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勇者と修行
第413話 体力作り
しおりを挟む炊飯器が完成したこともあり、今朝もお米を炊いてますよ。
「俺は、アレが食べたい!」
朝食の支度が整ったところでチアキさんが唐突にそんな事を言ったんだけど、アレとは何ぞ? 白雪さんを見ても首を傾げているし、何でしょうかね。
「醤油もあるだろう? 米もある。出汁は足りんが味噌汁もある。となればやっぱり朝食で卵かけご飯が食べたくないか?」
T・K・G
それは……、それは私も考えたことはある。
だけど、この世界で流通している卵はココッコの卵で、あれはL卵の三~五つ分くらいあってデカい。それに、日本以外では生卵を食べる文化は無く、生卵を食べることができる日本は、衛生管理が凄いからだと色んなところで読んだ覚えがあった。だからこそ醤油が見つかっても親子丼の半熟卵で我慢していたんだけど……。
「【クリーン】をすればよくないか? 殻だけの洗浄で気になるなら、割ってからもすればいい。汚れを落とす事だけを考えれば余分なものだけを除けるだろう?」
「チ、チアキさん、いや、チアキ師匠! 全くその考えには到達していませんでした! 私もTKG食べたいです!」
「ティーケージー? 卵かけご飯の話をしていたんじゃないのか?」
なんてこった! そんな初歩的な事を思いつかないなんて、私のバカバカ! いや、ここで知れただけ良かったじゃないか。白雪さんは私達のテンションに驚いて固まっているけど、大丈夫、きっと食べれば分かるからね。いや、けど外国人は生卵が気持ち悪いっていう人もいるから別で準備するか。
ということで、早速卵を器に割って――デカいな。
「食えるが、この調子で食ったら米がすぐに無くなるな。三等分にしようか。まずは【クリーン】」
器の中の卵が水玉に包まれるけど、黄身が割れることもなく器に戻ってきてくれました。そのまま溶き卵にしてから小鉢に三等分、其々の手元へ配られた黄色い液体。
チアキさんが醤油をタラリとその中に垂らし、私はほんの少しだけ。足りなければもう少し足すけど、まずは久しぶりの生卵とご飯のマリアージュを楽しみたい。
白雪さんは躊躇っているので、まずは普通に白ご飯を楽しんでもらえばいいと思う。無理なら玉子焼きにすればいいしね。
「よしっ、では――」
「「「いただきます」」」
ホカホカと湯気の上がる白飯の中央にくぼみを作り、そこに黄色い液体をゆっくり注ぎ込む。器から漏れ出ないように、最後の一滴が落ちたのを確認して小鉢を戻す。まずはかき混ぜずにそのまま、卵と白米の混ざったところを一緒にパクリ。
(はぁ~~~~ん、卵に包まれたお米がトゥルンってなって、柔らか甘いっていうか、とりあえずうま~い!)
その昔は、それこそ白飯の上に直接卵を割って入れるなんて豪快な事をしてた気がするけど、ちゃんと混ぜてから入れたことで、まろやかさが上がっている気がする。いや、これはココッコの卵だからか?
もう少し醤油を足して、今度は全体をかき混ぜてから一口。
(はぁ~~~~~ん、醤油と卵のコラボ、これに勝るものはないんじゃない? 醤油で色付け、味付けされた溶き卵と白飯のマリアージュ、これは飲める!)
会話もなく、ただただTKGを堪能していた私達。
白雪さんとミケさんが不思議そうな顔をしていたなんて、その時の私たちに気付けるような余裕はありませんでした。
さて、お米はかなり大量に採集していたからまだ余裕はあるけど、多分これからしばらくチアキさんの主食は米になると思うんだよね。TKGは美味しいけど、やっぱり白米も食べたいからって二杯はお替りしちゃうし、ちょっと危険なのです。
ということで、ミドウから近い豊作ダンジョンにお米があるのか、他に何か珍しい食材があるかを調べに行きたいと思っています。
だけどその為には体力を回復させないとなんですよ。三週間ほど寝込んでいた事もあって、体力と筋力が落ちてるんだよね。あれだけ毎日ストレッチと魔力訓練をしていたのに、たった三週間サボるだけでこんなに動きが鈍るとか驚きだよ。
「いやいや、だけど7歳の女児だと思えば凄いと思うぞ? 余程鍛えられてたんだな。まあその年で銀ランクになってるってのも伊達じゃないって事なんだろうな」
「これはお父さんと毎日やってたんです。だから折角教えてもらった事を無駄にするのも嫌なんです」
チアキさんと白雪さんが見守る中、一人でストレッチをしている朝。
食事もちゃんと食べられるようになったし、まだ感情の振れ幅は大きくて、何かあれば直ぐに泣いちゃうけど、大分気持ちも落ち着いてきている。
いつまでもウジウジしているよりは、しっかり身体を動かした方が嫌な事を考えなくて済む。
「俺も終活ばっかり考えるんじゃなくて、身体を動かすか~」
「なんじゃ、結局チャーキもやるんじゃな」
見ていただけのチアキさんがふらりと居なくなったと思えば、動きやすい格好に着替えて庭に出てきた。冒険者装備にしては軽装だけど、カンフーとかの道着っぽいかな。黒地に赤い腰ベルトと袖や裾には赤いパイピングが入っているのでキリリと引き締まって見える。長い上衣は腰の辺りから膝まで両サイドにスリットが入っているから、動きは阻害されなさそう。下のズボンも裾絞りになっているから男女どちらでも着れそうな感じだね。
というか、着替えてきたという事は一緒にストレッチからやってくれるのかな?
三十分ほどゆっくりとストレッチをしていれば、途中でベル君とルイスさんも参加。白雪さんはそれを笑いながら眺めていた。
「よし、どうせならランニングもした方がいいだろう? ギルドの地階よりもキツイ場所がある、行くぞ」
そう言って走り出したチアキさんの後をついて行けば、お屋敷の裏から海のある方へ行くようだ。おぉ! 今世初の海ですよ。
見えている海は砂浜がある海のようで、刈り取られた草原には砂で道が作られている。そこをチアキさん先導でタッタと走る。
「わぁ~! 凄い! 真っ白な砂浜だ~!」
「なんだ、こんなのが珍しいのか?」
「ヴィオ様がお住まいの場所は山沿いでしたからね、海はご覧になった事がなかったのでしょう」
防風林なのか、少し背の高い木々を抜ければ、一面真っ白な砂浜が広がっていた。そしてその向こうには真っ青な海と空。懐かしいと感じるよりは「凄い」という感動が出てくるので、きっと前世の私は海の側に住んでいた訳ではないのだろう。
シャリッ シャリッ シャリッ
砂浜に到着したばかりの時には、足元がサラサラする砂で滑りそうだなぁと思ったくらいだった。
サクッ サクッ サクッ
少し進めば、ちょっと砂に足を取られやすくなってきたなと思い、ちょっと走りにくさを感じ始める。
ズブン ズブン ズブン
「ち、チアキさん、結構足が沈むんですが……」
「おお、そうだろう? 足腰が鍛えられるぞ」
全く走るペースが変わらないチアキさんだけど、私とベル君は既に置いていかれ始めている。ええっ? 砂浜ってこんなに走り辛くなるものなの?
「全身の筋肉を意識しろ~。足首、ふくらはぎ、太もも、尻も大事だぞ。全部を意識して足を踏み出すんだ。何も考えずに足を前に出していれば前に進める場所だけじゃない。
特殊ダンジョンは雪道、沼地、傾斜がきつい山道、色々あるぞ。そんなところでは下半身だけじゃない、上半身も意識しないと前に進めなくなる。その練習だと思え」
まじか……。確かに走ろうと思っても足が沈むし、砂が微妙に傾くから適当に走ってたら足を捻りそう。ランニングの時には身体強化は使わないようにと言われているので、自分の体力と筋力だけで頑張るしかない。
次に何処へ足を置くのか、そんな事を考えて走った事はなかったけど、チアキさん、ルイスさんが走った足跡を踏むつもりで足を踏み出していく。
「本当に勘が良いというか、凄いなぁ。それも親父さんの教えが活きてるってことだな!」
走ることに集中しないと危険だから返事は出来ないけど、そうか、そうだよね。こういう一つ一つが、母さんとお父さんが教えてくれた事なんだよね。それをちゃんと私が活かすことができれば、二人は私の中で生き続けてくれるのと同じだよね。
「俺も負けてられねぇ!」
気合を入れ直していたら、隣を走っていたベル君も気合を入れ直していた。やっぱり競い合える同年代の人って大事なんだろうね。レン君やハチ君も元気にしているかな? 次に会った時には凄く大きくなっているんだろうな。
うん、彼らもきっと強くなってるだろうから、負けないように頑張らないとだね。
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