ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉メネクセス王国 12

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(大陸歴582年~) 

宰相 アーゴナス視点


ガルデニア公爵との話し合いを終えた後、あの妻子をこのまま国内に留めておけば ガルデニア公爵の手の者によって殺害される可能性を考えました。

公爵はその能力の如何によって 王の弱みとして手駒とする可能性がありますが、あのアナリシア嬢の態度を見れば 憎しみから殺害依頼を出すのではないかと思ったのです。
その為、ファイルヒェン王には妻子の様子を見てくるとお伝えし、1人 ヘイジョーの町へ向かいました。
あれから1年弱、久しぶりに訪れた町は あの時と何も変わっていませんでした。

コンコンコン

「はあ~い」

王が住んでいたあの家もそのままです。
ノックに応えたのは 若い女の声、王の妻でしょう。

「あら、どちら様です?」

「はじめまして、私はメネクセス王国の宰相を務めております アーゴナス・オスマンと申します」

名乗った途端 ピリっとした空気を感じましたが、目の前の人は何ら変わった様子はありません。気のせいでしょうか?

「まあ、そのような方が我が家へようこそ、立ち話は何ですからどうぞ?
(ママ~?)ヴィオ、奥のお部屋にいらっしゃいね」

玄関を潜れば こじんまりとした家で、我が家の庭にある 農具などが収納されている 物置小屋くらいの粗末な建物でした。

(この様な家に王が住まわれていたのか……)

思わず物珍しさに見回してしまい、夫人の咳払いで我に戻りました。
ふと ほんの少し開いている扉に目をやれば、小さな少女らしき影が見え隠れしています。夫人は私の視線を感じて遮るように間に立ちました。あまりに不躾な視線だったと反省します。

「お貴族様にお出しするような上等なものはありませんが どうぞ」

突然の訪問であったし、冒険者は 貴族が嫌いなのでしょう。それでもお茶を出してくれたことに小さく礼をして頂きます。
うん、まあ庶民のお茶はこのくらいが普通なのでしょうね。

「それで、本日はどのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか」

娘の存在を気にしているのがよく分かります。
夫である王を突然連れて行った私が来たのです、もしかしたら子供も連れて行かれると警戒しているのかもしれません。
そう思い、現状をお伝えすることといたしました。

「現在ファイルヒェン王は 国力回復に努め、諸外国との交流を深め、平民たちの登用が出来るように教育を始めております。
新しい試みばかりで、貴族達の反発も多くありますが、何とか抑えながらやっております。
ただ、やはり王の後ろ盾は大切で、国内貴族を纏める為にも 筆頭公爵家の長女との婚姻が決まりました」

「ああ、まあそうでしょうね。王様にお妃様が居ないんじゃ駄目でしょうね。
平民の教育、学び舎の延長を作るって事でしょうかね。フィルらしいですね。」

妃の存在は既に受け入れていらっしゃったのか。
もしかしたら王から聞いていたのかもしれませんね。

「そうなのです、そして先日公爵家との話し合いで 王から条件をお出しになりました」

その条件を告げると、思ってもいなかったのか 夫人は驚いたようで口を開いたまま固まってしまいました。

「は?うら若き女性に、そんな条件を出したの?
君を愛することはない?そんなに失礼なことを……。
いや、私とヴィオからすれば嬉しいけど、王様としては駄目じゃない?それを許可したんですか?
その公爵令嬢はそれを良しとしたんですか?」

「ええ、公爵は 不服だった筈ですが、王の心が固まっているとして 了承はなさいました。
ただ、それを真正面から受け止めるのは厳しいと思います。
それで、今はまだ お二人の所在地は知られていないのです。
ただ、あなた方の存在が知られると、公爵からは 手駒として扱われる可能性がありますし、令嬢からはあなた方の存在が無ければと行動されるかもしれません」

可能性としての話ではありますが、公爵家では優秀な偵察部隊がいると調べはついています。きっとこの場所が知られるのも時間の問題でしょう。

「ええ、そうですね。私だけなら何とかなったとしても、まだ2歳になったばかりの娘を人質にされれば どうなるか分かりません」

「ええ、もし下手に逆らえば、何らかの冤罪をかけられ 処刑やむなしという状況になる可能性も否定できません。
王の治世が落ち着けば 王都へお招きし、側妃としてお側に来ていただくことも考えておりますが……」

「それは無理ですね。私は平民ですし、お貴族様の権謀術数渦巻く恐ろしすぎる王城なんて娘を連れて行きたいとは思いません。それなら娘と安全な場所で生活をして、その王太子様の息子が成人するのを待ちますよ」

「……申し訳ありません。それでは出来るだけ速やかに国外へ出て頂きたいのです。
公爵家には 優秀な諜報活動をしている者達がおります。この場所が見つかるのも時間の問題かと……」

「そうですか。では明日にでも出発いたしますわ。長男君が成人するまで10年ですね。その頃に またこちらに戻ってくることにしますわ」

怖がられるか、何故そんな理不尽な と怒られるかと思っていましたが、あまりにも冷静な対応にこちらが驚かされてしまいました。
その翌日の昼、再度尋ねた時には既に家の中に妻子の姿はなく、家財道具の大きなものはそのままでしたが、 生活用品のすべてが無くなっており、ここで昨日まで誰かが生活していたなどと思えない程の状態となっていました。



ファイルヒェン王には お二人は元気で過ごされているとお伝えするに留め、国外に脱出していることは伏せることに致しました。
しかし夫人のご無事を定期的に確認することも必要だと考え、移動先を確認しておくことを失念していたことに気付きました。

冒険者とは、ギルドカード もしくは ギルドタグというものを身に着け、国の移動や ギルドで依頼を受ける時にはそれを示す必要があるのだそうです。
フィルという冒険者の移動先が分かったのも活動している先がヘイジョーだと分かったのも、このカードのお陰でした。

王には国外に出たことを告げていないため、王の伝手で冒険者に依頼することは出来ません。
その為、王都の冒険者ギルドに訪れ、指名ではない状態で人探しの依頼を出すことにしました。
夫人が見つかれば 手紙をその立ち寄ったギルドに送ることが出来ると聞きましたので、今後は定期的に状況を教えてもらおうと思ったのです。

国を跨いでの依頼となれば、移動費用なども必要となる為依頼料は高額でないと受けてもらえないと言われたため、1ダリル(100万ラリ)を依頼料としました。
指定した時にはギルド職員が驚いていましたが、貴族からの依頼ではそれくらいが平均だと言われたのでそうしたのですが、多すぎたのでしょうか。
いや、ですが夫人の無事には変えられませんから、それで依頼したのです。


ひと月に一度、お忍びでギルドを訪れ 経過を確認していました。
依頼は即日受けてもらえたそうですが、まだその進捗は分かりません。
2か月、半年、状況は変わりませんでした。
しかし、依頼を受けてくれた冒険者は 着実に移動しているらしく、そこで初めて 平民の移動はメネクセス王国内だけでも数か月かかることを失念していたことに気付いたのです。

依頼を出して1年半、漸く冒険者から第一報が入ったとの連絡がありました。

なんと、夫人はニーセルブ国を越え、皇国にいる可能性が高いとの事でした。
国境を超えるには ギルドカードを使えば 入国料が少なくて済むのですが、持っていなければかなりの値段がかかるはずです。
入国審査も厳しくなるだろうし、そのようなことがあれば 目立つでしょう。
まさか二つも国を越えてしまっていたのであれば、冒険者からの連絡が遅くなっても仕方がないのかもしれません。
娘さんの成長具合を知りたいと、部屋に飾った花々を見てため息をついている王に 早くお二人の状況をお伝えしたいのですが ままならない物です。


そして依頼を出して2年、やっと冒険者からの連絡が再度入りました。
現在は皇国にいるのは間違いなく、ただ皇国には冒険者ギルドがないらしく、リズモーニ王国の辺境にあるギルド経由での連絡だったという事でした。

『皇国の辺境、子爵領で薬局を開いたようだ。薬の評判はよく、子爵から 目をかけられているようで、愛人になれと迫られているようだ』

その様な手紙だった為、直ぐにでもその子爵領に乗り込んでやりたくなりましたが、この手紙を送って直ぐに冒険者たちは皇国に戻っているらしく、ご無事でいることを願うしかありませんでした。
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