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スワンプの森ダンジョン
第476話 スワンプの森 その2
しおりを挟む「な~い~」
「ベル坊、飽きたなら帰るか? ダンジョン探索というのは地味な作業の繰り返しというのは珍しくないぞ?」
「えっ、やだ! 帰りたくない! ごめんなさい」
二時間程歩き回っても、引っこ抜ける楽しい素材は見つからず、かといって面白い魔獣にも出会えずにいる今、退屈になったベル君のテンションが下がるのは仕方ない。
足が濡れるのは楽しいから良いと、水蜘蛛を外してルイスさんと一緒にバシャバシャしながら歩いていたんだけど、その辺の水草を蹴り上げながら歩くようになってきたところでチアキさんから一言注意が入った。
多分この道中を一番つまらないと思っているのは、普段飛んで通過している翼人族の皆さんで『通過しちゃってよかったんじゃね?』の空気になっていたんだよね。
「虫しか攻撃してきませんし、この場所はちょっと乾いたところが広いですし、ここでお昼にしませんか?」
「そうね、そういえばお腹が空いてきたかも。ヴィオちゃんありがと、何から準備する~?」
「そうか、もうそんな時間か」
「ふっ、そうだな、腹が減っては戦は出来ぬというし、飯休憩で気持ちを立て直すのも大事だな」
何となくどんよりした空気が嫌で、昼食の提案をしてみた。
行動食を各自が摘まんでいるのは知っているけど、やっぱり座ってゆっくり食事をする休憩って大事だと思うんだよね。
ダンジョン内は寒くないけど、水辺という事で何となく冷えた気もする。火台を作って手早くスープの準備をはじめれば、マムさんとタニアさんが手伝ってくれる。
半泣き状態のベル君は、ルイスさんに宥められながらテーブルの準備をしてくれているけど、誰も怒っている訳じゃないから大丈夫だよと言ってあげたい。
目の前で繰り広げられる調理風景(とテーブルセッティング)に固まっていた翼人族の皆さんだったけど、何もしていないと慌てて参加し始めた。
「す、すまないな、急に始まるんだな。俺たちは何をすればいい?」
「えっと、自分が使う器とかは準備してもらった方が良いかもです」
「器……。リズ、カン、お前たちは持ってるか?」
「いや、コップぐらいしか……」
「ああ、ここの階では良い木もないしな、俺の予備分で良ければ使うか?」
チアキさんがスープボウルとカトラリーセットをいくつか取り出し、お盆サイズの木製プレートもそれぞれに差し出した。うちは大皿料理を皆で取り分けるタイプだからね、この二つがあればなんとかなると思う。
足りなければ深層階に生えているという木から作り出せばいいしね。
お昼なのでスープと簡単に肉串くらいにしているけど、量は多い。肉串のお肉は一つのサイズが前より小さくなった。
小さくなったのは肉が足りないという事ではない。つけるソースが増えたから、全種類が食べたいという人達の為に、一つの肉を小さくしただけなのだ。
「このお皿に乗ってるのが醤油ダレで、こっちのが味噌ダレね。んでこれがマヨチーズで、こっちはコチュジャンのやつ、このレッドペッパーが挟まってるのは辛いやつ」
「おぉ! 辛いのは興味があるぞ!」
タレ付きの肉串は大量に仕込んでルイスさんの鞄に入っている。
暇な時間に串うちをして、タレを付けて保管しているので、現場では焼くだけで良いのだ。マヨチーズはベル君のお気に入りで、チーズがちょっと貴重なので数は少ない。
レッドペッパーのははじめて見たけど、多分今回の為に特別に作ったんだろう。翼人族の皆さんは既にその肉串にしか興味がない様子です。
料理の準備を終えれば、皆で着席。小さな島いっぱいにテーブルがある感じですよ。この島ごと白雪さんの聖結界で護ってもらっているんだけど、さっきからカンコンと虫がぶつかってくる音がして煩い。
とはいえ、いただきますをした後の皆はそんな虫如きに気を取られることもなく、選んだ肉を無心でお召し上がりになっていらっしゃいます。
うんうん、相変わらずの良い食いっぷりですね。
私はコチュジャン肉、マヨチーズ、味噌をそれぞれ一切ずつ頂いて、残りはチアキさんが食べてくれています。
小さくなったとはいえ、一切100グラム弱はあるからね。
豆板醤の辛いのにも興味はあるけど、若干8歳の私の舌が受け付けるか分からないので、ダンジョンでお試しをするのは止めておくことにした。
さっきから飛んできているのは水中に生息している魔虫で、ウォーターバグという虫だ。
田んぼでも見かけたことがあるゲンゴロウとかによく似ているけれど、魔虫らしく大きい。私の掌くらいの大きさがあるので10センチくらいはあると思う。
それが身体を丸めて飛んでくるのだ。
水草を蹴って飛びながら丸まってぶつかってくる。多分ぶつかった後に身体を開いて噛みついたりするまでが攻撃なんだと思うけど、あいにく私たちは障壁を張っているのではね返される。
何匹か倒したものの、落とすのは小さな羽で、何の役にも立ちそうにないから捨て置いている。最初は楽しんでいたベル君も、飽きて放置したのも仕方がない。
「ふぅ、腹がいっぱいになると動きたくなくなるな」
「後半はもう少し何かが見つかればいいな」
食後のお茶を頂いて、皆でマッタリタイム。
まだダンジョンは始まったばかりなんですけど大丈夫ですか?
安全地帯は今休憩している島の三倍ほどの広さがある。それが一階層なのに二つもある程このフィールドは広い。
急ぐ旅ではないけれど、何もないのが続くのはつまらないよね。
あまり敵もいないし素材も少ないしって事で、チーム分けをして進むことになったよ。
保護者役は其々セットになっているので、エルフチームと翼人族チームが分かれただけだけどね。
私と一緒に行動するのは、マムさんと、アリオールさん、リザンドロさんの三人です。イブさんとカエリアンさんはベル君チームだね。
「ふむ、イブから聞いているがヴィオの使う魔法が楽しみだ」
「空からの接敵は私達に任せればいい」
マムさんは寡黙な人だけど、料理の時には饒舌になる。
魔法はイブさんほどではないけれど、新しい魔法には興味津々。戦うのは好きじゃないけど、無駄な殺生をしたくないだけで倒せないとかではない。
アリオールさんは翼人族の族長さん、鷲の翼人さんでとても強い。
茶色と黒が混ざった髪色は翼の色と同じでとても綺麗だ。黙っていると無表情なので怒っていると勘違いされて子供に泣かれることも多いけど、コミュ障なだけというのはもう知っている。
小さいものやフワフワしたものを好むけど、相手からは怖がられがち。今は竜人族がいるお陰で今まで避けられていた小さな動物たちが寄ってきてくれるのが嬉しいと言っていた。
リザンドロさんは雀の翼人さん、鳥化した時は手のひらサイズになる可愛い雀さんで、モフクッションのモデルでもある。
見た目が可愛いから舐められたくないと毒舌キャラを頑張っているのに、子供達にすら「はいはい」と流されている。
翼人族の中で一番辛い物が好きなんだけど、それも可愛い見た目を裏切りたいからではないかと思っている次第。いや、でもさっきレッドペッパーを嬉々として食べてたから本当かもしれないね。
敵の数や素材が見つかったら、また皆で動くかもしれないけれど、しばらくはこのチームで動くことになった。まだまだ交流が少ないからね、これを機に翼人族の皆さんと仲良くなれたら嬉しいです。
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