ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヒスの森ダンジョン

第430話 ヒスの森 その12

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 タルタルソースも、みじん切りにした素材全部を纏めて、マヨネーズをぶち込んでグルグル混ぜれば完成。
 揚げ焼きしたココッコのお肉は、焼き上がった直後にマジックバッグへ入れているから熱々状態、その上にたっぷりのタルタルソースをかける。

 ピーマンの肉詰めも良い感じになっているから、仕上げにマヨの上から【ファイア】で焼き目を付ける。チリチリという音と共に、マヨネーズの焦げた匂いが当たりに漂う。

 グゥゥゥゥ
 ギュルルル

「こ、これは暴力的な匂いですね……」
「お腹が空きすぎて力が出ない……」

 おや? どこかの国民的パンのヒーローが迷い込んでいませんか? 
 テーブルに突っ伏してしまったベル君は、更にお腹が空くからこれ以上見ないようにしているらしい。
 しっかり水切りされたマルネギとカンバーもしっかり潰されたパテトに混ぜる。ペーストっぽくなったジンセンを入れたらピンクっぽいポテトサラダになったけど、まあいいか。マヨネーズもたっぷりと、塩コショウで味を調えて、最後に彩りのコーンを散らす。

「お待たせしました~、パテトサラダ、グリーンペッパーの肉詰めチーズマヨ焼き、ココッコのタルタルソースがけです!」
「おぉ! 美味そうだ!」
「これは、一つの調味料でこんなに違う料理になるんじゃな」

 どんどんテーブルに並べられるお料理は、大皿で提供ですよ。チキン南蛮だけは一人ずつお皿に盛り付けてだけど、あとはお好きに取って下さいな。
 私は少食なので、サラダを少しと肉詰めを一つだけもらって、あとは皆でシェアしてもらいます。ベル君も食べる量は多いから、争奪戦に普通に参加してるんですよ。

「では、この素晴らしい料理を作ってくれたヴィオに感謝を。ダンジョンの素晴らしい恵みにも感謝して、頂こうか」
「「「「いただきます!」」」」

 私への感謝は不要ですが、私もダンジョン様には感謝いたします。今日も美味しいお肉と素晴らしい素材たちをありがとうございます。
 さて、食事が始まった今、目の前では山盛りだったはずの料理がどんどん消えていきます。ピーマン嫌いの筈のベル君も、最後のマヨ焼きが効いたのか、パクパク食べています。
 一個が大人の手くらいある大きなグリーンペッパー、普段の肉詰めに比べれば少ない量の肉だけど、チーズも入って結構なボリュームなのに、なぜそんなに食べられるのだ? デカいチーズハンバーグ一個分くらいだぞ?

 しかも、皆はそれにプラスしてパンも食べてるんですよ。チアキさんがパンにサラダを半分、チキン南蛮一切れを入れてハンバーガーみたいにして食べたから、皆も真似してどんどん食べる。ハンバーガーにするからパンが二個分ですよ? どんだけ胃袋がデカいのだ? 竜の胃袋なのか? いや、でも今はヒトだし、内臓は別って事?

 見ているだけでもお腹がいっぱいになるけど、皆真剣に、そして無言で食べております。
 グツグツと聞こえてきたのでツナの確認。切り身の色が白っぽくなってきたので火を極弱火にしてから、切り身をひっくり返して満遍なく火が通るようにしていく。
 チキン南蛮も半分チアキさんに食べてもらったのに、私が少食なのか?
 いや、大学ノート一冊分ほどの大きなチキン南蛮だもの、半分でもかなり多い。それにチーズハンバーグとポテトサラダが小茶碗一杯分、十分だよね?

 二回ほど切り身をひっくり返したところで、テーブルの上の料理が全て消え去った。試食を兼ねた昼食だから、夕食より少ない量だけど、普段の昼食よりは随分多く用意したのに、ペロッと食べちゃったね。

「はぁ~、美味かったぁ」
「これは、こんなに味が違うというのは驚きですね。あのマヨというのは是非しっかり確保致しましょう!」
「他にも調理方法があるのよね? 夢の調味料ね」
「これが出来ると知っておったなら、二人があの謎の踊りを舞ったのも分かる気がするな」

 皆満足したようで良かったですよ。そしてマヨにはまだまだ無限のレシピがあるのですよ。ただマヨを使って炒めるだけでも十分美味しくなるという不思議な調味料です。チュッチュはしませんが、私も好きですよ。

「それにしても、ヴィオ様に全てお任せして申し訳ありません。そちらのお料理はもう完成ですか?」

 ルイスさんが申し訳なさそうにしているけれど、気にしないでください。
 毎回お任せされると料理番ですか? と文句も言いたくなるかもしれないけれど、今回のこれはマヨのプレゼンでしたからね。それに皆手伝えることは手伝ってくれてるし、全く問題ないのです。

「これはもうすぐ完成ですね。もう火は止めているので、あとは粗熱を取りながら味を染み込ませるって感じです。私の鞄は時間停止アリなので、出来れば時間が経過するマジックバッグがあればそちらで預かってもらえると助かります」
「おお、では俺の鞄で預かろう」

 ダルスさんの鞄は時間経過ありの大容量という事だったので、まだ熱い状態の鍋ごと預かってもらった。蓋をしなくても零れないというのは本当に便利です。
 とりあえず夕食の時に一本分だけ味見をしてもらおう。それで良さそうなら明日の昼用にツナマヨおにぎりを作ろう。海苔が欲しいなぁ。あの海には海苔は無いのかな?


 昼食後は全員で移動することになりました。マヨのような素晴らしい素材が見つかった時に、チアキさんが叫ぶかもしれないし、逆にルイスさん達だけだとそんな素材を見落としてしまうかもしれないからという事でした。
 うん、皆食欲に忠実だよね。いや、このダンジョンは今後の為に調査を兼ねているのだから当然なのかな。

 低層階では、自分たちが担当する森なら森を真っすぐ進んでいたんだけど、全員で一緒に行くことにしたので、しっかり確実に採集漏れをしないようにするために、ローリング方式で動くことになりました。
 右の森からスタートすれば、前に行くのではなく、高原に向かって左に進む、そして左端の森に到着したところで前進、今度は右の草原、森へ、前進、って感じですよ。ジグザグ走行というか、皆の本気度が分かります。

「白雪壁を!」
「あれはアベールか……。ビッグビーじゃったらまだしも、あれはいかんな」

 チアキさんの短い指示で即座に張られた白っぽい壁。白雪さんの【ホーリーシールド】だ。完全無詠唱を体得した白雪さん、チアキさんもそうだけど勤勉だよね。
 そして止められた私たちの大分先に見えるのは蜂と蜂の巣と森の熊さん……なんて可愛い表現は出来ない、怒り狂ったビッグベアーさんです。

『は~ちみ~つ、お~いしいな~』で有名な熊じゃないけど、森に出る熊もオークもハチミツが大好きなんだけど、ハチミツを作るハニービーは基本的に優しい性格で人を襲うことはない。なのでハチミツを狙う不届きものと戦うのは、10センチ程の巨大なビッグビーなのだ。
 蜂にしては大きなビッグビーだけど、オークもビッグベアーももっと巨大で、数の暴力で攻めはするけどかなりの兵隊が死ぬこととなる。
 ベアーたちも全部のハチミツを取ってしまえば、また巣を探す必要があることを知っているからか、ある程度満足すれば居なくなる。鬱陶しいと思って早めに退散させるために頑張っているというのが、今まで見てきた森の弱肉強食だった。

「あれは……、あんなに大きな熊がやられそうだぞ?」
「ベル坊、あの蜂はビッグビーではなくアベールというハニービーの変異種だな。あいつらはハチミツを作る収集家でもありながら、戦う兵隊でもある。
 ビッグビーよりも凶悪だし、好戦的だ。あいつらは敵を見つければ集団で襲い掛かる。それは他の蜂と同じだが、奴らは――ああ、見てみろ、もうあのビッグベアーは助からん」

 チアキさんの言葉に視力強化をして見つめれば、大量の蜂に集られていた熊の動きが徐々に緩慢になり、腕もダランと下ろしてしまった。それでも蜂は熊の全身を覆うように数を増やし、見る間に熊の身体が傾いで、地に倒れてしまった。毒針での攻撃? だけどあのサイズの蜂でビッグベアーの毛を貫いて皮膚を刺せるの? 不思議に思って見ていれば、チアキさんが解説してくれた。
 どうやらあの蜂は毒針を持っていない代わりに、首の周りにあるフワフワとした毛を飛ばしてくるらしい。その毛は非常に細かくて、刺さらなくても色んな所に入り込む。その毛は熱を発するようで、あれだけ大量のアベールから発せられた毛による熱で、あの熊は熱中症というか、高温障害を発症して倒れたのだろうという事だった。

「あっ!」
「……うわぁ」

 ベル君の声に熊の方を確認すれば、倒れた熊に火がついた。一瞬で燃え上がった火だったけど、直ぐに鎮火し、その後には何も残っていなかった。
 そういえば、私たちが倒した時にはエフェクトが出る魔獣だけど、ゴブリンに食べられていたラットのように、魔獣同士だとエフェクトが出ないんだね。

「アベールが魔法を使うというのは確認されていないが、熱を体内に籠らされた相手は、身体の中から燃え上がると言われている。後には煤しか残らないとな。だから基本的には近づかない事を推奨されているんだ。ただ――」
「ただ?」
「アベールの作るハチミツは、ハニービーの数十倍美味いと言われているんだよな」

 言い淀んだチアキさんを促せば、そんな事を言われてしまった。
 それは頂きに行くしかなくないですか? だって、あのハニービーよりも美味しいんでしょう?
 それは、アレをやってみるしかないんではないですか? 火を扱う相手にどれだけ効果があるのか微妙だけど、やってみる価値はあると思います!
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