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閑話
〈閑話〉サマニアンズ 7
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※前半は、ヴィオが村に帰ったばかりの頃です※
~トンガ視点~
無事にルメスの森ダンジョンのソロ踏破をし、ヘイジョーに戻ればサマニア村と王都から手紙が届いていた。
「ヴィオが村で銀ランク昇進のお祝いパーティーを兼ねた祭りをすることになったってさ。あの村ではお祭りなんてすることもないし、皆も喜ぶだろうね。テリューの方はなんて?」
「ああ、王妃とやらはもう何言ってるかよく分かんねえってよ。現実と妄想が行ったり来たりっての? 死んだ侍女の事を未だに探したりしてるらしいぞ。
んで、実家の侯爵に例のギルドカードを突き付けた事でそっちは認めたらしい。ただし『部下が陛下の事を心配してお連れした方が良いのではと思った次第』とか言い逃れたらしいぞ。
とりあえずリズモーニにいる部下は引き上げるように指示を出すって事になったから、風の季節にはこっちに帰って来るんじゃねえかって話だ」
「そうなんだ、だったら安心だね。フィルさんに会わせるなら僕らがいるんだから、そいつらは不要だしね。はぁ~、やっとなんか安心できたかな」
皆も頷いているけど、やっぱりヴィオの近くにそんな奴らがいるっていうのは心配だったもんね。襲撃者が居なくなったら昇格パーティーもより楽しめそうだもんね。
「お前ら指定魔獣の討伐はどうするんだ?」
「あ~、そうだね……。リズモーニはギガントボアかゴールデントラウトなんだよね。トラウトは風の季節を待つ必要があるし、メネクセスってどこにいるの?」
「メネクセスは南部、ソシュール辺境伯領地の山だな。ジョカイ山脈に生息するアヤクマララが指定魔獣だ。もう一体は鳥だから場所が毎年変わるからな。アヤクマララはあの山に巣を作るから然程探し回る必要がないぞ」
レスの言葉で指定魔獣が決定した。
「んじゃあ、一番近い町がメキモモだな。なんかまた進展があったらメキモモ宛に手紙を送るぞ」
リズモーニ王国と国境を分けるジョカイ山脈。それなりに魔素が多くて魔獣も多く生息しているけれど、サマニア村の後ろに聳え立つレミスドーレ山脈程の危険な魔獣は山奥まで潜ってもいないと言われている。山自体が非常に長いし、両方の国に出ることができるし、竜が居ないというのも大きいと言われている。まあ僕たちだって本当に竜を見たことはないんだけどね。
そういう事で僕たちは準備を整えてメキモモの町があるソシュール辺境伯に向かって出発した。
そう、皆、ヴィオへの危険は全て排除されたと思っていたんだ。
メネクセス王国は広い、この大陸半分の国土を占めるんだから当たり前なんだけど、ヘイジョーは国の北西部にあって、目的地のメキモモは南西部にある。領地としては1つ跨ぐだけなんだけど、この領地が広い。リズモーニの二領地分くらいはあるから中々時間がかかる。
「いやいや、それでも追い風のお陰で随分早いぞ」
「そうよ、この移動速度って馬車移動と変わらないからね」
「まああれだな、ヴィオに常識を教える前に君らが一般的な冒険者の常識を覚える方が早いんじゃないか?」
「「「うっ……」」」
僕たち3人共が思わず息を飲んじゃうよね。
確かにサマニア村出身者って、産まれた時からあの環境で育つから、冒険者としてはかなり優秀な戦力になる子供が育つんだよね。ただ、あそこの常識で動くから、他の町の奴らと組んだりすると、その常識のすり合わせで疲れちゃうんだよね。討伐では俺たちに完全にお任せモードになられるのもウザいし、ルンガが参加してくれたおかげで、3人になってからは3人だけでどこでも行けるようになったけど、クルトと2人の時は面倒が多かったもんなぁ。
「まあ、ヴィオの考える快適な生活ってのは確かに捨てがたいけどな。だけど常識を知った上での非常識と、常識を知らないままどんどん進んでいくのは違うからな」
「ぜ、善処します……」
テリューの言うことも尤もだよね。料理に関しては父さんとクルトは駄目だし、魔法は僕たちが楽しみすぎる。だからお互いが嵌り過ぎない方の常識を覚えた方が良いね。
夏の盛りだったからか、雨で足止めされることもなく進み、ヘイジョーを出て一か月目に目的の町メキモモに到着した。
「ヘイジョー所属の〔土竜の盾〕と、リズモーニ所属の〔サマニアンズ〕だ。金ランク試験のためにアヤクマララを討伐しに来た。まずは手紙が届いていないか確認したいんだが」
「まぁ、金ランク試験の討伐依頼ですね、丁度良かったですわ。最近森に入った冒険者からアヤクマララの通り道らしき跡を見つけたと連絡があったばかりでしたの。え~っと、二組での討伐ですか?」
「もしその相手が一匹だけなら合同になるけど、複数いれば別々のパーティーとして討伐しますよ。金ランクの魔獣討伐はパーティー討伐で良かったですよね?」
「ええ、あまり人数が多い合同パーティーですと一匹だと依頼達成とはなりませんが……、全部で9人ですね。う~ん、個体の大きさにもよるとしか言えないですね。生まれたばかりの個体ですと討伐も容易ですから。成体の4メートル越えでしたら一匹でも大丈夫ですわ」
確かにパーティー合同で許可すれば、何人で討伐してもいいって事になるから制限がかかるのは当たり前だよね。僕とテリューがギルドカードを提出して手紙の確認をしてもらっている間に、森の中で採れそうな採集依頼がないかルンガたちが確認してくれているけど、これもヴィオの影響だね。
「お待たせいたしました。〔土竜の盾〕にはヘイジョーから、〔サマニアンズ〕にはサマニア村からお手紙がありました。討伐はいつから行かれますか?」
「あ~、さっき到着したばっかりだから、少しゆっくりしてからかな。急ぐ感じなの?」
「ああいえ、そこまで急いではいないのですが、出来れば夏の間に討伐が出来れば有難いと思っておりまして……」
「それなら問題ない。ゆっくりすると言っても数日の話だ。武器の補修が終われば直ぐにでも向かう」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願しますね! 一番最近見られた跡は西の入り口から森に入って2時間程登ったあたりという事でしたので」
ブンブンと手を振りながら見送られたけど、出来るだけ早く討伐してほしいってところかな。サマニア村からの手紙は二通あり、ヘイジョーからの手紙は厚みのある物が数枚ある。ヴィオの件が片付いた報告にしては随分多い気がするけど……。
「とりあえず宿に行こう」
「そうだね」
テリューと頷き合って皆を連れて宿に向かった。3人部屋を3つ、そのうちのひとつに全員が集まって車座になって手紙を開く。
「なっ!」
「どういうこと!?」
代表で僕とテリューが其々の手紙を開けて確認したんだけど、どういうこと? 思わず大きな声が出てしまえば、皆がどうしたと確認してくるのでテリューから説明してもらうことにした。多分同じことが書いてあるんだろう。僕は今冷静でいられる気がしないから……。
「――ヴィオが攫われて、それを助けに向かったアルクさんが……亡くなったそうだ」
「「「「!?」」」」
「テリュー、ちょっと待てよ、父さんが死んだってどういうことだ? ヴィオが攫われたって、なんで、何があった?」
「ルンガ待て! テリューだって今手紙で知ったばかりだろうが、まずは他の手紙も読むしかないだろう、冷静になれ! トンガ、お前の方にも同じことが書いてあったのか?」
こういう時にクルトが居てくれて助かると、本当に思う。
「ああ、実行されたのは祭りの日、実行犯はあのスチーラーズの3人だって」
「はぁ? あのヘナチョコ3人組が? なんで、あいつらヴィオにめちゃ懐いてたじゃねえか」
本当にそうだよね、ヴィオちゃん先生だなんて言ってたあいつらが、親しくなったのをいいことにヴィオを騙して、村人も騙して眠り薬を飲ませるなんて、誰も思わなかったんだろうね。
「あの3人組のリーダーが皇国で生きてたらしくて、皇国の聖結界魔道具を盗み出して、山を越えてリズモーニに来たらしいぞ。あいつら、ヴィオの母さんを殺した暗殺犯の生き残りだったんだって」
「えっ!? ちょっと待って、それって、そのリーダーって奴が……?」
「ネリアは何か知ってるのか?」
「ルンガ君落ち着いて、私とネリアとテリューで皇国に聞き込みに行った話はしたよね? その時にヴィオが捨てられたって証言したのが多分そいつなの。まさかそいつの部下が生きてたとは思わなかったわ……。もしかしたらヴィオの生存を私達が確信して動いたのを見て、奴も何か勘付いたのだったら私たちが原因よ」
ネリアは真っ青な顔でカタカタと震えているけど、別に彼らが悪いとは思っていない。だって彼らが捜していた時は生存が絶望的な状況で、もしかしたらという小さな可能性に賭けて動いただけだから。
「――ああ、あの女だけは生き残ってたらしいぞ。尋問の結果、飼い犬だった暗殺者2人は侯爵から切られたみたいだな。それを恨んでヴィオを攫ってフィルさんの目の前に無残な姿をさらすつもりだったんだと。
あの3人組は実の父親に会わせるために、貴族令嬢としての躾をする必要もあるから早めにアルクさんから離す必要があるって言われたみたいだな。
まあそれも大分リーダーって奴に酷い拷問をされたうえで了承させられたって感じだったみたいだけどな。ちっ、胸糞悪りぃな」
「ヴィオが攫われた時、村人は強力な眠剤を混ぜた酒で泥酔状態、同時に放火、子供の誘拐の為に20人以上の破落戸が突入……、随分計画的に準備されてたんだな。しかもギルド会議でギルマスもサブマスも不在になった翌日に開催されてるのは、まあ計画って事だろうな」
あの2人が居たらきっと……、いや、過ぎたことを言っても仕方がない。
「状況がおかしいと気付いたアルクさんが帰宅した時は部屋にいた筈のヴィオが居なくなってて、誘拐に気付いたんだと。で、即座に山に向かって走ったのをエデルって人が追いかけたみたいだな」
ああ、ヴィオが教えてくれた追跡魔法を使ったんだろうね。そうか、僕たちはまだ上手に使えないけど、父さんは一番使う必要があるからって、ダンジョンでも見守りながらずっと練習してたんだもんね。
「結果、山の奥まで痕跡があって、エデルさんは山の麓で待機、アルクさんはそのまま奥に入ったらしいって……、あの魔の森に身一つで入ったのか?」
「その後スタンピードが起きても良い様に他の村人は森の外で待機してたけど、そこまで酷いのが出てくることなく、魔獣の断末魔のあと、山が光った……? ってどういうことだ?」
「翌朝捜索に入った人が大量の魔獣の遺骸と、魔道具の範囲内で亡くなったアルクさんと、穴あきの暗殺者とみられる遺体2つ、ゲドゥのギルドタグと多分肉片らしき痕跡を見つけたけど、その場にヴィオの姿はなかったと」
あの魔の山のさらに奥、そんな場所の魔獣に攻撃されて、父さんと分かるだけの体が残っていたというのは奇跡かもしれない。もしかしたら……、いやいや、そんな都合のいい事はないだろう。でも……。
「父さんを魔獣に喰われないように救い出してくれた人が、もしかしたらヴィオを救出してくれたんじゃねえか?」
ルンガの声に僕も顔を上げてしまう。弟だからかな、同じことを考えてたか。
「それならいいけど、じゃあその人はヴィオをどこに連れて行ったのかしら……」
シエナの言葉に再び静まり返る室内。
「あ~、これが一番新しいやつだな。ヘイジョーのギルマスからだ、読むぞ」
《今回の事は既にフィルにも連絡済みで、リズモーニ国内でもお前たちが知っている貴族は捜索の為に協力を惜しまないと言ってくれている。
まずお前たちにしてもらいたいのは指定魔獣の討伐をして金ランクになる事、その上でフィルからの指名依頼を出すからそれを受けてくれ。
依頼内容はサマニア村にいるインランという生き残りをフィルの元に連れてくることだ。そっちでの尋問も済んでいるらしく、本人も素直にゲロってるから抵抗はしないだろうけど、侯爵家からすれば連れてこられると困る証人でもあるからな、国内に入ってからは気を付けるようにとの事だ》
皆が顔を見合わせて頷き合う。
今はまだ気持ちが浮ついてるし、現実を受け入れがたいけど、まずやることが決まればその為に動くだけだ。さっさと討伐して、ランク上げてしまおう。
~トンガ視点~
無事にルメスの森ダンジョンのソロ踏破をし、ヘイジョーに戻ればサマニア村と王都から手紙が届いていた。
「ヴィオが村で銀ランク昇進のお祝いパーティーを兼ねた祭りをすることになったってさ。あの村ではお祭りなんてすることもないし、皆も喜ぶだろうね。テリューの方はなんて?」
「ああ、王妃とやらはもう何言ってるかよく分かんねえってよ。現実と妄想が行ったり来たりっての? 死んだ侍女の事を未だに探したりしてるらしいぞ。
んで、実家の侯爵に例のギルドカードを突き付けた事でそっちは認めたらしい。ただし『部下が陛下の事を心配してお連れした方が良いのではと思った次第』とか言い逃れたらしいぞ。
とりあえずリズモーニにいる部下は引き上げるように指示を出すって事になったから、風の季節にはこっちに帰って来るんじゃねえかって話だ」
「そうなんだ、だったら安心だね。フィルさんに会わせるなら僕らがいるんだから、そいつらは不要だしね。はぁ~、やっとなんか安心できたかな」
皆も頷いているけど、やっぱりヴィオの近くにそんな奴らがいるっていうのは心配だったもんね。襲撃者が居なくなったら昇格パーティーもより楽しめそうだもんね。
「お前ら指定魔獣の討伐はどうするんだ?」
「あ~、そうだね……。リズモーニはギガントボアかゴールデントラウトなんだよね。トラウトは風の季節を待つ必要があるし、メネクセスってどこにいるの?」
「メネクセスは南部、ソシュール辺境伯領地の山だな。ジョカイ山脈に生息するアヤクマララが指定魔獣だ。もう一体は鳥だから場所が毎年変わるからな。アヤクマララはあの山に巣を作るから然程探し回る必要がないぞ」
レスの言葉で指定魔獣が決定した。
「んじゃあ、一番近い町がメキモモだな。なんかまた進展があったらメキモモ宛に手紙を送るぞ」
リズモーニ王国と国境を分けるジョカイ山脈。それなりに魔素が多くて魔獣も多く生息しているけれど、サマニア村の後ろに聳え立つレミスドーレ山脈程の危険な魔獣は山奥まで潜ってもいないと言われている。山自体が非常に長いし、両方の国に出ることができるし、竜が居ないというのも大きいと言われている。まあ僕たちだって本当に竜を見たことはないんだけどね。
そういう事で僕たちは準備を整えてメキモモの町があるソシュール辺境伯に向かって出発した。
そう、皆、ヴィオへの危険は全て排除されたと思っていたんだ。
メネクセス王国は広い、この大陸半分の国土を占めるんだから当たり前なんだけど、ヘイジョーは国の北西部にあって、目的地のメキモモは南西部にある。領地としては1つ跨ぐだけなんだけど、この領地が広い。リズモーニの二領地分くらいはあるから中々時間がかかる。
「いやいや、それでも追い風のお陰で随分早いぞ」
「そうよ、この移動速度って馬車移動と変わらないからね」
「まああれだな、ヴィオに常識を教える前に君らが一般的な冒険者の常識を覚える方が早いんじゃないか?」
「「「うっ……」」」
僕たち3人共が思わず息を飲んじゃうよね。
確かにサマニア村出身者って、産まれた時からあの環境で育つから、冒険者としてはかなり優秀な戦力になる子供が育つんだよね。ただ、あそこの常識で動くから、他の町の奴らと組んだりすると、その常識のすり合わせで疲れちゃうんだよね。討伐では俺たちに完全にお任せモードになられるのもウザいし、ルンガが参加してくれたおかげで、3人になってからは3人だけでどこでも行けるようになったけど、クルトと2人の時は面倒が多かったもんなぁ。
「まあ、ヴィオの考える快適な生活ってのは確かに捨てがたいけどな。だけど常識を知った上での非常識と、常識を知らないままどんどん進んでいくのは違うからな」
「ぜ、善処します……」
テリューの言うことも尤もだよね。料理に関しては父さんとクルトは駄目だし、魔法は僕たちが楽しみすぎる。だからお互いが嵌り過ぎない方の常識を覚えた方が良いね。
夏の盛りだったからか、雨で足止めされることもなく進み、ヘイジョーを出て一か月目に目的の町メキモモに到着した。
「ヘイジョー所属の〔土竜の盾〕と、リズモーニ所属の〔サマニアンズ〕だ。金ランク試験のためにアヤクマララを討伐しに来た。まずは手紙が届いていないか確認したいんだが」
「まぁ、金ランク試験の討伐依頼ですね、丁度良かったですわ。最近森に入った冒険者からアヤクマララの通り道らしき跡を見つけたと連絡があったばかりでしたの。え~っと、二組での討伐ですか?」
「もしその相手が一匹だけなら合同になるけど、複数いれば別々のパーティーとして討伐しますよ。金ランクの魔獣討伐はパーティー討伐で良かったですよね?」
「ええ、あまり人数が多い合同パーティーですと一匹だと依頼達成とはなりませんが……、全部で9人ですね。う~ん、個体の大きさにもよるとしか言えないですね。生まれたばかりの個体ですと討伐も容易ですから。成体の4メートル越えでしたら一匹でも大丈夫ですわ」
確かにパーティー合同で許可すれば、何人で討伐してもいいって事になるから制限がかかるのは当たり前だよね。僕とテリューがギルドカードを提出して手紙の確認をしてもらっている間に、森の中で採れそうな採集依頼がないかルンガたちが確認してくれているけど、これもヴィオの影響だね。
「お待たせいたしました。〔土竜の盾〕にはヘイジョーから、〔サマニアンズ〕にはサマニア村からお手紙がありました。討伐はいつから行かれますか?」
「あ~、さっき到着したばっかりだから、少しゆっくりしてからかな。急ぐ感じなの?」
「ああいえ、そこまで急いではいないのですが、出来れば夏の間に討伐が出来れば有難いと思っておりまして……」
「それなら問題ない。ゆっくりすると言っても数日の話だ。武器の補修が終われば直ぐにでも向かう」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願しますね! 一番最近見られた跡は西の入り口から森に入って2時間程登ったあたりという事でしたので」
ブンブンと手を振りながら見送られたけど、出来るだけ早く討伐してほしいってところかな。サマニア村からの手紙は二通あり、ヘイジョーからの手紙は厚みのある物が数枚ある。ヴィオの件が片付いた報告にしては随分多い気がするけど……。
「とりあえず宿に行こう」
「そうだね」
テリューと頷き合って皆を連れて宿に向かった。3人部屋を3つ、そのうちのひとつに全員が集まって車座になって手紙を開く。
「なっ!」
「どういうこと!?」
代表で僕とテリューが其々の手紙を開けて確認したんだけど、どういうこと? 思わず大きな声が出てしまえば、皆がどうしたと確認してくるのでテリューから説明してもらうことにした。多分同じことが書いてあるんだろう。僕は今冷静でいられる気がしないから……。
「――ヴィオが攫われて、それを助けに向かったアルクさんが……亡くなったそうだ」
「「「「!?」」」」
「テリュー、ちょっと待てよ、父さんが死んだってどういうことだ? ヴィオが攫われたって、なんで、何があった?」
「ルンガ待て! テリューだって今手紙で知ったばかりだろうが、まずは他の手紙も読むしかないだろう、冷静になれ! トンガ、お前の方にも同じことが書いてあったのか?」
こういう時にクルトが居てくれて助かると、本当に思う。
「ああ、実行されたのは祭りの日、実行犯はあのスチーラーズの3人だって」
「はぁ? あのヘナチョコ3人組が? なんで、あいつらヴィオにめちゃ懐いてたじゃねえか」
本当にそうだよね、ヴィオちゃん先生だなんて言ってたあいつらが、親しくなったのをいいことにヴィオを騙して、村人も騙して眠り薬を飲ませるなんて、誰も思わなかったんだろうね。
「あの3人組のリーダーが皇国で生きてたらしくて、皇国の聖結界魔道具を盗み出して、山を越えてリズモーニに来たらしいぞ。あいつら、ヴィオの母さんを殺した暗殺犯の生き残りだったんだって」
「えっ!? ちょっと待って、それって、そのリーダーって奴が……?」
「ネリアは何か知ってるのか?」
「ルンガ君落ち着いて、私とネリアとテリューで皇国に聞き込みに行った話はしたよね? その時にヴィオが捨てられたって証言したのが多分そいつなの。まさかそいつの部下が生きてたとは思わなかったわ……。もしかしたらヴィオの生存を私達が確信して動いたのを見て、奴も何か勘付いたのだったら私たちが原因よ」
ネリアは真っ青な顔でカタカタと震えているけど、別に彼らが悪いとは思っていない。だって彼らが捜していた時は生存が絶望的な状況で、もしかしたらという小さな可能性に賭けて動いただけだから。
「――ああ、あの女だけは生き残ってたらしいぞ。尋問の結果、飼い犬だった暗殺者2人は侯爵から切られたみたいだな。それを恨んでヴィオを攫ってフィルさんの目の前に無残な姿をさらすつもりだったんだと。
あの3人組は実の父親に会わせるために、貴族令嬢としての躾をする必要もあるから早めにアルクさんから離す必要があるって言われたみたいだな。
まあそれも大分リーダーって奴に酷い拷問をされたうえで了承させられたって感じだったみたいだけどな。ちっ、胸糞悪りぃな」
「ヴィオが攫われた時、村人は強力な眠剤を混ぜた酒で泥酔状態、同時に放火、子供の誘拐の為に20人以上の破落戸が突入……、随分計画的に準備されてたんだな。しかもギルド会議でギルマスもサブマスも不在になった翌日に開催されてるのは、まあ計画って事だろうな」
あの2人が居たらきっと……、いや、過ぎたことを言っても仕方がない。
「状況がおかしいと気付いたアルクさんが帰宅した時は部屋にいた筈のヴィオが居なくなってて、誘拐に気付いたんだと。で、即座に山に向かって走ったのをエデルって人が追いかけたみたいだな」
ああ、ヴィオが教えてくれた追跡魔法を使ったんだろうね。そうか、僕たちはまだ上手に使えないけど、父さんは一番使う必要があるからって、ダンジョンでも見守りながらずっと練習してたんだもんね。
「結果、山の奥まで痕跡があって、エデルさんは山の麓で待機、アルクさんはそのまま奥に入ったらしいって……、あの魔の森に身一つで入ったのか?」
「その後スタンピードが起きても良い様に他の村人は森の外で待機してたけど、そこまで酷いのが出てくることなく、魔獣の断末魔のあと、山が光った……? ってどういうことだ?」
「翌朝捜索に入った人が大量の魔獣の遺骸と、魔道具の範囲内で亡くなったアルクさんと、穴あきの暗殺者とみられる遺体2つ、ゲドゥのギルドタグと多分肉片らしき痕跡を見つけたけど、その場にヴィオの姿はなかったと」
あの魔の山のさらに奥、そんな場所の魔獣に攻撃されて、父さんと分かるだけの体が残っていたというのは奇跡かもしれない。もしかしたら……、いやいや、そんな都合のいい事はないだろう。でも……。
「父さんを魔獣に喰われないように救い出してくれた人が、もしかしたらヴィオを救出してくれたんじゃねえか?」
ルンガの声に僕も顔を上げてしまう。弟だからかな、同じことを考えてたか。
「それならいいけど、じゃあその人はヴィオをどこに連れて行ったのかしら……」
シエナの言葉に再び静まり返る室内。
「あ~、これが一番新しいやつだな。ヘイジョーのギルマスからだ、読むぞ」
《今回の事は既にフィルにも連絡済みで、リズモーニ国内でもお前たちが知っている貴族は捜索の為に協力を惜しまないと言ってくれている。
まずお前たちにしてもらいたいのは指定魔獣の討伐をして金ランクになる事、その上でフィルからの指名依頼を出すからそれを受けてくれ。
依頼内容はサマニア村にいるインランという生き残りをフィルの元に連れてくることだ。そっちでの尋問も済んでいるらしく、本人も素直にゲロってるから抵抗はしないだろうけど、侯爵家からすれば連れてこられると困る証人でもあるからな、国内に入ってからは気を付けるようにとの事だ》
皆が顔を見合わせて頷き合う。
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