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勇者と修行
第412話 魔道具の不思議
しおりを挟むドゥーア先生に手紙を送ったあの後は、ベル君のご両親というか村長さん達に挨拶をしに行った。
ベル君救出について、なんか凄い美化されてるっぽくて、滅茶苦茶感謝され過ぎて申し訳ない感じになった。だって覚えてないし、モフ熊状態の白雪さんをお父さんと勘違いして回復したとか聞いてるし、目覚めた当日にベル君を泣かせたしね。
それはさておき、翌日からチアキさんとの特訓というか色々教えてもらう日々が始まった。まだ小さいから、毎日の訓練にするよりは隔日にしようと言われ、魔法と武術の日と、魔道具作りの日を交互にする予定になった。
ベル君は魔道具作りに興味はないというか、じっと座って勉強することが苦手だというので「頭が良くて色々考えることができる人って格好良いよね、頼りになるよね」と言って焚きつけておいたので、魔道具作りの日には、ご両親の元で座学の勉強を始めたらしい。これはご両親とルイスさんから感謝された。
「ヴィオ! 釜が出来たぞ。今日の魔道具の勉強は炊飯器にしよう!」
朝からテンションが高いチアキさん。どうやら頼んでいた釜が出来たようだ。見本で一合炊きの炊飯器を貸し出ししていたからね。届いた釜は五合炊きのサイズで、素晴らしい出来だった。
「おぉ! 大きさも良いですね。じゃあ錬成って事ですね」
「おう、これで今夜は米が食えるな。これが完成するまで我慢したからな、楽しみだぞ!」
そう言って嬉しそうなチアキさんと実験室へ。いそいそと棚からチアキさんが引っ張り出してきたのは大きな布。一体何に使うのかと思ったんだけど、それを広げたものを見て驚いた。
「チアキさん、これって錬成陣ですか?」
「そうだぞ。ヴィオも使ったことがあるだろう?」
いや、私が使っていたのはミスリル製の板だったし、錬成陣の形が違いました。布って持ち運びが出来るしめちゃ便利そうじゃん。何でコレがアレになったんだ?
私が知っている錬成陣は七つの属性が刻まれた七芒星だった。
だけど目の前に広げられた布にあるのは九つの属性が入っている九芒星なのだ。だけど凄く納得する。だってこれには光と無が入っている。絶対あるはずだと思った二つはやっぱり存在したんだね。
「あ! そういえば何でギルドカードって七つしか属性がないんですか? 光と無は属性表記されないですよね?」
あのカードシステムを考えたのはチアキさんと、エルフのイヴォンネさんだ。多分カードを基に水晶ピカーが始まったから、あの水晶もその七属性になったんだろう。
「ん? 違う違う、逆だ逆、水晶は俺が生まれた時には既にあったんだ。それを見て参考にしたからな。今思えば、無属性は色が出ないから分からないんだろうな、で光属性は明るい光だったんだと思うぞ。水晶は光るだろう? 生活魔法を考えた時にイヴォンネと理解したんだ。【ライト】は光属性だよなって。
だから多分、光と無属性は誰もが持ってる当り前の属性なんだと思うぞ。
というか、闇と聖以外は水晶が光らなくても皆使えるだろう? それと一緒だな。多少【無】と【光】が強くても、水晶では見た目に色が出ないから分からないって事だ」
気付かない状態でカードを作ったから、カードに登録されたのは七つの属性だけだったんだって。だけどそれ以外の属性もあるよな? ってなった後に変更しなかったのは、貴族は水晶だけで判断するし、目に見えない属性を確認する術がないと煩い奴が出るだろうからという事だった。納得です。
チアキさんにはミスリル板の錬成陣を使っていた事、七芒星だった事などを説明すれば驚いていた。
「あ~、態々ミスリルを使ってるのは、属性不足を補う為に魔力を流しやすくする為とかだったのかもしれないな。ヴィオがあっちの連中の前で使うなら、そのミスリルを使った方が良いかもしれんが、これなら持ち歩けるし、失敗してもやり直しが効くから、一人で使うならこれを覚えておくと良いぞ」
「やり直しが出来るのですか?」
「そりゃそうだ、錬成した後に確認が必要だろう? その時に失敗していたらまた最初からやり直しになるじゃないか。素材も勿体ないだろう? 魔法陣だけは書き直す必要があるけど、それ以外は大丈夫だぞ」
――な、なんという反則技。
聞けばこの錬成陣では、結合だけではなく、分離も可能だという。あれです、土の中から金属を取り出すガチの錬金術もできるって事ですよ。
「おお、俺も最初はそれを思いついたぞ。けど、土の中から金属を取り出すだけなら【クリーン】で泥を取り除けば金属が残るしな、果物から水分を取り出すだけなら【ドライ】でいけるだろう? 果汁と果実を分けるなら便利かもしれんが、手で絞ってもかなり果汁は採れるから、錬成陣を出す方が面倒なんだよな」
それは……そうですね。金属だけが欲しいなら、それこそ鉱山ダンジョンに行けば余裕で採掘できるし、そんなに必要ではないかもしれない。
「あ~、そっか、それで分離が無くなったのかもな。ミスリル板とは違って、布製だと破れて駄目になることもある、その一部を見つけたやつが作ったのかもしれんし、口伝で伝わってたならどこかでミスが起きていても不思議じゃない。自分たちが知っている属性だけで作り上げたとしてもおかしくはない」
成程、それで成功しちゃったならこれでいいじゃないかとなるかもしれないね。
七芒星の錬成陣では三つの丸のどれかに魔力を流すことで結合が完了するんだけど、九芒星の正式な錬成陣では、光と闇の真下にある二つの丸に魔力を流すことになるようだ。
「どれか一つの方が面倒そうだよな。二カ所だと両手をついて流せばいいからな。ヴィオやってみろ」
「わかりました」
チアキさんに言われて九芒星の中央に釜と炊飯器の魔法陣、火属性の魔石一個を入れる。言われた通り光と闇の下にある円に手のひらを付けて魔力を流せば、魔法陣の外側の円、内側の星、手を乗せている小さな丸印が煌き始める。
ミスリル板で作る時はこんなゴージャスな現象は起きなかったから驚いているんだけど、チアキさんもルイスさんも何も言わないからコレが通常なのかもしれないと思い、魔力を流し続ける。
「チアキさん、これって魔力はいつまで流しますか?」
「ん? ああ、もういいぞ。光ったらほぼ完成しているからな。あとは光が治まるのを待てばいい」
先に教えて欲しかったですよ。ミスリルの錬成陣では光らない事、魔力を流してしばらくすれば、煙のようなものが出て素材が包み込まれたら魔力を止めているのだと告げたら爆笑された。
「なんだそれ! そっちの方が余程魔法を使っている気になるな。煙って何の原理で出来てるんだ? 水を火で一気に蒸発させて、風で広げてるのか? 闇で素材を隠しているとかか? いや、それなら他の属性は何をしてるんだって事になるよな。それは面白いな、見てみたいぞ」
「不思議ですね、その煙は何で出来ているのかも確認してみたいものです」
二人にとっては謎の煙の方が不思議現象だったようです。確かに、最初見た時は驚いたけど、それが普通だと教わると、そういうものなのかと納得してたよね。こっちの光は光、土、風。聖、水、闇。木、火、無の順に高速で光が走ってたから星を形どるためなのだと分かりやすかったけど、あの煙は何だったのかよく分からない。うん、この魔法陣を内緒にするなら気にしないでおこう。
光が収まれば、魔法陣と魔石は姿を消しており、釜だけが鎮座している。外釜にはしっかりと魔法陣が刻まれており、何個も作ったあの炊飯器と遜色ないと思われる。
「よし、じゃあこれで完成かどうか、米を炊いて食ってみよう」
まあそうなりますよね。
お米を水に浸けている間に米に合う食事も準備ですよ。ミケさんはすっかりハズレ素材を使うのにも慣れて、迷いなく料理を作ってくれている。あの肉球猫ハンドで器用に包丁だって握るんですよ。
現実にいるニャン様より大きいし、人の手程ではなくてもかなり器用に色んなものを使えるのであれば、別にどんな仕事でも出来そうなのにね。ヒトの姿を作れないだけで出来損ない扱いするなんて酷い話ですよ。
居間とキッチンはそれなりに離れているんだけど、さっきからキッチンの入り口前を何度も同じ影が通り過ぎるんですよね。
「チアキさん、お米は十分もかからずに炊けるんですけど、先にお米だけでも食べますか?」
「んっ! バレてたか? いや、折角だからな、おかずと一緒に食いたいぞ。そうか、そんなに早炊きが出来るなら、あちらで待っておくことにするな」
真っ赤な顔でアワアワしているチアキさん。バレていないと思っていたのか? いや、確かに入り口前を通り過ぎる時は残像しか残らない感じだったけども、そんな事をこの家でするのはチアキさんしかいないだろうに。
「ウフフ、旦那様があんなに楽しみになさっているなんて、このお米というのはそんなに素晴らしい食材だったのですね? ヴィオ様は旦那様をお悦ばせになる天才ですわ。私も旦那様に喜んでいただけるお料理をこんなに沢山教えて頂けてとても嬉しいのです。ありがとうございます」
にゃんと可愛い事を仰るのか。チアキさんってば皆に愛されまくってますね。
さてさて、そんなこんなでお料理も完成し、炊飯器からは白い蒸気がモクモクしてますよ。コンセント不要ですから、炊飯器のまま食卓に持っていきましょうね。
この日の為にごはん茶碗も完成してますから、チアキさんの期待値の高さが分かるというもの。
ベル君たちも食べたいと言っていたけれど、チアキさんの事を思って今日は遠慮して不参加です。食卓にはチアキさんと白雪さんが並んで座っています。私とミケさんの二人で給仕をすると買って出たのだ。
「まずは最近お出しするようになったお料理ですわ。他の味付けが濃い目ですからお魚はシオヤキにしております」
スピニッシュのお浸し、白身魚の塩焼き、タロの煮っころがし、キンピラ、豆腐の味噌汁、お皿が二人の前に並べられるたびにチアキさんの目がキラキラと輝き出す。
この数日お出しして、特に気に入っていた料理の中から厳選したおかずが目の前に並んでいるのだから、そうなっても不思議ではない。
「ではご飯はこちらのお茶碗によそいますね」
「お、おぉ!」
「チャーキ、腰が浮いておるぞ」
白雪さんはクスクスと笑いながらも、仕方がないなとチアキさんの様子を優しい目で眺めている。
炊飯器の蓋を開ければフワっと湯気が出てきて、お米が炊けた独特の香りが漂う。濡らしたしゃもじで米を切り、ごはん茶碗にふんわりよそう。
「どうぞ」
「あ、あぁ」
白雪さんはツヤツヤした米と、どう見ても熱そうな湯気に驚いてはいるけど、米を前にして固まっているチアキさんが心配なのか、見つめたままだ。
「いただきます」
しばらくジッと見つめていたチアキさんが静かに手を合わせて頂きますと呟き、ゆっくりその米を口に運んだ。
一口、口に入れた後目を閉じたチアキさんは天を見上げて涙を零した。
分かる、分かるよ。
ゆっくり咀嚼し、ゴクンと飲み込む喉の動きまで三人で見守ってしまったよね。
「米だ……。ご飯だ……。ああ、もう二度と食べることは叶わないと思っていた米を食えるとは、しかもこの味はジャポニカ米の甘み。ヴィオ、本当にありがとう」
「いいえ、喜んでもらえて良かったです。こっちのダンジョンにもあるか確認しに行きたいですね」
そこからは白雪さんと二人で食事を楽しんでもらったよ。
私はミケさんと味見をしながら摘まんでいたから結構お腹がいっぱいです。
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