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そういうところだけは認めてやろう
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公爵家の広間を使用して開催された誕生日パーティーは、多くの貴族で賑わいを見せていた。中にはこの機会にルーカスといい縁を結ぼうとする貴族子女も多い。
あえてルーカスとは別々に会場へ到着したゼンは、普段は無造作に下ろしている黒髪を撫で上げ、ナイトホースの革で作られた漆黒のスーツを身に纏っていた。
銀のラペルピンには伯爵家の家紋が刻まれている。
ゼンが広間に足を踏み入れた瞬間、ざわつきと女性陣の悲鳴が波のように会場内を満たした。一級魔術師であり次期伯爵家の当主だと噂されているゼンは常に社交界で噂の的だ。それに加えこういった場にあまり顔を出さないため、ゼン目当ての者も多い。
「お兄様、すごい人ですね」
「フィーロは社交界は初めてだから俺の側にいろ」
今日はフィーロも一緒にパーティーに参加していた。お披露目も兼ねているため、フィーロもゼンに負けず劣らずの立派な装いをしている。
真っ白なジャケットにブラックのシャツ。瞳の色と同じブルーの石がはめ込まれたブローチが目を引くジャボ。
ジャケットと同色のハイウエストパンツはフィーロのスタイルの良さを際立たせている。
「シャノンも好きなように過ごすといい」
「は、はいっ」
フィーロの専属使用人のため、シャノンもついてきていた。
社交の場のため、シャノンもそれなりに見えるように使用人が着るには豪華すぎるスーツを着せている。
ベージュのスーツにストライプ柄の濃いブラウンのウエストコート。胸元にはワインレッドのリボンタイを着けている。シャノンの柔らかな雰囲気によく似合う。
「僕まで同席させて頂いて良かったのでしょうか……。それにこんなに素敵な衣装まで」
「僕がお兄様に頼んだんだ。だから堂々としてたらいいんだよ」
フィーロに背を押されてシャノンは背筋を伸ばした。
シャノンが社交会に参加することができてフィーロは随分と喜んでいるように見える。
あんなに喜んでもらえるのなら準備した甲斐があった。
「お兄様もとっても素敵です!悔しいですけどルーカス様はお兄様のことをよく見ているから、こんなにも素敵な衣装をプレゼントできるんですね」
「たしかにこのスーツは俺も気に入っている」
着心地もいいし、見た目もスタイリッシュで格好良い。
ゼンのクールな雰囲気をより引き締めて際立たせてくれている。
三人で話をしていると令嬢達がこちらへと歩いてくるのが視界の端に映った。どうやら話しかける機会を窺っていたらしい。
(面倒だな)
噂好きの令嬢を相手にするのは苦手だ。それにゼンやルーカスの婚約者候補を狙っている令嬢はもっと苦手だった。甘い香水の匂いはずっとは嗅いでいられないし、蕩けそうなほどにふわふわとした声は聞いていられない。
なによりみんな、ゼンをアルファだと思って近づいてくるため、周りに寄ってくるオメガの匂いに誘発されて頭がおかしくなってしまいそうになるときがある。
オメガはオメガの匂いに反応して発情を起こすことも少なくはないため、いつも発情抑制剤を飲むようにしている。
こういったパーティーを好まないのもそのせいだ。
「レゲンデア様ではありませんか?私は──」
令嬢の一人が擦り寄るような声で話しかけてきた。面倒だと思いながら受け答えしようと口を開いたとき、背後から靴の踵が地面を蹴る音が聞こえた気がして振り返った。
「やぁ、お邪魔をしてしまったかな?」
「ルーカスか」
ゼンの隣で立ち止まったルーカスが、話しかけてきた令嬢に笑みを向けた。
頬を赤く染めた令嬢は「し、失礼いたしました!」と逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
「高嶺の花には近づけないらしい。なにはともあれ助かった」
「困っていると思って駆けつけてよかった」
心中が見通されているようで少し嫌だが、ルーカスのおかげで面倒な会話を避けることができた。
ゼンはどんなに家柄のいい令嬢との縁談も断り続けてきた。婚約すればオメガであることを伝えなければならない。仕事にも支障をきたしてしまうだろうし、相手もゼンがオメガだと知れば態度を変えるとわかっていたからだ。
「お前は変わらないな」
「ん?」
「なんでもない」
ルーカスだけはオメガを理由にゼンを見下さない。そういう面だけは認めてやってもいいと思える。
あえてルーカスとは別々に会場へ到着したゼンは、普段は無造作に下ろしている黒髪を撫で上げ、ナイトホースの革で作られた漆黒のスーツを身に纏っていた。
銀のラペルピンには伯爵家の家紋が刻まれている。
ゼンが広間に足を踏み入れた瞬間、ざわつきと女性陣の悲鳴が波のように会場内を満たした。一級魔術師であり次期伯爵家の当主だと噂されているゼンは常に社交界で噂の的だ。それに加えこういった場にあまり顔を出さないため、ゼン目当ての者も多い。
「お兄様、すごい人ですね」
「フィーロは社交界は初めてだから俺の側にいろ」
今日はフィーロも一緒にパーティーに参加していた。お披露目も兼ねているため、フィーロもゼンに負けず劣らずの立派な装いをしている。
真っ白なジャケットにブラックのシャツ。瞳の色と同じブルーの石がはめ込まれたブローチが目を引くジャボ。
ジャケットと同色のハイウエストパンツはフィーロのスタイルの良さを際立たせている。
「シャノンも好きなように過ごすといい」
「は、はいっ」
フィーロの専属使用人のため、シャノンもついてきていた。
社交の場のため、シャノンもそれなりに見えるように使用人が着るには豪華すぎるスーツを着せている。
ベージュのスーツにストライプ柄の濃いブラウンのウエストコート。胸元にはワインレッドのリボンタイを着けている。シャノンの柔らかな雰囲気によく似合う。
「僕まで同席させて頂いて良かったのでしょうか……。それにこんなに素敵な衣装まで」
「僕がお兄様に頼んだんだ。だから堂々としてたらいいんだよ」
フィーロに背を押されてシャノンは背筋を伸ばした。
シャノンが社交会に参加することができてフィーロは随分と喜んでいるように見える。
あんなに喜んでもらえるのなら準備した甲斐があった。
「お兄様もとっても素敵です!悔しいですけどルーカス様はお兄様のことをよく見ているから、こんなにも素敵な衣装をプレゼントできるんですね」
「たしかにこのスーツは俺も気に入っている」
着心地もいいし、見た目もスタイリッシュで格好良い。
ゼンのクールな雰囲気をより引き締めて際立たせてくれている。
三人で話をしていると令嬢達がこちらへと歩いてくるのが視界の端に映った。どうやら話しかける機会を窺っていたらしい。
(面倒だな)
噂好きの令嬢を相手にするのは苦手だ。それにゼンやルーカスの婚約者候補を狙っている令嬢はもっと苦手だった。甘い香水の匂いはずっとは嗅いでいられないし、蕩けそうなほどにふわふわとした声は聞いていられない。
なによりみんな、ゼンをアルファだと思って近づいてくるため、周りに寄ってくるオメガの匂いに誘発されて頭がおかしくなってしまいそうになるときがある。
オメガはオメガの匂いに反応して発情を起こすことも少なくはないため、いつも発情抑制剤を飲むようにしている。
こういったパーティーを好まないのもそのせいだ。
「レゲンデア様ではありませんか?私は──」
令嬢の一人が擦り寄るような声で話しかけてきた。面倒だと思いながら受け答えしようと口を開いたとき、背後から靴の踵が地面を蹴る音が聞こえた気がして振り返った。
「やぁ、お邪魔をしてしまったかな?」
「ルーカスか」
ゼンの隣で立ち止まったルーカスが、話しかけてきた令嬢に笑みを向けた。
頬を赤く染めた令嬢は「し、失礼いたしました!」と逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
「高嶺の花には近づけないらしい。なにはともあれ助かった」
「困っていると思って駆けつけてよかった」
心中が見通されているようで少し嫌だが、ルーカスのおかげで面倒な会話を避けることができた。
ゼンはどんなに家柄のいい令嬢との縁談も断り続けてきた。婚約すればオメガであることを伝えなければならない。仕事にも支障をきたしてしまうだろうし、相手もゼンがオメガだと知れば態度を変えるとわかっていたからだ。
「お前は変わらないな」
「ん?」
「なんでもない」
ルーカスだけはオメガを理由にゼンを見下さない。そういう面だけは認めてやってもいいと思える。
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