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閑話
〈閑話〉メネクセス王国 31
しおりを挟む~ファイルヒェン視点~
俺が皇国から戻ってきた時、父と義姉は憔悴していた。
ガルデニア侯爵の取り調べは数週間かけて行われ、証拠を目の前に揃えられた侯爵は言い逃れができない事が分かり、全てを打ち明けた。
『私のお祖母様は陛下の大叔母上でしょう? だから私にも王族の血は流れているのです。
父はお祖母様の言いつけを守らず、騎士団長として国に貢献することだけを考えるくそ真面目な人でした。私もそれで良かったのですよ? ですが、あまりにも愚かな発言しかしないラフターラをそのまま野放しにしている陛下と、止めるべきオスマンも窘めるだけだった。
そんな愚かな陛下から生まれた二人の息子は、陛下同様危機感が全くないと来た。だから私が裏からしっかりお支えしようと思ったのです』
ガルデニアの初代は、俺の曾祖父の妹が降嫁したことで公爵家となった。
リズモーニに嫁いだ姉姫とは違い、自分こそが大国の姫であるという自尊心の塊だったその姫は、臣籍に降嫁させられたことを恨みに思い、子や孫に王家の簒奪を囁き続けていたらしい。
しかし、そもそもその曾祖父の父こそが、今のメネクセス大国にした張本人で、自分の親兄弟、血縁者をことごとく蹴散らし、周辺国を数の暴力で支配した人である。
曾祖父が立太子するまでも、その父王からは様々な課題が振られ、戦場に赴いた兄弟は何人も戦死や暗殺で亡くなっていたという。曾祖父が何番目の王子だったのかは不明だが、戦場に行くことが無かった姫たちですら、支配した国(領地)に嫁入りをさせて反乱の意思がないかを調査させていたというから、国内の公爵になれる家に嫁ぐことができたのであれば、かなり幸運だったと思うのだが、そうではなかったのだろう。
『陛下も殿下たちも随分平和ボケしていらっしゃいましたからね。どれだけ周囲に気を配れるのか、そう思っての実験でしたが、ことごとく情けない結果となりましたな』
最初から自分自身が王になろうとしていた訳ではないが、俺の母親をはじめ、毒殺などの可能性を疑う声があまりに少なく、王家に跡取りができなければ、自分の子供が次期王に近くなるのではないかと考えたそうだ。
『ラフターラは放っておいても自滅するのは分かっていましたし、もしあれらが何らかの策を練って王位についたとすれば、騎士団長として、筆頭公爵家として堂々と討つことができたでしょう。あれらは国民からも実に評判が悪かったですからな。
あの男は絶望的に頭が足りない。少しの甘言で疑いもせずに分かりやすい禁止薬を入荷する。私はそれらに手を加えるだけで良いのですから、あまりにも楽な仕事でしたよ。はっはっは』
母の身の回りにあった布製品は、鉱物から採集できる石綿というものが練り込まれており、燭台が倒れても燃えることが無いから安心安全な寝具だと言われていたそうだ。
だがそれらは医療国ニーセルブでは危険物質として使用禁止が発表されている製品だった。取り扱い国である共和国でも現在は、一部鍛冶職人にしか卸していないというが、闇取引で仕入れをしていたようだ。
この布製品は、俺の母だけではなく、第二王子の妻ソレンヌも使用していた事が判明している。第二王子が無事だったのは、共寝をする時以外は騎士団の遠征などで使用していなかったからだろうと医師から告げられている。
王太子と義姉ミュゼットは、ミュゼットの実家であるオランジェ侯爵領から、使い慣れている布製品が定期的に送られていたから使用していなかった。
これは父と王妃ヴィクトワールが無事だったのと同じ理由だ。
そして化粧品などには鉛が入った物が用意されていた。
母は薄化粧を好んでいたため、あまりその鉛入りの化粧品を使うことはなかったそうだが、新年の宴などの大きな宴の時には侍女たちに勧められて化粧をしていたらしい。
当時の侍女たちは、母が亡くなった後に任を解かれてそれぞれの実家へ戻っていたが、この度招集してそれぞれに尋問を行っている。自分がしでかした事に気付いていた者は、母が亡くなった後、実家に戻って自ら命を絶った者もいたようだが、ほとんどの者がガルデニア公爵夫人が推奨する物を田舎姫に使ってあげていただけだと証言していた。
辺境伯を田舎だと思うのは、モノを知らないと自ら紹介しているようなものだが、彼女たちが社交に出ることは二度とないから教える必要もない。
全ての書類の確認、それによって判明した事件、事故などの詳細確認、当事者関係者の取り調べが行われた。
降嫁した姫が行った冤罪事件などは既にお家断絶になっているせいで、関係者がいないという事もあった。二代目ガルデニア公爵の時にはそのような事はほとんど行われていなかったようだが、当代アンセルムは積極的に粛清を行っていたようだ。
勿論中には王家へ反旗を翻そうとしていた者もおり、それらは父にも報告があったというが、それ以外の不幸な事故や病で倒れたと思っていた貴族の多くが、ガルデニアの影たちによって闇に葬られていた事実が分かったのだ。
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