29 / 45
変わってきているものもある
しおりを挟む
「怪我してるでしょう。さっき踊ったときだよね」
「気づいていたのか」
いつもなら怪我などしていないと否定するが、気づかれていたことに驚いて素直に白状してしまった。
馬鹿にしてくるかもしれないと思っていたのに、ルーカスが眉をハの字に下げて心配そうな表情を浮かべながら見つめてくるから、そんな考えは消え去ってしまう。
「ゼンは隠しごとが上手だけど、ちょっとだけ左足をかばうように体の重心が右に傾いていたから。座って治療して。ここなら誰も見ていないから」
傾いているといってもかすかな違いだ。そんな小さなことに気がつくのは騎士団長をしているルーカスくらいだろう。
お言葉に甘えて備え付けのベンチに腰掛けると、治療魔術で左足首を癒す。
「俺のことをよく見ているんだな」
「いつも見つめてるよ」
「そんなに俺のことが好きか?」
冗談で尋ねたつもりだった。それなのに、ゼンが言葉を発した瞬間お互いの間に流れる空気感が変化した気がした。
「愛してるって言ったら、もう少しだけ俺の気持ちを受け止めてくれる?」
真剣な眼差しに心臓が射抜かれる感覚がした。
曖昧な言葉で返せるような雰囲気ではない。
ずっと強い言葉で拒否してきた。それは単純に小説のストーリーから外れて、彼の思いを受け止めることが怖かったからだ。
現実は物語とは違うとわかっていても、いつかルーカスが自分を殺す日が来るのかもしれない。そんな結末を知っているから、どこか壁を作って彼を遠ざけようとしてしまう。
「ルーカス、俺はお前が羨ましい」
小説のストーリーなんて気にせず、思うままに動いていける。その自由さや強さ、完璧なアルファである面。彼のなにもかもがゼンの目には眩しく映るから、ただ羨ましかった。
「俺はいつもなにかに縛られている。だから俺とは正反対のお前が心底羨ましくて、憎かった」
「……今もそれは変わらない?それとも変えられないのかな?」
「変わってきているのかもしれない」
楽しそうに踊っていたフィーロとシャノンの姿を思い浮かべると笑みをこぼした。
いまこの瞬間には悪役も主役も存在しない。それはきっと変えようと努力してきた証なのだろう。
「これをやる」
ゼンはポケットから指輪の入ったケースを取り出すとルーカスの目の前に差し出した。
「これって……」
「誕生日おめでとう。少なくとも前よりはお前のことを好ましいと思っている。だから、誕生日の祝いにこれをやる」
もらえると思っていなかったのか、目を瞬かせて固まっているルーカスの手に、無理やりケースを押し付けた。
贈り物をするのがこんなにも気恥ずかしいことだとは思ってもいなかったため、ゼンも少しだけ緊張している。
「中を見てもいいかな?」
「好きにしろ」
返事を受け取ったルーカスが慎重にケースの蓋を開けた。
会場内から漏れているかすかな照明の光が反射して、ゴールドの指輪が一際輝き、存在を主張していた。
「指輪だね」
「それは優れた魔具で、持ち主に幸福を──」
指輪の説明をしようと口を開いた瞬間、ルーカスが強く強くゼンのことを抱きしめた。
甘いフェロモンの香りが鼻を抜けていく。よく知っているルーカスのにおいと、温かすぎる体温が全身を包む。
突然のことに動揺を隠せないゼンは、抵抗することもできず固まっていた。
「ゼンはズルいなぁ……」
「なにがズルいんだ?」
「絶対に無自覚にプレゼントを選んだんだろうなってわかっちゃうところが可愛くて、でもズルい。俺だけがどんどん好きになっていくのに、君はまったく意識してくれないところもズルいよ」
そんなことを言われてもまったくゼンにはピンとこなかった。
フィーロも可愛いと言っていたけれど、いまだに理解できていない。
「ただの魔具だろう。喜びすぎだ」
「婚約者に指輪を贈るなんて、プロポーズしているのと変わらないよ」
笑いまじりの声が耳元から聞こえてきた。同時にその言葉を聞いた瞬間に、ようやくフィーロが何度もプレゼントについて尋ねてきた理由がわかった。
「気づいていたのか」
いつもなら怪我などしていないと否定するが、気づかれていたことに驚いて素直に白状してしまった。
馬鹿にしてくるかもしれないと思っていたのに、ルーカスが眉をハの字に下げて心配そうな表情を浮かべながら見つめてくるから、そんな考えは消え去ってしまう。
「ゼンは隠しごとが上手だけど、ちょっとだけ左足をかばうように体の重心が右に傾いていたから。座って治療して。ここなら誰も見ていないから」
傾いているといってもかすかな違いだ。そんな小さなことに気がつくのは騎士団長をしているルーカスくらいだろう。
お言葉に甘えて備え付けのベンチに腰掛けると、治療魔術で左足首を癒す。
「俺のことをよく見ているんだな」
「いつも見つめてるよ」
「そんなに俺のことが好きか?」
冗談で尋ねたつもりだった。それなのに、ゼンが言葉を発した瞬間お互いの間に流れる空気感が変化した気がした。
「愛してるって言ったら、もう少しだけ俺の気持ちを受け止めてくれる?」
真剣な眼差しに心臓が射抜かれる感覚がした。
曖昧な言葉で返せるような雰囲気ではない。
ずっと強い言葉で拒否してきた。それは単純に小説のストーリーから外れて、彼の思いを受け止めることが怖かったからだ。
現実は物語とは違うとわかっていても、いつかルーカスが自分を殺す日が来るのかもしれない。そんな結末を知っているから、どこか壁を作って彼を遠ざけようとしてしまう。
「ルーカス、俺はお前が羨ましい」
小説のストーリーなんて気にせず、思うままに動いていける。その自由さや強さ、完璧なアルファである面。彼のなにもかもがゼンの目には眩しく映るから、ただ羨ましかった。
「俺はいつもなにかに縛られている。だから俺とは正反対のお前が心底羨ましくて、憎かった」
「……今もそれは変わらない?それとも変えられないのかな?」
「変わってきているのかもしれない」
楽しそうに踊っていたフィーロとシャノンの姿を思い浮かべると笑みをこぼした。
いまこの瞬間には悪役も主役も存在しない。それはきっと変えようと努力してきた証なのだろう。
「これをやる」
ゼンはポケットから指輪の入ったケースを取り出すとルーカスの目の前に差し出した。
「これって……」
「誕生日おめでとう。少なくとも前よりはお前のことを好ましいと思っている。だから、誕生日の祝いにこれをやる」
もらえると思っていなかったのか、目を瞬かせて固まっているルーカスの手に、無理やりケースを押し付けた。
贈り物をするのがこんなにも気恥ずかしいことだとは思ってもいなかったため、ゼンも少しだけ緊張している。
「中を見てもいいかな?」
「好きにしろ」
返事を受け取ったルーカスが慎重にケースの蓋を開けた。
会場内から漏れているかすかな照明の光が反射して、ゴールドの指輪が一際輝き、存在を主張していた。
「指輪だね」
「それは優れた魔具で、持ち主に幸福を──」
指輪の説明をしようと口を開いた瞬間、ルーカスが強く強くゼンのことを抱きしめた。
甘いフェロモンの香りが鼻を抜けていく。よく知っているルーカスのにおいと、温かすぎる体温が全身を包む。
突然のことに動揺を隠せないゼンは、抵抗することもできず固まっていた。
「ゼンはズルいなぁ……」
「なにがズルいんだ?」
「絶対に無自覚にプレゼントを選んだんだろうなってわかっちゃうところが可愛くて、でもズルい。俺だけがどんどん好きになっていくのに、君はまったく意識してくれないところもズルいよ」
そんなことを言われてもまったくゼンにはピンとこなかった。
フィーロも可愛いと言っていたけれど、いまだに理解できていない。
「ただの魔具だろう。喜びすぎだ」
「婚約者に指輪を贈るなんて、プロポーズしているのと変わらないよ」
笑いまじりの声が耳元から聞こえてきた。同時にその言葉を聞いた瞬間に、ようやくフィーロが何度もプレゼントについて尋ねてきた理由がわかった。
1,083
あなたにおすすめの小説
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
白い結婚だと思っていたら、(溺愛)夫にガブガブされて、番になっていたようです
まんまる
BL
フレア王国の第3王子シルティ(18歳.Ω)は、王宮騎士団の団長を務める、キーファ侯爵家現当主のアリウス(29歳.α)に、ずっと片想いをしている。
そんなシルティは、Ωの成人王族の務めとして、自分は隣国のαの王族に輿入れするのだろうと、人生を半ば諦めていた。
だが、ある日突然、父である国王から、アリウスとの婚姻を勧められる。
二つ返事でアリウスとの婚姻を受けたシルティだったが、何もできない自分の事を、アリウスは迷惑に思っていないだろうかと心配になる。
─が、そんなシルティの心配をよそに、アリウスは天にも登る気持ち(無表情)で、いそいそと婚姻の準備を進めていた。
受けを好きすぎて、発情期にしか触れる事ができない攻めと、発情期の記憶が一切ない受けのお話です。
拗らせ両片想いの大人の恋(?)
オメガバースの設定をお借りしています。ぼんやり設定です。
Rシーンは※つけます。
1話1,000~2,000字程度です。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる