ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉メネクセス王国 11

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(大陸歴 581年) 

宰相 アーゴナス視点


数年前、この国は危機に瀕していました。
私の伯父にあたるラフターラ公爵が裏から扇動したクーデター、その後に 人為的に起こされた 国中を悲しみに落とした流行病。
あの頃の私は 父の跡を継ぐべく、王太子殿下の側近となり、王となられた後には宰相として生涯お支えすると張り切っていました。

先王から流行病の収束の為にニーセルブ国まで医師を探しに行きました。
当初原因不明の流行病という事もあり 断られると思った誘いでしたが、リオネル殿は同行してくださいました。
病に心当たりがある事、であれば自分の知っている対応策で何とかなるかもしれない事、そう言われた時は 暗闇に一筋の光が見えたと思ったものです。

かなりの強行軍での移動となりましたが、リオネル殿は弱音を吐くことなく「一日でも早く、1人でも多くの人を救ってあげなければなりませんからね」と仰ってくださいました。
リオネル殿の助力で流行病は終息し、その後伯父が全ての原因と分かり、私が記憶する初めての公開処刑が行われました。

しかし、その病は王族にも暗い影を落とす事となり、伯父を捕獲しにいった先で第二王子殿下が罹患し、体調が悪い中で毒を薬と称して飲まされて死亡、王太子殿下も 流行病の終息間際で罹患し、発熱2日で解熱することなく亡くなられました。
先王は奇跡的に生還されましたが、王妃と側妃、それに二人の王子を亡くされたことで憔悴なさいました。

そんな中、父から依頼されたのは【第三王子 ファイルヒェン・ドライ・メネクセス様を王族としてお迎えし、新たな王となって頂く】ということでした。
父は先王の傍を離れるわけにはいかないという事で、第三王子殿下をお迎えに行く役は私に任されたのです。

今のこのメネクセス王国を持ち直すには、絶対に必要な王族。
伯父の悪手を逃れる為に 辺境伯領地でお育ちになり、ご自身の生まれを知らずに成長され、学園卒業後はそのまま冒険者になられたという異例の経歴を持つ方でございます。
定期的に 育て親であったトルマーレ前辺境伯へ届いていた手紙を元に 現在地は確認されていましたが、今はニーセルブ国との国境にある村に留まっているという事までは分かっています。
リオネル殿を祖国にお送りする必要もある為、その足で お迎えに行くことを父に告げ、領都を出発いたしました。



リーシック伯爵領地の冒険者ギルドに確認をすれば、殿下はフィルという名で冒険者をしており、現在はヘイジョーの町を拠点としていると確認が出来ました。
国内に入った時にはパーティーだったと聞いておりましたが、冒険者は仲違いをしたり、ランクの差がつくとパーティーを解散することもあると聞いて、今はお一人なのだと理解いたしました。
その方が城にも迎え入れやすいから良かったと安易に考え、現在拠点としているヘイジョーの町へ移動したのでございます。


「すまない、この町で活動をしているフィルという冒険者に依頼をしたいのだが」

「指名依頼ですね? ああ、フィルさんは銀ランクですから、お貴族様からの指名依頼は出来ません。依頼内容によっては 別の冒険者でも受けられるかもしれませんから、内容だけはお伺い出来ますがどうされますか?」

冒険者ギルドの建物に入り、受付にいた女性に依頼をしようと声を掛けたら、すげなく断られてしまいました。
名乗ってもいないのに貴族と言い当てられたのも驚きましたが、まあここを訪れる平民の恰好を見れば、私が浮いているのは仕方がないのかもしれません。
しかし、他の冒険者で受けられるような依頼でもないため 諦めて住まいを聞いてみました。

「申し訳ありませんが、個人情報をお教えすることは出来かねます」

「いや、私はどうしてもフィル様にお会いしなければならないのだ。依頼が出来ないのであれば直接お会いしてお伝えしたいと思っているだけなのだ」

住まいを聞いた途端、それまでの接客態度を引っ込め、冷たい目を向けられました。
こちらの顔も見ることなく、何か手元の書類を書きながらすげなく断られるのです。こんな対応は 実家でも城でもされたことがないので、非常に驚きましたが、ここはグッと我慢しておきましょう。
ですが殿下にここで依頼が出来ないのだったら、直接お伺いするしかないではないかと思い 更に言い募れば、他の受付からも冷たい目で睨まれ、1人は階段を駆け上がって行ってしまいました。

「おいおい、おっさんよ。うちの受付嬢を困らせちゃ困るぜ。
フィルに何を頼みたいのか知らねえが、直接の知り合いなら家ぐらい知ってんだろ?
それを知らねえってんなら、赤の他人だろ? 無理だって断られてんだからそろそろ引けや」

完全に無視されている受付にもう一言お願いしようとしたら、後ろから冒険者とみられる青年に声をかけられました。
というか、私をオッサンと呼んだのでしょうか?そのような失礼な呼び方は人生でされたことがなく、王都であれば不敬だと鞭打ちになってもおかしくないのですが……。

「なっ、私を誰だと思って……」

「知らねーよ。世間知らずのお貴族様だろ?
 冒険者に無茶な依頼をしたがるお貴族様を避けるために 金ランクまでは指名依頼が出来ねーようになってんだよ。
おめーらみたいなやつのせいで、銀ランク以上の腕があっても、上がりたがらね-やつがいるんだよ」

なんと言うことだ、冒険者とはこんなに荒っぽい人の集まりなのでしょうか。
第三王子殿下はこのような輩と共に生活をなさっていると? 王族としてお連れして大丈夫なのでしょうか……。
そんな心配がふと胸に沸き上がったところで、階段の上から声がかかりました。

「テリュー、その辺にしとけ。お貴族さんにあんまり失礼な事言ってっと 不敬だっつって連行されて殺されちまうぞ?」

「ギルマス!
 ……ちっ、フィルに迷惑かけんなよ。あいつ今大事な時なんだからな」

階段から現れたのは 騎士団長よりも大柄で、何とも威圧的な男でした。
先程まで絡んできていた冒険者はそのまま立ち去りましたが、大事な時とはどういうことなのでしょうか。

「で?うちの冒険者に無茶な仕事を依頼したいと思ってるお貴族様ってのがあんたか?
うちの受付から説明があったと思うが、冒険者ギルドじゃあ 銀ランクまでは指名依頼は受け付けていないんでね。
本人が貴族と繋ぎを作って、それによる依頼なら受けれるが、そうじゃない場合は無理だ。
で?あんたはフィルの名前は出してきたけど 所在を知りたいと言っているんだって?」

先程までよりは話が出来るかと思いましたが、相変わらずこちらを値踏みするような視線は 貴族達の腹の底を探る視線とはまた種類が違い 落ち着きません。

「ああ、私はメネクセス王国の宰相補佐をしているアーゴナス・オスマンという者だ。喫緊の問題が起き、それにはフィル様の助けが必要なのだ、だから」

「ちょ、ちょっと待て。
おい、会議室使うぞ。そんでお前ら、ここで聞いた話は他言無用だ。分かったな?
それからテリュー、お前ちょっとフィルを呼んで来い」

「まじかよ。ちっ、わかったよ」

名乗ったところで大男に止められました。まあこの場でこれ以上発言するつもりはありませんでしたが、フィル様を呼んできてくれるなら待てばよいでしょう。


◆◇◆◇◆◇


フィル様と初めてお会いした時、その瞳を見て「この方を王としてお支えしよう」そう思いました。
現在の王都の様子、王太子殿下と第二王子殿下の死去、父である王の憔悴している様子をお伝えし、何とか国を立て直すために王族として戻ってきてくれないかと依頼しました。

しかし返された言葉は想像していなかった答えだったのです。
まさか、結婚していたなど、子供が産まれていたなど、そのような情報はどこにもなかったのに。

「し、しかし、今 国を支えることが出来る王族は ファイルヒェン様しかいらっしゃらないのです」

「いやいや、王様は憔悴しててもいるんでしょ?それに、王太子殿下様の子供もいるじゃないか、その子達が成人した時に王様になってもらえばいいじゃないか。
俺は王族としての教育なんか受けたことはないし、学園にはいかせてもらったけど、そこからは冒険者として大陸を旅してたんだ。無理だろう?貴族の言葉も分かんねーし、貴族との面倒なやり取りもできるとは思えないね」

「貴族との緩衝は私が行います。父は現在の宰相ですが、王を継承した時点で私が宰相となることは決まっています。
ですから有象無象とのやり取りは私にお任せください。
今は様々な事象により、国力が疲弊しているのです。道標となれる王となる方が必要なのです。
なにとぞ、なにとぞ……」

産まれたばかりの娘と出産直後の妻を置いてはいけないと 首を縦に振ってくれないフィル様でしたが、その状況を変えてくれたのは 大男のギルマスでした。

「フィル、国の偉い人が此処まで言ってんだ。国が駄目になりゃ この地域も勿論やられる。
特に辺境だから、影響はでやすいだろうよ。
って事は、アイリスや愛娘が生きにくいことになるんじゃねえのか?
だったら、ちょっとくらい手伝ってやってもいいんじゃねえのか?落ち着いたらアイリスたちを王都に呼んでやりゃ良いじゃねえか。
お前みたいな腕の良い冒険者が抜けるのは正直嬉しくないけどな、冒険者は代えがきく。でもよ、王様は代えがいねえだろ?」

「愛娘と愛妻との時間も代えがないんだけどな……」

ギルマスから諭されたことで、条件付きで来て下さることとなったフィル様。
王太子の息子が成人した時点で 王位継承すること、
妻子が大切なので、それ以外との結婚は見せかけだけとし、子は作らないこと

二つ目の条件は 流石に厳しいと伝えましたが、それが無理なら今すぐにでも国外に出ると言われたら 条件を飲むしかありませんでした。
王太子殿下に二人の息子が誕生していたことは 本当に僥倖だったと言うしかないでしょう。
王都の状況が落ち着くまでは 妻子の存在が知られると危険であることを告げ、お二人にしばらくの別れを告げる為にフィル様は帰宅されました。

窓の外から様子を見ていましたが、ピンクの髪を持つ非常に美しい女性が 子供を抱いているのが見えました。
彼女も冒険者としては優秀だったらしいので、状況が落ち着けば 側妃として呼び寄せることも考えても良いかもしれない。そう思うくらい 平民らしくない気品が溢れる女性でした。
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