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ヒスの森ダンジョン
第431話 ヒスの森 その13
しおりを挟む「流石に危険すぎるじゃろう」
「そうですよ、我ら竜人族ですらアベールには近づかないのですよ。細かすぎる毛は鱗の間や穴という穴から入り込んでくるのです。ヒト族のヴィオ様など一瞬ですよ」
「ヴィオ、食いしん坊なのは分かるけど、流石に危ないぞ?」
皆が酷いんです。
別に食い気だけで動こうとしているんではないんですよ? 多分安全な方法だからこそやってみたいというあれで。
方法を伝えれば、チアキさんだけは納得してくれて応援してくれたんだけど、マヨの時の事があるからか、美味しい物へのハードルに関してはチアキさんの信用が下がっているらしい。
水竜人族の三人も、白雪さんも水魔法の他に氷魔法もかなり上手に使うことができる。だけど私が使う【アイスフリーズ】に関しては理解してもらえなかった。
アベール相手に氷魔法を使うのは逃げる時の常識らしい。
だけど氷魔法はほんの少しだけの足止めにしかならず、見つけたら逃げろというのは当たり前なんだって。
「まあ俺も一緒に行くから」
「じゃが!」
「私達もシールドを張った状態であちらまで行きますから、皆さんはここから動かないで下さいね、ここは一応彼らの感知範囲外っぽいので」
「くぅっ――。無理じゃと思ったらすぐに戻るのじゃぞ」
白雪さんが最終的に折れてくれた事で、皆も不安そうではあるものの、見守り態勢になってくれました。多分大丈夫なんで、行ってきますね。
<しかし凍結な、考えてなかったぞ。という事はあれか、簡単味噌汁が出来るんだな?>
<ナムルとかの時に使っている鶏がらスープの素っぽいのはそれですよ。時間がある時にゆっくりスープを作って、必要量ずつフリーズドライにしてるんです。ただ、この魔法は軍事産業になりそうだから発表はするつもりがないんですけどね>
<成程な、それは正解だな。俺が生まれる少し前、スタンピードが起きる前にも国同士の戦いってのはあったようだしな。今は平和なんだろう?>
<どうでしょう、7歳児に聞かせてくれるとも思えないのでわかりませんが、どこかで戦争があったとは聞いていません。ただ、私の実のお父さんが王様になったのは、国の中でクーデターが起きたせいだって聞いています。なので、権力闘争ってのは何処でもあるんじゃないでしょうか>
<そうか、ヴィオも小さいのに苦労してるんだな。成人の記憶が無ければやってられんな>
<ふふっ、まあそうですね。無ければもっと早い時期に死んでたか、捕まって実験体になってたと思います。あ、そろそろ危険な範囲ですね>
白雪さんの聖盾から出て、チアキさんが作る闇魔法の盾で包まれている現在。闇魔法に盾があるとは聞いたことがなかったけど、闇を創り出す【ダーク】に盾を創り出す【シールド】、これに気配隠蔽をする【ハイドプレセンス】を掛け合わせることで、周囲から気付かれず、更に突然降りかかる攻撃も防ぐことが出来るという事だ。
【ハイドプレセンス】は気配を消すことは出来るけど、ぶつかられたり、何かが落ちてきたとしたら当たるからね。これを敵が使うことを考えれば非常に怖いけど、欠点はある。
<例えば水生成の時にやったみたいに霧を創り出すとするだろう? そうすればこの盾の範囲だけ霧が避けるって事だ。ドーム状にぽっかりとな>
<成程、であれば怪しいと思った時は、範囲魔法を全体に使ってみればいいって事ですね>
<そういう事だ、さて、そろそろやるか?>
<はい、【エアウォール】>
念のため【サイレント】を使ってここまで来たけど、羽音が聞こえる場所まで来たし、そろそろ行こうかな。まずは風の盾を無風状態で作り、周辺に確認できる蜂を全て盾の中に閉じ込める。無風だから攻撃されている事にも気付かないだろう。
風のドームに入ったアベールたちは少しずつ狭められている盾には気付かず、少しずつ巣に集まっていく。
<外に溢れていた奴もいないな、大丈夫だ>
<ありがとうございます。では範囲内全部凍らせますね【アイスフリーズ】>
巣を中心に、全ての蜂が集まったところで凍結魔法をかける。不思議な事に、魔木や魔獣には効果があるんだけど、普通の木や雑草は一瞬凍るんだけど、エフェクトが消えた後に魔法を解除すれば元に戻るんだよね。なんだろうね、壊せないオブジェなのかな。いや、だけどお皿を作るために切り倒すことは出来るし、お皿に加工は出来るんだよね。不思議だよね。
「ヴィオ、お前本当に凄いな!」
「本当にやりおったんか」
「ヴィオ様、心配しましたが――本当に巣だけが残っているのですね。これは私も練習すれば習得できるようになるでしょうかね」
無事に討伐が終了したことが分かった面々もすぐに駆けつけてくれた。
残っているのは木の洞に埋まるように残された巣だけ。エフェクトと共に消えたアベールは、その毛の一本すら残すことなく消えてしまった。
「では採集しましょうか」
大きなお玉を使って巣からたっぷりの蜜を頂きます。
オレンジに近い濃い色のハチミツは、掬っただけで優しい香りが漂ってくる。涎が出そうだけどダメダメ。
二リットルくらいの大きな瓶五本に入れてもまだ余る程、全部持っていくのは悪い気もするけど、ここはダンジョン。48時間後には何事もなかったように復活するので、余った分も空いている器にいただきました。今度はもっと空き瓶を用意しておかないとだね。
「チャーキ」
「最初に味見するのはヴィオの特権だろう? これはヴィオが居なければ採集できなかったのだからな」
「ヴィオ……」
作業が終わる頃、白雪さんがモジモジしながらチアキさんに何やらお願いをしていた模様。ウルウルした瞳で見つめられるけど……あっ、あぁ。
「ハチミツ、流石におたまで掬えない分がありますし、残った分でもいいですか?」
忘れかけてたけど、白雪さんって熊さんだもんね? いや、熊じゃなくてもこのハチミツに惹かれるのは当然だけど、熊さんなら一入なのかもしれないもんね。
高速でコクコク頷く白雪さん、普段は一歩引いた感じで冷静な人がこんなになるなんて可愛いね。一応私が先に味見をした方が良さそうなので、おたまに残ったハチミツを一口頂いた。
「!!! んっま!!!」
それしか言えん。
もうちょっと欲しいと思うけど、キラキラしたお目目がね、正気に戻れる程のキラキラがね。
スプーン片手に『マテ』状態の白雪さんを前に、もう一口とか言えん。
「どうぞ」
ススっと洞から離れれば、小さな尻尾が高速でプルプルしてたよね。
と思ったらボフン! と音はしないけど、そんなエフェクトが出たと思う感じで目の前に白熊が……。
「くっくっく。興奮しすぎて獣化するとは、そんなに美味いのか。皆も我慢させるのは可哀想だな。瓶に入らなかった分を頂くか」
「やった!」
「よろしいのですか?」
「わぁ! 本当に今回同伴できて、これで竜生の運を全部使ったとしても後悔しないわ~」
「幻のアベールの蜜、まさか食べることが出来るとはな……」
スプーンは木の近くに放られ、木の洞にお手手を突っ込んでいる白雪さん。一心不乱にハチミツをお楽しみになっていらっしゃるようですね。
ゴクリと生唾を飲む音が増え、流石のチアキさんも皆で味見をしようと提案してくれました。いつも聖結界を張ってくれる白雪さんがああなので、チアキさんがこの周辺を囲うように【ホーリーシールド】を作ってくれました。忘れてたけど、チアキさんも全属性だから、聖と闇の両方使えるんだよね。
丼茶碗一杯分のハチミツは、皆が一口ずつ、順番に掬いながら三周したところで空っぽに。
その頃には洞の中もすっかり綺麗になってしまったようで、やっと我に返った白雪さんが、自分の姿を見て驚いていた。
熊の時は毛で覆われているから分からないけど、人化すれば真っ赤になった顔も分かりやすい。
「まさか、あまりの美味しさに獣化するなど幼児のようで恥ずかしい……」
本気で照れる美女、初めてそんな姿を見たらしいベル君は、何故か照れながら顔を伏せているし、チアキさんはヨシヨシと撫でながら嬉しそう。
実は白雪さん、このメンバーの中ではかなりの若手、一番は7歳の私だけど、次が11歳のベル君、107歳のルイスさん、その次が127歳の白雪さんなのだ。
聖獣という立場だし、チアキさんの伴侶という事で様付けをされているけど、皆にしたら可愛い妹分なのだろう、大人たちも可愛い妹を愛でる顔になっていた。
『ダンジョンという場所は本当に恐ろしい場所じゃな』
白雪さんがしみじみと言っていた一言が印象的でした。
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