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本編
鈍感令嬢のイヤリング
しおりを挟む「エリー、ここから離れよう」
エドの言葉に、往来の真ん中で人目を集めてしまっていたことに気付いて、顔に熱が集まっていく。
立ち去ろうとエドに背を向けようとした途端に、大きな手につかまってしまった。
エドに手を引かれてランターンを見るための敷物に腰を下ろしたものの、二人の間に沈黙が流れる。
茜色の空はすっかり青色に変わり、いくぶん涼しくなった風が気まぐれに頬をなでていく。
「涙のあとが残ってるなーーごめん」
大きな手が伸びてきて、エドの親指が目尻をぬぐう。
うまく言葉が出てこない私の頬を包むようになでるエドの手つきがあまりに優しくて、ますます言葉が浮かばなくなってしまう。
「思っていた通り、すごく似合ってる」
耳たぶにのびてきたエドの指が愛おしそうにイヤリングに触れれば、しゃらりと軽やかな音を鳴らす。
「エド、覚えてるの……?」
「好きな子にはじめて贈ったものを忘れるわけないだろう?」
目を細めて愛おしそうに言うものだから、まるで今も私のことを好きだと言っているように思えて勘違いしそうになってしまう。
「私も、エドが好きだった……」
先ほど泣いてしまったから、エドがいつもより優しいだけだと自分に言い聞かせる。それなのに頬に熱が集まるのがわかってしまう。
ヴァールハイト公爵家とヒビスクス伯爵家は家族ぐるみでとても仲がよかったから、幼いころはランターンフェスタを一緒に見に行くこともあった。
初めてエドと行ったランターンフェスタですてきな髪飾りの屋台を見つけ、大人っぽいハイビスカスのモチーフ、空色と紫色にきらめく天然石のイヤリングをじっと見つめていたら「エリーが大人になったら、きっと似合うよ」とプレゼントしてくれたもの。ずっとずっとお気に入りのイヤリングーー。
「俺は今もエリーが好きだけどな」
「う、うそーーまた、からかってるんでしょう?」
「嘘じゃない」
エドの心地よいあたたかい声で、まっすぐに気持ちがつむがれていく。
「エリー、好きだ」
エドの言葉が嬉しくて胸がどきどきと早鐘を打つけれど、同じくらい心が冷えていく。
ーー答えは最初から決まっている。
「エドとは結婚できないもの、……無理よ」
私がヒビスクス伯爵家の一人娘なように、エドはヴァールハイト公爵家の大切な一人息子だもの。
私の言葉に、エドが先ほどと比べものにならない深いため息をはいた。
「エリー、伯爵家を残す方法なら入婿以外の方法もあるぞ」
「えっ、そうなの?」
「婿を取るのが一番わかりやすいだけで、いくつかの手続きや条件はあるけど――できる」
きっぱり言いきるエドの言葉に、戸惑って見つめ返した。
にこりと笑みを浮かべたエドの口から、ヴァールハイト公爵と公爵夫人、それに我が家の両親も私たちの相性がよければ婚約させるつもりで会わせていたことを知って目を見開いてしまう。さらにヒビスクス伯爵家に届いている縁談はエドがすべて止めていたことを聞かされ、あまりに驚いて、ぽかんと口をひらいてしまった。
「エリーは、本当に鈍感だな」
からかうエドの言葉にも甘さが含まれていて。
エドを見つめているとエドの眼差しが甘く甘くにじんでいき、やわらかな紫色の瞳の中に期待するように赤く染まった私の顔が写り込んでいた。叶うことのない、この気持ちはずっとずっと蓋をしておこうと思っていたのに……。
「エドのこと、好きになってもいいのーー?」
私の言葉にエドが破顔し、大きな身体に包まれるように抱きしめられたーー。
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