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第三話
しおりを挟む私は自分の名前で新人賞に応募し、見事受賞できた。
デビュー作は新人賞のタイトルもあってヒットしたので、次々に依頼が舞い込んできて休む暇もない。
でも、自分の名前でも活躍できるのだと分かって、ホッとした。
ゴーストライターをやめてから私の人生は充実し始めたのだ。
ある日、担当編集者から、
「あのー、前から思っていたんですけど、笹沼さんの文章って犬束燈矢に似てますよね」
と言われた。
雑談の中で突然、燈矢の名前を出されて私はついフリーズしてしまう。
「私の勘違いかもしれないんですがね。笹沼さんの小説を読んでいると、犬束燈矢作品を思い出すんですよ。文体の癖が同じといいますか……」
「分かる人には分かるものなのですね……」
私はしばらく逡巡した後、担当編集者に自分が犬束燈矢のゴーストライターをしていたことを話した。
すると、担当編集者は「なるほど」と納得したように呟いた。
「同じ人が書いたのだから、文体が似てて当たり前ですよね」
「そうですね」
「そういえば、犬束燈矢の本全然売れてないそうですよ。文体が軽すぎるし、構成もグダグダで面白くないとかでファンが減ったそうです。執筆する人が変わったんだから、当然文体も変わりますよね」
燈矢の小説が売れなくなっているのは初めて知った。
燈矢のゴーストライターでなくなった私は自分の作品を書き上げることに集中していたから、燈矢の小説の売上なんて気にする余裕がなかったのだ。
「それにね、犬束燈矢はかなり性格が悪くて担当編集者に当たり散らすこともあるらしいです。今まではヒット作を連発していたから、悪評があっても依頼していた編集者も多かったんですけどね。今はもう全然売れてませんし、依頼する編集者もいなくなるんじゃないかな」
そうなのか。
でも、私の中には燈矢に対する気持ちが残っていないからどうでも良かった。
それから数週間後。
久しぶりに燈矢から電話があった。
「美百合?」
「そうだけど、何の用?」
冷たい声音で言う。
電話の向こうの燈矢は、私の態度にたじろいでいるようで「う」とか「えっ」とか何か言っている。
「冷たくないかな?」
「用がないなら切りますね」
「切らないでくれ!俺、君に謝りたくて!俺が間違っていたんだってやっと分かったんだ!!また、俺のために小説を書いてくれないか?」
「何言ってるんですか?用済みだと私を捨てたのはあなたでしょう?それに、私の代わりがいるんですよね?私はもう必要ないのでは?」
「代わりがいるとは言ったが、でもあいつ本当に使えなくて……!美百合みたいに良い小説を書けないんだよ!そのせいで売れなくなったし」
燈矢は私の代わりになった人を貶し始めた。
「稼げなくなったから、私に戻って来てほしいだけでしょう?私は私で、自分の名義で小説を書いていますから、あなたのために小説を書く気はありません」
燈矢が何か言う前に電話を切って、彼の電話番号を着信拒否に設定した。
それからというもの燈矢からの接触はない。
そして、私の小説は飛ぶように売れてベストセラー作家になった。
しかし、燈矢の小説は売れないまま、業界から消えてしまった。
その後、燈矢が何をしているのかは分からず仕舞い。
私は今幸せだし、燈矢のことなんてどうでもいいからどこで何をしているか知らなくても良いかと思っている。
私が今一番すべきことは、読者を楽しませる小説を書くことなのだから。
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