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拒否する!
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ゼンは、目の前に広げられたありとあらゆる衣装の前で頭を悩ませていた。
ルーカスの誕生日パーティーのときに着ていくスーツを選んでいるからだ。すでに衣装部屋に来てから一時間は経っている。
「この白いスーツは生地にジャンボシェルから取れた貴重なシェルパールを使用していているんだよ。この黒いスーツは俺が討伐したナイトホースの革を使った一点物で──」
大量の衣装を持ち込んだ張本人であるルーカスが、ゼンの隣で心底楽しそうに衣装の説明をしてくれる。
うんざりして半分以上を聞き流していたゼンは、ありすぎる衣装から一つを選ぶことに疲れてナイトホースの革で作られたフォーマルスーツを手に取った。
シャツからジャケット、パンツに至るまですべてが漆黒のそれは、ゼンによく似合っている。それにダークホースは夜闇に隠れる特性を持つため、持ち主の身体的特性を隠してくれる効果もある。
(どれを着ても変わるわけではないし、このスーツなら人混みでもオメガだとはバレないだろう)
そろそろ発情期が近い。微量だがオメガのフェロモンが漏れてしまうため、このスーツを着ていれば安心できる。
「やっぱりそれを選ぶと思ってた」
嬉しそうな笑顔を向けてくるルーカスを睨みつける。
「わかっているのなら最初からこれだけ持ってくればいいだろう」
何十着も高級なスーツを作るなんて金の無駄だ。
「ゼンには常に好きなものを身に着けていてほしいし、このスーツは全部贈り物だから気にしないで」
「クローゼットに入れるスペースがない。持って帰れ」
「わかった。それじゃあ、俺の屋敷に持って帰るよ。いつかゼンが屋敷に泊まりに来たときに着るといい」
「そのいつかは絶対にこない」
否定したのにルーカスは相変わらず食えない笑みを浮かべていた。まるで本当にそんな日が来ると思っているかのようだ。
「明後日は、このスーツに身を包んだ君のことを隣で堪能できるんだね。きっととても似合う。ゼンは俺の、可愛くて格好良い婚約者だから」
「気色悪いからやめろ」
「婚約発表もする予定なのに君はいつになっても変わらないね」
唇を尖らせながら近づいてきたルーカスが、ゼンの胸の中心に人差し指を突き立てた。
「はやくゼンの心が欲しい。いつになったら俺の本気を受け入れて、君のアルファだと認めてくれるんだろう?」
人差し指に力は入っていない。それなのに、ルーカスの紫の瞳に見つめられていると全身が金縛りにあったかのように指一本動かせなくなってしまう。
少しずつ心音が早くなっていく。はぁ……と荒い息が口から漏れた。
ヒートが近いせいもあり、ルーカスに近づかれると我慢できなくなってしまいそうになる。
「離れろ」
「フェロモンが漏れてるよ」
「っ、うるさい」
力の入らない手でルーカスの胸を押した。けれど空いている片手で手を取られて、そこからじわりと熱が体へ伝わってくる。
「聞こえる?ゼンに近づくと俺の心臓はいつもこんなに早くなってしまうんだ。これでも我慢しているんだよ」
確かにルーカスの心音がやけに早い気がした。けれどそれ以上にゼンの鼓動は高鳴っている。
後ろに下がると腰がテーブルに当たり、そのまま卓の上に押し倒された。両手を押さえ付けられると逃げ場がなくなってしまう。
股の間に足を割り込ませて顔を近づけてきたルーカスは、とても満足げで楽しそうだ。
「最強の魔術師なのにどうしていつも簡単に捕まっちゃうの?」
魔法で攻撃することもできる。けれど、ルーカスの前ではその考えも吹っ飛んでしまう。それに、彼のフェロモンの香りを吸い込むと全身から力が抜けて抵抗すらままならない。
それをわかっているからこそこんな質問をしてくるのだろう。
(本当にいい性格をしている)
極上のアルファであるルーカスにゼンが勝てるはずもない。
「誕生日パーティーで婚約を発表する予定だよ。ゼン、君は俺から逃げられない」
そう言ってあっさりと離れてくれたルーカスのことを、体を起こしたゼンが見つめる。
掴みどころのない男だとは知っていた。小説でもこのミステリアスな雰囲気は人気だったし、シャノンがルーカスに翻弄される姿は読者の乙女心をくすぐってやまなかった。
「俺の弱みを握っているつもりか?そういうところが気に食わないんだ」
憎まれ口を叩いてみるけれど上気した頬や赤くなった目尻は隠せない。ルーカスに触れられるたびにこれでは困ってしまう。
「素直じゃないんだから~」
広げていた衣装を片付け始めたルーカスを睨む。
この掴みどころのない男に翻弄されている事実が嫌だと思えなくなってきている。だから困ってしまう。
「シャノンには本当になにも感じないのか?」
「うーん……。ずっと気になっていたけれど、もしかしてゼンは俺にシャノンくんを好きになれって言っているの?」
気まずくなり目をそらすと、ルーカスが笑みを引っ込めた。それから、立ち上がろうとしたゼンのネクタイを掴み真顔のまま見つめてくる。
「二度とそんなこと考えないでね。俺が欲しいのは君だけなんだから」
怒っていると気がついたが、言葉を返すことはできなかった。
それにいまだにルーカスが小説内とは違う行動をしていることも謎だ。
「俺ね、昔からゼンのことが大好きなんだ。だからゼンには悪いけど、手放してあげられない」
「……お前、重すぎるぞ」
絞り出せた言葉はそれだけだった。
なんでも持っている完璧人間のくせに執着心が一丁前に強い。引く引かないとは置いておいても重いな~……と感じてしまった。
「わかったから離せ。それにシャノンとくっつける気はもうない」
フィーロがシャノンのことを好きなのは明白だから、ルーカスとシャノンを無理にくっつけるよりもあの二人が上手く行くほうがいい。
「だが、いつか婚約破棄させてやる」
「いい加減諦めなよ」
「諦めることを拒否する」
「拒否することを拒否させてもらうね」
ネクタイから手を離したルーカスが困り顔を浮かべる。その顔を見つめながら、いまだに鳴り止まない心臓をそっと押さえた。
ルーカスの誕生日パーティーのときに着ていくスーツを選んでいるからだ。すでに衣装部屋に来てから一時間は経っている。
「この白いスーツは生地にジャンボシェルから取れた貴重なシェルパールを使用していているんだよ。この黒いスーツは俺が討伐したナイトホースの革を使った一点物で──」
大量の衣装を持ち込んだ張本人であるルーカスが、ゼンの隣で心底楽しそうに衣装の説明をしてくれる。
うんざりして半分以上を聞き流していたゼンは、ありすぎる衣装から一つを選ぶことに疲れてナイトホースの革で作られたフォーマルスーツを手に取った。
シャツからジャケット、パンツに至るまですべてが漆黒のそれは、ゼンによく似合っている。それにダークホースは夜闇に隠れる特性を持つため、持ち主の身体的特性を隠してくれる効果もある。
(どれを着ても変わるわけではないし、このスーツなら人混みでもオメガだとはバレないだろう)
そろそろ発情期が近い。微量だがオメガのフェロモンが漏れてしまうため、このスーツを着ていれば安心できる。
「やっぱりそれを選ぶと思ってた」
嬉しそうな笑顔を向けてくるルーカスを睨みつける。
「わかっているのなら最初からこれだけ持ってくればいいだろう」
何十着も高級なスーツを作るなんて金の無駄だ。
「ゼンには常に好きなものを身に着けていてほしいし、このスーツは全部贈り物だから気にしないで」
「クローゼットに入れるスペースがない。持って帰れ」
「わかった。それじゃあ、俺の屋敷に持って帰るよ。いつかゼンが屋敷に泊まりに来たときに着るといい」
「そのいつかは絶対にこない」
否定したのにルーカスは相変わらず食えない笑みを浮かべていた。まるで本当にそんな日が来ると思っているかのようだ。
「明後日は、このスーツに身を包んだ君のことを隣で堪能できるんだね。きっととても似合う。ゼンは俺の、可愛くて格好良い婚約者だから」
「気色悪いからやめろ」
「婚約発表もする予定なのに君はいつになっても変わらないね」
唇を尖らせながら近づいてきたルーカスが、ゼンの胸の中心に人差し指を突き立てた。
「はやくゼンの心が欲しい。いつになったら俺の本気を受け入れて、君のアルファだと認めてくれるんだろう?」
人差し指に力は入っていない。それなのに、ルーカスの紫の瞳に見つめられていると全身が金縛りにあったかのように指一本動かせなくなってしまう。
少しずつ心音が早くなっていく。はぁ……と荒い息が口から漏れた。
ヒートが近いせいもあり、ルーカスに近づかれると我慢できなくなってしまいそうになる。
「離れろ」
「フェロモンが漏れてるよ」
「っ、うるさい」
力の入らない手でルーカスの胸を押した。けれど空いている片手で手を取られて、そこからじわりと熱が体へ伝わってくる。
「聞こえる?ゼンに近づくと俺の心臓はいつもこんなに早くなってしまうんだ。これでも我慢しているんだよ」
確かにルーカスの心音がやけに早い気がした。けれどそれ以上にゼンの鼓動は高鳴っている。
後ろに下がると腰がテーブルに当たり、そのまま卓の上に押し倒された。両手を押さえ付けられると逃げ場がなくなってしまう。
股の間に足を割り込ませて顔を近づけてきたルーカスは、とても満足げで楽しそうだ。
「最強の魔術師なのにどうしていつも簡単に捕まっちゃうの?」
魔法で攻撃することもできる。けれど、ルーカスの前ではその考えも吹っ飛んでしまう。それに、彼のフェロモンの香りを吸い込むと全身から力が抜けて抵抗すらままならない。
それをわかっているからこそこんな質問をしてくるのだろう。
(本当にいい性格をしている)
極上のアルファであるルーカスにゼンが勝てるはずもない。
「誕生日パーティーで婚約を発表する予定だよ。ゼン、君は俺から逃げられない」
そう言ってあっさりと離れてくれたルーカスのことを、体を起こしたゼンが見つめる。
掴みどころのない男だとは知っていた。小説でもこのミステリアスな雰囲気は人気だったし、シャノンがルーカスに翻弄される姿は読者の乙女心をくすぐってやまなかった。
「俺の弱みを握っているつもりか?そういうところが気に食わないんだ」
憎まれ口を叩いてみるけれど上気した頬や赤くなった目尻は隠せない。ルーカスに触れられるたびにこれでは困ってしまう。
「素直じゃないんだから~」
広げていた衣装を片付け始めたルーカスを睨む。
この掴みどころのない男に翻弄されている事実が嫌だと思えなくなってきている。だから困ってしまう。
「シャノンには本当になにも感じないのか?」
「うーん……。ずっと気になっていたけれど、もしかしてゼンは俺にシャノンくんを好きになれって言っているの?」
気まずくなり目をそらすと、ルーカスが笑みを引っ込めた。それから、立ち上がろうとしたゼンのネクタイを掴み真顔のまま見つめてくる。
「二度とそんなこと考えないでね。俺が欲しいのは君だけなんだから」
怒っていると気がついたが、言葉を返すことはできなかった。
それにいまだにルーカスが小説内とは違う行動をしていることも謎だ。
「俺ね、昔からゼンのことが大好きなんだ。だからゼンには悪いけど、手放してあげられない」
「……お前、重すぎるぞ」
絞り出せた言葉はそれだけだった。
なんでも持っている完璧人間のくせに執着心が一丁前に強い。引く引かないとは置いておいても重いな~……と感じてしまった。
「わかったから離せ。それにシャノンとくっつける気はもうない」
フィーロがシャノンのことを好きなのは明白だから、ルーカスとシャノンを無理にくっつけるよりもあの二人が上手く行くほうがいい。
「だが、いつか婚約破棄させてやる」
「いい加減諦めなよ」
「諦めることを拒否する」
「拒否することを拒否させてもらうね」
ネクタイから手を離したルーカスが困り顔を浮かべる。その顔を見つめながら、いまだに鳴り止まない心臓をそっと押さえた。
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