ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エフタの谷

第507話 帰還と報告

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 クラーケン釣りをした翌早朝に、チアキさん達は帰ってきた。
 時間がかかったのは海苔の回収を何度かしてくれていたのと、5階以降は半分海だったので、動きが遅くなったため討伐にもそれなりに時間がかかったからという事だった。

「とはいえ水竜人じゃなくても水中で行動できると分かったのは良かったぞ」
「普段は盾の強度なんてあんまり意識したことが無かったけど、今回は流石に気にする事になったよね。おかげで良い感じの盾を常に出してられるようになったんだ。
 これを四六時中やってるヴィオって、本当に器用だよね」

 帰ってきたチアキさん達から報告を聞いているんだけど、足が浸かるような海ではなく、完全に水中だったという事なんだね。
 それは一般的なヒトであれば進めないのではなかろうか。
 酒樽のお姉さんが進めたのは、海の上を飛んで行ったからなのかな?
 普通に飛んでくる魔魚を倒して豊漁だと喜んでいたとは聞いている。

「海の階層だったら階段も水中にあるんですか?」

 お姉さんはボス戦はせずに帰ってきたと言っていたけど、下までは行ったと言っていたからね。

「浮島みたいなのが所々にあったから、水中行動が出来ない奴でも泳ぐことが出来れば進むことはできると思うぞ。ただ、それなりの距離がある場所もあったから、泳いでいる間に魔魚からの攻撃を受ける事にはなりそうだがな」

 その場合は浮島にいる仲間が魔法とか、遠距離攻撃で倒して時間を稼ぐのだろうか。
 だとしたらある程度倒しておかないと後衛メンバーは死ぬよね。
 チアキさん達はそれが面倒だから、最初から水中行動をしようと風の盾を使ったそうだ。まあその練習時間もあったから時間がかかったんだろうね。

「安全地帯は大きな浮島だったけど、海中に結構宝箱があった事を思えば、水中行動出来た方が絶対に楽って事だよね」

 おぉ! 海中にある宝箱とか、なんだか浪漫がありますね。
 この世界に海賊はいない、というか陸から離れれば離れる程魔魚のサイズが大きくなるし、狂暴になるから、海賊なんてやってられない。
 だから海底に沈むお宝なんて普通は無いんだろうけど、ダンジョンだからね。流石ダンジョン様は浪漫を分かっていらっしゃるね。

「海の中の敵だとクラーケンもいたんですか? 昨日大きいの釣り上げたから今日食べようと思ってるんですよ」
「はぁ!? クラーケンとか、ダンジョンで出るならボスクラスだし! 流石にそんなのがいるって分かってて水中行動とかできないよ。てか、クラーケンを倒したの?」
「海釣りは砂浜からすると言ってなかったか?」

 一日目は砂浜からの釣りを楽しんで、二日目に酒樽作り(の見学)をし、三日目に海釣り(見学予定)でクラーケンを釣り上げたのだ。

「海苔が沢山手に入ったじゃない? だからあなた達が戻ったら勝手巻きパーティーをするつもりで、海釣りに行ったらクラーケンに邪魔されちゃったのよね。
 だけどヴィオちゃんが食べてみたいっていうから、凍らせて持って帰ってきたのよ。昨日足一本分食べたけど、コリコリしていて美味しかったわよ」
「タニア……、お前あのクラーケンを食ったのか?」

 イブさん、チアキさん、バレンさんが三人共驚いているんだけど、なんてことないという感じでタニアさんが説明してくれる。
 試食として、昨日ゲソ一本分は食べたんだよね。薄切りにして鉄板焼きで、軽く醤油を垂らすだけという非常にシンプルな食べ方だったけど、とっても美味しかったんだ。
 臭みは全くなく、少し甘いと感じる程だった。噛み応えはあるけど硬い訳じゃない。非常に良いイカでした。

「驚くでしょう? でもね、前に勝手巻きパーティーをした時にバレンも気に入ってた白いツルツルしたの、あれが同じ魔魚だったらしいわよ」
「なっ! チャーキがイカソーメンも美味いと言っていたあれか?」
「あ~、そうか、クラーケンは確かにイカだな。あれをイカと同じと考えていいのか分からんが……」

 多分チアキさんは巨大イカを想像しているんだろうけど、クラーケンは魔魚だからね。ぬめりの処理は【クリーン】で簡単綺麗になった。
 イカの嘴っていうんだっけ、あの口の部分。あれが巨大すぎて完全凶器だったけど、ブルさんが酒樽加工の刃物として使ってみたいというからお譲りいたしました。

「ダンジョンにいた海の魔魚は、まあ普通だったな。イルカみたいなのと、エリマキトカゲみたいなのはいたけど、それ以外は普通に食える魚だったぞ」

 チアキさんがマジックバックから切り身の魚を大量に出してくれる。赤身、白身、光もの、これは勝手巻きパーティーで半分くらいに減りそうだね。
 流石に魚卵は無かったようだけど、そんな贅沢は言えません。あの魚卵魔法を打ってくれるゴブリンを探さないとですね。

「俺たちのダンジョンはそんな感じだったな。留守番をさせるのは心配だったが楽しんでいたようで何よりだ」

 報告が終わったところで、タニアさんとバレンさんは勝手巻きパーティーのお知らせの為に家を出た。
 まだ準備をするには早いけど、伝えてないとお出かけしちゃうヒトもいるかもだからね。

「そうだね、思ってたより無茶苦茶だったけどね」

 若干呆れられてます? 周囲の大人ドラゴンがヤベエだけで、私は大したことしていませんよ?
 酒樽だって手足の短さで作ることは断念した訳ですし。
 そんな話をしていたら、両側からホッペをツンツンされた。さっきまで大人しく肩に座っていた精霊たちが立ち上がってもじもじしているのだ。ああ、そういえば相談するんだったよね。

「そうだ、チアキさんとイブさんに相談がありまして」
「ヴィオが相談? 僕に? 珍しいね」
「ああ、俺で分かる事なら良いぞ」

 机に伏せかけていたイブさんが、ピンと背中を伸ばして自分を指さしながら驚いているんだけど、そんなに驚くこと? だって魔道具のスペシャリストだし、賢者と呼ばれる人でしょう? それに、精霊についてかなり詳しい人だもの、頼りにしておりますよ。
 チアキさんはいつも通り、ニコニコしながらどうぞと促してくれる。ありがとうございます。

「えっと、今回お留守番をする事になって、精霊たちが凄く悲しがってたんです」
「ダンジョンだからしょうがないよね?」
「精霊が悲しがったのか?」
『あ~、違うの、びおを我慢させちゃった事が悲しかったの』
『だけど今後もダンジョンには行くでしょう? その時にお留守番で離れるのも寂しいし、だからと言ってびおに我慢させるのも嫌なの』

 どうやら私の説明は下手だったらしく、精霊ふたりが代わりに説明してくれるようです。なんかすみません。

「成程な、精霊が依り代にする魔道具を作ってほしいって事か……」
「可能ではあるけど、外に出るという事はそれだけ危険が多いって事は分かってる? ヴィオはこの島にいつまでもいる訳じゃない。別の大陸に行くことになる可能性だってあるんだよ? その時はどうするの? 魔道具を依り代にしてしまったら、そこからそんなに遠くには離れられなくなることを分かってる?」

 え? 
 イブさんが精霊たちに説明しているのを聞いて、私が驚いてしまう。
 そんな事は聞いていなかったし、一緒にいる為の仮宿みたいなつもりだったんだけど?

『分かってるわ、それでも一緒にいたいんだもの』
『びおは私達が守ってあげたいの』

 ちょっ、ちょ待てよ。
 思わず私の中のイケメンが顔を出すぐらいには驚いてるわ。

「待って、そんな簡単に決めていい事なの? だって私普通の人だよ? 世界最弱のヒト族で、寿命だって短命種だよ? それなのに精霊さんたちを縛り付けるなんてできないよ」

「「最弱?」」 

 ちょっとそこの勇者と賢者、首を傾げないでくださいますか? 

『大丈夫なの、私達が力を付ければ自由度は上がるわ』
『そうなの、とっても強くなれば魔道具に頼らなくても出入り自由よ』

 強くなるというのは筋トレとかではないですよね? 
 小さな半透明の少女たちを見てトレーニングは意味がなさそうだと考える。

「精霊が力を付けるのは魔素の吸収だよ」

 イブさんが『コイツ大丈夫か?』みたいな感じで言ってくるけど、精霊あるあるとか知らないですから。
 結局精霊たちの意思は固く、イブさんとしても力を付ければ危険は減るし、自由度が高くなれば彼らが私といたくないと思った時点で離れるだろうという事で魔道具作りの許可が出てしまった。

 ただ、タニアさんの家では道具も何もかもが足りなさ過ぎるし、エルフの里だと、多分他の精霊たちが自分もと言い出すかもしれないからという事で、一旦ミドウ村に戻ることになった。
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