ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
380 / 584
ウミユ遺跡ダンジョン 前半

第339話 ウミユ その6

しおりを挟む

 ごま油を取り出した時には「それってハズレの油袋だよね、それ使えるの?」と質問はされたけど、特に忌避感はなかったようだ。
 何故なら料理をしないから。
 豊作ダンジョンに入っても彼らは依頼にある素材だけを集め、要らないものは放置組だったからだ。

 味噌などのウツボカズラモドキに関しては、今まで採集依頼が出たことのないものだったので、見た事はあるけど何が入っているのかも知らなかったらしく、味噌の匂いも「変わった匂いね」だけで終わった。ある意味全く料理をしない人からすれば受け入れやすいのかもしれないね。

 夕食には早い時間からの準備だったけど、質問も多いし、途中で一緒に体験もしてもらったりしながら作ったので、全てが完成した時間は丁度良いくらいの時間になっていた。
 特に秘密のお話をしている訳でもないので防音目的の結界はしていなかったんだけど、破落戸は4つ目の安全地帯に集合して、あちらで休むみたいだね。

「あの後もこっちに偵察に来た奴がいたみたい。全員で料理してたぞって なんか凄い文句言ってる」

 文句を言うなら自分たちでも作ればいいのにね。テーブルに並んだ料理を前に、土竜の人たちは待てをさせられた犬状態で鉄板をガン見してます。私用のお皿に食べれる分だけ取り分けたら、皆さんどうぞです。

 今日の野菜炒めは味噌炒めにしたようですね。二種類くらい作ることもあるけど、そんな事をしたら混乱しちゃうからね。レスさんが作った分はちょっと野菜が焦げてるところもあるけど、初めて作ったにしては上出来だと思う。

 ナムルはジンセン人参と スピニッシュほうれん草の二種類にしておいたよ。シエナさんには、お野菜の種類を変えたらいろんな味が楽しめるよと伝えたので、どんどん挑戦してほしいところ。

「野菜だけなのに美味しい」
「肉串だけで生きていけると思ってたけど、野菜が多くても美味いな」

 冒険者、野菜を食べない説。そりゃ干し肉だけでダンジョン攻略しようとする人たちだもんね、肉串があれば豪勢ってなるんだろうね。私は絶対に嫌だけど。

「あ、アルクさんに渡しておけばいいかな。俺たち食わせてもらってばっかりだと悪いから、せめて手持ちの肉だけでも提供させてくれ」

 そう言って渡されたのはボア肉の塊。肉屋で買ってきた感じかな?

「これは?」
「サマニア村に行った時すげえ美味い肉串があって、屋台の兄ちゃんに肉屋を紹介してもらって買ってきたんだ。まあ 皆にしたら食い慣れた味かもしれねえけど、ヒュージボアがあんな値段で売ってるとか、他の街ではありえないから、売ってもらえるだけ売ってもらったんだ」

 サマニア村にも行ってたんだね。タイミングが違えば村で会ってたかもしれないね。

「それうちの兄貴と親父、その肉屋、俺の実家」

 野菜炒めを食べながら呟かれたクルトさんの台詞に土竜の人たちが固まる。

「そういえば虎獣人だった」
「ちなみにその店に一番ヒュージボアの肉を卸してるのがそこの親子だから」

 最近はハンモック風呂の為に、かなりの人が狩りに行ってるけど、確かにそれまでは私たちが多かったかもしれないね。

「え、親子ってトンガ君たちじゃなくって、ヴィオとアルクさん?」
「僕たちと一緒に中級ダンジョン回りたいって言われて、どれくらい戦えるのか見せてもらった最初がビックボアの一本釣りだったからね。
 まだあの時は6歳になったばっかりで、今よりも小さかったからびっくりしたよね」
「そう……なの? そういえば先生もそんな事を言ってたわね」

 そうか、まだこのダンジョンに来てから魔獣と戦うことはなかったもんね。これだけ強者感バリバリの団体さんが歩いているからか、基本的には向かってくるはずの魔獣も遠巻きにして寄ってこなかったんだよね。
 洞窟系だと逃げる場所もないし、お兄ちゃんたちがヒャッハーで追いかけていくから分からなかったけど、高原だと広いし逃げるというか近寄ってこないという事が出来るんだね。
 食後の片付けも終わったところで魔力操作の訓練をすることになり、オトマンさんが結界を再起動してくれた。

「魔力操作に関してはうちで一番上手いのはヴィオだからね、誓約もしているしヴィオから教えてもらおう」
「は~い。訓練の時は得意属性の方が使いやすいと思うので水、土、風のどれかを持っていると良いんだけど、皆さんの得意属性にありますか?」

 待ってましたとばかりに姿勢を正した6人、得意属性を確認すれば 全員がどれかは持っていたので、其々に分かれてもらうことにした。
 土属性はテリューさん、シエナさん
 水属性はレスさん、ネリアさん
 風属性はオトマンさん、アンさん

 風属性はレスさんとネリアさんが得意だと思ってたけど、2人はパーティーの魔法担当だという事で、一番得意なのは2人とも水なのだという事だった。
 楽しく訓練が出来るように土と水は人形作り、風はやっぱり葉っぱを飛ばすあれが一番かな。2人ずつだから1人での練習に慣れたら、お互いにラリーをしても良いと思う。

 まずは3つの訓練方法を実際にやって見せて、その後は2人ずつ分かれてもらった。土属性の先生はお父さん&トンガお兄ちゃん、水属性の先生はルンガお兄ちゃん&クルトさん、風属性は私が教えます。


「【ウインド】あっ!」

 手元の葉っぱが粉々になってしまい呆然としているアンさん。うん、攻撃魔法しか使った事が無いと加減が難しいよね。

「【ウインド】ああっ!」

 アンさんを見て、巻き上げるのではなく吹き上げることを意識したオトマンさんは、吹き上げる風ではあったけど強すぎたせいで、どこか遠くに行ってしまった。
 この練習の為に一旦結界を解除して、安全地帯周辺の葉っぱをブチブチちぎってきたから材料は沢山ある。新しい葉っぱを手に乗せ、一度目を閉じて「【ウインド】」と唱えるのを繰り返している。
 オトマンさんは集中しすぎているからか、垂れ下がった尻尾の先だけがピクピクと動いている。クルトさんも集中している時は同じ感じだったから、猫科の尻尾は集中すると先だけがピクるのかもしれないね。


 皆が其々集中している間に破落戸たちの様子を伺ってみる。マップ上には4つ目の安全地帯に11人が集まっているのが分かる。
 仲間なのか、怪しかった3人組は近くにはおらず、2階に点々と居た採集組らしい人たちも居なくなっているから、ちょっと奥まできた採集の人だったのかもしれない。

 盗聴の魔法を使ってみようと思ったけど 私たちの方に結界を使っているから盗聴魔法を飛ばせないのが分かった。残念。

 2人の風魔法は繰り返して練習するしかないので、私は手出しすることがない。なので明日の食事の準備をしておこう。昼食用のピタパンに入れる材料の準備のため、ゆで卵を大量に作る。気付いたお父さんとクルトさんも手伝いに来てくれたので、お父さんにはピタパンを作ってもらい、クルトさんにはサンドに入れたいお肉の準備をしてもらう。

 この2人も何も言わなかったら肉しか入れないから私は野菜を準備。キャベチキャベツとジンセンは千切りに、マルネギ玉ねぎとトマトは薄切りに、ああ、マルネギはみじん切りにする分もいるね。

 お肉を焼き始めたら匂いがするから、皆の練習の邪魔にならない様に 私たち3人を包み込むように風の結界を張る。匂いと煙は安全地帯の外に出るように、ドーム状の結界ではなく煙突状の結界にしてかなり上の方に穴がある状態だ。

 照り焼きチキン、ボアの生姜焼き、ボアの味噌炒め、竜田揚げ、ホーンラビットのから揚げ、辛味噌ソボロ等々、手際よく肉料理が出来上がっていくので、一口大にカットしてからピタパンに野菜と一緒に詰め込んでいく。こうやって一緒に野菜を入れておかないと、サラダとして出しても取り忘れられちゃうからね。ナムルにしたら食べるのに、生野菜だと無視するのは何なんでしょうね。

 一種類につき10個以上のピタパンサンドが完成、かなりのボリュームだ。これは明日の朝と昼の分だけど、10人も成人冒険者が居れば直ぐになくなるんだろうな。エンゲル係数が相当高くなりそうですよ。
  

しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...