ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エフタの谷

第506話 海釣り(沖合)

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 精霊たちからの可愛いお願いをされた後、大人ドラゴンたちにお誘いを頂き、海釣りについてきました。
 先日の砂場からの釣りではなく、沖まで行く豪快な釣りの方です。
 最初はタニアさんの背中に乗って、安全な高高度から見学をする予定だったんですけども、あの、ドラゴンってやっぱりとんでもない生き物なんだなって改めて思いました。

 グロンディール大陸でのドラゴンは伝説の生き物扱いで、それはダンジョンにいるドラゴンも同じ感じだと聞いている。
 ドラゴンがラスボスのダンジョンはもれなく上級Aに指定される。それは階層が20階しかなくてもだ。ボスというのはダンジョンにいる魔獣のランクとかけ離れるという事は無い。
 時々変異種なんてやばいのが出ることはあって、それは通常ボスよりもランクが高くなりすぎるから、当たってしまった場合は運が悪かったと言うしかないけれど、そうでなければそこまでの道中に出てきた魔獣より少しだけ強いというのがセオリーとなっている。

 つまり、ドラゴンが出るダンジョンの手前に出てくる魔獣はドラゴンよりも少しだけ弱いレベルの敵となる訳で、それはかなり強敵であるという事だ。
 今のところ、グロンディール大陸でドラゴンがラスボスであるダンジョンは特級ダンジョン以外にないという。
 特級ダンジョンのラスボスは、こないだのサザエのようにボス部屋が別室になっている事もあれば、繋がっているフィールドの事もある。
 というか繋がっている事の方が多いらしいんだけどね。
 なので、ボス戦だけど頑張れば逃げることもできるという。だからこそドラゴンがラスボスという情報が出回っているんですよ。

 もしかしたら上級Aでラスボス不明の場所は、そこまで行ったけど負けちゃったのかもしれないよね。
 個室ボス部屋の場合は負けるか勝つかしないと部屋から出ることはできないんだもん。
 全てのダンジョンを踏破するのが夢な私だけど、今タニアさんの背から見下ろす海の上で、どう見てもクラーケンと呼ばれるような大きな化物イカと戦っているドラゴンに勝てるとは思えません。

 イカって海の中にいる時は透明なんだっけ? 白じゃなかったっけ? と思いながら見ているんだけど、三体のドラゴンが煽るように周辺を飛び回っているもんだから、海の上に身体を半分持ち上げながら、赤・白・黒と明滅しているように見えるんですよ。
 とりあえずめっちゃ怒り狂っているのだけは伝わってきます。

「あのクラーケンがいる場所には巨大な魔魚がいるのよね。いつもなら追い払うんだけど、ヴィオちゃんがいるからいいところを見せたいと思って倒すつもりかもしれないわね」
「え? クラーケンって食べないんですか?」

 タニアさんの言葉に、やっぱりあの巨大イカはクラーケンだったのかと納得。どの世界でも名乗れるクラーケン、中々の有名イカですな。

「えぇ? あの気持ち悪いのを食べたいの? ま、まさか、あれも美味しいの?」
「え? 勝手巻きの時に食べたじゃないですか。ボス箱に入ってた白い板みたいなやつです」

 とはいえ、通常のイカサイズだったあれと、クラーケンが同じ味かは不明だけどね。ダイオウイカは非常に臭いと聞いたことがあるけれど、あの海で暴れているのは魔獣だもの。きっと美味しいはず。

「ああ、あのコリコリつるつるしてたあれ?
 ちょっと皆待って~! クラーケン美味しいかもって~!」

 タニアさんが真下に向かって大声で叫ぶ。あおりに煽っていた三体がピタリと止まり、私達のところに飛んできた。

「あれが美味いのか?」
「クラーケンは食べたことが無いので分からないですけど、あれの小さいサイズのは美味しかったですよ」
「なら捕まえるしかないか」
「だが、捕まえるとなると難しいぞ? どうする? 引っ張り上げるか?」
「ヴィオちゃん、あれ凍らせることって出来ないかしら」

 大人たちがどうやって捕まえるのかと相談し始めたところで、タニアさんから凍結魔法を提案される。
 出来なくはないと思うけど、海まで凍ったら大変じゃないかな。
 イカだけを狙って出来るかな。その場合直ぐに沈みそうだから拾い上げてもらいたいけど、凍傷にならないかも心配だよ?

「凍結じゃなくって、普通に凍らせてみたら? ほら、こないだの海老みたいに」

 ああ、確かにそうだね。ボス=凍結って考えてたけど、別にボスじゃないもんね。
 怒り狂ったイカは海面をバッシャバッシャ叩きながら墨をぶちまけているお陰で、海が黒くなっている。罪なイカですよ。

「無理はするなよ」
「半分凍って動きが遅くなるだけでも拾い上げれるからな」
「陸に持って行ってから仕留めてもいいんだからな」

 大人ドラゴンたちの心配というか応援を受けて高度を下げていく。とはいえタニアドラゴンの上からなので安全なんですけどね。
 タニアドラゴンの鬣を掴むのは申し訳ない感じがするので、蔦魔法で首と私の胴体を括りつけて落ちないようにしておきます。

『大丈夫よ、私が風の盾で包んでるから落ちても平気よ』

 風の精霊がエヘンと胸を張ってくれるけど、落ちても平気はあまり平気ではない気がします。

 私達が上で相談している間に、イカは身体の向きを変え、三角頭は海の中、十本以上ある足だけが海から飛び出てウネウネしておりますから、結構気持ちが悪いです。
 吸盤が大量にあるゲソが、吐き出された墨で黒くなった海に広がりウネウネしているのは、ヤバイ食虫植物にしか見えません。

 あまりの気持ち悪さにしばらく見つめていたのが悪かったのか、広がっていたゲソを引っ込めて海に沈んでしまいました。

「あぁ~、大変! 逃げられちゃう!」
「まずいっ! 皆上昇!」

 慌てて身を乗り出して海に手を伸ばした時、タニアドラゴンが突然急上昇。蔦で括りつけてなかったら確実に落ちていたと思いますが、精霊の盾もあったからか、風の抵抗もあまり受けずに済みました。
 タニアドラゴンの背中から下を見下ろせば、消えたと思ったイカが凄い勢いで飛び上がって来てました。
 まるでミサイルのように、全ての足を閉じた状態で、さっきまで私達がいた辺りまで余裕で飛べるとは、恐ろしい。

「今だったら身体が全部飛び出てるわ。ヴィオちゃん行ける?」
「はい! 行きます! 【アイス】」

 吃驚させられた仕返しも兼ねて、ちょっと魔力多めにガッツリ凍らせてやるんだからね!
 全身が飛び出しているイカは、更に高度に逃げた私達に向かって、その場で足をパカリと開き、黒い墨まで吐き出してきた。
 タニアドラゴンはひらりと墨攻撃を避け、私は背中からイカに向かって氷結魔法を唱える。
 足の先端からピキピキと凍っていくイカ。
 大人ドラゴンはいつの間にかイカの下に潜り込んでおり、どうやらあの状態で凍ったイカを受け止めるつもりみたい。

 最後は真っ赤なイカだけど、無事に全身が氷漬けになりました。

 ふぅ~。海釣りをのんびり眺めるだけのつもりだったのに、なんだか大捕り物になっちゃったね。
 でも巨大イカが手に入ったし、これを捌くのは時間がかかりそうだ。
 イカ焼きも、イカメンチも、イカフライも、イカ天も作れるね。イカそうめんにするには硬いかな?
 チアキさん達早く帰ってこないかな。
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