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ヒスの森ダンジョン
第426話 ヒスの森 その8
しおりを挟む「は~、このケーキっていうのは本当に美味しいわぁ。こんなに美味しい物に気付かなかったなんて、この二百年ちょっと、すっごく勿体ない事をしたわ」
「まあ他の調味料もそうだよな。こんなに美味いものがこんな場所にこんなにあったとは……」
タニアさんとバレンさんは230歳くらい(くらいというのはあまり数を数えていない竜人族あるあるだそうです)ダルスさんは190歳くらいでルイスさんが110歳くらいなので、この水竜兄弟はかなり年齢差があることが分かる。
子供ができにくい竜人族は十歳差なんて当り前だそうで、ダルスさんとルイスさんの間には姉と兄がいるそうです。姉の方は木竜人族に嫁入したので別の集落に住んでいて、兄の方は放浪の旅に出たまま連絡がないとの事。多分死んではいないだろうというのは竜人族のタフさがあるからだと思うけど、寿命が長い竜人族が〖グロンディール大陸〗に行って旅をして、飽きた頃に帰ってくるというのはよくある事らしい。
お兄さんが大陸のどこを旅しているのかによるけど、ここ数年のリズモーニにいるのであれば、その美食具合に帰って来ないのではなかろうか。
いや、だけどケーキはあっちで食べた事はなかったからなぁ。もしかしたらお貴族様しか食べられないだけかもだけど、ワンチャンそれを餌にすれば帰ってくる人がいるかもね。
「ヴィオならあの角がある相手にどうやって戦った?」
ロールケーキを食べて少しだけ元気を取り戻したベル君、やっと笑顔が戻ってきましたよ。気持ちが落ち着いたところでそんな質問をされました。
そうは言われても、私の戦い方に角はあまり関係ないからなぁ。
「戦い方は雌も雄も変わらないですね。まずは動きを抑制する、酸素――じゃなくて空気が必要な相手からは空気を奪う、空気が吸えないと魔法も使えない事は多いので。それから首を落として確実に止めを刺します」
「「「……」」」
「くうき? 空気ってなんだ?」
大人たちは固まってしまったんですけど、ベル君は別の事が気になったみたいです。酸素は分からないと思って空気と言い換えたのに、空気すら説明が必要とは難しいね。
「空気は私達の周りにあるこれだね。目に見えるものではないから分からないかもだけど、水に顔をつけたままだと息が出来ないでしょう? だから強制的に水球で塞ぐの。
ベル君は水魔法が得意でしょう? 小さな水玉だと吸い込めるというか飲み込んじゃう相手もいるけど、水玉の種類を変えたり、大きさを変えると良いよ」
水に顔を付けるというのは理解できたようだ。その後小さな水玉をいくつか作ってベル君に触ってみてもらう。これは同じ水竜であるダルスさんとルイスさんも興味を持ったので、一緒になって触って、確認して、自分でも作ってと実験タイムになってしまった。
「このベタベタした水玉はどうするのだ?」
「それは盗賊とかを捕まえた時に、煩いから粘着テープ代わりに使ってましたね。鼻まで覆ったら息が出来ないので、口だけ塞ぐ感じです」
土人形を作って、その口元に【ウォーターバインド】を貼り付ける。三人は直ぐにそれを触って確認して頷いている。
「あとはベタベタを内側にした盾を作れば敵がくっついた状態で逃げれなくなります」
「ネズミ捕りみたいなものか? ちょっと試してみたいから俺にかけてくれ」
は?
まさかのお願いをチアキさんからされたんですけど、自分で捕まってみたいとか。まあ解除すればベタベタも残らないとは思うけど、この感じ、サブマスと同じ顔をしています。
白雪さんが止めるかと思ったけど、呆れた顔をしながらも危険がないことが分かっているからか、好きにすればいいというスタンスの様です。
「顔がくっつくと危険なので、それだけ注意してくださいね。行きますよ~【ウォーターウォール】」
楽しそうなチアキさんが皆から離れた場所に立ったので、チアキさんを包み込むようにドーム状の水の壁を作ってみた。
早速閉じ込められたチアキさんは自分が持っていた木の棒で壁をツンツンしようとした。ツンと突き刺したところでくっついたので、その粘着力に驚いている。
棒は諦め、今度は腰の剣を抜いて壁を斬りつけた。
だけど剣は水の壁を撓《たわ》ませただけで、その切っ先は壁の中に埋まった状態で抜くことが出来なくなった。
「これは中々手強いな! 普通の魔獣ではこれで動けなくなるだろう?」
「そうですね、オークナイトまで行けば危険性に気付いて壁に触れない事もありますが、その場合は壁を少しずつ圧縮していくこともできます。中からの攻撃魔法も通りませんが、知能があるものの場合、地を通っての魔法は使えました。あの時に使われたのが影を使った【シャドーバインド】だったから使えたのか、他も使えるのかはまだ分かりません」
あの時に私が油断したのは、それまでの相手があの中に閉じ込められた魔獣は魔法が不発だったから。というか壁を破壊する為の魔法は効果が無かったから。
影だったから使えたのか、槍とか、自分の身体から離れた場所に発動させる魔法なら使えるのか、あれから実験はしていなかった。
「成程な、やってみようか。中から発動する魔法は駄目なんだよな?
疾風に乗れ、紅き炎の矢よ狙い定めて敵を貫け【ファイアアロー】」
チアキさんの手から飛び出した赤い矢はトストスと壁に刺さって消滅した。
「ふむ、確かに全く通る気配がないな。では槍でやってみるか、白雪、土人形をあちらに作ってくれるか?」
チアキさんに頼まれ、離れた場所に土人形が作られた。
「眠れる地よ牙を剥け、鋭き槍となりて敵を貫け【アースランス】」
土人形の下に土の槍が出現した。成程、離れた場所に出す魔法は闇魔法でなくても使えるという事か。
「ふむ、いつもの槍より半分くらいの大きさだったな。という事は魔力が多少削られているのかもしれんな。では火球を落とすから皆を護れるように障壁を頼む」
「もう好きにせえ、ほれ、皆もテーブルに集まれ」
どんどんチアキさんのテンションが上がってるんですけど、この人とサブマス、ドゥーア先生を会わせたらどうなるんでしょうね。
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