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しおりを挟む「これも素敵よね、ああ、これも似合うわね」
「やっぱりかわいい子はお洒落をしなくちゃ」
本当の親子より息の合う母と兄嫁は楽しそうに、あれこれ言いながら私にいくつものドレスをあてがっている。
「やっぱり、このドレスにしましょうか」
「ええ、お義母様」
実家の衣裳部屋には沢山のドレスが仕舞われている。その中から淡いパープルのドレスに着替え、ふわふわのくせっ毛を緩く編んでもらう。ドレスよりも青みのあるパープルのりぼんをつければお見合いスタイルの完成。
「やっぱりライラック色が似合うわね」
「ローズちゃん、紫色のライラックの花言葉は『恋の芽生え』なのよ――お見合いにぴったりでしょう?」
鏡に映る姿を眺めると、ふいに昨日大量に作ったライラックの薬を思い出したのは二人の言葉のせいだろう。
笑顔の家族に見送られてお見合いに向かった。
待ち合わせは秋バラが有名な王都にある庭園。
しかも今日のために貸切にしていると聞いて、くらりと眩暈がしてしまう。美味しいレストランに何回行けただろう。
庭園に到着するとお見合い相手はすでに待っていることを聞き、深呼吸をひとつしてから案内のあとに続いた。
「どうしてレオナルド様がここに……?」
いつもよりお洒落をした上司が座っていて首を傾けてしまう。貸切ではなかったのだろうか?
「ローズのお見合い相手が俺だからだな」
「えっ」
「まずはとなりに座ってもらえると嬉しい――ここのバラ園の出す紅茶と洋梨のタルトは絶品らしいぞ」
「となりに失礼します!」
二人がけのベンチソファに躊躇いなく腰を下ろした。
驚きというものは、食欲の前では意味を持たない。バラのあまい匂いに消え去った。
紅茶も洋梨のタルトもとても美味しいのにレオナルド様にじっと見つめられて上手く食べることができない。まあ、ほとんど食べ終わっているけれども。
「あの、レオナルド様、食べにくいのですが……」
「ああ、すまない――普段からローズはかわいいのだが、今日はさらに綺麗だなと思って見惚れてしまった」
「――っ!」
紅茶を吹き出さなかった私を褒めてほしい。
レオナルド様の様子がなんだかおかしい。なんというか甘い気がする。言葉も視線もすごく甘い。私はティーカップを置いてから、頬に手を添えて、もしかしてという想いが浮かんできた。
「あの、レオナルド様、言いにくいのですが……」
「ああ、なんでも言ってほしい」
小さく息を吐いて真っ直ぐにロイヤルブルーの瞳を見つめる。
「我が家になにか弱みでも握られたんですか?」
私の言葉にレオナルド様がごほっとむせた。
どうやら違ったらしくあわてて背中をさすった。すごく大きな背中は洋服越しにもがっちり筋肉がついている。
「人に後ろ指さされるような生きかたはしていないつもりだがな」
「失礼しました……」
たしかにレオナルド様は誠実な人柄だと思う。
毎回ただの部下と食事をする時もエスコートをしてくれるし、遠回りになっても必ず寄宿舎まで送り届けてくれる紳士で素晴らしい上司だと思う。
「ローズ、これでも外堀は埋めてたつもりなんだがな……」
なぜか遠い目をしてうな垂れるように肩を落としてしまった。
「レオナルド様、大丈夫ですか?」
「好きな人にここまで好意が伝わっていなくて、ちっとも大丈夫ではないな……」
「あ、あの――せっかくの貸切にしてもらったのでバラを見ませんか? ここのバラ園の奥に薬草園もあるんですよ」
レオナルド様の言葉に目線を合わせることができなくて早口に言い終えて立ち上がった。心臓がどきどき飛び跳ねている。
奥にあるバラ園に足を進めようと思ったのに大きな手に捕まって向き合っている。
「ローズ、好きだ。そのくるくる変わる表情も美味しいものに素直なところも愛おしくてたまらない」
真摯に見つめる眼差しに頬の熱が集まるのがわかった。
「上司ではなく男として意識してほしい――だめだろうか?」
「だめじゃ、ないです……」
自然と言葉が口から漏れていた。
心の声に気づいた一拍後で驚いてしまった。
「ローズ、ひとつだけいいか?」
涼やかに感じるはずのロイヤルブルー瞳に熱を感じて、見つめ合ったまま小さくうなずいた。レオナルド様の顔が近づいて耳元に唇をよせられる。馴染みのある薬草の香りがふわりと鼻を掠めた。
「とびきり美味しい夕食を一緒にどうだろうか?」
「行きます!」
とまどいというものは、とびきり美味しい食事の前では意味を持たない。たった今、溶けて消えました。
「かわいいな」
「えっ?」
「今のとまどった顔もかわいい」
「あ、あの……レオナルド、さま?」
「これからは全力で口説かせてもらうことにした」
目の前に立つレオナルド様の甘い言葉や雰囲気にそわそわして落ち着かないのに、嗅ぎなれた薬草の匂いを好ましく思っている私もいて――。
レオナルド様の全力はどんなデザートよりも甘くてすぐに恋に落ちた。私の遅すぎる初恋は紫色のライラックの花言葉。
あれからいくつもの満月の夜を二人で過ごした。
王都にオオカミがいることを知ったのもある満月の夜だった。
恋というものは、どんな美食も意味を持たない。あなたと一緒に食べることが何よりもしあわせだと気づいてしまったから。
今日も連休明けの仕事を終えて、レオナルド様と手を繋いで家路につく――。
おしまい
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今更ですが… 可愛い素敵な作品ありがとうです(^∇^)ノ♪
ほっこりして、優しい気持ちになったお話でした。読みやすかったです。ありがとうございました😊
すごく二人の距離感が美味しい食事と進み、ほのぼのしながら読めて楽しくよめました。
竹の郷さま、感想ありがとうございます♪
わああ!
二人の距離感の進み方を楽しんでくださって嬉しいです。
美味しい食事は、しあわせになれますよね♪
素敵な感想をありがとうございました!