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だめだって言ったよな!?
「だめに決まっているだろう」
「お願い。少しだけ」
甘えるような声音で頼まれてもゼンは首を横に振ることはない。それをわかっているルーカスが、許可なしに思い切り抱きしめてきた。
「おいっ」
「……来てくれてありがとう」
離せと言おうとしたゼンは、ルーカスの弱々しい声を聞いて口を閉ざした。
「来てくれなかったら二人とも死んでいたかもしれない」
「嘘をつくな。お前なら怪我をしていても倒せたはずだ」
「ゼンがそう言ってくれるのならそうなのかもしれないね」
実際にルーカスは手負いのままであの狼を討伐する。自分の右腕を犠牲にして、一人の騎士を守った。いや、騎士だけではない。
角狼に困らされていた人々を救った。
小説内のルーカスは人前ではいつでも明るく振る舞っていたが、シャノンにだけ心の内を話す場面がある。
怪我をしていなければ守れた人々がもっといただろうと後悔していたこと。騎士団長の座を狙う仲間に何度も裏切られてきたこと。アルファであり騎士団長であるルーカスに嫉妬したゼンからは命を狙われ、心は休まる暇もない。
そんなルーカスの心を救うのはシャノンのはずだった。
(今回はルーカスにそんな未来は訪れない)
小説内で定められた運命を変えることが正しいことなのかはわからない。それでもゼンは助けたいと思う自身の心に従うことにした。
「正直怖かったよ。騎士団長なのに情けないけれどね。怪我をしたとき、君の顔が浮かんだ。いつもの仏頂面がね。……こうして君に触れることができてすごく嬉しいよ」
「……俺も間に合ってよかったと思っている」
「……ゼン、いま……」
恥ずかしくなってそっぽを向く。
たまには素直になるのもありかもしれないと思ったが、気恥ずかしいだけでいいことなど一つもない。
「ねぇ、こっちを向いて」
「うるさい」
視線だけルーカスの方に向けながら悪態をつく。
そのとき健康的で滑らかな顔にかすかに傷があることに気がついた。よく見なければわからないほど薄いが、気がついてしまうと気になって仕方がない。
「怪我をしている」
治癒魔術を傷にかけると肌が元の滑らかさを取り戻した。シャノンのように大怪我を完全に治してやることはできないが、この程度ならゼンでも問題なく癒すことができる。
「ねぇ、気づいてる。俺たちキスができそうなくらい近づいちゃってるんだよ」
ルーカスに指摘されて、ようやく少し動けば唇や鼻が重なってしまいそうな距離感だと気がついた。
慌てて離れようとすると、腰を掴まれて引き寄せられてしまった。
そのまま唇同士が重なる。
急激に体温が上昇し、顔から手のひらまでが熱くてたまらなくなった。
心臓がやけに早く動いている。
「ン!?っ……なにをする!」
「婚約者がこんなに近づいてきたらキスの一つくらいしたくなるのは当たり前でしょう」
やはり助けなければよかった。
また顔を近づけようとしてきたため、手で顔面を押して力づくで引き離した。
少し心を許したらすぐこれだ。
「寄るな。距離を保て。パーソナルスペースという言葉を知らないのか?」
「えー、もっと近づきたい」
「やめろ。まだ仕事が残っているだろう。十分元気そうだから俺はシャノンを連れて帰る」
淡々とした口調で言い切りテントを出た。
シャノンは負傷した騎士団員の治療にあたっているようだ。
まだ魔術のコントロールが上手くできないようで、先ほどから最大出力で治癒魔術を使っているため疲労の溜まった顔をしている。あまり顔色がよくない。
「シャノン、治癒魔術を使うのはもうやめろ。魔力枯渇で倒れるぞ」
「でも……」
立ち上がろうとしてふらついたシャノンを支えてやる。
「もう魔力が底を突きかけている。自分の限界を知っておくことも必要だ。倒れたら元も子もない」
「……はい」
素直にうなずいてくれたシャノンの頭を優しく撫でてやる。シャノンも弟のようなものだからつい可愛がってしまう。
「お願い。少しだけ」
甘えるような声音で頼まれてもゼンは首を横に振ることはない。それをわかっているルーカスが、許可なしに思い切り抱きしめてきた。
「おいっ」
「……来てくれてありがとう」
離せと言おうとしたゼンは、ルーカスの弱々しい声を聞いて口を閉ざした。
「来てくれなかったら二人とも死んでいたかもしれない」
「嘘をつくな。お前なら怪我をしていても倒せたはずだ」
「ゼンがそう言ってくれるのならそうなのかもしれないね」
実際にルーカスは手負いのままであの狼を討伐する。自分の右腕を犠牲にして、一人の騎士を守った。いや、騎士だけではない。
角狼に困らされていた人々を救った。
小説内のルーカスは人前ではいつでも明るく振る舞っていたが、シャノンにだけ心の内を話す場面がある。
怪我をしていなければ守れた人々がもっといただろうと後悔していたこと。騎士団長の座を狙う仲間に何度も裏切られてきたこと。アルファであり騎士団長であるルーカスに嫉妬したゼンからは命を狙われ、心は休まる暇もない。
そんなルーカスの心を救うのはシャノンのはずだった。
(今回はルーカスにそんな未来は訪れない)
小説内で定められた運命を変えることが正しいことなのかはわからない。それでもゼンは助けたいと思う自身の心に従うことにした。
「正直怖かったよ。騎士団長なのに情けないけれどね。怪我をしたとき、君の顔が浮かんだ。いつもの仏頂面がね。……こうして君に触れることができてすごく嬉しいよ」
「……俺も間に合ってよかったと思っている」
「……ゼン、いま……」
恥ずかしくなってそっぽを向く。
たまには素直になるのもありかもしれないと思ったが、気恥ずかしいだけでいいことなど一つもない。
「ねぇ、こっちを向いて」
「うるさい」
視線だけルーカスの方に向けながら悪態をつく。
そのとき健康的で滑らかな顔にかすかに傷があることに気がついた。よく見なければわからないほど薄いが、気がついてしまうと気になって仕方がない。
「怪我をしている」
治癒魔術を傷にかけると肌が元の滑らかさを取り戻した。シャノンのように大怪我を完全に治してやることはできないが、この程度ならゼンでも問題なく癒すことができる。
「ねぇ、気づいてる。俺たちキスができそうなくらい近づいちゃってるんだよ」
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慌てて離れようとすると、腰を掴まれて引き寄せられてしまった。
そのまま唇同士が重なる。
急激に体温が上昇し、顔から手のひらまでが熱くてたまらなくなった。
心臓がやけに早く動いている。
「ン!?っ……なにをする!」
「婚約者がこんなに近づいてきたらキスの一つくらいしたくなるのは当たり前でしょう」
やはり助けなければよかった。
また顔を近づけようとしてきたため、手で顔面を押して力づくで引き離した。
少し心を許したらすぐこれだ。
「寄るな。距離を保て。パーソナルスペースという言葉を知らないのか?」
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「やめろ。まだ仕事が残っているだろう。十分元気そうだから俺はシャノンを連れて帰る」
淡々とした口調で言い切りテントを出た。
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まだ魔術のコントロールが上手くできないようで、先ほどから最大出力で治癒魔術を使っているため疲労の溜まった顔をしている。あまり顔色がよくない。
「シャノン、治癒魔術を使うのはもうやめろ。魔力枯渇で倒れるぞ」
「でも……」
立ち上がろうとしてふらついたシャノンを支えてやる。
「もう魔力が底を突きかけている。自分の限界を知っておくことも必要だ。倒れたら元も子もない」
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