ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉サマニアンズ6

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 ~トンガ視点~


「それで、お前らこれからルメスに行くんだろう? 
〔サマニアンズ〕は勿論そうだろうけど、一緒に行くならお前らも金ランクの条件だけ揃えとけばいいんじゃねえの?」

 ヴィオの手紙を楽しんだ後、ギルマスからそんなことを言われた。
 指定ダンジョンのルメスの森ダンジョンはヘイジョーから二つほど離れた町にある。ソロで踏破する中級ダンジョンって事だから僕たちだけでも良かったんだけど、考えれば彼らも上級なんだから多少時間はかかるけど、ボス戦をソロでやるのは良いんじゃないかな?

「まあ確かにな。貴族と関わりたくないっつって金に上がらなかったけど、ヴィオが金を目指すんなら俺達が先に行ってねえとな」
「そうよね、なんならリズモーニではドゥーア先生が指名依頼くれるんだし、金の上級になるまでは拠点をあっちにしてもいいかもね」
「おいおい、まじかよ。上級のお前らが居なくなるのはうちとしては痛手だぞ、俺がそそのかしといてなんだけど、拠点はこっちで良いんじゃないのか?」

〔土竜の盾〕の皆の言葉にギルマスが焦る。確かに強い冒険者が所属するギルドっていうのは安心感があるっていうのはあるもんね。ただ彼らはこの一年離れていたわけだし、基本的に冒険者は自由に動き回るから拠点だとしてもいない事も多いんだけどね。
 結局拠点はそのままでという事で話はついたんだけど、僕たちもサマニア村が拠点のわりにほとんど帰ってないんだよね。あの村では銀ランク上級なんて普通の人だから居ても居なくてもって感じだろうけど。


 ヘイジョーでは一泊だけしてすぐに出発し、四日後にはルメスの町に到着した。
 ギルドの図書館でダンジョンの下調べをし、武器の修繕、必要物品の補充をしたら直ぐに潜ることにした。
 このダンジョンも豊作ダンジョンだから、食材も水も持っていく必要がないというのは準備時間が短くて済むからありがたい。



「あ~、すげえ久しぶりに来たけど、ここってこんなだったか?」
「そうね、ウミユの後だからか物足りないというか、レベルが低すぎるというか……」
「まあウミユは上級だしね、中級ダンジョンだとこんなものじゃない?」

 低層階ではオークやボアまでしか出ず、ゴブリンもメイジゴブリンレベルまでしか出てこない。ついこないだまでゴブリンナイトやオークナイトを相手にしていた僕たちからしたら大した敵ではないという事だ。


「はぁ~、やっぱり森ダンジョンでのお風呂は良いわぁ。絶対に買うわ!」
「うん、一つだとやっぱり時間がかかるよね。土竜は男女6人だから二枚はあった方が良いわよね」
「ヴィオが二枚分は予約してくれてるから、完成したら転送してもらう? ちょっとお金がかかるけど」
「そうね、かなり待ち時間が必要って言ってたから、完成したら連絡してもらおうか。その時にどこにいるかにもよるよね」

 豊作ダンジョンだから人が多いと思いきや、リズモーニ程盛り上がっている訳ではないのか、1階に一般人の入場はあったものの、10階層までに他の冒険者とすれ違うことはなかった。
 お陰で毎晩安全地帯での料理とお風呂を楽しんでいる。まさか僕たちがこんなダンジョン生活を送るとは思わなかったけど、快適過ぎてもう止められないよね。

 10階層のボスは、僕たち〔サマニアンズ〕と〔土竜の盾〕に別れて挑戦した。9人になるとボスが多くなりすぎるしね。
 ハイオークとゴブリン数体の集団だったので、ほぼ瞬殺で終了。土竜の皆もおなじくらいだったね。

 深層階からはハイオークなどの上位種に加えて、ビッグベアやビッグビーがいる位で、そこまで強敵もおらず、1日1階層をサクサクと下りていく。勿論採集もしていくけれど、ヴィオ程熱心には掘り起こさない。だから肉の分量が増えてしまうのは仕方がないよね。

「お野菜の量が少なくない? って怒られちゃいそうよね」
「僕もそれ思ってた。けど、ポアレス以外はランダムだからね~、そんなに量があってもなぁって思うと掘りそこねちゃうんだよね」

 食事の時には父さんとヴィオの話が出ることも多い。僕たちの共通点だからという事はあるけれど、やっぱりヴィオの破天荒な行動に僕たち全員が大分影響されてるって事だろう。


 そしてダンジョンに潜って21日目、20階層に到着した
 少し日数が増えたのは、途中で高級魔虫のネッカーティンが見つかったからだ。硬化ガラスのような羽はとても販売価格が高く、全員で駆逐しに回ったから時間がかかった。今回ほど魔法を習得しておいて良かったと思ったことはないかもね。

「オトマンの【シャドーバインド】は良いね。蔦魔法だと発動のタイミングがずれると逃げられるけど、本体の影で拘束できるって逃げられないもんね」
「フィルはこの魔法が凄く上手かったんだ。完全無詠唱で使われれば本当に逃げる事なんてできないよ」

 おぉ、流石ヴィオの父親だね。
 ネッカーティンはこのダンジョンに出るとは書かれていなかったし、他のダンジョンでも時々突然出てくるという相手なので、今回は凄く運が良かったんだと思う。
 ダンジョン産だから傷がつくこともなく、とても綺麗な状態の羽は全員で平等に分けた。

 ラスボスは金ランクのためにソロで挑戦する必要がある。
 1人ずつ入って終了したら転移陣で1階に戻るから、最後になる奴は結構待つことになるんだけど、テリューが殿をしてくれるって言うから、ありがたく先に行かせてもらったよ。


 ギギ ギギ ギギギと古めかしい音を鳴らして開く扉。ヴィオは扉の音も演出だって言ってたよね。
 ダンジョンでは其処此処でヴィオの言葉を思い出して笑いそうになることが多い。
 真っ暗闇に足を踏み入れれば、バタンと大きな音を立てて扉が閉まり、少しずつ部屋が明るくなっていく。

「成程ね、僕が1人だから一匹なのかな。3人だったらナイトの他にハイが一緒にいた感じかな?」

 目の前には腕を組んで仁王立ちをしているオークナイトが一匹。

「ヒト豚……プフっ」

 はじめてオークナイトを見た時のヴィオの言葉を思い出してしまった。豚要素が顔しか残ってないとか、あれを真剣に言ってんだから、もう可愛いとしか言いようがないよね。
 普通は見た目の違いに恐怖を覚える人の方が多いだろう。ゴブリンもそうだけど、ヒト要素が強くなってくると忌避感が強くなる人は多い。まあヴィオの場合はヒトにあれだけ狙われてるから、ヒトでも魔獣でも同じなのかもしれないけどね。

 明るくなってオークナイトが雄叫びを上げる瞬間に【ウォーターバインド】で顔を包み込み、即座に【サンドカッター】で首を落として終了だ。
 全く武器を使うことなく倒すなんて数年前では考えてもなかったけど、かなり安全に使えるようになった。

 宝箱には肉とポアレス。以前だったら肉と魔石とかだった事を思えば、本当にダンジョン様がいるのかもしれないと思う。

「ダンジョン様、美味しく頂きますね。ありがとうございます!」

 見えない空中に向かってお礼を言ってから、転移陣に乗った。
 さて、テリューが出てくるまでに2時間くらいかな。何をして時間を潰すか考えないとだね。


  

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