ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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素敵な素材と魔獣

第434話 長老と勉強会

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 ダンジョンを終えた私たちはミドウ村に戻り、大人たちは計画通り各竜人族の村へ旅立った。
 ギルドでダンジョン踏破報告をすれば、カードには【ヒスの森 踏破】と記録されていた。ランクに関しては特に決めていないという事だったので不明だったけど、中にいる魔獣の感じだと上級だったと思う。

 ダンジョンから戻って数日は採集物の整理や、素材の周知、ポアレスをはじめとした素材の調理方法などをチアキさん、白雪さん、ルイスさんが村人たちに周知する為、訓練はお休みになった。その間にドゥーア先生とお兄ちゃん宛に手紙を書いて、ギルドから送ってもらった。

「ヴィオ! なんだ、ギルドに行ってたのか?」
「うん、家族に手紙を送ったの」

 とはいえ返事は来てないんだけどね。金ランクに挑戦中のお兄ちゃん達だけど、一度目のお手紙を書いてから三か月くらいたってるし、流石にもうダンジョンは終わっている筈だし、だとすれば手紙も読んでいると思うんだけど、お兄ちゃんからも、ドゥーア先生からも手紙は来ない。
 やっぱりあんな事があったから、私の事を許せないでいるんだと思う……。悲しいけど、でも現状報告はしておこうと思うんだ。こんな時には送り先が限られているのが良かったって思うよね。
 ドゥーア先生宛に送る封筒にお兄ちゃん達への手紙も入れているんだけど、お兄ちゃんたちに渡すかどうかは先生が判断してくれると思うんだ。

「ヴィオが暇ならうちに来るか?」

 ギルドを出たところで声をかけてくれたのはベル君だった。帰れば魔法陣の練習をしたり、ミケさんに新しいレシピを教えたり、マジックバッグのデザインを考えたりできるので暇ではないけれど、どれも約束している訳でもないから、時間はある。
 ベル君は座学が嫌すぎて、ギルドに身体を動かしに来たところだったようで、私と一緒なら頑張れる気がするからと誘ってくれたようだ。
 そうか、子供が一人しかいないんじゃ学び舎を作る意味がないもんね。自宅でマンツーマンの勉強というのはつまらないのも理解できる。

 という事で、ベル君のお家にお邪魔しました。忘れてたけどベル君のご両親が村長さんだったんだね。チアキさんのお家と同じくらい立派なお屋敷でしたよ。

「あらあら、噂のお嬢さんね。会えて嬉しいわ、ベルフォンスの母ファニアよ。息子を助けてくれて本当にありがとう」
「おぉ、君がヴィオか。ベルフォンスの父で、この村の村長をしているヴァレーリオだ。うちの若い衆と息子を助けてくれた事、感謝しているよ。それからとても美味しい食材を沢山教えてくれたようで、ありがとう。息子からもルイスからも聞いていて、非常に楽しみにしていたんだよ。今日はゆっくりしていってくれ」

 サマニア村の村長もだけど、ここもフットワークが軽いというか、村長さんとこんな簡単に挨拶出来ると思ってなかったですよ。
 ベル君のお父さんは水色髪に青い瞳の水竜人で、お母さんは小麦色の髪に緑の瞳を持つ風竜人でした。お母さんの妹さんと弟さんがこないだまで一緒だったタニアさんとバレンさんって事だね。
 あの二人の姉って事は二百歳越えの筈だけど、どう見ても三十代にしか見えません。

 気さくなお二人と別れれば、お屋敷の中にあるお勉強部屋へ。この村に来て初めて見た『おばあちゃん』って感じの人が先生をしてくれることになったよ。竜人族や魔人族などの超長命種って、寿命が近くなるまでは青年期、壮年期が長いと聞いているんだけど、どう見ても老人のこの人は一体何歳なんだろうか。

「ベニ婆、今日はヴィオも一緒だ。俺の命の恩人だぞ」
「ほうほう、そうかい。噂には聞いておったが、またヒト族に会うことができるとは思っておらなんだぞ。うちのチビ共を助けてくれてありがとうなぁ」
「あっ、いえ、あの、記憶がありませんからあれですけど、助けることが出来て良かったと思います」

 座り心地の良さそうな椅子に座ったお婆ちゃんが、とてもやさしい顔でそんなことを言ってくれる。本当に助けた記憶がないのに感謝されるのは、何だかむず痒いんですよね。
 ところで女性に年齢を聞くのは失礼でしょうか?

「ベニ婆、ヴィオはあっちの大陸で育ったんだぞ。ヒト族だけど魔法がすげえ上手いんだ」
「ほうほう、そうかい。ベル坊がそんなに言うなら相当上手なんだろうねぇ。あちらのという事はグロンディール大陸か。懐かしいねぇ」
「あの、お婆様はグロンディール大陸にも行ったことがあるのでしょうか。私、まだあっちの事も知らない事が多いし、このリルベルッティ大陸の事も知らない事ばっかりなんです」
「ほうほう、そうかい。そうだねぇ、では婆が知っている色々を教えてやろうかね」

 そう言いながら教えてくれたのは、大陸の歴史そのものだった。
 ベニ婆の年齢は900歳ちょっと。大陸歴が587年なんだけど、それよりも長生きって事に驚きですよ。

 ベニ婆曰く【大陸歴】はメネクセス王国が建国した年だったそうで、その頃は大陸の東半分(現メネクセス王国領土)と、西側共和国(当時は小国)は戦争が多かったみたい。
 リズモーニ王国は山に囲まれたボッチな国だし、辺境は魔獣が多くて人と争っている場合ではないし、比較的安全な中央は魔獣対策の魔道具作りや、魔法の研究をしていたから、ここはここで大変だったとか。

 東側にあった小さな国が周辺国を吸収併合した時に、メネクセス王国を建国、圧倒的な知力と戦力を持って周辺国をその後もどんどん吸収していった。
 私が知る今のほぼメネクセス王国だけになったのはまだ百数十年前の事だそうだけど、建国した時点で現国土の東1/3を持っていたというから、どんな戦い方をしていたんだろうね。元々の国の大きさにもよるのかな?

 ベニ婆が生まれた時には既に竜の山は出来上がっていたし、魔獣もいた。ダンジョンは今ほど多くは無かったけど、いくつかはあったそうだ。なので、白雪さんが教えてくれた建国神話は更に何百年も前の事って事ですね。

「私達の両親は500歳くらいで死んじまったけどね、私達世代から寿命が更に長くなったんだよ。その分子供は更に生まれなくなり、大切に育てるようになった。私が若い頃は大陸で生活をしていた者も少なくなかったんだがね、御霊合わせを漏れ聞いた奴らによって竜人族狩りが行われてね、殆どの竜人族はこの大陸に移り住んだんだよ」

 竜人族の血を飲めば長生きできる、不老長寿になれるなんて噂が回り、竜人族の子供達や妊娠中の女性が攫われることが多かったらしい。好きになった他種族の人に説明したは良いけど、やっぱり無理だと別れた相手から漏れた可能性が高いだろうと言われて、納得しかなかった。
 だって、実際に御霊合わせをした人は、どれだけ大変なのかも分かるだろうし、その事実がバレた時に最初に狙われるのは純粋な竜人族ではない自分だもの、きっと必死で秘匿したと思う。

 ベニ婆のお話は、時々若かりし頃のベニ婆恋愛話が入ったりして横道に逸れるんだけど、それはそれで非常に面白かった。
 イケメンの蛇と仲良くなったけど、照れていつまでもヒトの姿を見せてくれないと思っていたら、獣人ではない蛇だったとか、ギャグだとしか思えんけど、千年も生きればそんな事もあるかもしれないもんね。

 面白過ぎるベニ婆の歴史勉強会は、時々白雪さんも参加して、聖獣としての知識と、実際に生きたベニ婆の体験談を教えてもらえるという、素晴らしい時間だった。
 お休みにしていた聖の日は、毎週ベル君のお家に通うようになった。
  
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