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リーダー討伐
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「お、落ちるー!」
「心配するな」
親指と人差し指を交差させて音を鳴らすと、落ちていた体が宙に浮き上がった。
風魔法を応用した浮遊魔術だ。三級魔術師になるための資格にはこの魔術の取得が必須で、救護要請などが出た場合にすぐに駆けつけるための大事な手段なのだ。
「掴まっていろ」
「は、はいっ!……あの……フィーロ様は……」
「伝書鳥で伝えておこう」
胸ポケットからハンカチーフを取り出すと息を吹きかけた。するとハンカチーフが鳥の形に変化する。
メモ紙に角狼の巣に行く旨を簡単に書くと、鳥に手渡した。屋敷の方へ真っ直ぐに飛んでいくのを確認して、また移動を再開する。
「怒らないでしょうか……」
「フィーロが怒るのが怖いのか?」
小説内でもシャノンはフィーロにいじめられて怯えていた。最後には強くなって言い返せるようになる。
その成長を見るのも、なん恋の楽しみの一つだった。
「いいえ。怖くないです。フィーロ様は優しいから。この間も大好きなマカロンを分けてくれたんです」
「フッ、仲が良くて安心した」
主人公と悪役は仲良くなれないかもしれないと危惧していた。
けれど実際には、二人の関係は良好だ。
「ゼン様とルーカス様も仲がよろしいように見えます」
「それは勘違いだ」
「ですがこうして、ルーカス様の元に向かわれていますし」
「今回の遠征は嫌な予感がしたんだ。……怪我でもされたら寝覚めが悪いからな」
ぼそぼそと言い訳を並べ立てる。
あのヘラヘラとした態度の男が怪我を負って落ち込む姿は見てみたい気もするが、小説のストーリーを知っているから、怪我をされても後味がいいとは言えない。
騎士団長の地位を剥奪されかけるからだ。
ゼンもずっとルーカスのことをライバル視していたから、彼が毎日努力を重ねていることを知っていた。
「シャノン。俺はルーカスが嫌いだ。だが、もう一人の俺はルーカスのことが好きだったらしい」
「それはどういう意味ですか?」
「悪友くらいには思っているということだ」
一気に急降下すると、あっという間に目的地へと到着した。
角狼の巣がある森の中に降り立つと、角狼の残骸が複数落ちているのがわかった。魔獣の死体に慣れていないためシャノンが目をそらしている。
「魔術協会に入るのなら慣れておけ。薬草摘みや薬の調合だけが仕事ではないからな」
「っ、はい!」
周囲を警戒し、時折襲ってくる角狼の残党を倒しながら進んでいく。
十分ほど歩くと、人の声が聞こえてきて足を止めた。警戒しつつ少しずつ先へ進むと、開けた場所で巨大で真っ白な角狼が人を襲っているのが視界に入ってきた。
──ルーカスだっ!
死角になっていてわからないが、誰かをかばっているそぶりをしている。
間に合わなかったかもしれない。そう思いながらも、とにかく救護を優先するために角狼に向かって拘束の魔術を使った。
動きを止めた角狼の心臓に炎魔術を撃ち込む。倒れたのを確認すると近づいて、確実に仕留めたことを確認してから拘束魔術を解いた。
「……どうしてここに……」
「なんだその無様な姿は」
爪で引っ掻かれたのか、ルーカスは右腕から血を流している。後ろには気絶した騎士団員が倒れていた。
「軽い脳震盪だ。彼は心配いらない。シャノン、ルーカスの怪我を見てやれ」
「はいっ」
シャノンがルーカスの腕に治癒魔術を使うと、あっという間に傷が塞がっていく。
やはり怪我を負ってすぐなら回復できるようだ。
「君まで来たんだね。治癒魔術を使えるようになったのか」
「無理を言って連れてきていただきました」
ルーカスはシャノンにお礼を言うと、角狼へ一瞬視線を向けた。それから集まってきた団員に倒れている騎士団員を運ぶように指示を出した
。
「君たちが来てくれてよかった。たぶんこの角狼がリーダーだ。こんなに大きな角狼は初めて見たよ。近くに野営地があるから来てほしい。本当にありがとう」
騎士団長として礼を言っているのだと伝わってきたため、言葉に従い野営地へ共に向かうことにした。
討伐を終えても騎士団の仕事は終わらない。残党の処理や周囲の安全確保が完了したかの確認。それから倒した角狼を回収し持ち帰る。魔獣の素材は貴重な資源だ。
野営地へ到着すると、ルーカス専用のテントに呼ばれた。
「シャノン君は待っていてくれるかな。ゼンと話をしたいんだ」
「わかりました」
ゼンは二人きりになりたくなかったが仕方ない。どうせならシャノンと二人きりになってほしかった。
眉間に皺を寄せながら渋々テントに入ると、振り返ったルーカスが「抱きしめてもいいかな?」とわけのわからないことを言い出した。
「心配するな」
親指と人差し指を交差させて音を鳴らすと、落ちていた体が宙に浮き上がった。
風魔法を応用した浮遊魔術だ。三級魔術師になるための資格にはこの魔術の取得が必須で、救護要請などが出た場合にすぐに駆けつけるための大事な手段なのだ。
「掴まっていろ」
「は、はいっ!……あの……フィーロ様は……」
「伝書鳥で伝えておこう」
胸ポケットからハンカチーフを取り出すと息を吹きかけた。するとハンカチーフが鳥の形に変化する。
メモ紙に角狼の巣に行く旨を簡単に書くと、鳥に手渡した。屋敷の方へ真っ直ぐに飛んでいくのを確認して、また移動を再開する。
「怒らないでしょうか……」
「フィーロが怒るのが怖いのか?」
小説内でもシャノンはフィーロにいじめられて怯えていた。最後には強くなって言い返せるようになる。
その成長を見るのも、なん恋の楽しみの一つだった。
「いいえ。怖くないです。フィーロ様は優しいから。この間も大好きなマカロンを分けてくれたんです」
「フッ、仲が良くて安心した」
主人公と悪役は仲良くなれないかもしれないと危惧していた。
けれど実際には、二人の関係は良好だ。
「ゼン様とルーカス様も仲がよろしいように見えます」
「それは勘違いだ」
「ですがこうして、ルーカス様の元に向かわれていますし」
「今回の遠征は嫌な予感がしたんだ。……怪我でもされたら寝覚めが悪いからな」
ぼそぼそと言い訳を並べ立てる。
あのヘラヘラとした態度の男が怪我を負って落ち込む姿は見てみたい気もするが、小説のストーリーを知っているから、怪我をされても後味がいいとは言えない。
騎士団長の地位を剥奪されかけるからだ。
ゼンもずっとルーカスのことをライバル視していたから、彼が毎日努力を重ねていることを知っていた。
「シャノン。俺はルーカスが嫌いだ。だが、もう一人の俺はルーカスのことが好きだったらしい」
「それはどういう意味ですか?」
「悪友くらいには思っているということだ」
一気に急降下すると、あっという間に目的地へと到着した。
角狼の巣がある森の中に降り立つと、角狼の残骸が複数落ちているのがわかった。魔獣の死体に慣れていないためシャノンが目をそらしている。
「魔術協会に入るのなら慣れておけ。薬草摘みや薬の調合だけが仕事ではないからな」
「っ、はい!」
周囲を警戒し、時折襲ってくる角狼の残党を倒しながら進んでいく。
十分ほど歩くと、人の声が聞こえてきて足を止めた。警戒しつつ少しずつ先へ進むと、開けた場所で巨大で真っ白な角狼が人を襲っているのが視界に入ってきた。
──ルーカスだっ!
死角になっていてわからないが、誰かをかばっているそぶりをしている。
間に合わなかったかもしれない。そう思いながらも、とにかく救護を優先するために角狼に向かって拘束の魔術を使った。
動きを止めた角狼の心臓に炎魔術を撃ち込む。倒れたのを確認すると近づいて、確実に仕留めたことを確認してから拘束魔術を解いた。
「……どうしてここに……」
「なんだその無様な姿は」
爪で引っ掻かれたのか、ルーカスは右腕から血を流している。後ろには気絶した騎士団員が倒れていた。
「軽い脳震盪だ。彼は心配いらない。シャノン、ルーカスの怪我を見てやれ」
「はいっ」
シャノンがルーカスの腕に治癒魔術を使うと、あっという間に傷が塞がっていく。
やはり怪我を負ってすぐなら回復できるようだ。
「君まで来たんだね。治癒魔術を使えるようになったのか」
「無理を言って連れてきていただきました」
ルーカスはシャノンにお礼を言うと、角狼へ一瞬視線を向けた。それから集まってきた団員に倒れている騎士団員を運ぶように指示を出した
。
「君たちが来てくれてよかった。たぶんこの角狼がリーダーだ。こんなに大きな角狼は初めて見たよ。近くに野営地があるから来てほしい。本当にありがとう」
騎士団長として礼を言っているのだと伝わってきたため、言葉に従い野営地へ共に向かうことにした。
討伐を終えても騎士団の仕事は終わらない。残党の処理や周囲の安全確保が完了したかの確認。それから倒した角狼を回収し持ち帰る。魔獣の素材は貴重な資源だ。
野営地へ到着すると、ルーカス専用のテントに呼ばれた。
「シャノン君は待っていてくれるかな。ゼンと話をしたいんだ」
「わかりました」
ゼンは二人きりになりたくなかったが仕方ない。どうせならシャノンと二人きりになってほしかった。
眉間に皺を寄せながら渋々テントに入ると、振り返ったルーカスが「抱きしめてもいいかな?」とわけのわからないことを言い出した。
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