ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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勇者と修行

第417話 体術訓練

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 ハンカチの刺繍は随分上達してきて、お父さんをイメージした茶色い熊さん柄のハンカチが大量になってきたので、文字を書く練習が始まった。
 紙に書く時は日本語を意識するだけで書ける文字だけど、刺繍は関係ない。日本語で考えようが、古代文字で考えようが、一針ずつチクチクするんだから当たり前だ。
 神様を記す文字は丸っこい。漢字みたいに真っすぐな部分が少ないから、一本の線ですら始まりと終わりは細く、中央は太くしなければいけないから超絶面倒なのだ。ウガーっと叫びたくなることも多いけれど、その度に隣で作業をしているミケさんが、尻尾でペシペシしてくれるので投げ出さずに済んでいます。

 チアキさんとの訓練が始まって半月、砂浜ランニングも慣れてきて一時間では小鹿にならなくなってきたので、ランニングが終わってから体術を教えてもらえるようになりました。

「ヴィオの基本戦闘は魔法と鞭なんだろう? 双剣も面白いが、それらは既に経験を積んでいるようだしそのままでいいと思う。武器が決まっているのであれば、俺から教えるのは体術だな」
「体術って拳法とかですか?」
「まあそんな感じだな。俺は色んなのを組み合わせてその時々に対応しているが、覚えておいて損はないと思う。いざという時に武器が無ければ戦えないなどとならないように、魔封じをされて魔法も使えないという事もあるかもしれないからな」

 ここに来たばかりの時、消えてしまいたいと思って魔力を暴走させかけたことがあった。その時は水玉に包まれて洗浄されているような状態だったみたいで、ルイスさんが助けてくれたと聞いた。
 その後一週間は白雪さんのモフセラピーを受けていたんだけど、その期間中ずっと私の腕には魔封じの腕輪が着けられていたらしい。
 この島では子供時代に魔力暴走をさせないために使っているようだけど、あちらの大陸でもあったのだろうか。あるとしたらきっと悪い人が使うよなと思う次第。
 あの誘拐犯たちがそれを持っていなくて本当に良かったと思う。それがあればあの時に何もできなかっただろうから。

 チアキさんは最悪を想定して色々教えてくれる。それはきっと例の婚約者さんの事があったからだろうと思う。魔法と武器、両方を封じられたとしても戦える技、チアキさんが教えてくれたのは太極拳によく似ているものだった。

「魔封じの腕輪は、腕輪に魔力が吸い取られると思えばいい。身体の中の魔力を動かすことは出来るし、腕輪に貯蓄できる以上の魔力を一気に叩き込めば、魔道具を破壊することもできるぞ」

 早朝の公園では結構な人数のお年寄りが集まって太極拳をしているのを見たことがある。木陰ではお洒落な感じでヨガをしている意識高い系女子が多かったし、参加していた覚えはないから私は陰キャだったんだろう。

 チアキさんに手取り足取り、一つずつゆっくりと型を教えてもらう。
 気を練るというのはこの場合魔力を練るという事になるんだけど、これは普段からやっていたので非常に分かりやすかった。全身の隅々まで魔力を行き渡らせることを意識していれば、本当にかめ〇め波が打てそうな気になってくる。やらんけど。

 最初は「俺それ苦手~」と言って帰ってしまっていたベル君だけど、一週間もすれば一緒にやるようになった。
 どうやら一人で飛ぶ練習をするよりも、皆と一緒にやる方が楽しいと思えるようになったらしい。ボッチで練習するのは寂しいもんね。(本人は寂しくなんかないと認めてなかったけど)

 最初は足運びの練習からはじまり、週に一つの型を覚え、五週間かけて基本の五行拳というのを覚えた。五行と言えば陰陽師が使う技だった気がするけど、チアキさんもその辺は覚えていないとの事。
 チアキさんのこの知識は、自分が習っていたとかではなく、カンフー映画と言えばあの人! でほぼ全員が名前を言える人の作品からの記憶だという。
 若い頃はヌンチャクも自作していたと言われて、ジャッ〇ーか、ブルー〇リーのどっちだろうと思ったけど、両方お好きだったそうです。

 ただ、映画から影響を受けただけあって、色んな映画の情報が混ざっているチアキさん。基本の五行拳が終わった頃から組手をするようになってきたんだけど、どう考えても両手を伸ばしてピョンピョン跳ねる死体妖怪のアレとか、アメリカ映画の仮想現実空間のアレとかが混ざり始めているんだよね。
 だってその避け方、スケートの金メダリストか、サングラスのイケメンしかやってるの見たことないんですけど? っていうね。
 ベル君たちには通じないから私相手の時にしかやらないんだけど、通じるから悪乗りしているのか酷いんですよ。

「いいな、ノリが通じるのも嬉しいが、これを繰り出してもやり合えるのが嬉しいぞ。ヴィオはヒト族にしておくのが勿体ないとしか言えんな」
「あんな攻撃を見切る事が出来るとか、格好良いな!」
「チャーキが楽しそうで良かったが、其方は本当にタフじゃなぁ」
「ヴィオ様、次は私とも手合わせ致しましょうね」

 砂浜ランニングでの身体強化は禁止されているけど、流石に組手の時には強化魔法も結界魔法も許可されています。疲れ果てて庭に大の字になって呼吸を整えている現在。
 キラッキラと瞳を輝かせて見つめてくるベル君、見切れるのはその攻撃を見たことがあるからですよ。
 呆れながらも嬉しそうな白雪さん、タフな訳ではないんですけど、私の体力ギリギリを見極めているチアキさんが凄いんですよ。
 ここまで体力があるなら自分とも手合わせをしようと誘ってくれるルイスさん、こちらこそよろしくお願いしますです。
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