ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヒスの森ダンジョン

第419話 ヒスの森 その1

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 空の旅は短い時間で終わってしまった。とっても静かな飛行だったけど、かなりハイスピードだったのは流れゆく景色でよく分かったから仕方がない。

 ミドウの村があった岬から西に二十分弱、陸地の中央に近い場所でドラゴンたちが降り立った。周辺に集落はないけれど、よく考えたら集落の近くに知らないドラゴンが四体もきたら吃驚するでは済まない事態かもしれない。

「リズモーニではダンジョンの近くには必ず管理する町や村があったんですが、こっちではそういう町はないんですか?」
「南部はそうなっているぞ。獣人が中心の村だとそれなりの距離に村が無いとスタンピードに気付けないからな。だが豊作ダンジョンはそれなりに人が訪れるから、管理する村が必要ないともいえるな」

 飛べない獣人たちが住む集落は南部に集中しているらしい。
 この島はひょうたんのように中央がくびれているんだけど、そのくびれ部分から南は川も多くて、地も平坦で住みやすい。逆に北半分は山が多くて移動が大変。だからこそ空を飛ぶことが出来る翼人族や竜人族が多く住んでいるんだって。

 南部は街が大きく、人も沢山住んでいる。だから商業も発展しているし、リズモーニと同じようにダンジョンの側に街がある。
 北は険しい山が多いから集落は小さい。だけど飛翔可能なヒト達が多いから、ダンジョンまでは飛んでいくし、魔力感知能力が高い人たちが多いから、スタンピードが起きたとしても直ぐに皆が飛んでいくことができるから、ダンジョン近辺に住む必要がないという事だった。飛べるって凄いね。

 降り立った場所は川のほとり、ゴロンと一つ転がっている大きな岩が入口のようだ。

「ヒスの森っていう名前でしたよね? 岩……ですけど」
「中が森だからじゃないか? ダンジョンの外側と中が違うのは当たり前だろう?」
「はじめてのダンジョン! ワクワクする!」
「ベル坊はルイスの後ろを歩くこと、勝手に進むんじゃないぞ」
「はよう行かんのか?」

 今までは森ダンジョンと言えば木の洞や、周辺が森だったんだけど、まあ中身が色々と言われればそうだよね。
 ベル君はテンション上げ上げ状態なので、大人四人に囲まれてガッチリガードされています。成程、何故四人もと思ったけど、確かに四人いれば前後左右をガード出来ますね。
 そしてここまで冷静に見えていた白雪さんが意外と楽しみだったらしく、入口に片足を踏み入れた状態で早く来いと急かしています。うん、中々皆フリーダムですね。

 ちなみに竜人族の皆ですが、ドラゴンから人に戻る時に裸になる訳ではありませんでした。どういうあれか全く分からないけど、身に着けた洋服とかがビリビリに破れてイヤン♡な事になる心配はないのだそうです。そこは獣人の子供達と違うよね。あっちでは脱ぎ捨てられた甚平があちこちに放置されていたもの。

 久しぶりに冒険者装備を着た私だけど、他の皆もそれなりに冒険者装備でした。白雪さんはここでも着物かと思っていましたがそんな事はなく、どちらかと言えば和テイストだけど、ズボンと長い上衣のお洋服でした。腰に帯剣しているのはチアキさんとベル君だけ。大人四人はリュックを背負っているから中に入れているのかもしれないけど、武器は持っていない。
 そういえば白雪さんって戦えるのかな? 聖獣ってそれなりに戦うイメージがラノベではあったけど、ここの聖獣はラノベの常識から大分ズレてるからなぁ。

 よく考えればルイスさん、チアキさん、ベル君と手合わせはしたことがあるものの、実際にどんな風に戦うのかを見たことはなかった。いきなりそれでダンジョンってと思ったけど、ここまで来たら訓練場でみるのも一緒かと思い直す。
 それに、すでに白雪さんはダンジョンに入ってしまったし、待ちきれないベル君を抑えるのも無理だと諦めた大人たちがダンジョンに足を踏み入れた。

「不安か?」
「久しぶりだし、お父さんがいないダンジョンは初めてだからちょっとだけ」

 そう、何となく不安に感じてたのは、いつだって私の後ろで見守ってくれていたお父さんが居ないからだとダンジョンの入り口で実感した。後ろにいたチアキさんにそれを伝えれば、ポンポンと頭を軽く撫でられただけだったけど、ほんの少しだけ安心した。
 うん、お父さんはきっと見てくれている筈だから、ちゃんと冒険を続けてるよってところを見せないとね。
 一つ頷いて暗闇に足を踏み入れれば、初めてだけど、どこか見慣れた高原が広がっていた。

「すっげぇぇぇぇ! 岩の中なのに空がある! なんでだ? ダンジョンは外なのか? すっげぇ!」

 時々顔を出すシリアスというかシンミリした空気は、ベル君のはしゃぎっぷりに飛んでいきました。大人たちはある程度は仕方がないと思っているのか、さっき程の警護状態ではなくなっているけど、四方向に分散して、どう飛び出しても捕まえることは出来る位置にいる。

「ははっ、俺も最初に空があるダンジョンを見た時は興奮したからあの気持ちは分かるぞ」
「スタンピードの時もダンジョンの中って同じなんですか?」
「そうだな、ダンジョンの構造自体は同じだと思うぞ。洞窟のところもあれば、高原、森、水場、沼地色々あったな。洞窟が続くとうんざりするが、やっぱり空がある場所に出ると開放感があったし、それなりに楽しかったな」

 大変な状況でも楽しめたのは凄いと思います。
 ああ、ちなみに遠くまで行っていた白雪さんはベル君のはしゃぎっぷりを見て、ススっとチアキさんの側に戻ってきています。

「ベル坊、低層階は魔獣も弱いから良いが、この後もそんな風に注意力散漫だと怪我で済まなくなるから帰らせるぞ~」
「ええっ! ちゃんとします! 帰りたくない!」

 ある程度ベル君が走り回ったところでチアキさんからの一言。確かに最初から雁字搦めにされても好奇心の方が勝るもんね。ベル君もそそくさ戻ってきて、出る前に決めていた陣形を思い出したようで私の近くを歩き出しました。

 斥候役はルイスさんと、ルイスさんの兄ダルスさん、すぐ後ろに私とベル君、ベル君の斜め前後にタニアさんとバレンさんがいる感じで、殿はチアキさんと白雪さんなのでガッツリガードされてます。こんな安全安心なダンジョンって……。
 いや、そういえば私のダンジョンは大概こんな感じでしたね。
 竜人族というヒト達がどれくらい規格外なのか、それも楽しみにしていきましょう!
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