための城は違う」
「我が息子ハイメ1世はこんな立派な城で育ったのか」
「テンプル騎士団の城で育ったのだ。騎士として武芸が磨かれ、精神も鍛えられたに違いない」
そして歌声が聞こえた。
「(ラミロ2世の声で適当にメロディーをつけて)我らアラゴンの王たちは、僧衣をまとって巡礼の旅に来た。(私の父)偉大なる王、サンチョ・ラミレスがアラブ人と闘ってこの城を手に入れ、テンプル騎士団の城となった。(ここからペドロ2世の声も入って盛り上がる)モンソン、モンソン、モンソン、モンソン、カスティージョ、モンソン!」
「随分楽しそうだな」
「はい、ラミロ2世は歌を歌っています」
「いや、そなたの笑顔が朝日の中で輝いていた。余の目は見えないのに・・・」
「ごめんなさい。僕は歌を聞いて思わず笑ってしまいました」
「ハハハハ、余も同じだ。あんな下手な歌、生まれて初めて聞いた。歌というものはただ言葉を並べてメロディーをつければいいというものではない。文の長さをそろえ、同じ音を繰り返すことで独自のリズムが生まれ、魂に響く歌となる」
「そうですね」
「余は歌の名手と呼ばれていた。歌を作る才能はアラゴンからではなく父から受け継いだようだ」
仮面をつけて顔は見えないのに、ハインリヒ7世は微笑んでいた。
「今日はよい日だ。母上の故郷アラゴンにあるモンソンの城に来て、祖先の歌を聞き、そなたの輝く笑顔を見た。今日のことを余は生涯忘れないであろう」
「僕も今日のことは一生忘れません」
「(ペドロ2世の声で適当なメロディーをつけて)教皇から戴冠され、カトリック王と呼ばれ、ナバス・デ・トロサで戦った、偉大なる王ペドロ2世、その1人息子ハイメ1世は・・・」
「今度はペドロ2世が歌っています」
「アラゴン王家に歌の名手はいないようだ」
「ハインリヒ7世、あなただけですね、歌の名手は」
僕とハインリヒ7世は手をつないでゆっくり歩き、ようやくモンソン城がある頂上までたどりついた。城の先には大きなキリストの像が見える。
「城のある頂上に着きました」
「そうか、ついに来たのか。だが随分静かだ。そなたの目に人の姿は見えるか?」
「いいえ、見えません」
「なぜ、テンプル騎士団の城に誰もいないのだ?」
「それは・・・」
僕はここに来る前にテンプル騎士団について本を読んで調べていた。1307年、フランス王フィリップ4世がテンプル騎士団を異端として告発し、その後騎士団は壊滅した。
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