ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヒスの森ダンジョン

第420話 ヒスの森 その2

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「チアキさん、そういえば私、このダンジョンの詳細を確認していなかったんですけど、階層とか魔獣とかってどんな相手が出るんですか?」

 ダンジョンに入る時には、ダンジョンを管理するギルドがある町で準備が必要だった。ギルドには潜るための申請をする為にも行くし、図書館でダンジョンについて調べるのが当り前だった。
 銅ランクだったから、ダンジョンによっては入場申請とメダルの受け取りも必要だったしね。だけど今回はチアキさんのお屋敷から直接ダンジョンの前にピューンと飛んできたし、ダンジョン周辺に村は無かった。ダンジョンを管理するギルドも北側にはないって言ってたから、ここだってないんだろう。
 それにしてもダンジョンの事を全く調べていなかった事に気付かないとは、浮かれすぎというか、うっかりしすぎではなかろうか。

「詳細……、ルイス分かるか?」
「ええ、確かここは20階層ですね、魔獣は肉を落とすのが結構いた筈ですよ。植物はあんまり興味がなかったのですみません……」
「深層階はオークも美味いのが出てくるし、牛も肉が多いのは深層階のほうですね」

 おおっと、お兄ちゃん達以上に脳筋レベルが高そうですよ。美味いオークということはオークナイト以上が出てくるって事だね。それが10階以降に出るなら上級ダンジョンなのかな? 牛も肉が多いって事は、低層階に出てくる牛とはドロップアイテムの比率が変わるという事なのだろうか。
 同じ魔獣なのか、違う魔獣なのか、それはリズモーニにもいるのか、楽しみだね。

「ベル、あれをやってみるか?」
「おぉ! あれはゴブリン! 行く、やってみる」

 ダルスさんから第一魔獣発見の知らせがあり、ベル君がヤル気満々になっています。三匹のゴブリンなので、ダルスさんだけが付き添って倒しに行くみたいだね。

「ヴィオも練習しておくか?」
「ゴブリンはアーチャーとかくらいまで倒したことがあるので多分大丈夫です。知らない相手が出た時にはやってみてもいいですか?」

 チアキさんから勧められるけど、ゴブリンは倒し慣れているので大丈夫かな。

「へぇ、聞いてはいたけどヴィオちゃんはその年齢で戦えるのね。ヒト族の成長が早いのか、ヴィオちゃんが特別なのかしら?」
「ヴィオ様は特別ですよ。私と手合わせが出来る7歳なんて、この島の子供では居ないですからね」

 ベル君の叔母さんでもあるタニアさんが楽し気に聞いてくるけど、サマニア村では普通だと思います。きっとルイスさんと手合わせできる7歳は、サマニア村に行けばそれなりにいると思いますよ。

「まあそうじゃな、チャーキの訓練に倒れるまで毎日付き合えるのもおらんじゃろう」
「そういえばベル坊も訓練の日は帰ってきたら夕飯もそこそこで、疲れ果てて眠るようになったと姉さんが言ってたな」

 白雪さん、毎日やっているのは砂浜ランニングで、チアキさんとの組手は一日おきですよ。ベル君の叔父さんでもあるバレンさん曰く、前は訓練に誘っても途中で飽きて辞めたり、逃げ出したりしていたんだって。同年代がいないと競い甲斐がないもんね、歴然とした差がある人達に「俺たちも昔は出来なかった」とか言われても実感できないとつまらないもんね。


「あれなら大丈夫だ」
「まあ悪くなかったぞ。ただ、下に行けば行くほど魔獣は素早く、力強く、硬くなるからな。そこは気を付けろ」

 意気揚々と戻ってきたベル君、どうやら上手に討伐できたみたいだね。
 豊作ダンジョンとはいえ、ここに一般人が採集しにくることはないのか、私たち以外に人はいない。いや、そもそもルイスさん達は冒険者ではないらしいし、ダンジョン入場規則とか無いのかな?

「基本的には自給自足だしな、あっちの大陸では冒険者以外にも騎士団とか戦う専門の奴が居て、そいつらが魔獣討伐をするだろう? この島の北側では戦えない奴の方が珍しいからな、スタンピードが起きれば戦える奴らで討伐する、普段食べるものは自分たちで調達するけど、それが畑を耕すのか、海から釣って来るのか、ダンジョンで拾ってくるのか、山で狩ってくるかの違いだろうな」

 冒険者について確認すれば、そんな答えが返ってきた。
 そもそもミドウ村にギルドがあるのは、例のハイエルフさんと連絡を取り合えるようにする為だったとか。なので、この島の北半分には冒険者ギルド自体が二カ所しかなく、南側や大陸のギルドとは違う使い方をされているという事なのだろう。

「お手紙のやり取りが目的なら、お互いに転移陣を持っているだけでも良かったのでは?」
「そうなんだよな、ギルドを作ってからそう思ったんだけど、将来子供が増えた時にも便利だと思ってそのままだな。まさか竜人族がこんなに子供ができにくいとは知らなかったんだよ」

 わははと笑うチアキさんだけど、他種族の事なんて知ることは中々ないだろうし仕方がないのかもね。サマニア村の人たちも元金ランクが多いし、冒険者登録は身分証明書だけの為に作っている人も多い。実際に旅をしたことがない人たちも大概な戦力を持っていた。
 そう考えればここの人たちが冒険者登録をしていなくてもおかしくはないかな。冒険者という職業に拘る必要もないしね。

「この草を抜けばいいのですか?」
「おぉ! 同じ草なのに違う作物が出てきたぞ!」
「おぉ! 麦が土の中から出て来たぞ!」

 サクサク進むのかと思ったんだけど、目的は和食素材と米がメインだからね、しっかり採集しながら進んでいます。大人たちがダンジョンに入るのは、肉が目的という事で採集など興味がなかったとの事。野菜類も麦も村で育ててたしね。
 ルイスさんがどれを抜けばいいのか確認してきたので、ただの雑草と素材の見分け方を伝えれば嬉々として草を引っこ抜く。ベル君も一緒になって楽しそうにしているし、なんならチアキさんも興奮気味に草抜きをしております。
 畑では複数種類の作物を育てていたから、同じようなものが土の中から出てくるのは驚きだよね。私も最初はそうでした。

 大人が六人もいるので、採集しながらでも移動は速い。三時間程しっかり採集すれば2階に下りる階段も見えてきた。

「とりあえずこの辺で昼休憩にするか、白雪結界頼むな」
「あい、分かった。悪しきモノを立ち入らせぬ壁を【ホーリーシールド】」

 安全地帯でもない場所で休憩をするというので驚いていたら、白雪さんがおもむろに聖属性の盾を周辺に張ってくれた。なんとなく白っぽい壁はネリアさんが教えてくれたのと同じだけど、使ったことはなかったんだよね。というかアンデッド以外にも使えるんだね。

「白雪さん、聖属性の壁って使ったことがなかったんですけど、どんな効果があるんですか?」
「ん? 魔獣が近づいてこれんようにするだけじゃな」
「アンデッドだけじゃなくってですか?」
「不思議な事を聞くんじゃな。アンデッドは触れるだけで攻撃にもなるじゃろうから絶対に近付かんが、普通の魔獣も嫌がって遠巻きになるな。入ることは出来んぞ」

 そうなの? ということは、今までは風の盾とか水の盾をひっくり返してたけど、聖の盾をひっくり返して縮めていけば他の攻撃不要で倒せるんじゃない? これは実験しないとだね。
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