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スワンプの森ダンジョン
第475話 スワンプの森 その1
しおりを挟むダンジョンまでは歩いて行くことになった。
「この険しい場所をものともしないか。思っていたより体力もあるな」
「ああ、それに魔法の使い方が上手い。竜は大雑把な奴が多いと思っていたが、ベルは将来が楽しみだな」
「へへっ、毎日魔力操作してるんだぞ」
ドラって行くほどの距離は無く、とはいえ森の中を進むので、それなりに魔獣は出るし、山道は険しい。
足場の良くない岩場もあるけれど、大きなものは浮遊魔法をかけて飛び越えていくので、進む速度は然程落ちることが無い。
ベル君が頑張っているから、タニアさんとルイスさんも羽を出さずに一緒に越えているんだけれど、私達が特級ダンジョンにいる間も、タニアさんと毎日魔力操作訓練を頑張っていたというベル君は、本当に少し前よりずっと魔法を上手に使えるようになっている。
「子供の方が吸収が早いという事なのかもしれんな。これはウカウカしておると我もベルに抜かされるやもしれんな」
「私も負けていられませんよ。ちょっと羽を出してもいいですか?」
白雪さんに褒められてベル君が嬉しそう。ルイスさんは純粋な水竜人族だから風の制御は少し苦手なんだって。風をおこすことは簡単だけど、その微調整が大変だからと羽を出して飛び過ぎないように補助をしている。
魔力が多すぎるというのも苦労するんですね。
二時間程山道を行けば、そこだけポッカリ口を開けたような、森の切れ目が現れた。
いや、森の切れ目というよりは、一本の大きな木に周辺の木が絡みついて、太く大きな木になってしまったが故、そう見えているだけなんだと分かった。
「でっけ~」
「すごいね、木が集まってる」
「ええ、元々は普通の森だったんですが、ダンジョンの入り口が巨木にできてから、周辺の木々がこの巨木に吸い寄せられるように集まったんですよ。まあお陰でダンジョンだと分かりやすくて良いんですけどね」
アリオールさんの説明に、確かにこの森のど真ん中にダンジョンが誕生しても、他の木と同じだとスタンピードが起きるまで誰にも気づいてもらえなさそうだと思った。
空を飛ぶアリオールさん達は、定期的に森全体を飛んで見回り、何かおかしなことが無いかを確認してるんだって。
ダンジョンが出来ると、周辺の地形が少し変わるから、定期的に飛ぶという事が非常に重要なんだって。
大きな木が絡みついたその根元には、見慣れた黒い穴があった。
カエリアンさんが先頭で穴に入り、ルイスさんとベル君とタニアさん、私とチアキさんと白雪さん、アリオールさんとリザンドロさん、最後にイブさんとマムさんの順でダンジョンに足を踏み入れた。
ピシャ
入った途端に感じる水溜りに足を踏み入れた感触。
「お、おぉぉ!」
「すっげぇ! なんかびしゃびしゃ!」
「ベル坊、ダンジョンで無闇に動き回るな!」
「ああ、入口からこうだったのか」
思わず感嘆の声をあげて固まってしまったけれど、先に入っていたベル君は珍しい環境にはしゃいで走り回り、タニアさんからお叱りを受けています。
アリオールさんもそうだけど、私のすぐあとに入ってきた二人も羽を出して足を着けないようにしていらっしゃいます。
何故ならフィールド全体が湿地帯だから。
短い草が全体に生えているから分かりにくいけど、今立っている場所も土は柔らかく、足踏みをすれば水の音が聞こえる。
所々背の高い草が生えている場所もあるけれど、それが乾燥している場所なのか、沼なのかここからでは確認できない。
早速【索敵】を展開すれば、非常に広いし、水溜り程度の場所もあれば、かなり広い池もあることが分かった。
「ここ、飛べない人にとっては大変すぎません?」
「まあそうだよな。【索敵】が出来なければ足元を気にして、敵を気にして、素材も探してって結構しんどいな。マムはこのダンジョンに時々来てたんだろう? どうしてたんだ?」
マムさんは飛べない種族だからね。
今はイブさんに教えてもらった風魔法で水蜘蛛みたいになって浮いているけど、これまではそうではなかった筈。
「いくつかある大きな池で、ある程度釣ったら帰っていた」
成程、確かにダンジョンの中は地形が変わることは無い(特級は変化することもある)、決めた場所があればそこまでの敵も大体同じだもの、危ない場所も記憶していれば問題なかったのだろう。
翼人族の皆さんが目的としている針鼠は深層階にいるらしく、彼らは10階のボス部屋までは殆ど飛んで移動していたとの事。
「という事は、この低層階に関しては素材も敵も分からないって事だな。楽しめそうだ」
「それを楽しいって思えるのがチャーキだよね」
「頼もしいな」
情報が全くないというダンジョンなのに、誰も緊張していないのは凄いよね。
とりあえず水辺を歩くのに問題ないというルイスさんにはバシャバシャしながら歩いて頂き、部分竜化できないベル君を含んだ飛べないチームは水蜘蛛状態で歩くことになりました。
「思ったよりも敵がいないですね」
「まだ一階層だからな」
そうか、初級ダンジョンなんてそれこそ一階にはスライムしかいない。中級以上でも転移で戻ってくる場所はそこまで危険な敵は現れないようになっていた。入って直ぐのここに敵が少ないのは当然かもしれないね。
今回のダンジョンは素材探しと、素敵魔獣探しがメインとなっているので、先に進むのが第一ではなく、ローリングしながら、見落としが無いように歩いている。
ジャバジャバ ザバザバ サクサク
「お、この辺りから乾いてますね」
敢えて水が溜まっている場所も歩いてくれているルイスさんの足音が変わった事で地面の変化が分かる。
ここまでも短い草がずっと生えていたんだけど、それらは雑草というか普通の草で、引き抜いてもただの草だった。
見た目に変化はないものの、砂地というか水がない地面になったので、植生もほんの少し違うような気がする。
「ちょっと見てみるか」
チアキさんが【索敵】をしてくれたけれど、どうやらこの場所に素材となっている草は無いようだった。
「ちぇ~、引っこ抜くの楽しかったのになぁ」
「ここは豊作ダンジョンって訳じゃないしな、そんなに簡単には見つからないんじゃないか?」
「深い方はそれなりにあるぞ。というか、俺達は低層階をじっくり見たことが無いから知らないだけかもしれないが……」
何が出てくるか分からない草を引き抜くのって、くじ引きみたいで楽しいよね。
空振りと分かって少し残念がっているベル君だけど、まだ入り口が見えているこの場所で見つかるなら、それこそ豊作ダンジョンと謳って良いだろうし、見つからなくても仕方がないんだと思う。
気を取り直して先に進もう!
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