ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
315 / 584
村でのひととき

第279話 ただいま

しおりを挟む

辺境伯邸での まさかのお料理披露を行った後、ちょっとしたやり取りがあったけど無事に出発することが出来ました。
立ち寄るだけの予定が お料理作り&試食会までしてしまったことで 村に帰るまで1泊野営をすることになりましたが 無事サマニア村に帰りつきました。

「ふわ~~~、帰ってきたね。
行きはゆっくり歩いて行ったのに 帰りは超特急だったから不思議な感じ。ギルマスさんも 乗せてくれてありがとう。
サブマスさん、結局あんまり狩りが出来なかったね。
コルトさんも ありがとうございました。お馬さん達も長い距離走ってくれてありがとうね」

村の門は顔パス状態で 一時停止の必要もなく門が開いて迎え入れられた。まあここは地元だしね。
ギルドの裏庭で馬車が停まり お父さんに下ろしてもらう。
本来数週間かけて戻るところを たった6日で戻ってきたのだ。
お父さんの抱っこのまま ホースヴァルルの鼻先をナデナデしたら ブルルン ブヒヒンと喜んでくれた。

「そういえば ダンジョンの素材 余ってんのあったらまた納品すんのか?」

「そうじゃな、種類も増えとるから 納品に関しては 家に帰って整理してからになるかの。とりあえずは戻った挨拶だけしに行こうか」

ギルマスから確認されたけど、ノハシムは鉱石が殆どだから これはギレンさんのお店に持っていくし、ゴーレムの魔石とアントの甲殻くらいかな。
豊作ダンジョンのは ドゥーア先生のところで結構放出してきたから そんなに余裕はない。
次に豊作ダンジョンへ行くのがいつになるかは分からないから 食材は出さない。
だけど 肉以外の素材を落とした魔獣もいたので その素材は売ることにしよう。

そのまま4人でギルドに入れば 昼過ぎだったので ギルド内に冒険者の姿はなく閑散としている。

「戻ったぞ~」

「あっ!ギルマ……、ああ、アルクさんとヴィオちゃんも一緒だったんだね。おかえりなさい」

「タキさん ただいま帰りました」

ギルマスの声に反応して 出てきたタキさんはちょっと慌てていたようだけど大丈夫かな?

「儂らは帰還の報告に来ただけじゃ、納品は種類が多いから 明日また来る予定じゃ。
じゃあ ギルマスにサブマス、ここまで助かった」

「いや、こっちこそ 領主邸では助かった。
まさか あんなことになるとは予想外だったけど、ヴィオが対応してくれて助かったぞ」

「ヴィオさん、またしばらく村にいるのであれば 訓練に付き合いますからね」

何か報告事項があるかもしれないし、私たちは挨拶だけしてさっさと帰りますよ。
ギルドの受付さん達に手を振って 家に戻る道を歩く。
大木の広場では 色んな人達にお帰りと言ってもらえて 帰って来たんだなと実感する。
この村で過ごした時間と、旅に出て外で過ごした時間が同じくらいなのに 村に戻ってきたらホッとするのは皆が温かいからだろう。

自宅に到着すれば まずは【クリーン】で室内を綺麗にする。
とはいえ 薄く埃が積もっているかどうかレベルだけどね。
それから荷物の整理だ。

「先生のところで貰って来た勉強道具だけ先にしまっちゃうね」

「そうじゃな、ヴィオの勉強机はそこのままでええんか?
今は物置にしとる部屋を 勉強部屋にすることもできるぞ?」

前に勉強部屋兼 着替えに使ってた部屋は お兄ちゃんたちが戻ってきた事で お兄ちゃんたちの部屋になっているからね。
私の勉強机は 今はリビングの隅に置いてもらっている。

「ううん、ここの方が人の気配を感じられるし良いの。先生の所でも常にブン先生とエミリンさんが居てくれたし、一人ぼっちの方が疲れちゃいそう」

人が居ても集中してると気にならないし、気を抜いた時にも誰もいないとなると 気が滅入ってしまいそうだ。魔法陣はそれだけ面倒なんだもの。
勉強机の横に作ってもらった棚に 頂いた道具類を並べていく。
最後に取り出したのは1メートル四方の銀板、錬成陣だ。これは大きいのでテーブルと棚の間に立てて置いておこう。

お洋服も 厳選したにしては随分な量をもらってきてしまった。それも箪笥に収納しながら 納品するもの、お土産にするもの、其々小分けしていく。
大変だけど これもまた帰ってきた楽しみでもある。


◆◇◆◇◆◇

《 一方その頃の冒険者ギルドでは 》
~ギルマス ザックス視点~


「んで、何かあったのか?」

親子を見送った後  受付主任のタキに声をかける。
マジでサブマスを引き継がせるつもりのアスランによって鍛えられているタキは 元々のおっとりした性格にプラスして 冷静沈着に行動できるようになった。
俺たちが会議でいない間に何かあっても 処理できるだけの能力はあるはずだが、そのコイツが慌てるとは何があったんだ?

「3階で聞きましょうか。ザックス、荷物の整理もありますしね、タキもそれでいいですか?」

「あ、勿論です。では お茶の準備をしてから伺います」

何か気付いたのか アスランが促してくれたことで 一旦 マスタールームに引き上げることにした。
確かに 誰がいつ入ってくるか分からねえ場所で聞けることなら タキが焦ることはないわな。



部屋に戻って簡単な整理だけしておく。自分たちのプライベートな荷物は家に帰ってから片付けるからな。しばらくすれば ノックの音がしてタキが入室してきた。

「サブマス ありがとうございました。
実はお二人が会議に出立された当日、メネクセス王国所属の冒険者パーティーが村に来ました」

「トラウト漁には随分早いが 冒険者なら珍しくもないだろう?」

真剣な表情のタキが封筒を取り出した。特に封蝋は無いため 中も改めているのだろう。
中の便せんを取り出して内容を確認していく。

「おい、これは本当か? こいつらは今どこにいる?」

思わず立ち上がって確認するが 1日だけ村で聞き込みをした後 翌日には旅立ったという。
すれ違いかよ!

「この者達は誘拐犯とか、ヴィオさんのお母様の殺害犯の可能性はないのですか?」

「あの表情が演技だとしたら 相当だと思います。本気で心配してたようですし、ヴィオさんのお父さんから捜索依頼をされたのだと言ってました」

「それって……」

「流石に依頼者の詳細は聞けませんでしたが、今居る場所から離れることが出来ない人だとだけ。
彼らは ここに来る前、皇国の子爵領を訪れたそうです。
母親の殺害された町で聞き込みをした結果、母親殺害後のヴィオさんの足取りを追って もしかしたらの可能性を頼りに いらっしゃったそうです」

それは可能性としてかなり高いんじゃねえか。
ヴィオの本当の両親の事を知ってる奴らか。ヴィオが聞いたら会いたがっただろうに。

「聞き込みは1日だけで終わったのですか?」

「そうですね、まあ髪色と年齢での聞き取りをしていたので 皆が怪しんで口を閉ざしましたしね。
ただ、マコールさんが彼らのリーダーと直接やり取りをした事で ヴィオさん本人を知っている人だと確信されたようで 王都方面に旅をしている最中だと伝えてくれたようです。
まさかこんなに早く戻ってくるとも思ってなかったので……」

会議後にあいつらを乗せて帰ってくるつもりだったけど、コルト以外には言ってなかったしな。
真っすぐ南下してルパインを目指してたなら 俺たちともすれ違ってないだろう。
いや、すれ違ったところで気付きようがなかったな。

「出発してしまったものは仕方ありません。ですが ヘイジョーに連絡すればいいのではないですか?
ヘイジョーには そのパーティーが王都に到着したら ドゥーア先生の屋敷に行くように連絡してください。私が直接 その者たちの為人を確かめていないので、先生に確かめてもらいましょう。
どうせヴィオさん達は風の季節から またダンジョン巡りをするでしょう?
白だと確信出来たら ヴィオさん達には ウミユを勧めて 彼らにもそれを教えてあげればいいでしょう?」

「流石にウミユは無理だろ。あそこは深いし深層階はアンテッドもいるじゃねえか」

「別に踏破をする必要はないでしょう?
ヴィオさんが楽しむだけなら豊作ダンジョンですし、1階層は遺跡です。中身は覚えていませんが かなり広かったことだけは記憶してますよ」

王都南西部にある豊作ダンジョンのひとつだが、あそこは20階より下は 森の中にアンテッドが混ざり始めることで有名だ。
上級に指定されているだけあって 低層階から1フロアが広いのも特徴だ。
ヴィオなら1階から楽しむだろうが……。

しかしこいつ ドゥーア先生に怒ってるな? 
あれか、辺境伯にヴィオの事を漏らしたと思ってるんだろうな。
多分先生は無実だと思うぞ、いや、小さな賢人と言ってたからあながち無実でもないかもしれんが、辺境伯の野生の勘が凄いだけだからな?

「広すぎますから 会えない可能性もありませんか?」

「それは仕方がないのでは? 会える運命であれば どんな所でも会えるでしょうし、会えなければそれまでです。
そこまでお膳立てする必要がありますか?」

タキが援護射撃するがどこ吹く風だ。
まあ確かに 会える可能性の高い場所を伝えるだけでも上々といえるだろう。まずはヘイジョーにこいつらの為人を確認するところからだな。


「まあ その人たちのことは ヘイジョーに確認後、アルクには伝えることにしよう。
ヴィオには……、アルクに判断を委ねるべきだろうな。
まあでも、うちの村の奴らが 一丸となってヴィオを護ろうとしてやったのは良いことだな」

今回の奴らは可哀想だったかもしれんが 結果ヴィオの生存は確信に変わっただろうし、悪い奴らだった時の方が怖いからな。
だけど、そうか。

「ヴィオさんの事 忘れてたわけではなかったんですね。それが知れて良かったです」

ああ、本当にな。
とりあえず ヘイジョーに連絡だな。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...