弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶

文字の大きさ
27 / 45

ミスしたら借りだからな

しおりを挟む
 ──お前が溺愛するのは俺じゃないだろう!

 叫び出したい気持ちにも駆られたが、あくまでも冷静な態度を崩さないように心がけた。
 返事をするかのようにうなずく。その行動一つするだけで緊張が胸を刺激してくる。

「男のアルファ同士では子孫は望めないというのに、なにをお考えになっておられるんだ」

 そんな言葉がそこここから囁くように聞こえてきたけれど、ゼンもルーカスもあえて聞こえていないふりをする。
 男同士の婚姻は法律でも許されている。男オメガが少しでも生きやすいように考えられた法律だったが、年々オメガ性以外の男性同士の婚姻も増えてきている。
 そのため表向き貴族達はこの婚約を否定することができない。

「様々なお考えがあるとは思いますが、どうか私達の婚約を祝福していただけると幸いです。ここで一曲婚約者と共にダンスを披露させていただきます」

「聞いていないぞ」

 小声で反論するがルーカスはいつもの調子で目配せをしてくるだけでダンスを止める気はなさそうだ。
 もちろんゼンも踊れないわけではない。
 ただ、あまり目立つのが好きではないため踊りたくないだけだ。

「これ以上目立つのはごめんだ」

「大丈夫。ゼンは目立ちたくなくても存在自体が目立っているから」

「どういう意味だっ、おいっ!?」

 会場の真ん中まで手を取られて連れて行かれた。
 ここまで来てしまうと逃げ出すこともできない。ルーカスを睨みつけると、パチンッ☆と音が鳴りそうなほどに綺麗なウインクをされてしまい気が抜けそうになった。
 どれだけ拒否しても、いつも最終的には彼のペースに乗せられてしまう。それが悔しくもあるのに、気持ちとは裏腹に触れ合う時間が長いほどに心音は急速に加速していく。

「愛しい婚約者フィアンセ。俺と踊っていただけますか?」

 整えられた長く美しい指がゼンへと向けられた。観客にバレないようにため息をつくと、ルーカスの手をゆっくりと取る。

「ミスしたぶん借りだからな」

「それは怖いな」

 そう言ってルーカスが余裕の笑みを浮かべたすぐ後、会場内にピアノの音が流れ始めた。少しずつ楽器が追加されていき、音が壮大になっていく。
 ルーカスがリードし、ゼンはそれに合わせるようにステップを刻む。大きく体が離れたと思えばすぐに密着し、広い会場を活かして大胆に踊る。
 難易度の高いステップや振りも完璧にこなす二人のことを会場内の人々は見入っている。視界の端に瞳を輝かせながら見ているシャノンと、少し不機嫌そうなフィーロの姿が映り、ゼンは少しだけ表情を緩めた。

「ゼンは本当にフィーロくんのことが大切なんだね」

「可愛い弟だからな」

「それなら俺のことはどう思っているの?角狼退治のとき救護要請を送っていなかったのに助けに来てくれたのはどうして?」

 紫の瞳が見透かすような真っ直ぐにゼンのことを見つめてくる。
 その瞳に見つめられていると、心がざわついて落ち着かなくなるから嫌だった。

「なんとなく危険な気がしたんだ。今年は例年に比べて角狼の数がやけに多かった。被害も増加傾向で、巨大な巣があることは明白だっただろう。巣を維持するには力の強いリーダーが必要になる。だから強い個体がいる可能性が浮かんだ。それだけのことだ」

もっともな理由を並べ立てているが本当は怪我をすることを知っていたからだ。
人と深く関わることのないゼンにとって、ルーカスはその深い場所に足を踏み入れさせた他人だったから。

(放っておけなかったとか、心配したとか言えるわけないだろ)

 くだらない意地だと自分でも思う。けれど長年そうやって彼と接してきたゼンにとって、今更素直に接することは難しかった。

「俺じゃ倒せないと思った?」

 緩急のあるターンを行いながらルーカスが尋ねてくる。顔が見れず思わず目線をそらした。

「そうではない」

 否定すると、ルーカスがくすりと笑みをこぼしたのが聞こえてきた。ちょうど曲が最終局面に差し掛かる。

「じゃあ心配してくれたんだね」

 もうすぐ曲が終わるという場面で、ルーカスが心底嬉しそうにそう言ってはにかんだ。たまたまその笑顔を直視してしまったゼンは、一気に顔を赤く染めて唇を噛みしめる。
 今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られていた。動揺して全身が熱い。そのせいか、次の瞬間、ゼンはステップを間違えて足をもつれさせた。

(っ、ヤバッ!)

 このまま転けてしまったらそれこそ恥さらしだ。
 衝撃に備えて目を閉じようとしたとき、ルーカスがゼンの腰を支えて倒れるのを阻止してくれた。
 ちょうどそれが曲の終わりと重なり、周囲の目には二人が華麗にダンスを終了したように見えた。

「これは借りになるのかな?」

 心底楽しそうに笑みを浮かべているルーカスを睨みつける。まさかの失態に胸の中は悔しさで溢れていた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです

まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。 そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。 だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。 二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。 ─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。 受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。 拗らせ両片想いの大人の恋(?) オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。 Rシーンは※つけます。 1話1,000~2,000字程度です。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

処理中です...