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エルフの里
第455話 お手紙と魔封箱
しおりを挟む春になってドゥーア先生から届いた手紙には、回復魔法を発表したという内容が書いてあった。
今回は、前もって他国にも新しい魔法の理論が発表されると伝えていただけあって、各国から魔導学園で優秀な成績を修めていた卒業生や、魔法が得意だと豪語する人たちが送り込まれていたようだ。
リズモーニ王国としても、聖属性持ちのヒトは勿論、持っていないヒトにも一年かけて解剖生理を教えたことで、長い呪文を唱えなくても回復魔法が使える人を増やしていたとの事。
ボディーピークの魔法に関しては、医療関係の仕事に就く人だけに伝え、回復魔法はリズモーニ国内の各冒険者ギルドからも担当者を決めて練習させていたというから本気度が分かるよね。
サマニア村からは誰が担当になったんだろうね。
サブマスは既にできる人だったし、今はお兄ちゃんたちと一緒にいるからきっと覚えている筈。聖属性持ちって事だったら、魔法担当のアリアナ先生かもしれないね。
発表後は各国から理論だけでなく、実地訓練をやらせてほしいという希望が多く、各地の冒険者ギルドへの実地訓練が解放されたんだって。
各国から来るのは貴族なのに、冒険者ギルドで? って思ったんだけど、ギルドだったら常に魔獣の解体が見られるし、そこでまずは解剖生理を学ばせる方が早いだろうという内容が書いてあった。
うん、まあそうなんだけど、お貴族様が耐えられるのかな?
回復魔法が使えるというのは格好良い感じだから使えるようになりたいだろうけど、魔獣の解体とかは嫌がる人が居そうだよね。
ああ、だからこそ冒険者ギルドなのか。ごねるような相手は遠慮なく放り出しそうだもんね。
最初はココッコぐらいからスタートできれば良いけど、場所によってはゴブリンかもしれないね。まあ、その方が人体に近いから勉強にはなりそうだけど、私は遠慮しておこうかな。
お兄ちゃんたちの為に作ったお守りのイヤーカフ、転送するのが怖いと思ってドゥーア先生に相談の手紙を書いていたんだけど、その返答もあった。返答というより、立派な箱が同封されていたんだけど。
「おぉ、魔封箱か。しかも鍵の魔石が三つとは、これがあれば安心だぞ」
「チアキさん、魔封箱ってなんですか?」
シンプルな木箱の中央には通常なら鍵穴がある感じの銀板プレートがあり、プレートの中央には銀色の小さな石が付いていた。どうやらこの石が鍵代わりの魔石なのだという。
「魔石? こんなに色のない魔石ってあるんですか?」
「いや、隠蔽しているんだと思うぞ。手紙に魔石の事が書いてないか? 特定の魔力を入れる必要があってな、お互いに示し合わせておいた魔力を流すことで開封することができるんだ。だから色からバレない様に、色が分からないような隠蔽をかけておくことが必須なんだぞ」
チアキさんに言われて手紙を読み返せば、最後に書いてあったのがこの箱の事だったのだと分かった。
《上中央:風、下左:聖、下右:氷》
「えっと、上中央が風、下の左が聖、下の右が氷って書いてます。この順番にその属性魔力を入れたらいいんですか?」
「おお、そうだぞ。それにしても三つの魔石でも凄いのに、聖と氷って使える奴が少ないだろうに。それだけ安全性を考えてくれているってことだな。ヴィオは人に恵まれているんだな」
ワシャワシャと頭を撫でられて嬉しくなる。うん、お父さん、お兄ちゃんたち、サマニア村の皆、ドゥーア先生、お屋敷の皆、プレーサマ辺境伯閣下だって一度しか会ってないのに凄く心配してくれてるらしいし、人には恵まれていると思う。
私の波乱万丈すぎる人生に巻き込んでいるから申し訳ない気もするけど、それが何だと、もっと寄越せと言ってくれる人ばかりで頼もしいし、有難いし、大好きだ。
勿論この島に来てから会った人たちもそうだ。あの山で捨て置いてもおかしくなかった私を連れてきてくれた白雪さん、素性も分からない私を置いてくれて、修行もしてくれるチアキさん。
出会った当初にプロポーズされたのは驚いたけど、それ以降も何かと気にかけてくれるベル君、最初は命の恩人だからと遠慮していたルイスさんも、最近は少し気安く対応してくれるようになった。
それからいつでも優しく支えてくれるミケさん、この村の人もいつだって優しい。最弱のヒト族の私なのに、村の子供として可愛がってくれている。
本当に人に恵まれすぎていると思う。
「私もそう思います。この大陸で生きて行けてるのはチアキさんのお陰ですしね。ありがとうございます」
「家族が居ないと思って連れてきた俺たちの事を責めても良いのに、ヴィオは懐が広いんだな」
いや、まああの時は驚きましたけどね。だけど、物理的に離れていたからこそ気持ちを落ち着けることができたとも思っている。
もしあの時、あの直後にそのまま村に戻っていれば、二度と家から出れなかっただろうと思う。お兄ちゃんたちにすぐに会っていれば、甘えて動けなくなっていただろうと思う。
だから、これで良かったんだと今は思ってる。ありがとう、チアキさん。
チアキさんに教わりながら、魔封箱の魔石に魔力を注いでいく。
小さな魔石に魔力を入れるのは難しいことではなく、結構すぐに入れることができた。
「蓋をした後は、同じ魔石に同じ属性の魔力を注がないと開けることができない。違う属性の魔力を入れると二度と開けることができなくなるから気を付けるんだぞ」
「魔力を抜いたら駄目なんですか?」
「それができたら何度か挑戦すれば開けることができるだろう? この魔道具に込められている魔法陣には『破壊不可』『隠蔽』『鍵の間違いによる封印』の三種類が入っている筈だ。
安い箱だと『隠蔽』と『破壊不可』だけだろうから、ヴィオが言ったように魔力を抜いての再挑戦ができるだろうけど、この箱でそれは無いだろうな」
唯の木箱だと思ったんだけど、チアキさんに言われて鑑定眼鏡で確認したら、木箱の素材は≪エルダートレントの木材≫と書いてあった。かなり頑丈で、魔法を使ってくる魔木だけあって魔道具の触媒としては重宝されるとの事。
属性を間違えさえしなければ大丈夫って事だけど、何度も開け閉めしたくないので、各自の名前を書いた小袋にイヤーカフを入れて箱に収納する。
こんな機会は次いつになるか分からないので、フィルさんのイヤーカフも入れておいた。先生はメネクセスとも連携を取っているって言ってたし、チャンスがあれば渡してもらえるかな。
各自のお守りについての効能も書いてあるので、今回のお手紙は魔封をした封筒で送ってもらった。
ドゥーア先生からも「侯爵宛の手紙を開封するような馬鹿は流石に居ないから大丈夫」と言ってくれているけど、人はほんの少しの好奇心や油断で足を踏み外すこともあるからね。危険はできるだけ排除しておくべきだと思うんだよね。
チアキさんと受付のお姉さんにも間違いなく魔封されているかを確認してもらい、魔封箱と一緒にリズモーニ王国へ転送してもらった。
お兄ちゃんたちが喜んでくれたらいいな。
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