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閑話
〈閑話〉メネクセス王国 32
しおりを挟む大陸歴588年、土の三か月目の最終日、ガルデニア侯爵と元王妃であるアナリシアの処刑が行われた。
前回行われた平民の前で行った公開処刑程ではないが、公開裁判の後に行われた公開処刑は、この国の貴族たちに王家の怒りを十分に伝えることができただろう。
「これで、これでやっと妻たちに報告ができる……」
「ええ、お義父様、グリツィーニ様も、オルヒーデ様にも真実をお伝えすることができますわ」
全てが明らかになった今、ガルデニアに手を貸していた者の半数は流行病で次期当主になりえる後継ぎの子供達を亡くしていた。当主本人が病で他界していたところもあったが、残った者たちにも厳しい処分が待っている。
未だ貴族の数は少なく、流行病とクーデターで負った傷は治っていない。
だが、元凶であったラフターラとガルデニアの処刑が行われたことで、これまで耐えるしかなく声を出せなかった下位貴族たちが立ち上がった。
「歴史だ、伝統だと権利だけを主張していた者たちがようやくいなくなったのです。今こそこの国をより良くしていく好機ではないでしょうか!
リズモーニを見てください。あの国はダムを作り、川を整備し、新しい船を作った事で他国への影響力を強くしました。今まで自国内から出すことのなかった流行品も次々に他国へ輸出しているのです。
我々はどうでしょうか、他国から奪い取ることはあっても、作り出した産業は自国内でしか流通させていません。大国だからそれでも十分に売り上げになりますが、他国からすれば我が国はまだ野蛮な大国という印象が強いのではないでしょうか。
今こそ、我らも他国との関係を深めませんか?
ファイルヒェン陛下がいらしてから他国との関係性は円滑にできるようになりました。ですが、それは陛下個人の関係でしかありません。今後の事も考え、国として、互いの国との輸出入の精度を整えていこうではありませんか!」
この声にすぐ賛同したのは下位貴族と辺境伯達だったが、一年もすれば伯爵以上の上位貴族達も慌てて追従するようになった。辺境領地は元々隣り合う領地とのやり取りはあった。だが、中央領地の貴族達は王都に集まる荷物を運ぶ為の通行料などで収益を上げていたので、全くヤル気が無かったのだ。
だが、寄港できる海辺の領地が整備し、船での荷運びが増え、自領地を通る商人の馬車が減ったのだ。港町トライフルから王都までの川も整備が始まっている。現在のニレイア経由よりも便利になれば、ますます通行料で稼ぐことが難しくなるのが分かったのだろう。
この国が豊かになれば、他国からまた搾取しようとは思わなくなるだろう。
ガルデニアがあのような行動を起こした一つには、過去の王が取り損ねていた小国を吸収し、大陸の東半分を全てメネクセス王国にすべきだと思ったから。それを聞いた時には現時点でも貴族をまとめ上げることができていないのに、これ以上増やしてどうするんだとしか思えなかった。
「貴族というのは、領土を増やす事こそが人生をかけてやるべきことだと考える者が一定数はいるものなのだ。私の曾祖父はまさにそういう人だったのだろう。
曾祖父に殺されない為に、祖父はそう思っていると見せかけて戦争には参加していたようだが、リズモーニ国境沿いの小国は話合いで吸収合併したというのが事実だったらしい。曾祖父が亡くなって以降は、進軍を止めたことからも戦争は嫌だったのだろう。
私は父と祖父を尊敬している。争いはできるだけしたくなかったのだ。だが、甘いだけでは駄目だったという事もよく分かった。均衡を保つのは本当に難しいな」
公開処刑を行うと発表したのは公開裁判の判決が出た土の季節二か月目の終わりで、賛成派も反対派も多くいた。
「王妃殿下まで処刑なさるのはやり過ぎでは」
「いや、ガルデニア侯爵の方が処刑はやり過ぎでしょう。あのクーデターを抑えたのも、ラフターラを捕縛してきたのもガルデニア侯爵ではないですか!」
「何を言っている、ガルデニア侯爵家によってどれだけの貴族が手にかけられていたか……。私の両親とて事故だと思っていたのに……、うっうっう」
「そうですわ! わたくしの娘は妃殿下の侍女に任命されたことを心から喜んでおりましたのに、陛下から袖にされた事を当たり散らされて、体と心に大きな傷を負って帰ってまいりましたのよ。あの子は、未だに社交には出たくないと、人には会いたくないと籠りきりですのに。せめて元凶が消えたと報告したいのですわ」
「クーデターを先導していたのはラフターラでしたが、裏から彼らを操っていたのはガルデニア侯爵でした。という事は自作自演で終結させたということ。茶番に巻き込まれた貴族がどれだけいたことか」
「ええ、第二王子殿下を弑したのはラフターラではなく、ガルデニア侯爵の腹心でした。よく考えれば捕縛されているラフターラの関係者が王子に接近できるはずがなかったのです」
様々な意見が貴族達の間に飛び交い、普段王都におらず反対意見を出していた辺境貴族達も、裁判で判明した事実を知って以降は賛成派に回っていった。
処刑後も多少荒れることを想定していたのだが、処刑翌週にリズモーニ王国から『無属性魔法での回復魔法と、聖属性魔法での回復魔法威力が増大する方法』というとんでもない事が発表されたことで、ガルデニア侯爵処刑の件はすぐに忘れ去られることとなった。
もしかしたら彼の侯爵からすれば、このすぐに忘れられるという事が一番の罰になったかもしれないな。侯爵がというよりは、降嫁した姫が、かもしれない。
ガルデニア侯爵の言葉の端々には、祖母であるはずの姫を敬愛以上の感情を抱いているように思えた。実際に会ったことはないようだが、祖母の言葉を、願いを実現させたいという事を何度も言っていた。
それに王家の姫だった時代に描かせた肖像画がガルデニア侯爵の書斎に飾ってあった。確かに美しい人だと思ったが、性格の悪さが顔に出ているというか、俺は好きになれない顔だった。――まあ、好みはヒトそれぞれと言うしな。
今回の事でガルデニア侯爵家は取り潰しとなり、財産は全て没収。冤罪で貶められた貴族達と、未だ病の後遺症が残る患者へその金は使われた。
元々ガルデニア侯爵家とはほとんど関わりのなかった辺境伯たちは、それこそ魔獣との戦いが毎日目の前で行われている。貴族のやり取りよりも、自領地の領民たちの命を守ることが最優先となるのは当たり前だ。王家からも援助金を出し、リズモーニ王国での勉強会参加を薦めた。
今回の回復魔法は理論と方法の両方が発表された。それを読んでアイリスが言っていた回復のやり方を思い出した。
深部の傷を治すには聖属性魔法が効果的ではあるが、表面的な傷など目に見えるような傷であれば生物解剖をした事のある者であれば無属性魔法でも回復させることができるという事だった。
皮膚、肉、筋肉、血管など、どこがどう傷付いているのかを理解することが一番だという。
『想像力が一番大切なの。どこの怪我を治したいとか、今だったら足の怠さを治したいって事でしょう? それってフィルの足の筋肉が疲れてるって事だから、その筋肉を元気にしようって思って魔法を使ってるんだよね』
二人だけで潜ったダンジョン。長年冒険者をやっていたアイリスの方が体力もあり、一日の終わりには良く回復魔法を使ってくれていた。
他の聖属性持ちが長々とした呪文を唱えるのに、アイリスは確かに「筋肉の痛み治れ~、しんどいの消えろ~」とか言っていた気がするな。
ああ、そのアイリスとよく似ているというヴィオはどうしているだろうか。
別の大陸なんて存在すら知らなかったけど、楽しくやっているという知らせは届いている。
どうか、どうか健やかに過ごしてほしい。
この国の大きな膿は出すことができた。
後は国としての機動力を回復させて、シュクラーンに引継ぎをする準備を始めよう。
早くヴィオに会いたい。
その想いだけが、今の俺を突き動かしている。
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