ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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素敵な素材と魔獣

第436話 ミケさんのお里訪問

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 三十分程歩いたところで村が見えてきた。

「あれがミケの育った〖カッツェ村〗だな」

 外から見る分には普通の村にしか見えない。入口の門が猫耳になっているとか期待したけど、そんな事はないようだ。
 例の魔獣は川の方に牧場があるのか、山から歩いてきたこちらからは全く見えない。

「旅人か? 珍しい……って、あ、あんたは」
「覚えてくれているとは光栄だな。久しぶりにモフッコの素材を見に来たんだ」
「覚えているに決まっているさ。モフッコの使い方を伝授してくれた恩人なんだからな。ゆっくりしていってくれ」

 門番っぽい人は猫耳の人で、見慣れた猫獣人だったよ。ミケさんみたいなにゃん様を期待していた私としては非常に残念です。

「くっくっく、ヴィオ、顔に出過ぎじゃ」
「門番は人前に立つからな、一応見た目に気を付けているんだと思うぞ」

 特にギルドカードの確認をされることもなく村に入れたのは良いんだけど、つまらなく思っていたら、二人に笑われてしまった。そういえば人化出来ないのは出来損ないなんだったっけ?
 長閑な村はサマニア村と同じ感じだろうか、ミドウ村は家と家の間隔が非常に広かったけど、ここはある程度まとまっている感じだね。

 買い物をしている奥様、お店で販売しているおじさん、走り回っている子供、全部が猫獣人というニャンダーランドである以外は、普通の村と変わらない。

「子供は結構猫ですね」
「ぶふっ、まあそうだな」

 違うのは、当時のロン君のように完全四つ足の猫で走っている訳ではなく、見た目は猫だけど二本足で、洋服も着て走っているところだろう。
 大人は猫髭と猫っぽい口元だけど人要素が多いし、ミケさん程可愛いにゃん様はいない。

「大人は結構人ですね」
「ぶはっ、戦闘職以外は獣化するより人化しておいた方が器用だからじゃないか? 寛ぐ家の中では完全獣化する奴もいるだろうが、あれは外出着で出かけるのと同じくらいの恰好なんだと思うぞ」

 成程ね、であればミケさんは何処に行くにもパジャマでだらしないという感じだったのだろう。スエットが部屋着か外出着かという論争はどこかで起きていた気がするけど、まあだからと言って虐待する話ではないと思う。

 門番の人が言っていたように、どうやらあのクッションを取り入れたのはチアキさんの助言があったからだそうで、大人の獣人たちの中にはチアキさんに気付いて挨拶をしてくる人も多くいた。

「ふんっ、誰も彼も稼ぎの礼だけじゃ。ミケの心配をする奴は居らんのか。相変わらずこの村は気分が悪くなるな」

 この村に入ってからずっと白雪さんは不機嫌です。とはいえ元々表情がコロコロ変わる人ではないので、見慣れていない人からすれば分からないんだろうけどね。

「あぁ、この店だな。邪魔するぞ~」
「いらっしゃいま……、おぉ! チャーキ様ではないですか! お久しぶりです」

 チアキさんが訪れたのは、この村の中で一番大きな建物だった。町長の家かと思ったら、クッションのお店らしい。他の店や建物との違いも凄いことを思えば、これだけでこの村を切り盛りしているって感じなのがヒシヒシと感じるねぇ。

「久しぶりだな、随分店も大きくなったようだ。ちょっと商品を見せてもらえるか?」
「勿論でございますよ。そちらの奥方は以前もご一緒でしたが、おや? もしかして……」

 猫でも揉み手をするんですね、って思いながら眺めていたら、こっちをジッと見つめてくる。猫成分が少ないおじさんに見られても嬉しくないですよ。

「ああ、この子が使えるクッションが欲しくてな」
「おぉ、そうでしたか。可愛らしいお嬢様ですな。えぇえぇ、どのようなものが良いかゆっくり触ってお選びくださいませ」

 ニコニコしながら奥に何かを伝えた猫おじさん、直ぐに従業員らしい人たちがゾロゾロと出てきて、大小さまざまなクッションを持ってきてくれた。
 広いテーブルに並べられたクッションをゆっくり触りながら感触を確かめることになったんだけど、猫おじさんはずっとそこにいるんです?

「おおっと、私は少し席を外しますね。ご家族でゆっくり確認なさってくださいませ」

 私の視線に気付いたのか、ヘヘっと笑いながら居なくなってくれたおじさん。完全猫さんなら側にいてくれてもいいんですけど、中身が分かっている以上、ちょっと嫌かもしれません。

〈どうだ?〉

 従業員は一定距離を離れた場所にいるので、普通に喋ってたんだけど、急に【サイレント】で喋りかけられて吃驚した。

〈どう、とは?〉
〈これを触っての感想だな〉
〈あ~、まあ柔らかいですけど、それだけですね。生地がどれもイマイチですから、中身だけもらって、ガワは作り直したいです〉
〈まあそうだよな。じゃあデカイのを買って詰め替えるか〉

「さて、ヴィオはどれが気に入った?」

 なんとナチュラルに切り替えるんでしょうね。どっちで喋るか考えないと切り替えられない私はアワアワですよ。とりあえず大きなクッションを掴んで見せれば、チアキさんがそれを従業員に手渡してくれた。この中では一番高額商品なので、とても嬉しそうだ。

「明日、モフッコの牧場見学をしたいのだがいいか?」
「勿論でございます。ですが、家畜になっているとはいえモフッコは元々魔獣でございます。お嬢様には危険ではございませんか?」
「ヴィオは冒険者としても一流じゃから心配は無用じゃ」
「な、成程、流石ですな。では明日、店に来ていただけましたらご案内させていただきます」

 初めて白雪さんが喋ったんだけど、ブリザードが降りそうな感じですよ。普段の白雪さんを知っている私からすれば驚きです。
 だけどお店を出てからその理由を知って納得です。このお店、というかあの猫おじさん、ミケさんのお父さんなんだって。という事は、この人たちがミケさんを追い出した人って事。
 ん? そんな人達にクッションの製法を教えたの?

「元々この村に特産は無くてな、モフッコはあっちの森に生息する野生の魔獣だったんだ。家畜化して大人しくなってはいるが、元々は結構面倒な魔獣でな。
 ミケだけじゃないが、出来損ない扱いされた奴らは冒険者としての訓練をする事もなく、魔獣討伐に駆り出されることが多かったんだ。ミケを引き取ると決めた時に『魔獣討伐用の人足を持っていかれては困る』と言われてな――」

 聞けば聞くほど胸糞悪いとしか言えないんですが? 
 上手く討伐できればその毛皮を使ってクッションを作っていたけれど、そんなに量は採れないから特産って事でもなかったみたい。
 それで、家畜化できるようにすればいいとチアキさんが牧場を作り、影魔法で調きょ――大人しくさせたモフッコを村に連れてきて、定期的に毛皮を確実に刈れるようにしたんだって。
 運が良いことに猫獣人との相性が良かったらしく、非常に飼いならされたモフッコは、野生の時の悪癖を出すこともなく、非常に良質な毛皮の提供者になってくれたんだと。

 その毛皮を詰めたクッションを量産できるようになったことで商業ギルドとの取引が出来るようになった事で、村は凄く大きくなったんだって。
 チアキさんが手助けをしたのは十数匹のモフッコを連れてきて、家畜化するところまで。その時点でミケさんを連れていくことに文句を言う人はいなかったというから、白雪さんがあの態度だったのも納得です。というか、それならミケさんの様子とか聞かない? 
 猫要素が少なかったのも、村が猫っぽっく無かったのもあるけど、あんまりこの村好きになれないかも。
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