ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
475 / 584
勇者と修行

第418話 ダンジョンへ!

しおりを挟む

「そろそろダンジョンに行ってみるか?」

 チアキさんがそう言ったのは、この島に来て二か月半が過ぎた風の季節の始まりだった。
 確かにお米も残り少なくなってきたし、調味料はそれなりにあるけれど、和食が大好きなチアキさんがこれからも楽しむためには、調味料も増やしておきたい。
 和食とお米の美味しさはルイスさんやベル君から伝達され、食わせてくれと言いに来る人は今のところ居ないけれど、食べてみたいと思っているらしい声は聞こえてくる。
 ダンジョンに挑戦している人もいるようだけど、どれが美味しいものなのかが分からないから採集が上手くいっていないんだって。言ってくれたら現物を見せたのにね。

「豊作ダンジョンがあるんでしたよね?」
「あるぞ、豊作の方がいいんだよな?」

 そう聞かれるけど、私はランクの問題で入れるダンジョンに制限があったからね、豊作ダンジョンを選んでくれていたというのもある。

「そうか、まあ豊作ならそれなりに見つかるだろう。白雪も行くか?」
「そうじゃな、それなりに長期になるのじゃろう? 一人で居ってもつまらんからな」

 プイっとしながらも口元が緩んでいる白雪さん。普段からチアキさんにはデレているのでツンデレという訳ではないんですけど、可愛らしいです。

「チャーキ様、俺も一緒に行って良いんですか?」
「両親の許可を得てからな」
「貰って来ます!」

 ベル君は返事もそこそこに、ダッシュで自宅に走って帰ったよね。ルイスさんはその後を追いかけて行ったので、同伴することを説明しに行ったのかな?
 それにしてもやっとダンジョンに行けるんだね。こっちのダンジョンはどんな感じなのかな。特殊ダンジョンもあると聞いているから、そのうち行けると嬉しいけど、まずはお米と調味料の確保だね。



 ダンジョン出発当日、ベル君の後ろには四人の大人が居ました。
 ルイスさんは見慣れた人だけど、後の三人は初めましてですね。

「此度のダンジョンに同伴させて頂くバルレーンだ。バレンと呼んで欲しい。ベルフォンスの恩人にようやく会うことが出来て嬉しい」
「ええ、ファニアからも面会の許可を貰えなかったんだけど、ダンジョンの同伴ならと言ってもらえたの。やっと会えて嬉しいわ、ベル坊を助けてくれて本当にありがとう、私はタイレーニアよ、タニアって呼んでね」
「私も、弟を救ってくれた事に感謝を。ルイスゲーンの兄でデンダルースだ。ダルスと呼んで欲しい」

 わお、初めましての挨拶は三人から感謝の言葉と共に頂きました。バレンさんとタニアさんは風竜人族でベル君のお母さんの血族なので、ベル君の叔父さん叔母さんという事だね。ダルスさんはルイスさんのお兄さん。
 ずっと挨拶に来たいと言ってたらしいけど、私の精神状態が不安定だったから、チアキさんが止めてくれていたらしい。色々気遣って頂いていたんだなと、改めて感謝ですよ。

 今回彼らが参戦するのは私に感謝したかったというのも本音だけど、美味しいと噂の食材を自分達でも確認したいから。それで確認できれば、今後自分たちでも採集に行けるからという事でした。良いと思います。ミケさんは非戦闘員のため自宅でお留守番だけど、お土産を持って帰ってくるので楽しみにしていてください。


 諸々準備が整ったところでダンジョンへ出発です。
 場所を聞いていなかったので、どれくらい日数がかかるのかと思っていたんだけど――まじっすか。

「ベルフォンスは自分で飛べるだろう? ヴィオ様は私の背にどうぞ」

 馬車移動は殆どしていなかったから、歩きで行くつもり満々だったんですけどね、村の門らしきところを抜けたところで、大人たちが竜化なさいましたんですよ。いや、日本語おかしくなってるかもしれないけど、え? ドラって行くんですか?
 ビックリしているのは私だけで、チアキさんも白雪さんも、当り前の顔をして目の前の竜の背に飛び乗りましたがな。
 水の竜っていうから蛇タイプの竜かと思っていたんだけど、水色鱗が美しい西洋のドラゴンでした。
 じゃなくて、え? 乗っていいんですか? そしてドラゴンの状態でも喋れるんですね。

 チアキさんに教えてもらった浮遊の魔法を自分にかけて、ルイスドラゴンの背中に飛び乗った。おぉ! トゲトゲがあるかと思ったけど、首から背中の辺りはツルンとしているんですね。
 しかしこれは空を飛ぶときに不安定というか、鞍も無ければ手綱もない。落ちる未来しか見えんのだが?

「ヴィオ、風の障壁を張れただろう? あれをルイスの身体に密着させるようにして自分を包み込めばいい」

 隣で見守ってくれていたチアキさんに言われて、早速自分を包み込むように【ウインドウォール】を唱える。この場合は誰かを攻撃する必要もないから、風の膜を張るって感じだね。
 お兄さんのダルスさんは単独で飛び、皆を先導をしてくれるみたいです。ダルスさんのすぐ後ろを飛ぶ小さな水色ドラゴンがベル君だね。全体にコロンと丸っこくて尻尾も短い、羽もルイスさん達の半分にもいかない大きさだ。身体が小さいからだろうけど非常に可愛らしい。

「では飛びますね、最初は揺れますのでご注意ください」

 ドラゴンだけどルイスさんなんだよね。ちょっと長い鬣というかトゲみたいなのをキュッと握れば、フリーフォールで空中に飛び上がる時みたいな、腹の下がグワンと持ち上げられるような感じがあった。
 だけど最初の一瞬だけで、そっと目を開ければ既に空を飛んでいた。

「うわぁ~! 凄い! 空! 空を飛んでる!」
「最高だろう?」

 垂直に上がってくれたのか、真下に小さな集落が見える。あれがミドウ村だと聞いて、本当に島の端っこというか、岬に村があった事が分かる。

「GWA GYAWA」
「ああ、ヴィオ様、怖くはないですかとベルフォンスが心配していますよ」
「えっ? 全然怖くないです。揺れないし、景色は最高だし、凄く楽しい!」

 クスクス笑う大人たち、私の隣に小さなドラゴンが寄り添うように来てくれたけど、どうやらベル君はドラゴン姿になると人語を喋れないようです。これも成長と共に喋れるようになるって事なのかな。

 チアキさんから魔力視をしてみろと言われてドラゴンたちを見てみれば、確かに身体の下に風の魔力が纏わりついている。大きな翼は最初に浮き上がる時に上下しただけで、飛んでいる今ははためいていない。鳥とは全く違う原理で飛んでいるんだろうね。自分で飛べるようになれば気持ちが良いんだろうなと思うけど……。

 いや、浮遊魔法が出来るようになった事を思えば、出来なくはないんじゃない? 
 下から吹き上げるように風を当てる【ウインド】、これと重力を軽減させる【ウエイト】、二つをかけることで身体を浮き上がらせることが出来る【浮遊魔法】になるのだ。
 身体が非常に軽くなるので、軽いジャンプで二メートルほどあったルイスさんの背中にも簡単に飛び乗ることが出来たという訳。

 であれば、この魔法をかけたまま背中からも追い風をしてあげれば、空を飛ぶわけじゃないけど、空中を駆けることは出来るのではないだろうか。
 うむ、思い付いたらやってみるしかないよね。ダンジョンが終わったら練習してみるしかない。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

処理中です...