ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
438 / 584
閑話

〈閑話〉サマニアンズ5

しおりを挟む
~トンガ視点~


 フィルさんと面会した3日後、僕たちは王都を出た。
 これから王妃の尋問を始めると教えてもらった。そしてあの付きまとい犯がガルデニア侯爵家の者であると分かっている今、それを侯爵に突き詰めて奴らをヴィオの付きまといから撤退させるように指示をすると言ってくれたからね。
 あとはお偉い貴族様のお話だから僕たちが居ても何もできないからという事で、金ランクになるための指定ダンジョンへ向かうことにしたんだ。

「ダンジョンがある町は、ヴィオが生まれたヘイジョーの近くなんだ。折角だからヘイジョーに寄ってかねえか?」
「おお、ヴィオより先に行くなんて拗ねられちゃいそうだけど行きたい!」

 テリューからの提案で僕たちはヘイジョーに寄り道をしてから目的の町に向かうことにしたんだ。
 王都に届いたサマニア村からの手紙には、ダムの見学をしてからルエメイの遺跡を見学してから帰ってくるとサブマスからの返信があったから、村に帰るのは来月になるかもしれない。

「ヴィオは誰よりも冒険者してるよな~」
「確かにそうよね、やってる規模があれだけど、誰よりも自由で、誰よりも冒険を楽しんでると思うわ」
「そう考えればアイリスの娘だって感じだよな。俺らと一緒にいたあの一年弱も、アイリスが一番自由だっただろう?」
「ふふっ、確かに。あの時はフィルもまだアワアワしてたわよね」

 テリュー、アン、レス、シエナの4人はフィルさんが学生で、アイリスさんがソロだった時代に出会ったらしい。お互いにソロ同士でコンビを組んで潜っていた2人にダンジョンで助けられたのが出会いだったそうだ。

「ゲルシイ私がパニックルームを開けちゃってさ、シエナが土壁で抑えてくれてたけど、魔力切れになりそうなときに助けに来てくれたんだよね」
「そうそう、気負うこともなく『助けは必要?』ってな。フィルと2人を包む水の壁のまま近づいてきてびっくりしたんだよな」
「あの時は動転してたけど、壁を作った状態で動けるとか考えたことがなかったから俺も冷静になってから驚いたことを覚えている」
「あ~、なんかヴィオの母ちゃんがそうだからなんだな。すげえ納得だわ」

 クルトの言葉に僕たちも頷くしかないよね。ヴィオの魔法の何が凄いって、無詠唱も凄いけど常識に縛られないって事だと思う。毛皮や鱗を高値で売りたいから傷を最小限にするためにって、あの極小ボールを思いつくんだからね。
 一本釣りも血抜きが早いからって理由だったし、理由がちょっと豪快というかあれだけど、実際そうすることで買取価格も上がるし、お肉も美味しくなるし、なにより危険が少なく討伐できるって凄いんだよね。

 ヘイジョーまでは馬車を使わず、時々自分たちに追い風魔法を使いながら移動した。おかげで一か月弱で到着することが出来た。旅の最中に聞くことが出来たヴィオの両親の話は、まさにヴィオの両親なんだなと思う事が多くて、本人は覚えていなくても親子で似る不思議を実感した。



「おう! 思ったより早かったな。サマニア村から手紙が来てるぞ」

 ヘイジョーのギルドに到着すれば、ギルマスから手紙を渡された。手紙というより小包だったそれはヴィオからの手紙で、思わず会議室を借りて全員で読んでしまったくらいだ。

「無事に銀ランクになったのね。というか上級ダンジョンのあの活躍で、まだ銅ランクだったのよねって感想になるけど」
「そんなにすげえのか?」
「すげえなんてもんじゃねえよ。俺らが何回びっくりさせられたか数えきれねえ」

〔土竜の盾〕の皆にかけられた誓約魔法はウミユダンジョン攻略後、ドゥーア先生の屋敷でフィルさんの話を伝えた後に破棄されている。だけど、彼らはフィルさん以外に伝えるつもりはないと、あの報告会の日にもギルマスに一旦退席してもらってから報告をしたくらいだ。

 手紙にはケストネル公爵領にある橋から見える景色の事、ダムの事、そこで出会った貴族の子供の事、ルエメイ遺跡での発見など、ヴィオが見てきた事、感じたことを沢山書いてくれていた。
 とっても素敵な景色だったから、今度はお兄ちゃんたちと一緒に見たいとか、本当に可愛いことを言ってくれるよね。

「そっちの小包は何が入ってるの?」
「ちょっと待ってね。え~っと、ああ! 頼んでたお守りを作ってくれたんだって。折角だから〔土竜の盾〕の皆の分もだって」

 ネリアの言葉に小包についての手紙を探すと、銀ランクになった報告の次の紙に書いてあった。父さんの長寿のお守りを見て、僕たちも作ってほしいとお願いしていたあれだ。
 小包を開けると小さな紙に包まれたお守りらしきものが入っている。数が多くなったから混ざらないように、一つずつにどの神様かを書いてくれてるんだね。

「じゃあ配るよ~、まずは―――」

 僕のは大樹の護り、ルンガは遠見の神、クルトは調理の神だね。これは自分たちで選んだ神様だ。
〔土竜の盾〕の皆の分は他のダンジョンでも見つけた神様なんだろう。僕たちが知らないのもあったね。

 テリューはリーダーとして皆を護るからという事で、水の護りアクテグミンナ。
 アンは武勇の神バロルーガ、うん、よね。
 レスは魔法担当だから、魔法の神マジドミラル。
 シエナには愛と豊穣の女神テクスアモール。料理をこれからも頑張ってほしいと書いてるけど、それならクルトとお揃いでも良かったんじゃないのかな?
 オトマンには森の神アルヴィーザル、神獣フェンリルを友人として森では自由に動き回れるから斥候にはぴったりだという事だった。
 ネリアには医療の神ミゼリコルディア、これは聖属性魔法を使うネリアが唱えていた神様の名前だったね。

「まじか、俺達も?」
「ふふっ、武勇の神だなんて嬉しいね!」
「これは、得意じゃなかった魔法も鍛える必要があるな。魔力操作も水から土に変更するかな」
「愛と豊穣だなんて嬉しいわ、お料理もアイリスには匙を投げられてたけど、ヴィオのお陰で上達できたしね」
「森の神か……、森は落ち着くから嬉しいな」
「ミゼリコルディアは一番お世話になっていると言えばそうだけど、その魔法陣を身に着けようなんて考えたことがなかったわ。なんだかもっと聖属性魔法の威力が上がりそう」
「え、ラスボスをワンパンでやる以上に?」
「あ、あれはちょっと計算外だったのよ~~~! 魔法陣に広範囲にするのと、威力増大を付けてたからよ、もぉ~~~!」

 皆が其々ペンダントトップを受け取って、嬉しそうにそれを眺めながらワイワイと盛り上がる。

「お前ら良いなぁ……、ヴィオがこの町に来てくれたら俺にも作ってくれるかなぁ……」

 ギルマスがショボンと独り言を呟いていたのには誰も気付かなかった。

  
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...