フェリペとアラゴン王家の亡霊たち

レイナ・ペトロニーラ

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7、ボードゥアン4世

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 僕は無事孤児院の中にある自分の部屋に戻ってきたが、ハインリヒ7世のことが気になってしかたがない。なぜ突然、消えてしまったのだろうか?ハインリヒ7世にはもう2度と会えないのかもしれない。ラミロ2世とペドロ2世にテンプル騎士団について調べると約束したが、ハインリヒ2世の病気について先に調べなければならない!一睡もできないまま朝になった。そして学習の時間に医者のニコラス先生に聞いてみた。

「先生は顔や全身の皮膚が固くなったり崩れたりして、でもすぐ死ぬことはない病気についてご存じですか?」
「それはもしかしてレプカのことか」
「名前はわかりませんが、多分その病気だと思います」
「レプカは古代ギリシャのヘロドトス、ヒポクラテス、アリストテレスの書物にも記されている古くから知られた病気だ。古代ローマのケルススが書いた『医学論』にその症状は詳しく書かれている」
「古くからあった病気なのですね」
「聖書にも書かれていて、キリストがこの病の者を癒したという記述もある」
「キリストがこの病にかかった人を癒したのですか」
「十字軍の始まった頃、この病は流行した。罹患した兵士のためにエルサレムにはラザレットと呼ばれる専用の収容施設が作られ、その後フランスやドイツにも収容施設が作られた。そして13世紀、アッシジのフランチェスコによって組織されたフランシスコ会は、アッシジにその病の患者のための村を作った。それはまさに聖書に出てくるイエス・キリストの教えと行動に則った病者への『労わり』に基ずく救済活動であった」
「そうだったのですね」

 ニコラス先生の説明を聞いてほっとした。ハインリヒ7世がかかった病気は古くからあり、キリストもこの病気に罹った人を癒していた。キリスト教の歴史の中で、病に罹った人に対する救済活動もあった。

「先生、その病に罹った人で、誰か歴史に出て来る有名な人はいませんか?」
「エルサレム王ボードゥアン4世がその病で若くして亡くなったが、非常に高貴な王だったと伝えられている」
「十字軍やテンプル騎士団について書いてある本が図書館にあったら貸してください」
「歴史に興味があるのか?」
「はい、先生にアラゴンの歴史について聞いてから、他の国や時代についてもっと知りたくなりました」
「好奇心に火がついたということか。いいだろう。歴史に関する本を調べて君に貸そう。だがほとんどの本はラテン語で書かれている。君には難しいかもしれない」
「大丈夫です。ありがとうございます」

 アラゴン王家の亡霊に会って一緒にモンソン城まで行ったということは先生には言えない。僕の好奇心ということにした。



 ニコラス先生から何冊か本を借り、先生が紙を挟んでくれたボードゥアン4世の部分を読み始めた。ラテン語は先生に教えてもらっただけである。辞書を見ながら少しずつ読み進めた。1161年に生まれて1185年に亡くなったらしい。

 僕は自分がノートに書いていた年表にボードゥアン4世のことも書き加えた。

1086年 ラミロ2世生まれる
1096年 第1回十字軍始まる
1099年 エルサレム王国建国
1157年 ラミロ2世亡くなる
1161年 ボードゥアン4世生まれる
1174年 ペドロ2世生まれる
1185年 ボードゥアン4世亡くなる
1211年 ハインリヒ7世生まれる
1213年 ペドロ2世亡くなる
1242年 ハインリヒ7世亡くなる
1518年 フェリペ生まれる
1532年 現代

 そして苦労してラテン語の本を読みながら、気になる部分をノートに書き写した。

『ボードゥアンは9歳からギヨーム・ド・ティールに教育を受ける』
『非常に才能豊かな魅力ある美少年である』
『若い王子が諸侯の子と遊び、痛みを感じてない様子を不審に思ったギョームが医者に見せ、彼が皮膚の病にかかり、治療ができないことがわかった』
『ボードゥアンは13歳で王位についた』
『1177年、王は400名の手勢を率いてサラディン軍と戦った』
『弱者のうちに力を現す神が、病気持ちの王を鼓舞したもうた。王は馬から降り、大地に跪き、十字架の前にひれ伏して、涙ながらに祈りを上げた。そのさまを見て、すべての将兵は感きわまり、この期におよんでは、一歩も引かぬこと、馬首をめぐらすものは、誰でも裏切り者と見なすことを誓った。将兵は馬にまたがり、突撃に出た』

 僕のラテン語の能力ではどれだけ正確に訳せているのかわからない。それでも次にハインリヒ7世と会った時、この部分を読んであげようと思った。そして本の最初の方に書かれている十字軍の部分を見て次の言葉が目に飛び込んできた。

『ユダヤ教徒はシナゴーグに集まったが、十字軍は入り口を塞ぎ火を放って焼き殺した』


*この話に書いてあるハンセン氏病についての記述とボードゥアン4世についてはウィキペディアを参考にしています。




 

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