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ミスしたら借りだからな
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──お前が溺愛するのは俺じゃないだろう!
叫び出したい気持ちにも駆られたが、あくまでも冷静な態度を崩さないように心がけた。
返事をするかのようにうなずく。その行動一つするだけで緊張が胸を刺激してくる。
「男のアルファ同士では子孫は望めないというのに、なにをお考えになっておられるんだ」
そんな言葉がそこここから囁くように聞こえてきたけれど、ゼンもルーカスもあえて聞こえていないふりをする。
男同士の婚姻は法律でも許されている。男オメガが少しでも生きやすいように考えられた法律だったが、年々オメガ性以外の男性同士の婚姻も増えてきている。
そのため表向き貴族達はこの婚約を否定することができない。
「様々なお考えがあるとは思いますが、どうか私達の婚約を祝福していただけると幸いです。ここで一曲婚約者と共にダンスを披露させていただきます」
「聞いていないぞ」
小声で反論するがルーカスはいつもの調子で目配せをしてくるだけでダンスを止める気はなさそうだ。
もちろんゼンも踊れないわけではない。
ただ、あまり目立つのが好きではないため踊りたくないだけだ。
「これ以上目立つのはごめんだ」
「大丈夫。ゼンは目立ちたくなくても存在自体が目立っているから」
「どういう意味だっ、おいっ!?」
会場の真ん中まで手を取られて連れて行かれた。
ここまで来てしまうと逃げ出すこともできない。ルーカスを睨みつけると、パチンッ☆と音が鳴りそうなほどに綺麗なウインクをされてしまい気が抜けそうになった。
どれだけ拒否しても、いつも最終的には彼のペースに乗せられてしまう。それが悔しくもあるのに、気持ちとは裏腹に触れ合う時間が長いほどに心音は急速に加速していく。
「愛しい婚約者。俺と踊っていただけますか?」
整えられた長く美しい指がゼンへと向けられた。観客にバレないようにため息をつくと、ルーカスの手をゆっくりと取る。
「ミスしたぶん借りだからな」
「それは怖いな」
そう言ってルーカスが余裕の笑みを浮かべたすぐ後、会場内にピアノの音が流れ始めた。少しずつ楽器が追加されていき、音が壮大になっていく。
ルーカスがリードし、ゼンはそれに合わせるようにステップを刻む。大きく体が離れたと思えばすぐに密着し、広い会場を活かして大胆に踊る。
難易度の高いステップや振りも完璧にこなす二人のことを会場内の人々は見入っている。視界の端に瞳を輝かせながら見ているシャノンと、少し不機嫌そうなフィーロの姿が映り、ゼンは少しだけ表情を緩めた。
「ゼンは本当にフィーロくんのことが大切なんだね」
「可愛い弟だからな」
「それなら俺のことはどう思っているの?角狼退治のとき救護要請を送っていなかったのに助けに来てくれたのはどうして?」
紫の瞳が見透かすような真っ直ぐにゼンのことを見つめてくる。
その瞳に見つめられていると、心がざわついて落ち着かなくなるから嫌だった。
「なんとなく危険な気がしたんだ。今年は例年に比べて角狼の数がやけに多かった。被害も増加傾向で、巨大な巣があることは明白だっただろう。巣を維持するには力の強いリーダーが必要になる。だから強い個体がいる可能性が浮かんだ。それだけのことだ」
もっともな理由を並べ立てているが本当は怪我をすることを知っていたからだ。
人と深く関わることのないゼンにとって、ルーカスはその深い場所に足を踏み入れさせた他人だったから。
(放っておけなかったとか、心配したとか言えるわけないだろ)
くだらない意地だと自分でも思う。けれど長年そうやって彼と接してきたゼンにとって、今更素直に接することは難しかった。
「俺じゃ倒せないと思った?」
緩急のあるターンを行いながらルーカスが尋ねてくる。顔が見れず思わず目線をそらした。
「そうではない」
否定すると、ルーカスがくすりと笑みをこぼしたのが聞こえてきた。ちょうど曲が最終局面に差し掛かる。
「じゃあ心配してくれたんだね」
もうすぐ曲が終わるという場面で、ルーカスが心底嬉しそうにそう言ってはにかんだ。たまたまその笑顔を直視してしまったゼンは、一気に顔を赤く染めて唇を噛みしめる。
今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られていた。動揺して全身が熱い。そのせいか、次の瞬間、ゼンはステップを間違えて足をもつれさせた。
(っ、ヤバッ!)
このまま転けてしまったらそれこそ恥さらしだ。
衝撃に備えて目を閉じようとしたとき、ルーカスがゼンの腰を支えて倒れるのを阻止してくれた。
ちょうどそれが曲の終わりと重なり、周囲の目には二人が華麗にダンスを終了したように見えた。
「これは借りになるのかな?」
心底楽しそうに笑みを浮かべているルーカスを睨みつける。まさかの失態に胸の中は悔しさで溢れていた。
叫び出したい気持ちにも駆られたが、あくまでも冷静な態度を崩さないように心がけた。
返事をするかのようにうなずく。その行動一つするだけで緊張が胸を刺激してくる。
「男のアルファ同士では子孫は望めないというのに、なにをお考えになっておられるんだ」
そんな言葉がそこここから囁くように聞こえてきたけれど、ゼンもルーカスもあえて聞こえていないふりをする。
男同士の婚姻は法律でも許されている。男オメガが少しでも生きやすいように考えられた法律だったが、年々オメガ性以外の男性同士の婚姻も増えてきている。
そのため表向き貴族達はこの婚約を否定することができない。
「様々なお考えがあるとは思いますが、どうか私達の婚約を祝福していただけると幸いです。ここで一曲婚約者と共にダンスを披露させていただきます」
「聞いていないぞ」
小声で反論するがルーカスはいつもの調子で目配せをしてくるだけでダンスを止める気はなさそうだ。
もちろんゼンも踊れないわけではない。
ただ、あまり目立つのが好きではないため踊りたくないだけだ。
「これ以上目立つのはごめんだ」
「大丈夫。ゼンは目立ちたくなくても存在自体が目立っているから」
「どういう意味だっ、おいっ!?」
会場の真ん中まで手を取られて連れて行かれた。
ここまで来てしまうと逃げ出すこともできない。ルーカスを睨みつけると、パチンッ☆と音が鳴りそうなほどに綺麗なウインクをされてしまい気が抜けそうになった。
どれだけ拒否しても、いつも最終的には彼のペースに乗せられてしまう。それが悔しくもあるのに、気持ちとは裏腹に触れ合う時間が長いほどに心音は急速に加速していく。
「愛しい婚約者。俺と踊っていただけますか?」
整えられた長く美しい指がゼンへと向けられた。観客にバレないようにため息をつくと、ルーカスの手をゆっくりと取る。
「ミスしたぶん借りだからな」
「それは怖いな」
そう言ってルーカスが余裕の笑みを浮かべたすぐ後、会場内にピアノの音が流れ始めた。少しずつ楽器が追加されていき、音が壮大になっていく。
ルーカスがリードし、ゼンはそれに合わせるようにステップを刻む。大きく体が離れたと思えばすぐに密着し、広い会場を活かして大胆に踊る。
難易度の高いステップや振りも完璧にこなす二人のことを会場内の人々は見入っている。視界の端に瞳を輝かせながら見ているシャノンと、少し不機嫌そうなフィーロの姿が映り、ゼンは少しだけ表情を緩めた。
「ゼンは本当にフィーロくんのことが大切なんだね」
「可愛い弟だからな」
「それなら俺のことはどう思っているの?角狼退治のとき救護要請を送っていなかったのに助けに来てくれたのはどうして?」
紫の瞳が見透かすような真っ直ぐにゼンのことを見つめてくる。
その瞳に見つめられていると、心がざわついて落ち着かなくなるから嫌だった。
「なんとなく危険な気がしたんだ。今年は例年に比べて角狼の数がやけに多かった。被害も増加傾向で、巨大な巣があることは明白だっただろう。巣を維持するには力の強いリーダーが必要になる。だから強い個体がいる可能性が浮かんだ。それだけのことだ」
もっともな理由を並べ立てているが本当は怪我をすることを知っていたからだ。
人と深く関わることのないゼンにとって、ルーカスはその深い場所に足を踏み入れさせた他人だったから。
(放っておけなかったとか、心配したとか言えるわけないだろ)
くだらない意地だと自分でも思う。けれど長年そうやって彼と接してきたゼンにとって、今更素直に接することは難しかった。
「俺じゃ倒せないと思った?」
緩急のあるターンを行いながらルーカスが尋ねてくる。顔が見れず思わず目線をそらした。
「そうではない」
否定すると、ルーカスがくすりと笑みをこぼしたのが聞こえてきた。ちょうど曲が最終局面に差し掛かる。
「じゃあ心配してくれたんだね」
もうすぐ曲が終わるという場面で、ルーカスが心底嬉しそうにそう言ってはにかんだ。たまたまその笑顔を直視してしまったゼンは、一気に顔を赤く染めて唇を噛みしめる。
今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られていた。動揺して全身が熱い。そのせいか、次の瞬間、ゼンはステップを間違えて足をもつれさせた。
(っ、ヤバッ!)
このまま転けてしまったらそれこそ恥さらしだ。
衝撃に備えて目を閉じようとしたとき、ルーカスがゼンの腰を支えて倒れるのを阻止してくれた。
ちょうどそれが曲の終わりと重なり、周囲の目には二人が華麗にダンスを終了したように見えた。
「これは借りになるのかな?」
心底楽しそうに笑みを浮かべているルーカスを睨みつける。まさかの失態に胸の中は悔しさで溢れていた。
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