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閑話
〈閑話〉?????
しおりを挟むメネクセス王国に戻り、まずは私たちの直属の上司であるジョンに報告書を送った。
《薔薇は水が足りずに萎れかけている。
ムクドリも蜂も蜜を取りに来る時機ではないのか――来年も咲くのか、それとも植え替えが必要なのか庭師と相談すべきかもしれない》
王妃は既に壊れているようだ。
そして父である侯爵閣下も見捨てたのだろう。新しい侍女やメイドを派遣していないという事はそういう事だろう。
まだ小さい息子を前王太子の遺児の友人役にして側近に取り立てさせることが出来れば、もう娘は用済みという事か。であればやはり陛下の娘を上納させるべきだろう。
この相談はジョンの返信次第だったのだが、この返信の内容を見れば 彼も王妃を見限っているのだという事が分かる。
後はヨハン隊長とジョン副隊長とのやり取りをしてもらい、私たちはリズモーニに行けばよい。
かくして一月ほどの時間がかかったものの、侯爵閣下からの許可が下り、陛下の娘を上納することが決まった。
「よし、やっと決まったわ」
「長かったっすね。閣下がやっぱり娘を切り捨てるの渋ってたんすかね」
「閣下だぞ? それはないだろう」
私もそう思う。昔は娘のことは可愛がっていると思っていたけれど、陛下との初回謁見の夜に違うと分かったもの。
国外に出る可能性が高いから我々の事も伝えてなかったし、大事にしていたのも、他国に出た時に自国を恋しがるようにするためだったし、家族の為に情報を齎せようと思うだろうと躾けていたのだから。
「閣下のご心情は私たちに分からないし分かる必要もないわ。許可が出た、実行する、これだけよ」
「はいは~い」
「じゃあまた皇国か」
再びの皇国入り、前回はニーセルブを経由して入ったけど、今回はネンシーから入る。私は旅の薬師として、ハンスはその夫、マックスは従者兼弟子として。
「なんで俺が従者? 俺が夫の方がよくない?」
「だったら俺はなんだ? 一番年上の俺が従者っておかしいだろう」
「でも、だからって俺が荷物持ちとかズルい」
目立ってしまうことを避けるため、冒険者という形で入る訳にもいかないのだからこうしたのに、大きなカバンを一人背負うことになったマックスが文句を垂れる。
重たいものはマジックバッグに入っているし、見た目だけそれっぽくするために軽いのだから文句を言いたいだけなのだろう。
町の中では設定上大人しくしているのだけど、人気が無くなる街道に出ればこれだ。最初は対応していたハンスもそのうち無視するようになったら大人しくなったけど。
そして火の季節の三か月目、アスヒモス子爵領にほど近い山の麓に到着した。
あの町には数週間滞在したから覚えている人もいるだろう。他所からの人が少ない町だから余計な面倒は起こさないのが鉄則だ。
この日は森の麓でテントを張って野営を行う。
魔の山の麓で野営など、外の国ではありえない自殺行為であるものの、この国ではこれが出来てしまう。
夜の闇が辺りを包み込んだ頃、私とマックスの2人で町に向かう。
◆◇◆◇◆◇
「来たわよ」
「ひっ」
小さな教会の隣に立つ小さな宿舎。司教と司祭は教会の中に部屋を持つが、修道士たちはこの宿舎に住んでいる。
この男は修道士ではないが、行く先のない者として、教会の下働きをしている事からこの部屋を与えらえていた。
私たちの存在に気付いた男はゴクリと生唾を飲み込み、そそくさと着替えを始める。分かっているようで何よりだわ。
この国は聖属性魔法しか魔法と認めていないだけあって、属性魔法に疎すぎる。全く魔法に対する警戒をしていないのだ。こんなに簡単に忍び込めたのもそのおかげなので良いのだけど。
「ではいきましょう」
準備が出来た男は私たちを先導し、隣の教会に向かう。
正面の大きな扉ではなく、修道士たちが出入りするのに使う粗末な扉を開けて中に入る。
〈ちょっと、鍵はないの?〉
コクリと頷く男に驚くことしかできない。
あり得なくない? 鍵をしないなんて盗り放題じゃない。私たちは鍵開けも簡単にしてしまうけど、それでも守りもしないの?
教会の中、礼拝室にそれはあった。王国で見るより随分小さいけれど 創造神の像が三体並ぶ中心に置かれた台座と石。
〈これです〉
〈持ち上げると警報音が鳴るのかしら〉
だからこその無警戒なのかしら。そう思ったのに、男がひょいと無警戒に台座ごと持ち上げる。音は鳴らない。
両手に乗るほどの台座は私に差し出され、そういえばこの男にはマジックバッグすらないのだと気付く。
受取って収納すれば、もうここにいる必要はない。即座に教会を出るが、誰かが気付いた様子もないし、警報もない。
「ねえ、あれって大丈夫なの?」
「なにがでしょうか」
「無警戒が過ぎるってことよ」
あまりにも気になり過ぎて、野営地に到着したところで男に問いただせば、あれが通常なのだと言われた。
基本的に司祭たちも部屋に鍵はかけない、というか鍵がない。勿論町には破落戸もいるし、盗みや窃盗もある。だけど教会だけは別だ。
この国では教会に見捨てられてしまえば生きていくことはできないからだ。神の教えを伝える司祭たちに逆らう、悪さをするなんてありえないのだ。
「破門されたら人生の終わりです。そういう国なのですよ」
意味が分からない。
「で、これはどうやって使うんだ?」
「ここに聖属性の魔力を流すだけです」
「聖属性なんて持ってないぞ?」
「いいんですよ、普通に魔力だけで。この国では聖属性だけが絶対なだけで、俺は普通に魔道具に魔力を流すようにやってました。
この結界魔道具自体が聖結界を張るだけですから。教会の奴らはそれを分かってないんで、神の名前を呟きながらやってましたけどね」
中央にある大きな聖結界の魔道具があり、辺境にあるのはそれを補助するものとされているようで、中央だけでは支えきれないから各地でもより強化するためにと置かれたのが始まりだという。
だけど中央が腐りきった今は、外側が真面目に魔力を流している事で 支えられているらしい。
「じゃあこれが無くなっても、隣近所の領地にある結界で補助できるって事ね?」
「まあどの程度か分からないですけど、直ぐにどうこうという事はないって事でしょ。とりあえずこんなに早く終わるとは思ってなかったからテント張ったけど、移動しちゃいましょ」
この場所に直ぐ誰かが来るという事はないだろうけど、出来れば魔道具が無くなった事に気付いた奴が探しに出ても、見つからない場所には行っておきたい。
テントを片付け、山の稜線が低いところを目的地として歩く。町1つ分の距離を王国側に戻り山の麓で一泊、その後日中に山に入り込む。
山に入り5時間ほど歩いたとことで、ピリピリとした威圧感を感じるようになってきた。
「これはヤベエっす」
「ギリギリ範囲内って事なんだろうな」
「そろそろ使ってみましょうか。これで効果がないなら戻ればいいだけだし」
そう言って結界の魔道具を取り出して魔力を流し込む。途端に白い光が放射状に広がっていき、先程感じた威圧感も遠ざかる。
「まじか、すげえ!」
「これならいけそうね」
思っていた以上の効果に依頼成功を確信する。この結果を持てば自分の地位も上がるだろう。
マジックバッグに入れてしまえば魔道具の効果は発揮されなくなってしまう。マックスの変装用のリュックは只の鞄だから、それを男に背負わせて、その一番上に魔道具を置いておけば大丈夫だろう。
リズモーニにはこのまま山越えをして入国することにしよう。
町と国を守る事が出来る結界だ。たとえ聖魔法以外の魔力を込めたとしても効果は多少ある。聖魔力である方が効果は高いのだが、そんな事は下働きだった男は知らない。4人を守るくらいの狭い範囲であるのならば 何の問題もなく動いているのだから。
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