560 / 584
山籠もり
第493話 イブさんの苦悩
しおりを挟む「はぁ? 何この結界、意味わかんないんだけど!」
『わぁ、ここだと里にいる時くらい心地いいわ。夜になってもこれなら安心ね』
夕方になり、今日の訓練終了という事で野営地に帰還する。
さてさて、想像通り騒いでいるイブさんはチアキさんにお任せして、私は今夜の夕飯を作りましょうかね。イブさんが増えたところで作る量は変わらない。
いつもかなり多めに作っているから、余った分は後日食べられる様にマジックバッグに入れているからね。とはいえ鍋で作った料理はチアキさんが全部食べるので、然程余ってはいないんだけど。
「――っていうか、相変わらず手際が良いよね。僕も手伝うよ」
「あ、じゃあそっちのお野菜をみじん切りにしてもらっていいですか?」
「お! 今日はハンバーグか? 丸めるのは出来るからな。先に米を炊いておこう!」
今日はロコモコを作るつもりだと言えば、張り切ってご飯の準備をしてくれるチアキさん。その様子を呆れた目で見ながらも、調理を手伝ってくれるイブさん。苦労体質ですね。チアキさんとの付き合いは誰よりも長いはずなのに、突っ込まずにいられないんですね。
「ていうかさ、あの魔石をくっつけるやつ、ヴィオも知ってるの?」
馬鹿デカ溜息をつきながらイブさんに聞かれる。ああ、見守り時間にあれを見たんですね。
「便利ですよね。屑魔石が沢山余ってたから、私も練習中なんです。流石に知られるとやばいねって事で内緒にすることになったんですけど、イブさんには伝えることにしたんですね」
流石ズットモという事なのだろうか。
それともしばらく一緒にいるのだから内緒にするのは面倒だったのだろうか。チアキさんならどちらもあり得るよね。
「じゃあ、魔石の魔力を変えるのも知ってるってこと?」
「ああ、それはヴィオが俺たちに教えてくれたんだぞ。この聖結界の魔道具が作れたのはそのお陰だな」
「はぁ!?」
グリンと首がもげるんじゃないかと思う勢いで振り返られてちょっとビビる。
「お母さんがやってたらしくて、お友達の人が教えてくれたんです」
「ナニソレ、ヴィオの母親も規格外だったってこと? あっちの大陸ってそんなのがいっぱいいるの? やっぱりもう一回旅した方が良くない?」
旅をするのは良いと思うけど、あちらの大陸でもかなり珍しいというか、学園を卒業したネリアさんですらそんな方法は知らなかったと言っていたので、知ってる人がいるとは思えませんよ。
「ああそっか、聖属性持ちじゃないとそもそも使えないし、やろうとも思わないよね」
納得したのか、諦めたのか。イブさんはブツブツ言いながらボアのお肉をミンチにしてくれています。私はマルネギを飴色になるまで炒めようかな。
ああそうそう、ダンジョンではドロップアイテムで貰えるお肉たち。この修業を始めてた当日、討伐した後にそのまま肉体が残ってそういえばとなったのはお約束。
蛇だったから解体は簡単だったけど、最初に切り捨て御免で捨てて来てしまった奴らはそのまま放置して来てしまったと後から反省した次第。
チアキさんもうっかり忘れていたらしく、今はちゃんと全部回収して、解体できるものは解体し、出来ないものは捨てる内臓とかと一緒に焼却処分しております。
久しぶりにやったけど、吊り下げ解体の腕も落ちていませんでした。肉屋のマコールさんに教えてもらった技はちゃんと忘れていなかったよ。
「そうか、鶏がらスープもどうやって作ってるのかと思ったけど、地上だと全部あるから作れるんだな」
「そうですね。ダンジョンのドロップアイテムは便利ですけど、豚骨スープも牛骨スープも、骨が落ちないと作れませんから、あとは野生の牛っぽいのが見つかればいいんですけどね。野生のカウカウはまだ見つけたことが無いんですよね」
家畜化されている牛は見たことがあるけれど、野生の牛は見たことが無い。だけどダンジョンから普通の状態で連れ出すことはできないから、きっと野生の牛はいる筈なんだよね。
牛タンを自分で調理できるかはちょっと自信がないけれど、舌だけの状態からなら調理できると思うんだよね。ギルドに解体依頼を出せばいいかな。
その場合は南部に行かないと駄目だけど、ミドウ村の人なら牛の解体も出来そうだよね。
調理ができるイブさんが来てくれたので、ハンバーグの仕上げはお願いしている現在。私は途中で討伐していた野生のココッコを捌いて鶏がらスープをクツクツやっております。
お父さんが作ってくれた鶏がらスープをフリーズドライさせていた粉も、大分残りが少なくなっていたので作ることが出来て良かった。
生姜はなかったけど、色んなスパイスを入れて独自の鶏がらスープを作っていたお父さん。
あの味の再現は出来そうにないけれど、この島で生姜が見つかったので日本風の鶏がらスープを作っています。
「どうしたの?」
『びお、泣いてるの? 何か悲しいことがあった?』
『可愛い私達の子、泣かないで』
結界魔道具の傍で寛いでいた精霊ふたりも、いつの間にかそばに来て心配そうに飛び回っている。イブさんに言われて自分が泣いていた事に気付いた。
「このスープ、お父さんが作ってくれてた事を思い出して……。だけどお父さんが作ってくれていたレシピが分からないから、もうあの味は食べられないんだなって思ったら悲しくなってしまったんです」
『これも良い匂いがしてるわ』
『ええ、失敗してないわ、美味しいはずよ』
大人二人は静かに頷き、精霊ふたりは慌てたように慰めてくれる。
「ふふっ、ありがとう。お父さんの事は思い出したら泣いちゃうけど、これは良い思い出だから」
『大好きなお父さんなのね』
『びおが笑ってるなら良いわ』
優しい精霊、優しい大人たち。甘やかされてるなと思うけど、こうして少しずつお父さんとの出来事を思い出として乗り越えていくのだろう。
一緒にいたかった、一緒に金ランクになりたかった、一緒にまだまだ冒険したかった。
もう叶わないけれど、お父さんが一緒にいてくれていると思って頑張ろう。
411
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました
あい
恋愛
両親を失ったあの日、
赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。
それが、アリア。
世間からは「若い母」と呼ばれながらも、
彼女は否定しなかった。
十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。
恋も未来も、すべて後回し。
けれど弟は成長し、ついに巣立つ。
「今度は、自分の人生を生きて」
その一言が、
止まっていた時間を動かした。
役目を終えた夜。
アリアは初めて、自分のために扉を開く。
向かった先は、婚姻仲介所。
愛を求めたわけではない。
ただ、このまま立ち止まりたくなかった。
――けれどその名前は、
結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。
これは、
十六年“母”だった女性が、
もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる