身代わりの花は包愛に満たされる

天宮叶

文字の大きさ
48 / 51

帰還

しおりを挟む
 デューク様から帰還の手紙が届いたのは、出発してから一年半に差し掛かる頃だった。

 ラミレス男爵家との縁も切れ、伯爵家内も随分と様変わりした。

 古かった食堂のテーブルや器具も一新し、庭師を雇って庭の手入れも行うようにした。嫁いで来た日のことを思い出してしまう。

 帰還の日、僕は屋敷の入り口に向かって駆けていた。
 馬のいななきが耳に届く。騎士団の馬車が屋敷の前へと止まるのが見えた。

 その馬車からデューク様が降りてくるのが見えて、思わず目尻が熱くなった。

「デューク様!」

はやく声を聞きたくて名前を叫ぶと、こちらに気がついた彼も駆け寄ってきてくれた。それから思い切り抱きしめられる。

デューク様の香りが僕の全身を包み込んでくれる。満たされた心が喜びに震えていた。とても長い期間にも思えた。デューク様たちの無事を毎日願いながら祈りを捧げていた。

 だから無事に帰ってきてくれて本当に嬉しい。

「はぁ……まじで会いたかった」

 吐き出すように伝えられた言葉に涙が溢れてきそうだった。伯爵家で一人ぼっちのときは寂しかったけれど、彼も同じ気持ちだったと知れて嬉しかったんだ。

「僕もです」

 本当に本当に会いたかった。

 こうやって抱きしめあっていると心がちゃんと通じ合っていることが実感できる。デューク様の隣に立つために努力してきた。

 こうやって再会すると、さらに努力し続けていきたいと思う。

「家のこと任せきりだったよな。大変だっただろう」

「確かにまだ不慣れな部分も多くて悩むこともありました。でもデューク様も頑張っているから僕もできることを頑張りたいと思えましたし、頑張れたと思います」

「そっか。アルビーはすごいな」

 わしゃわしゃと髪を撫でられて笑みがこぼれた。

 体を離すと、手を取られて心臓が跳ねる。そのまま屋敷中へ入ると、真っ直ぐに部屋へと向かう。

「華やかになったな。まじで別の場所に来たみたいだ」

 屋敷の中を確認しながら廊下を進んでいく。感心するようなため息をこぼしたデューク様の顔を覗き見た。

「どうでしょうか?」

「気に入った。アルビーに任せてよかったよ」

「っ、えへへ、嬉しいです」

 その言葉をもらえただけで頑張ったことすべてが報われた気がした。

 繋いでいる手が温かい。ずっとこの熱を感じていたいと思う。心が彼のすべてを求めている気がした。

 部屋につくとデューク様が先にソファーに腰掛けた。それから彼の膝の上に座るように促された。高揚感と羞恥心が胸に広がっていく。ドキドキと高鳴る心音を感じながらデューク様の膝に座る。

「顔真っ赤」

「だって……恥ずかしくて……それに久しぶりに会えたから……」

 熱が高まっていく。自分から香りが溢れてきていることがわかった。

 大好きが心から滲み出で、デューク様に沢山伝わってほしい。そうしたらきっと再会できたことを僕がどれだけ喜んでいるのかをもっともっと伝えられるから。

「俺も心臓飛び出そう。わかる?」

 胸元に引き寄せられて、頬が当たる。僕が覚えているよりも早くなっている鼓動に胸がキュンと締め付けられた。

 可愛くて格好良くて、僕の愛おしい旦那様。彼に出会えてこうやって一緒に過ごす時間が本当に幸福なことだって思えるんだ。

「本当だ……。デューク様の鼓動が伝わってきます。ふふっ、こうしているとデューク様をすごく近くに感じられます」

「ふっ、可愛すぎ。まだ仕事があって傍にはいられないけど、また夜に来るからそれまで待っててくれるか?」

「はい。ドキドキしながら待ってます」

 顔を上げるとデューク様が頬を撫でてくれた。くすぐったいような気持ちになる。

 デューク様と過ごす夜が楽しみだけどほんの少し緊張してしまう。きっと心臓の音はデューク様に聞こえている。それが僕達の思いを高めてくれている気がした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

処理中です...